Final Mission 新たに生まれ来るものと、この山で…… その3
バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、時として大量破壊を伴う仕事も多々こなすことから、冒険者や町の人から怖れられ、敬遠されているため、遠く離れた山の中に住んでいる。
そんな彼は、またひとつ大きな仕事をこなして戻ってきたとき、家の前の小屋に迷い込んで眠り込んでいたケモミミ少女・ソフィーを見つける……。
ソフィーを保護し、二人での生活が始まると、ソフィーはジェルンにどんどん懐いていって、彼女はジェルンへの恋慕を隠さなくなる。
可愛らしい少女の好意をむき出しにしたアタックに、徐々にジェルンもグラついていき……。
そして、ジェルンはついにソフィーを妻にすることにしたのだった。
ソフィーを妻に迎えたことで、家庭を持つことになったジェルンは、ソフィーと夫婦二人での冬ごもりを見据えた住環境の整備のため、自宅を大きく改築。
近くに温泉もあったので、ついでにそこからお湯を引いた外風呂も完備し、すっかり二人の癒やしと憩いの場に。
こうして、冬を迎える準備を整えたジェルン。
ソフィーと二人で迎える初めての山の中での厳しい冬がやって来る。
そして、冬が終わりに差し掛かった頃、ソフィーの妊娠が分かり、町からお医者さんに来てもらい、順調であるとのお墨付きをもらい、二人はさらなる幸せに包まれる。
そんな時、ジェルンが家に作った外風呂が、一晩泊まったお医者さんや、作るときに協力してもらった町の大工仲間の口を通じて評判になり、ジェルンの家の向かいに温泉宿を建設する計画が持ち上がり、実行に移される。
そんな最中、そろそろ臨月に近づきつつあったソフィーの定期検診のため、ジェルンは彼女を連れて町にやって来たが、到着した夜、突然産気づいてしまい、そのまま出産。
急なことだったが、なんとか無事出産を済ませることができたのだった。
主人公:ジェルン
バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート
直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う
他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん
ダンジョン踏破には欠かせない職業
ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……
ソフィー
主人公の暮らす山の中に迷い込んでしまった獣人族の女の子
種族の中では発育が良くないらしく、きょうだいからもイジメに遭って、逃げ出したら気が付いたら知らない場所に出てしまっていたらしい
さまよった挙げ句、主人公の小さな家に迷い込んでいたところをジェルンに見つかり、拾われた。
以降、こちらの土地の言葉が分からないソフィーに言葉から山での生活に必要なことまで、優しく教え、保護してくれたジェルンに好意を抱くようになる。
町に出た時、変な噂の出ないようにと、ジェルンは建前上彼女を妻……ということにしていたのだが、その結果、逆にジェルンもソフィーを妙に意識し始めることに。
そして、二人は自然と一緒になることに……。
さて、リビングルームへ行ってみると。
赤ん坊はラヴィちゃんの腕の中に収まってすやすやと眠っており、そんな赤ん坊を先生が今まで見たこともないようなでれんとした顔で覗き込んでいた。
ややあってから、先生は俺の存在に気付いたようで、慌ててキリッと表情を戻すと、一つ咳払い。
「ん……奥さんは眠ったかね?」
「ああ。全然起きないや。疲れ切ったんだろう」
「まあ、仕方あるまい。しっかり休めば大きな問題はなかろう。赤ん坊の方も元気いっぱい、予想していた予定日よりもかなり早かったが、特に健康に問題はなさそうじゃ。あとは、奥さんが起きたら、おっぱいをあげてみて、しっかり飲むかどうかじゃな。そこが問題なければ、当面の心配はないじゃろう」
