Mission 10.温泉宿建設計画 その１
バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、時として大量破壊を伴う仕事も多々こなすことから、冒険者や町の人から怖れられ、敬遠されているため、遠く離れた山の中に住んでいる。
そんな彼は、またひとつ大きな仕事をこなして戻ってきたとき、家の前の小屋に迷い込んで眠り込んでいたケモミミ少女・ソフィーを見つける……。
ソフィーを保護し、二人での生活が始まると、ソフィーはジェルンにどんどん懐いていって、彼女はジェルンへの恋慕を隠さなくなる。
可愛らしい少女の好意をむき出しにしたアタックに、徐々にジェルンもグラついていき……。
そして、ジェルンはついにソフィーを妻にすることにしたのだった。
ソフィーを妻に迎えたことで、家庭を持つことになったジェルンは、ソフィーと夫婦二人での冬ごもりを見据えた住環境の整備のため、自宅を大きく改築。
近くに温泉もあったので、ついでにそこからお湯を引いた外風呂も完備し、すっかり二人の癒やしと憩いの場に。
こうして、冬を迎える準備を整えたジェルン。
ソフィーと二人で迎える初めての山の中での厳しい冬がやって来る。
そして、冬が終わりに差し掛かった頃、ソフィーの妊娠が分かり、町からお医者さんに来てもらい、順調であるとのお墨付きをもらい、二人はさらなる幸せに包まれる。
主人公：ジェルン
バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート
直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う
他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん
ダンジョン踏破には欠かせない職業
ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……
ソフィー
主人公の暮らす山の中に迷い込んでしまった獣人族の女の子
種族の中では発育が良くないらしく、きょうだいからもイジメに遭って、逃げ出したら気が付いたら知らない場所に出てしまっていたらしい
さまよった挙げ句、主人公の小さな家に迷い込んでいたところをジェルンに見つかり、拾われた。
以降、こちらの土地の言葉が分からないソフィーに言葉から山での生活に必要なことまで、優しく教え、保護してくれたジェルンに好意を抱くようになる。
町に出た時、変な噂の出ないようにと、ジェルンは建前上彼女を妻……ということにしていたのだが、その結果、逆にジェルンもソフィーを妙に意識し始めることに。
そして、二人は自然と一緒になることに……。
さて、医者の先生が町へ帰って行った途端に、翌朝から一気に季節が移り変わったかのように暖かくなって。
……あの先生は冬の使者かなんかなのか？
それはさておき、一気に寒さも緩んだので、庭にさっそく作物の種を蒔き始めた頃。
例年この時期は、我が家に伝書鳩が飛来してくる頻度が多くなる。
便りを携えて飛んでくる伝書鳩たちの世話も、今年はソフィーの仕事だ。
少し重たくなったおなかを抱えつつ、楽しそうに鳩たちの世話をするソフィーだった。
そして、お昼時、畑仕事を中断して家に戻ってくると、俺の机の上には午前中に届いた手紙が何通も。
だいたいは仕事の依頼だったりするのだが、その中に。
……なんだこれ？
是非噂の我が家の浴室が見たい。
いつでも温泉に入れてしかも風流と噂に聞く浴室を是非一度見たい。
そんな依頼が大工、建築屋界隈から幾つも届いていた。
マジか。
たぶん、ラファエルから話を聞いて……ってとこなんだろうが、さすがに困った。
ここは、そう気軽に見に来て、そのまま帰る……なんて芸当ができる場所ではないからな……。
一番近い町からでも日中丸一日とかかかってようやくたどり着くような、人里離れた山の中。
ましてや、今は身重の妊婦を抱え、出産が終わっても子育てに追われるわけで。
当分はそうそう気軽に客を迎えるというわけにも行かない。
ラファエルや大工仲間の連中なら気心が知れてるからまだ良いが。
まあ、断っておくか。
