表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

Final Mission 新たに生まれ来るものと、この山で…… その2

バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、時として大量破壊を伴う仕事も多々こなすことから、冒険者や町の人から怖れられ、敬遠されているため、遠く離れた山の中に住んでいる。

そんな彼は、またひとつ大きな仕事をこなして戻ってきたとき、家の前の小屋に迷い込んで眠り込んでいたケモミミ少女・ソフィーを見つける……。

ソフィーを保護し、二人での生活が始まると、ソフィーはジェルンにどんどん懐いていって、彼女はジェルンへの恋慕を隠さなくなる。

可愛らしい少女の好意をむき出しにしたアタックに、徐々にジェルンもグラついていき……。

そして、ジェルンはついにソフィーを妻にすることにしたのだった。

ソフィーを妻に迎えたことで、家庭を持つことになったジェルンは、ソフィーと夫婦二人での冬ごもりを見据えた住環境の整備のため、自宅を大きく改築。

近くに温泉もあったので、ついでにそこからお湯を引いた外風呂も完備し、すっかり二人の癒やしと憩いの場に。

こうして、冬を迎える準備を整えたジェルン。

ソフィーと二人で迎える初めての山の中での厳しい冬がやって来る。

そして、冬が終わりに差し掛かった頃、ソフィーの妊娠が分かり、町からお医者さんに来てもらい、順調であるとのお墨付きをもらい、二人はさらなる幸せに包まれる。

そんな時、ジェルンが家に作った外風呂が、一晩泊まったお医者さんや、作るときに協力してもらった町の大工仲間の口を通じて評判になり、ジェルンの家の向かいに温泉宿を建設する計画が持ち上がり、実行に移される。

そんな最中、そろそろ臨月に近づきつつあったソフィーの定期検診のため、ジェルンは彼女を連れて町にやって来た。



主人公:ジェルン

バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート

直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う

他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん

ダンジョン踏破には欠かせない職業

ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……



ソフィー

主人公の暮らす山の中に迷い込んでしまった獣人族の女の子

種族の中では発育が良くないらしく、きょうだいからもイジメに遭って、逃げ出したら気が付いたら知らない場所に出てしまっていたらしい

さまよった挙げ句、主人公の小さな家に迷い込んでいたところをジェルンに見つかり、拾われた。

以降、こちらの土地の言葉が分からないソフィーに言葉から山での生活に必要なことまで、優しく教え、保護してくれたジェルンに好意を抱くようになる。

町に出た時、変な噂の出ないようにと、ジェルンは建前上彼女を妻……ということにしていたのだが、その結果、逆にジェルンもソフィーを妙に意識し始めることに。

そして、二人は自然と一緒になることに……。


 マイスター試験の事前課題は、毎回何かしらテーマが与えられて、そのテーマに指定された目的に沿った建物や施設を設計し、模型にして提出することになっていたはず。

 そして、部屋の真ん中に置いてある机の上に、ほとんどできあがった状態の模型が置いてある。

 その脇には何枚もの設計図の図面が。

 模型の方は、屋根が外された状態でおいてあって、中のレイアウトまで見えるようになっている。

「わぁ……ラヴィちゃん、すごい……」

 俺の後ろから模型を一緒に見ていたソフィが驚きの声を上げる。

「なんだか、小さいけど可愛らしい感じのお家……。こんな家に住んでみたいなぁ……」

 女の子らしく、まずデザインに目が行ったようだ。

 何か、おとぎ話に出てくるような、草原や森の中の小さなお家といった佇まい。

 ソフィーなら確かにこういう家に憧れるだろうな……。

 清楚で慎ましい感じだけれど、レンガ造りの壁が洒落た感じを醸し出している。

 俺はどっちか言うと、機能面が気になる方なので、その辺を細かく観察したくなる。

 屋根の部分が外されているので、中が見えるが。

 構造は平屋建てのレンガ造りをイメージしている感じだ。

 部屋数は南向きに2つと、西側に少し大きめの部屋が一つ、そこから東側がキッチンと繋がっている。

 キッチンの奥に浴室と倉庫。

 倉庫内の真ん中井戸が掘られている。

 倉庫が北東側で、窓も天井近くに小さな明かり取り程度の細長いものがあるだけで、しかも井戸が中にあるのは面白い。

 ここだけレンガの壁も少し他よりも倍くらい厚めにしてある。

 多分、外観はレンガだが、その内部は厚い土壁だな。

 壁の断熱性能は高そうだし、井戸からは地中の冷たく湿った空気が入ってくる。

 あとは、屋根の造りによるところもあるが、これならこの倉庫は夏もかなり涼しいのではないだろうか。

 こういう食料保管用の倉庫は、たいてい地下室とか、床下などを利用することが多いのだが、敢えて地上に持ってきたのはどうしてだろう?