「そうですか。ありがとうございます。急に引っ張ってきてしまって」
「まあ、礼には及ばんよ。出産なんてものはな、赤ん坊の都合次第じゃからな。こればっかりはいつになるか、赤ん坊しか知らん。こういう仕事をやっていれば、こんなことはしょっちゅうじゃよ」
まあ、確かにそうなんだがな。
大変な仕事ではある。
「ワシは帰って少し仮眠を取るよ。今日も診察があるんでな」
「先生、ありがとうございました」
先生は帰り際に、「1週間後くらいを目処に、奥さんが動ける時を見計らって母子ともに最初の出産後検診を受けに来なさい」と、そして、「赤ん坊と母体共に何か変だと思うことがあったらすぐに診せるように」と、俺に言い残して、家に帰っていった。
……とりあえず、一応は無事に終わったか……。
先生を見送って、リビングルームに戻る。
「ラヴィちゃんもありがとう。たまたまだけど、ちょうどいてくれて助かったよ。もう、夜も明けちゃったし、ラヴィちゃんも寝てくれ。とりあえず、ここのソファーを空けるよ」
手早くソファーの上に散らばっていたタオルやら何やらを片付けて、彼女の寝るスペースを用意する。
ベッドはソフィーが占領してしまっているからな。
今回、俺たち夫婦が来ている間はラヴィちゃんは実家から通いという形になる予定だったんだが、その初日にいきなり出産が始まっちゃって、そのままラヴィちゃんも徹夜になっちまったからな。
「すいません……。わたしも、さすがに眠いです……」
「ああ、ゆっくりおやすみ」
「ジェルンさんは?」
「俺は、ちょっと目が冴えちまっててな。まだ眠れそうにないから、この子の抱いた感触をしばらく味わっとこうと思う」
「そうですか。わかりました……おやすみなさい……」
ラヴィちゃんはものすごい大あくびをしながら、ソファーに横になる。
俺はそっとリビングルームを抜けて、ソフィーが寝ているベッドルームへ、赤ん坊を抱いて静かに入っていく。
先生が帰り際に乾いた洗い立てのタオルでしっかりと赤ん坊を包んでくれて、やり方もしっかりと教えてくれて。
赤ん坊も、今はタオルに包まれて、ぬくぬくとしたなかで時折大きくあくびをしながら無防備に眠っている。
そんな赤ん坊の顔とソフィーの顔を見比べると。
なんか、ソフィーをホントにちっちゃくしたみたいにそっくりじゃないか。
時々、大きなケモミミがぴくぴくするのもそっくりだ。
まだ毛が薄くて耳のところも素肌が丸見えだけど。
そっとソフィーの隣に寝かせる。
やっぱりそっくりだな……。
ソフィーもこれで母親かぁ……。
母親っぽくはイマイチまだ見えないけどな。
それも、じきに板に付いてくるのだろうか。
そんなことを思いながら、静かに寝息を立てる母娘ふたりの姿をしばらくぼんやりと眺めていた。
……ん?
あ、ヤバい。
俺、椅子に座ったまま、うたた寝してしまっていたようだ。
「あ、ヤベ……。寝ちまったか」
慌ててパッと顔を上げると。
「ふふっ、かわいい……」
既に目を覚ましたソフィーが、傍らにお包みに包まれて一緒に寝かされている赤ん坊の頭を愛おしそうに撫でていた。
「……起きてたのか」
俺が声をかけると、ソフィーは。
「あ、ついさっき、目が覚めたばかりよ。目が覚めたら、この子がそばにいて……ちょっとだけ、じっくり見ちゃってた」
「そうか。しかし、ぐっすり眠っているな」
「たぶん、この子も疲れちゃったんだよ」
そう言って笑うソフィー。
「そういえば、お医者様は?」
「ああ、もうとっくに帰ったよ。今日も診察があるそうだから」
「そっか。何か言ってた?」
「特に、母子とも問題は見られないってさ。初産にしてはなかなかの安産だったんじゃないかって」
「そっかぁ……。あれで安産なんだね……」
ソフィーは思わず苦笑いする。