ということで、その日の何通かは断りの返事を書いて鳩を飛ばしたが、その後、その倍の数に届こうかという勢いでまた同じような依頼が届いてきてしまった。
もちろん、その前に断りの返事を送っていたところもほとんどが再度強く要請してきたのだ。
これは困った。
「参ったなぁ……」
思わずその手紙の束を前にぼやく俺に、傍らから覗き込んでいたソフィーは。
「わたしのことならいいよ？ あまりたいしたおもてなしもできないと思うけど……」
そんなことを言ってくれてはいるが。
身重な妻に負担をかけるような仕事は受けたくない。
「いや。ダメだ。それに、これからは町に検診にも出向かないといけないからな。町の往復の合間にこんなたくさん客を迎えるとか、ほとんどそれだけで１ヶ月終わっちまう」
なにしろ、うちは人もいなけりゃ余分な部屋もほとんどない。
部屋空けるにしてもなんとか１部屋空けるのが精一杯だし、一度に俺とソフィーでおもてなしできる人数なんて１組、２～３人が限度だ。
ソフィーの出産のことがなくてもな。
仕方ない。
これは一人一人事情を説明する他あるまい。
次の定期検診のために町に出る日程を前倒しして、検診日までの間に依頼主を一人一人訪問することにしよう。
ついでにソフィーの出産に備えて、その周辺の時期を過ごす家を探すのも悪くないだろう。
そんなわけで、医者の先生を見送って２週間あまり経った頃、すっかり寒さも収まってほとんど雪も消えた山道を下り、町へと出ることとなった。
乗り心地の良くない荷馬車の旅だが、後ろの荷台に幌を付けて、万が一の雨を避けられるようにした上で、そこにベッド用の敷き布団とクッションを広げて、そこにソフィーを乗せて出発だ。
ただ、幌の覆った荷台の上だと周りの景色は見えないし、やっぱりどうしても退屈するらしく、時折後ろの荷台から前の御者席に外の空気を吸いに出てきてしまう。
特に最初の時。
「ねえ、ジェルン」
「うわっ！」
いきなり肩口の辺りからにゅっと首を出されて後ろから声をかけるもんだから、こっちが驚いてしまって。
慌てて手綱を引いたものだから、急に馬車が止まってしまって、ガクンと急停車のショックが。
幸い、ソフィーはちょうど俺の後ろから纏わり吐こうとしていたみたいで、そのまま俺に抱きついて事なきを得たが。
「あのなぁ……いきなり後ろから出てくるのはやめろ。びっくりするじゃないか」
「あははっ、ごめん、ジェルン」
彼女としてはいつもと同じように俺にじゃれつこうとしただけのようだったが。
「ソフィー。動いている最中にいきなり出てきたり、抱きついたりするのはやめてくれ。危ないから。それに、下手に転んで、おなかを打ったりしたら大変だ」
思わず真顔で説教すると、ソフィーは神妙な顔に名って。
「うん、ごめん……つい、退屈しちゃって……」
まあ、その気持ちは分かるから、ダメとはいわないが……。
「まあ、それは仕方ない。その代わり、出てくる前に声をかけてくれ。それと、出てくる時には必ずクッションを持ってきなさい。それ敷いとかないと、揺れのショックがダイレクトだ」
「うん、わかった……」
そんなわけで、一旦馬車を止めて、ソフィーが御者席の隣にクッションを敷いて座ったのを確認してから再度馬車を進める。
そんな感じに対策をしつつ、少し馬車を走らせるペースもいつもより気持ち遅くしたりした結果、これまで町に出る時にだいたいかかっていた時間よりも１時間ばかり余計に時間がかかってしまったが、朝に出て夕方暗くなる前には町に到着することができた。
いつもの宿屋にチェックインすると。
「あらあらまあまあ！ ソフィーちゃん、そのおなか、もしかして……」
「はい。今回はお医者様に診てもらいに」
「ホントに！ よかったわねぇ。どう？ 順調？」
「ええ、今のところ」
「それはおめでたいじゃないの」
ソフィーの少し大きく目立つようになったおなかを見て、宿屋の女将さんは色めきだった声で祝福してくれる。
「そういうことなら、ソフィーちゃんにはしっかり精の付くもの食べてもらわなくちゃね。うちの人に言っておくわ」
こんな心遣いをとっさにできるから、ここの宿屋は常連客が絶えないんだよな。
それよりも、ちょうどおやっさんの話題が出たし。
「女将さん、旦那は今、話せる？」