 後で聞いてみるか。

 しかし、さすがに血は争えないというか。

 ラファエルの血をしっかり受け継いでいるじゃないか。

 デザインから機能面から、あの歳なのによく考え抜かれている。

「なあ、ソフィー。いつか、我が家を建て替える時は、ラヴィちゃんに頼んでみるか?」

「いいの?」

 ソフィーは目を輝かせる。

「ああ、今の段階でこれだけの設計とモデルを描けるってだけでもすごいよ、彼女。これから経験を積んだら、もっとすごい建築家になるぞ。もしかすると、我が家を建て替えようって時になったら、引っ張りだこで予定が取れないかもしれないからな。今からツバ付けとくのも悪くない」

「じゃあ、今からわたしからお願いしとこうかな」

「そうだな。ソフィーから頼んでもらうのがいちばん効果的だろうな」

「うん、じゃあ、ちょっと話しておこうっと」

 ソフィーが頷いた。

 ちょうどその時。

「あ、ジェルンさんにソフィーちゃん。食事の支度ができましたんで! ささ、こっちへどうぞ」

 ラヴィちゃんが俺たちをタイミング良く呼びに来た。

 彼女に付いて、ダイニングルームに向かうと。

「わぁ……すごい!」

 ソフィーが目を輝かせる。

 スープから肉料理から……全部で5品……6品か。

「ラヴィちゃん、これ、一人で?」

「はい! だって、お母さんはそっち行っちゃってますし」

 そういえばそうか。

「でもすごいな。結構大変だったろ。かなり時間かかったんじゃないか?」

「そうですね。お昼前から仕込みは始めてましたから。でも、こんな素敵なお部屋をお借りしてたわけですし、そのくらいはやったって全然罰当たらないんじゃないですか?」

「いや、こっちは貸したっていっても、いない間放置してるだけなんだけどな。なんもしてない。そんな部屋を守ってもらってるだけで、こっちがお礼しなきゃいけない気がするんだがね」