先生はたくさん赤ちゃんを取り上げてきた経験があるから、他と比べて安産だなんて言うけれど、やってる本人としちゃ、あれで安産と言われたらたまったもんじゃないってところだろう。
「これでもう懲りたか?」
「そう言いたいところだけど、この子にもきょうだいが必要だし、ジェルンのためにもたくさん子供産んであげたいから、がんばるよ」
ちょっぴり本音も混じった答えが返ってくる。
そりゃあ、初めての出産、あんだけ大変な思いをしたばかりなんだし、本音が出ないって方がおかしい。
「ありがとな」
「ううん」
まだまだ一眠りしただけでは疲れが取れたとは言えず、ちょっと力のない笑顔だが、ソフィーは首を横に振ってくれた。
「ああ、それと、この子が目を覚ましたら、お乳をやってみてくれないか? あとは、きちんと母乳を飲んでくれるようであれば、差し当たっての心配はないだろうって、先生は言ってる」
「わかった。やってみる」
「それから、来週、ソフィーが外出できるくらいに回復したら、そのくらいに一度母子ともに診せに来るように言われてる」
「うん、わかったよ」
ソフィーは俺の言葉に頷く。
そうして、二人で静かに寝息を立てている我が子の様子を見守っていると。
「あ、ねえ、ジェルン?」
「ん?」
「この子の名前、どうしようか?」
ああ、そうか。
まだもう少し先だと思っていたのが、急に生まれてきてしまったものだから、まだきちんと決めていなかったな。
早く決めてやらないといけない。
「ソフィーは何か良い名前は思い付いていたりするのか?」
「うん、ないわけじゃないけど……」
「どんなのだ?」
「わたしとちょっと似た感じで、ソニア……って、どうかなって」
「ソニアか……」
ふむ。
まあ、ソフィーと近い感じで、柔らかい感じが良いな。
「じゃあ、それで行こう。この子の名前はソニアだ」
「いいの? そんなに簡単に決めちゃって」
「いいんだ。急なことだったし、俺はサッと気の利いた感じのが今すぐ出てこないし。ソフィーの娘なんだから、似た感じってのも悪くない」
俺はソフィーの意見に同意すると。
「それじゃあ、あなたの名前はソニアよ。不慣れな新米ママだけど、よろしくね」
易しく声をかけるソフィー。
すると、ソニアはちょっとむずむずっと動いて。
それから。
「ふぎゃぁ、ふぎゃぁ」
軽く泣き声を上げた。
「あ、起きたみたい……」
「たぶん、おなかも減ってる頃だろう。おっぱいをあげてみてくれないか?」
「うん、やってみる」
昨夜、浴室で出産を済ませてそのまま寝かせていたので、裸のまま、上から毛布を掛けられた状態のソフィー。
お乳をやるのは、ソニアを抱き寄せてお乳を目の前に持ってきてやるだけで事足りる。
俺も様子を覗き込むと、少し鼻をヒクヒクさせると、そのまま目の前の乳首に吸い付いていって、お乳を飲み始める。
「あ、すごい……。元気にお乳飲んでる……。結構強いのね……赤ちゃんのお乳を飲む力加減って」
「そうか。じゃあ、とりあえずは大丈夫そうだな」
「うん、そうね。……ソニアちゃん。一杯飲んで、元気に育つのよ」
優しく娘を抱き寄せながら、そう話しかけるソフィーの姿はほんの少し、母親っぽくなったような感じがした。
そして、1か月ほどが過ぎた。
ソフィーは母親というには幼すぎる年齢ではあるので、少し心配はしていたのだが、なかなかどうして、子供が生まれてみれば、なんとかかんとか、立派に母親として娘を世話している。
身体が回復しきる前から、時には夜泣きとかもあるというのに、お乳やおむつの世話をしっかりこなしている。
昼間は毎日夕食くらいまでラヴィちゃんが来てくれていて、ふたりで尽きないお喋りをしたりしつつ、ソニアの世話をしたりと、とても楽しそうに過ごしていた。
家事一切はラヴィちゃんが一手に引き受けてくれていて、とても助かるのだけど、マイスター試験の方がちょっと心配になり、彼女にちょっとそのことを聞いてみたのだが。
