Final Mission 新たに生まれ来るものと、この山で…… その1
バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、時として大量破壊を伴う仕事も多々こなすことから、冒険者や町の人から怖れられ、敬遠されているため、遠く離れた山の中に住んでいる。
そんな彼は、またひとつ大きな仕事をこなして戻ってきたとき、家の前の小屋に迷い込んで眠り込んでいたケモミミ少女・ソフィーを見つける……。
ソフィーを保護し、二人での生活が始まると、ソフィーはジェルンにどんどん懐いていって、彼女はジェルンへの恋慕を隠さなくなる。
可愛らしい少女の好意をむき出しにしたアタックに、徐々にジェルンもグラついていき……。
そして、ジェルンはついにソフィーを妻にすることにしたのだった。
ソフィーを妻に迎えたことで、家庭を持つことになったジェルンは、ソフィーと夫婦二人での冬ごもりを見据えた住環境の整備のため、自宅を大きく改築。
近くに温泉もあったので、ついでにそこからお湯を引いた外風呂も完備し、すっかり二人の癒やしと憩いの場に。
こうして、冬を迎える準備を整えたジェルン。
ソフィーと二人で迎える初めての山の中での厳しい冬がやって来る。
そして、冬が終わりに差し掛かった頃、ソフィーの妊娠が分かり、町からお医者さんに来てもらい、順調であるとのお墨付きをもらい、二人はさらなる幸せに包まれる。
そんな時、ジェルンが家に作った外風呂が、一晩泊まったお医者さんや、作るときに協力してもらった町の大工仲間の口を通じて評判になり、ジェルンの家の向かいに温泉宿を建設する計画が持ち上がり、実行に移される。
そんな最中、そろそろ臨月に近づきつつあったソフィーの定期検診のため、ジェルンは彼女を連れて町にやって来た。
主人公:ジェルン
バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート
直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う
他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん
ダンジョン踏破には欠かせない職業
ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……
ソフィー
主人公の暮らす山の中に迷い込んでしまった獣人族の女の子
種族の中では発育が良くないらしく、きょうだいからもイジメに遭って、逃げ出したら気が付いたら知らない場所に出てしまっていたらしい
さまよった挙げ句、主人公の小さな家に迷い込んでいたところをジェルンに見つかり、拾われた。
以降、こちらの土地の言葉が分からないソフィーに言葉から山での生活に必要なことまで、優しく教え、保護してくれたジェルンに好意を抱くようになる。
町に出た時、変な噂の出ないようにと、ジェルンは建前上彼女を妻……ということにしていたのだが、その結果、逆にジェルンもソフィーを妙に意識し始めることに。
そして、二人は自然と一緒になることに……。
さて、そんなこともありつつ、約1ヶ月が過ぎ。
ソフィーの2回目の検診日が近付いてくる。
時期的には春だけれど、少し汗ばむ日も増えてきた。
そんな時期。
季節としてはいちばん良い頃かもしれない。
また、月に一度のソフィーの定期検診の時期がやって来る。
そんなわけで、再び町に下りてきた俺たち。
今回の滞在は短めで、検診とラファエルや宿屋のおやっさんと、温泉宿の設計図面の打ち合わせをしたらサッと帰る予定。
いつもの宿に到着したら、おやっさんがいるかと思ったら、到着した日はちょうどお客が満室で、おやっさんは厨房の方で夕食の仕込みに忙しく、ちょっと話ができそうもなく。
時間があったらちょっと軽くお風呂場周りの設計を見てもらえたらと思っていたのだが、これは明後日、打ち合わせの時で良いか。
そんなわけで、その日はゆっくりとソフィーと二人でのんびりと過ごして一日の旅の疲れを癒やして。
翌日はソフィーの検診日。
経過は順調で、妊娠6ヶ月目に入り、そろそろ出産日のことを考えて動き出した方が良いという話をされた。
ということで、出産日前後の1~2ヶ月間、町で過ごす家を借りる計画も、具体的に動き出すことになった。