「まあまあ、それでも、お部屋をお借りして課題にも集中できたんで……。それより、冷めないうちに頂いちゃってください!」

「そうだな。じゃあ、いただこうか、ソフィー」

「うん♪」

 そんな感じで、ラヴィちゃんの心尽くしのディナーを3人揃って楽しんだ後。

 食事の後片付けを済ませてから、ソフィーはラヴィちゃんと一緒にお風呂に入りに行った。

 この部屋をソフィーが選んだ理由の一つが、結構家の大きさのわりに広めのお風呂があったからというのも理由の一つなんだそうだ。

 そんなわけで、年頃の女の子二人を浴室に見送ってから、りびんぐるーむに一人きりになって、ホッと一息つく。

 丸一日馬車を走らせてきた疲れがここでドッと出た感じだ。

 はぁ……。

 二人が出てきたら、俺もゆっくりお湯を浴びて、さっさと寝てしまおう。

 そう思って、ソファーに身体をぐったりと預けて何刻か。

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 浴室の方から女の子の悲鳴が響く。

 あの声はラヴィちゃんか。

「どうかしたか!?」

 慌てて駆けつけて、扉の外から声をかける。

「あ、ジェルンさん! ソフィーちゃんが! 急に苦しみだして……!」

「なにっ!? 開けて良いか?」

「あっ、はいっ! 大丈夫です!」

 ラヴィちゃんの返事を待って、扉を開ける。

「うう……おなか、痛い……」

 裸のソフィーがその場にうずくまってしまっていた。

「動けるか? 立てるか?」

「だめ……動けない……」

「痛いのはどんな感じに?」

「おなかが、ジンジンって、すごい、痛い……」

 タオル一枚胸元から垂らすように当てたラヴィちゃんに尋ねる。

「急にこんななったのか?」

「はい、たった今、急にうずくまって……」

 まさかとは思ったが、おなかが痛いというので、おなかの子も心配で、真っ先に思い浮かんだのは……。

「今ならまだ先生起きてるな。俺、急いで呼んでくるから。ラヴィちゃん、悪いけどそれまでの間ソフィーを頼む!」

「はいっ!」

 俺は慌てて外へ出て、馬に飛び乗って先生の家へと走らせる。

 馬を走らせれば先生の家まではすぐだ。

「先生! 先生!」

 到着するなり、激しくドアを叩きながら先生を呼ぶ。

「ん? ジェルンじゃないか。血相変えてどうした?」

「ソフィーが急に苦しみだして……。とにかく一緒に来てください!」

 そう言って、先生を馬に一緒に乗せ、滞在する家に走る。

 走らせながら、軽く状況を説明すると。

「ふむ。そうか。なるほど……」

 先生は思いの外落ち着いた感じだった。

 それほど心配なければ良いんだが。

 家に到着すると、駆け込むように中へ入る。

 外の馬のいななきで俺の帰りを察知したのか、軽く着替えたラヴィちゃんが中から玄関に向かって出てきて俺と先生を迎える。

「こっちです! さっきよりは少し落ち着いてるんですけど、なんか、血が出てるんで、あれから動かしてないです」

 そう言って、俺と先生を浴室へ誘導する。

 浴室ではタオルを何枚か掛けられただけの状態のソフィーが、しんどそうに壁に背中を預け、脚を投げ出して座り込んでいる。

 その下半身からは、彼女の言う通り、何か血の混じったような液体が床にこぼれていた。

 その様子を一目見て、先生はこちらを振り向き、ラヴィちゃんに指示を出した。

「む……これは、どうやら産気づいたようだな……。君、すぐに湯を沸かしてくれ。できるだけたくさん」

「わ……分かりました!」

 ラヴィちゃんは飛び出すようにしてキッチンへ向かう。

 そして。

「ジェルン。何か、杖のようなものはあるかね? あるならここに持ってきてくれ」

「分かりました」

 俺は急いで馬車の荷台から一本の護身用に持ってきた杖を引っ張り出して、それを浴室へ持ち込んだ。

「よし、じゃあ、まず、奥さんの身体の向きを変えるぞ。ワシが足の方を持つから、ジェルンは身体を持ち上げてくれ。よいしょ……っと」

 ソフィーの身体を持ち上げて、場所を少し移動し、向きを変えて浴室の床に仰向けに寝かせる。

 そして。

「奥さんに、その杖を握らせるんだ。いきみやすくなるからな。ジェルンはその杖をしっかり支えるんだ。奥さんが力を入れたら、しっかり引っ張って、動かないように」

 俺は先生の指示に従い、言われたとおりにソフィーの手を取って、杖を握らせる。

「よし、これで準備完了だ。幸い、ここなら湯水をいくら流しても問題ない。ここでお産を済ませるとしよう。少々長丁場になるが、手伝ってもらうぞ」

 異論などあるはずもない。

 間もなく、ラヴィちゃんが1回目のお湯の桶を運んできて、先生は床の汚れた場所を流したり、身体の汗を拭くタオルをその桶で洗ってはまた拭いてを繰り返す。

 こうして、まさに戦いと呼ぶに相応しい、ソフィーの初めての出産が始まった。




「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

 東の空が白みかけた頃、赤ん坊の産声が家の中に響く。

「よしよし、よく頑張った!」

 赤ん坊を取り上げた先生が、手早くへその緒を切り、温かいお湯で濡らしたタオルで赤ん坊の身体を拭いて綺麗にすると、母となったばかりのソフィーにそっと手渡し、抱かせる。

「よく頑張ったのう。元気な可愛い女の子じゃ」

 精も根も尽き果て、身体になかなか力が入らないといった感じだが、俺が背中に寄り添い、支えてやると、なんとか我が子をその手で抱くことができた。

「かわいい……。手なんか、もうこんなちっちゃくて……。この子が、わたしの子なのね……」

 目に涙を浮かべるソフィー。

「ああ。よく頑張ったな」

「うん、わたし、頑張ったよ……」

「そうだな。今日はこのまま、ベッドでゆっくり休みなさい」

「うん、もう、疲れたよ……」

 そう言って、ソフィーは疲れ切ったのか、俺の腕の中で眠りこけてしまった。

 そんな言葉を俺たちが交わしている間に、先生は手早くソフィーの出産の傷口の確認と、出産の後処理を手早く始めてしまっていて。

「ジェルン。奥さんの身体の傷もたいしたことはないし、出血も少ない。まあ、初産にしてはなかなかの安産じゃな」

「そうですか。良かった」

「あともう少し、後始末にかかるから、その間に君はこれで、奥さんの身体を綺麗に拭いてやってくれ」

「わかりました」

 俺は赤ちゃんをラヴィちゃんにいったん預け、先生に渡された温かい絞りタオルでソフィーの身体の汗を拭いて綺麗にしてやると。

 それが終わる頃には、先生も後始末をだいたい終えたようで。

「よし、じゃあ、奥さんをベッドに連れて行ってやりなさい。私は赤ん坊の方を少し診察しよう」

 浴室の床を片付け終わると、赤ん坊を抱いたラヴィちゃんと一緒に居間の方へ診察のために向かう先生。

 俺は、身体を拭いて綺麗にしたソフィーを抱き上げて、ベッドルームに連れて行く。

 疲れ切ったのか、結構ゆさゆさ揺れたり、ベッドに寝かされる時に姿勢を変えられたりとかされているはずなのに、全く起きる気配もない。

 裸のままで、正直何か着せてやりたいが、仕方ない。

 ベッドの上に寝かせて、毛布を掛けてやる。

 これでも意識がぼんやりとも戻る様子がない辺り、さすがに疲れ切ったか。

 まあ、とりあえずはゆっくり休んでくれ。

 お疲れさん、ありがとう……もう、それしかないよな。

 何回か、ソフィーの額を撫でて、それから俺は寝室から出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