「ちょうど今、キッチンで仕込みをしてる頃だと思うけど、手を離せなくはないと思うわよ？」
「ちょっとだけいいかな？」
「いいわよ。ちょっと呼んでくるわね」
女将さんは奥の方に入っていく。
実は、例の温泉を見たいという話、ここのおやっさんからも来てたんだよなぁ……。
程なくして、女将さんに連れられて、おやっさんが姿を見せる。
「おう、来たか、ジェルン。おめでたなんだって？」
「ああ、実はそうなんだ」
俺の隣にいるソフィーの姿を見て、おやっさんも「ほう……」という顔になる。
「実は今、うちはそういうことなんで、人を招いて温泉宿の真似事みたいなことはちょっとやってられないんだ。申し訳ない」
そう言うと、おやっさんはすべてを察したようで。
「そういうことか……。それだったら仕方がないな。ラファエルから話には聞いていたから、一度じっくり参考に見たかったんだが……」
かなり残念そうではあったが、こちらの事情に納得はしてくれたようだ。
「それに、あれはすぐ近くに大量に湯が湧く源泉があるからできてるんであって。浴室の再現だけなら、こっちの町でもできないことはないだろうけど……」
「なるほどな……」
「そういうわけだから、申し訳ない」
「ああ、分かった。ただ、なんか方法ないもんかねぇ……」
おやっさんはちょっと残念そうに首を傾げながら、今日の夕食の仕込みがあるということでキッチンへと戻っていった。
こっちの事情を分かってくれて、おとなしく引き下がってくれたみたいで少しホッとした。
おやっさんはすんなり話が通ったけど、他の人がこうすんなり行くとは限らないし、今回の町への逗留はいろいろと気が重い。
「ジェルン？ どうしたの？」
「あ、いや……なんでもない」
気付かないうちに浮かない顔になってしまっていたらしく、ソフィーは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
慌てて取り繕うようにそう答えたものの。
ソフィーの顔に思いっきり「絶対おかしい」って書いてある。
まあ、ごまかし利かないか。
いっつも四六時中俺の事見てるんだし。
「まあ、ちょっと、今回の滞在がこれからちょっと思いやられてな……。あちこち断って回らなきゃならないから」
「ああ、お風呂の件？」
俺の説明で、事情を察したソフィー。
「ソフィーにもいろいろと付き合ってもらうことになりそうなんでな……ちょっと今回はあまりのんびりはできないかもしれない」
身重のソフィーをいろいろと引っ張り回すのはあまり俺も気が進まないんだが、実際に彼女の状況を見せるのがいちばん話が早いだろうからな。
それは事前に話してあるので、そこは彼女も分かってくれていて。
「うん、わかってるよ。ちゃんと、ジェルン、家を出る前に話してくれたし」
ソフィーはそう言って頷く。
「まあ、わたしはジェルンと一緒にあちこちこの街の中行けそうだから、それはそれで結構楽しみにはしてるけど」
「なに？ そんな認識なのか？」
「うん、そうだよ。どうせなら状況を楽しまないと」
ソフィーのこういう楽天的なところには救われる思いがする。
なんでも前向きに、置かれた状況の中でできる限り物事を楽しもうとする、そんなポジティブな奥さんの存在は、こういう時に頼もしい限りだ。
「まあ、そんな感じに軽く考えてくれると、助かるよ」
「うん。まあ、楽しめるところは楽しんじゃおう♪」
ソフィーに俺の方が元気づけられてしまった。
ホントに、この子は良い子だよ。
俺みたいなおっさんの嫁にしとくには勿体ないくらいだ。
そんなわけで、翌日から町からの我が家訪問依頼者を一軒一軒訪ねて歩くことになったわけだが……。
まず、いの一番に向かったのはラファエルの家。
いつも町に出てきた時は必ず最初に顔を出しに行くってのもあるんだが、ちょっと今回はいろいろと言いたいこともある。
なにしろ、今回のことは元はといえば、あいつがあちこちにいろいろと余計なことをべらべら喋ってくれたせいだからなぁ。
文句の一つも言ってやろうかと、そう思っていた。
というわけで、ラファエルの家にやって来た。
「ラファエル、いるか？」
工房の奥に声をかけると。
「おう、その声はジェルンか？ こっち来てたのか」
ラファエルが奥から出てくる。