検診が終わってから、先生の紹介もあって、3軒ほど物件を実際に見に行って、そのうちの一軒がちょうどラファエルの家のすぐ近くで、中の間取りや配置といった部分もソフィーがいたく気に入ったようで。
「ジェルン。わたし、ここがいい!」
ソフィーに激推しされたんだが、いざ、物件に予約を入れようとしたら、こんな事を言われた。
「2ヶ月3ヶ月先からの契約となると……あの物件は見ての通り、場所も良いので、その間に引き合いがあると……そちらを優先せざるを得ないのですよ……」
まあ、確かになぁ……。
だったら、カネは多少かかるにしても、さっさと借り上げてしまった方が話は早いのだろうけど。
その間の費用もさることながら、空けてる間の管理もどうしようかってとこなんだよな。
今回の滞在から帰る日まで、少し返事を待ってもらって、その間に、ラファエルの工房で宿屋のおやっさんも加えて、3人集まった。
ソフィーは俺たち3人が設計図を前にあれこれ計画の細部を話し合っている間、ラヴィちゃんの部屋で女の子同士で話に花を咲かせていたようだったが。
その時に、見に行った部屋が気に入ったという話もしたらしく、借りるかどうか悩んでいるって話までしたようだ。
それで、俺たちの話が一段落して、おやっさんは宿屋へ帰り、夕食時までちょっとまったりしたタイミングで、ラヴィちゃんが俺に話しかけてきた。
「あの……ジェルンさん?」
「ん?」
「うちの近くにいいお部屋が見つかったと聞いたんですが」
「ああ、ソフィーに聞いたか? ただ、すぐにでも押さえないといけないっぽくて、ちょっと悩んでんだよな。まだしばらくは検診の時以外は使うこともないし、留守している間の管理をどうしようかとか」
「あの……それなんですけど……わたしがジェルンさんたちがいない間、使わせてもらっても良いですか?」
「え?」
ラヴィちゃんは、いきなりそんなことを言い出す。
「使うって、何に?」
ラヴィちゃんに尋ねると。
「実は、わたし、秋にマイスター試験を控えてるんですけど、集中して勉強できる環境が欲しいのと、課題を提出しなきゃいけないので、その作業をする環境も必要なんですよね……」
「なに? ラヴィちゃん、あの試験、受けるのか」
ラファエルの方を振り返ると、彼も静かに頷く。
マイスター試験。
正確には、王室認定建築士超級試験。
もちろん、ラファエルはこの資格を持っている。
王室認定の建築士の資格の最高レベルで、通称マイスターと呼ばれる。
他にも、酒造であったり、鋳造であったり、工芸関連については同様の資格があり、その最高レベル、超級の資格について、通称でマイスターという称号が使われている。
ちなみに、俺は建築士は上から2番目の高級までは取っているが、超級は提出課題を見てやめたっけ。
高級も難しいが、超級は最終の学科試験の成績以前に、提出課題の段階で、才能とかセンスがないとダメなんだよなぁ。
それは若い頃、資格を取る勉強をしていた時に重々感じたっけ。
それをラヴィちゃんは受けるのか。
「すごいな。あれにチャレンジしようって気になれるって時点で。おまけに、あの資格持ちに女の子はほとんどいないしな」
「まあ、まず受からなきゃいけないんですけどね」
そう言って、ラヴィちゃんは照れ笑いする。
「ラファエルとしてはどう思ってんだ? いけそうか?」
ラファエルに聞くと。
「まあ、普通に実力が出せればいけんじゃね?」
と、彼は太鼓判を押す。
「そうか。そういうことなら、いない間の管理をお願いしちゃおうか」
ソフィーに確認すると。
「うん、それが良いと思う」
まあ、さっきラヴィちゃんとソフィーの二人の間では話がまとまっていたっぽいし、反対するわけもないか。
そんなわけで、ソフィーの出産時期に過ごす家も決まって、出産への準備も整い、あとは生まれてくるのを待つばかり。
そんな感じに今回の滞在を終えて、山に帰った。
翌月、そろそろだいぶおなかが大きくなったソフィーを連れて、検診に行った後、ラファエルたちと一緒に山に帰ってくる。
いよいよ、温泉宿の計画は、設計段階が終わり、宿屋のおやっさんからも、これで大丈夫とOKが出て、いよいよ建設に取りかかる。
今回は試験の準備中なラヴィちゃんはおらず、ラファエルと大工仲間たち、ほとんど男ばかりの団体様だ。
ただ、その食事の面倒をうちのソフィー一人に任せるのはちょっと酷だと心配して、パメラさんが娘を町に置いて一緒に来てくれた。