「ああ、ご心配なく。元々ソフィーちゃんの出産時期周辺はお手伝いがメインって感じで予定を立てていましたし。課題提出物の方はもうほとんどできあがっちゃってるんで、提出の期限の方も全然大丈夫ですし。ちゃんとその辺は考えてましたから、ご心配なく」
……ということだった。
しっかり者だなぁ。
そんな感じで、半月ほどソフィーがあまり動けない間はほとんどの家事を彼女に頼ってしまった感じだ。
その後の半月は、徐々にソフィーも休み休みしながら一緒に家事に復帰し始めて。
なんだかんだ、楽しそうにやっていたっけ。
それでも、結構ラヴィちゃんは仕事したがりのソフィーの手綱を引いてくれていて、ラヴィちゃんストップがかけられて、時折不満そうに頬を膨らませてふてくされて椅子に座っているのを見かけたりしたっけ。
そんな時は。
「なんだ、また喧嘩したのか?」
「喧嘩って程じゃないけど……。でも、まだわたし、全然やれるよ!」
ソフィーは俺にそんな感じにアピールするが。
「まあ、まだしっかり身体が戻りきっていないし、夜も時々ソニアに起こされてなかなかゆっくり寝れていないだろう? そういう時は、何事も早め早めに切り上げておいた方がいいんだ」
「うう~……」
そんな感じになだめるのが俺のお決まりの役目になっていたっけ。
1ヶ月の滞在の最後の1週間くらいは、だいぶソフィーも身体が戻ってきていて。
さらに、山の自宅に帰り着いた後のことを考えて、住み込みのお手伝いさんを雇ったので、ラヴィちゃんの負担も少なくなって、だいぶマイスター試験の準備に時間を割けるようになって、俺も一安心した。
そして、1ヶ月の検診が無事に終わり、晴れて山の我が家へ帰る日になった。
生まれたばかりのソニアと、お手伝いさんを連れての帰宅だ。
町に借りた家は、まだ2ヶ月ほど契約期間が残っていて、その間はまたラヴィちゃんに好きに使ってもらうことにした。
ラヴィちゃんに見送られて、仮住まいの家を離れ、我が家への丸一日ほどの道をゆく。
山の上の我が家に戻ってくると、既に向かいに建設中だった温泉宿はすっかり中まで完成していて、おやっさんの指導の下、ラファエルやおやっさんが連れてきたスタッフたちが総出で開業準備に余念がない感じだった。
俺たち一行が到着すると、パメラさんが真っ先に俺たちを見つけ、すぐにみんなを呼んだ。
開業準備の手を止めて、みんな俺たちを出迎えに集まってきて、もちろん目当てはソニアだ。
「まあ……可愛らしい……。ソフィーちゃんにもよく似てるわね」
「うちのラヴィの1ヶ月目よりも大きいな。なかなか順調に育っているようだな」
「まあ、おかげさんでな」
ラファエル夫婦が目を細めている。
彼らは俺たち一行の到着と入れ違いに、明日の朝にはここを発って町に戻ることになっている。
いちばんは滞在する部屋がないってのが理由だな。
そんなわけで、ソニアと顔を合わせる機会は今夜一晩しかなかったのだ。
町に滞在している間に、ラヴィちゃんに届いた手紙によれば、自分たちはなんとかかんとか一晩しか会えないのに、ラヴィちゃんは1ヶ月も一緒にいられて羨ましい……なんて書いてたらしいし。
特にパメラさんは初孫が生まれるみたいにソニアの誕生を楽しみにしてくれていたから、余計になんだろうが。
まあ、しばらくこっちに腰を落ち着けた後、秋くらいに少し長めに時間を取って、町に滞在することにしようか。
しばらくは月1くらいで町に出るのも俺一人で行くことにしたし。
向かいにはおやっさんの温泉宿があるし、お手伝いさんも住み込みで当分は居てくれるんで、安心してソフィーをこっちに置いていくことができる。
そんなわけで、翌日にはちょっと名残惜しそうにラファエル夫婦は町に帰っていった。
そして、それから間もなく、温泉宿の営業が始まった。
毎日一組、最大4人程度まで限定の、小さな温泉宿だ。
おやっさんに聞けば、初日からその先半年間は既に予約でほとんど埋まっているらしい。
すごいな。
いつの間にどうやって売り込んだんだろう?