これは正直助かる。
「すみません、パメラさん。ラヴィちゃんの方は大丈夫ですか?」
そう尋ねると、パメラさんは豪快に笑って。
「ああ、あの子は大丈夫よ。それに、大の男5人の食事の世話を身重なソフィーちゃんに任せっきりにしたら大変でしょう?」
「いや、ホントに助かります……」
「いいのよ。ソフィーちゃんもうちの娘みたいなもんなんだから。こういう時はいつでも頼ってちょうだいな」
もうラファエル通じて長い付き合いにはなるが、ホントに頼りになる肝っ玉母ちゃんなところがある人だ。
ソフィーとも母娘みたいに仲が良くて、いつも気にかけてくれる。
ソフィーもパメラさんのことが大好きで、一緒に料理する姿も楽しそうだ。
ラヴィちゃんもそうだが、パメラさんも、ソフィーの子供が元気に生まれてくるのを心待ちにしていて。
「なんかね、もう初孫を迎えるような、そんな気持ちなのよねぇ……。わたしももうそんな歳なのねぇ……」
なんて、しみじみ言ってたりもする。
「パメラさん、べつにソフィーを産んだわけじゃないんですから、歳はあんまり関係ない気がしますよ……」
と、一応フォローしたつもりだったんだが。
「いやね……うちの娘、あんな感じのはねっ返り娘でしょう? マイスターの資格を取るのも良いんだけれど、お嫁のもらい手があるのかしらねぇ……って思うとね。実の孫はまだまだ先になりそうだし……」
「ははは……」
思わず乾いた笑いが出る。
パメラさんの言う通り、確かにちょっとあの子からは結婚の二文字はまだまだ遠い感じがする。
母親としては少し心配なのかもしれないな。
そんなわけで、温泉宿の建設作業は始まった。
俺は主に水回りの工事を担当する。
いろいろ考えたのだが、川から引いた水道の方は、既に埋設済みの水路を弄りたくなかったので、一旦全部我が家の方で川からの水を受けてから、向かいの温泉宿の方へ分ける方法を採ることにした。
なので、風呂場の板壁の外側に石組みで水を溜めておける水槽を作り、その底面から石の管を新たに向かいの敷地に向けて埋設して、水道を温泉宿に通すやり方だ。
温泉の湯の方は、家まで源泉から木の桁を引っ張ってきているところにもう1本別に並行させて、途中、温泉宿の敷地から直線距離の近い場所から分岐させ、道の上を通して渡すという感じだ。
温泉宿の基礎工事をやっているのを横目に、俺の方も作業開始だ。
まあ、今回は自分の家の時と違って、資材はラファエルが用意して持ってきてくれたから、ほとんど組み立てるだけなので、多少水槽の底の部分の処理で手間取ったくらいで、それほど手こずることもなく、淡々と感性へ向けて作業が進み、他の仕事と並行しながらも、半月程で完成する。
その頃には、建物の方も基礎工事はとっくに終わって、構体の骨組みも組み上がり、屋根と外壁の工事にかかろうかという段階になっていて。
温泉宿の建物の水場周りに水道を接続して、中に水を引き込む。
慎重に我が家の敷地側にある水槽との間の高低差を測量して、引き込む高さを決める。
この高さの調整が肝だからな。
で、その高さで浴場の側に繋ぐ水道との分岐も作っておく。
建物内への引き込みの作業が終わると、今度は浴場の方の土木工事だ。
我が家と同じように、設計図の図面に沿って地面に穴を掘り、事前にラファエルたちに大工作業の合間を見て河原から運んでもらっていた大きな丸石を穴の底と縁に敷き詰め、隙間をコンクリートで埋める方法で浴槽を作り、浴槽のコンクリートが固まったら、その周囲を広い範囲でやや深めに掘って、そこに川から採ってきた玉砂利を敷き詰める。
あとは、その周囲に囲いを作ったり、木や植物を植えて、庭園として飾り付けて完成だ。
最後の仕上げは、宿屋のおやっさんが完成具合を見に来る時に、知り合いの庭師を連れてきてくれることになっているので、その時だな。
そんなわけで、俺の作業がだいたい終わった頃、建物の方もだいたい完成に近付いていて、後は内装を残すのみ。
内装作業も数日で完了し、ちょうどそのタイミングで宿屋のおやっさんも庭師を連れてやって来る。
おやっさんはラファエルと建物の方を見に行き、庭師さんは俺と一緒に浴場の仕上げに取りかかる。
庭師さんの指導の下、植えた木を剪定したり、植物の植える位置を変えたりして、綺麗に整える。