一度おやっさんに聞いてみたら、彼曰く、
「まあ、やっぱり噂を聞いて伝手を通じて問い合わせて来るのが多かったな。こういう業界に長年身を置いてるから、余所の町から業者を通じて話が伝わってくることもあるし」
……なんだとか。
思ったより噂が噂を呼んでいたようだ。
こういった感じの湯治場がこの辺りにはなかったというのも幸いしたところもあるんだろう。
さて。
この温泉宿、うちは唯一のご近所であり、なおかつ建設に携わったという関わりは既にお話したとおりだが、我が家は今後も深く関わっていくことになるのだった。
ここは、完全な住み込みで従事するのはおやっさん夫婦だけだし、他のスタッフは数日ごとに町の宿屋の方から入れ替わりで送り込まれることにはなっているのだが、それだけに、急な病人などの事情で欠員が出た時に、すぐに補充するというわけにも行かず、直接的な人手という意味でも、人が足りない時は応援に行くことになっている。
それだけではない。
山の中でのおもてなしがコンセプトの宿だ。
そのための食材その他を集めるのは、ここでの暮らしに慣れている俺の役目だ。
ただ、これは俺としても助かることなのだが、食材集めには温泉宿のスタッフを連れて歩くことになるので、出産を終えたばかりで、これまでのように乳飲み子を抱えたソフィーを連れて歩くわけには行かないうちとしては、これからを考えると人手的にむしろこっちが助かると言った方が正しいかもしれない。
獲った獲物や集めた食材はそのまま山分けしたり、保存加工をうちで施した上で分け合ったり、そんな決めごとになっている。
初めてのお客を迎える日、午前中の狩りの日課を終えて戻ってきたら、ちょうど宿の前に見慣れない馬車が止まっていた。
ちょうど到着したところらしい。
「みんな、すぐに戻ると良い。食材はこっちで俺が分けて、後でそっちに運び込んでおくから」
今日一緒に付いてきたスタッフを宿の方へ先に帰らせ、俺は自宅の庭で獲物の最後の解体処理を始める。
だいたい現場である程度の処理は済ませてしまうのだが、皮を剥ぐのと切り分けだけは最後、戻ってからの作業だ。
皮を剥いで、肉は部位ごとに切り分けて分別し、宿に持ち込む分の他の食材と共に宿の勝手口から運び込む。
勝手口はそのまま宿の厨房に通じていて、ちょうどその日の夕食の仕込み中だったおやっさんが運び込んだ食材をチェックする。
「……ほう。なかなか良い肉じゃないか」
「そろそろうちの庭の畑の方も、野菜の収穫時期が来る。良さそうなのあったら好きなように見繕って行ってくれ」
「ああ、助かる」
「俺たちが留守にしていた間、面倒見てくれたのはおやっさんたちじゃないか。そのくらい当たり前だろ」
実際、検診のつもりで出かけていって、着いてみればいきなり出産が始まってしまい、結局1ヶ月ちょっと帰ってこられなかった。
その間、温泉宿の開業準備の傍ら、家の庭に作った菜園を手入れし続けてくれたのは、おやっさんやラファエル以下、温泉宿の開業スタッフのみんなだったのだ。
おかげで、半ば畑の作物は諦めていたのだが、戻ってきてみたら生育状況は極めて良好で。
そろそろ、最初の収穫時期がやって来る。
思っていたよりたくさん採れそうだ。
冬の時点では温泉宿をやるなんて考えてなかったから、我が家で消費する分採れれば良いくらいに考えていたが、ちょっとこっちも規模を大きくしていかないといけないな。
どうしても獲りに行くしかないような食材もあるけれど、なるべく居ながらにして採れた方が楽だし。
そんなことを思いながら、俺は家に戻って、夕方までは畑の世話に勤しむ。
少しだけ賑やかになった山の中で、こんな風にのんびり暮らすのも悪くない。
そんなことを思うのだった。