完成してみると、我が家の風呂場もなかなかのものだったが、プロが整えた浴場の方がさすがに美しさの点では段違いだ。
建物の方を見て回った後、こちらの方を見に来たおやっさんが、浴場の出来映えを見て第一声が。
「おお……見事だ……」
一瞬呆けたように魂を奪われたような顔をして、浴場の様子に見入っていたっけ。
出来映えに満足そうなラファエルとおやっさん。
今夜は完成した温泉宿の出来映えを肴に酒でも呑みそうな勢いだ。
……なんて言ってたら、ホントにその日の夜はラファエルとおやっさんは完成したばかりの温泉宿の建物の中で、二人サシで呑んだんだよな。
俺は食事はソフィーと一緒に取りたかったのと、翌日朝早くにソフィーを連れて町へ出発しなければならなかったから、ちょっと遠慮したけど。
翌日朝に俺はソフィーと最後の検診のために出発したが、ラファエルたちとおやっさんは残って、開業の準備に入ることになっていて。
同時に今回の町への滞在は、その次はいよいよ出産を終えるまで腰を落ち着けることになるから、そのための準備というのもあって、少し滞在予定は長め。
帰ってくる頃にはすっかり開業準備が整っていると思うので、そこは少し楽しみに、家を後にした。
丸一日かかって町に着くと、今回はいつものおやっさんの宿ではなく、先月借りた家に向かう。
この家は俺たちが留守している間、ラヴィちゃんが使っていて。
俺とソフィーが夕方近くに到着すると、ラヴィちゃんが笑顔で迎えてくれる。
「あ、お帰りなさい!……ですよね? 長旅疲れたでしょう? 今日はわたしが夕食にご馳走用意しちゃうから、お二人とも今夜はゆっくりしていってください」
「あ、ちょっと……!」
そう言って、ラヴィちゃんは俺とソフィーの荷物を手早くササッと抱えて家の中に運び込んでくれる。
止める間もないくらい、ササーッと。
そんなわけで、家の中に通された俺とソフィー。
この家は、元々最低限、生活するためのテーブルとかベッドとかの家具類は部屋に配置されていて、それらは部屋と一緒に貸し出されているわけだが、食器とかの細かい生活用品は自分たちで用意しなければならない。
ラヴィちゃんはこの部屋を勉強部屋兼アトリエとして、この1ヶ月ほどの間使っていたみたいだが、その間に、そういったものを最低限揃えていたみたいだ。
テーブルにはピンク色のクロスを掛けたり、その上に花瓶に花を挿して飾って置いてある辺りが女の子らしい。
掃除も行き届いていて、結構綺麗に使ってくれていたみたいだ。
「すみません。結構自分の趣味で揃えちゃった感じなんですけど……あんまり借りたままだと殺風景だったんで……」
俺とソフィーを家に招き入れながら、ちょっと申し訳なさそうにラヴィちゃんはそう言う。
「いや、いいよ。とても綺麗に使ってくれていて助かるよ」
「そう言って頂けるとありがたいです。すぐに夕食の用意しますから、待っててくださいね」
ラヴィちゃんはそう言ってキッチンに入っていった。
「あ、わたしも手伝うよ」
その後を追って、ソフィーもキッチンに行こうとすると。
「いいの! 今日はソフィーちゃんはゆっくり休んでて!」
そう言われて、キッチンから押し返されてしまった。
「え、でも……」
「ソフィーちゃんは今大事な身体なんだから、疲れてる時はキッチリ休むの! こういう時くらい頼って!」
こういう時は歳上の貫禄のあるラヴィちゃん。
貫禄負けのソフィーは、すごすごと戻ってくる。
「うう……なんだか申し訳ないよぉ……」
「だけど、良い友達を持ったじゃないか。良かったな」
ラヴィちゃんの彼女なりの気遣いが、俺もちょっと嬉しかったし。
「うん。でもわたし、ちゃんと動けるよ?」
「まあ、せっかくの気持ちだ。今日のところは甘えとけ。これからも長い付き合いになるはずだし、埋め合わせの機会はいくらでもあるさ」
「うん」
ソフィーはそう言って頷く。
あ、そうだ。
夕食までしばらく暇があるので、ちょっと気になったものが見たくなった。
「ラヴィちゃん、アトリエにしてる部屋、見せてもらっても良いかな?」
キッチンにいるラヴィちゃんに一声かける。
「あ、良いですよ! せっかくだから、ジェルンさんの意見、ちょっと聞きたいです」
「わかった。じゃあ、ちょっと見せてもらうね」
「はーい! 玄関脇反対側の部屋ですよ」
「ありがとう。ちょっとお邪魔するよ」
そう言って、彼女がアトリエに使っている部屋に入る。