「ああ、昨日こっち来たよ。またちょくちょく来ると思う。ソフィーの検診もあるからな」
「ああ、そうだったな。まあ、入れよ。ラヴィ！ お茶を用意してきてくれ！ ジェルンたちが来たぞ」
俺たちを客間に通しながら、娘のラヴィちゃんにお茶の用意を言いつける。
「はぁい！ じゃあ、ソフィーちゃんも来てるのね？」
「ああ、彼女も一緒だ」
「うん、わかった！ ちょっと待ってて」
ラヴィちゃんとうちのソフィーとは、この前ラファエルが大工仲間の連中と一緒に総出でうちに滞在した時にだいぶ気が合ったみたいで、ラヴィちゃんも再会を楽しみにしていた様子。
ソフィーも会えるのを楽しみにしていたし。
「あ、それじゃあわたしも手伝うよ」
そう言って、ソフィーがラヴィちゃんの方へ行こうとすると。
「ダメダメ。ソフィーちゃんはおとなしくしてて。今大事な身体なんだから」
「え～……。お茶の用意くらい、いつも普通にやってるよ？」
「いーのいーの。今日はソフィーちゃんがお客様なんだから。旦那様とゆっくりしてて」
ラヴィちゃんはそう言って奥のキッチンへ下がっていった。
さて。
客間に通されて座が定まると。
「さて、ラファエル」
俺が今日の用件を切り出そうとすると。
「ジェルン、なんか、すまんな。なんか、ちょっとだけ身内に話したら、あっという間に尾ひれが付いて噂が広まってしまったみたいで」
先手を打ってラファエルの方から謝ってきた。
「なんだ。あんなに依頼が幾つも来るもんだから、てっきりおまえがあちこちで触れ回ってるのかと思ったよ」
「でもまあ、身内とは言え、不用意に話しちまったのがいけなかったな。迷惑かけたよ」
拍子抜けするくらいすんなりと謝られて、逆にこっちが反応に困るくらいだ。
「で、何件くらい依頼あったんだ？ 俺も正確な数は把握してないんだが……」
「まあ、都合10件くらいかな……」
「そんなにか……」
その数は彼の想像を超えていたらしい。
「しかし、需要はあるもんなんだな……。確かに、ああいう感じの温泉宿って、この辺りには全くないし」
「おい。勝手に俺の家を宿扱いしないでくれ……」
「ああ、悪い悪い……。だけどよ、これ、ちょっとしたチャンスかもしれないぞ」
苦笑いしながらそういうラファエル。
「それは俺も分からなくはないが……俺たち二人じゃとてもじゃないがこんなの対応しきれない。ましてや、これから出産と子育てが控えてるんだ。無理だって」
「ふむ……。問題は人と……あと、部屋も足りないか」
「だろう？ さすがに厳しいよ。おまけにここから来るのも不便だし」
そう話していたところへ。
「お、ジェルン。やっぱりここに来てたのか」
そう言って姿を現したのは、宿屋のおやっさんだった。
「おやっさんじゃないか。なんでここに？」
「まあ、ちょっとラファエルに作ってもらいたい調度品の相談があってな。ついでに、もしかしたらジェルンもここに来てるんじゃないかと思ってな」
「ラファエルだけじゃなくて、俺にも用があるのか？」
そう聞き返すと。
「実はまあ、そんなとこだ。昨日話していたジェルンの家を見に行く話な。やっぱりあれ、どうにかならんかね？」
おやっさんはそんなことを言い出す。
「そりゃまたなんで？」
「温泉宿に需要があることが分かったからな。宿屋をやっている人間としては、是非とも参考にしたいのさ」
「なるほど……」
しかしなぁ……。
「とは言っても、おやっさんだけ呼んで他呼ばないってのも角が立っちゃうからなぁ……」
「まあ、それもジェルンの立場的に辛いところか……」
そこでまた話が堂々巡りになるかと思えば。
「なあ、それさ、おやっさんに温泉宿の運営任せれば良いんじゃないか？ 建物や設備は俺らが作ってさ」
「え？」
「ジェルンは人手が足りない。おやっさんは温泉宿が儲かりそうだからやりたい。だったら組んじゃえばいいんじゃね？……って話だよ」
ふむ。
確かに、それならやってやれないこともないと思うが。
問題は、場所なんだよなぁ……。
「確かにそれなら俺の方は問題ないけど、おやっさんが運営やるにしても、あの山奥だぞ。暮らしには結構不便すると思うが、大丈夫なのか？」
するとおやっさんは。
「まあ、今の宿屋は息子夫婦に任せる手もあるし、人も今のうちから冒険者の経験者を中心に集めておいて、宿屋の基本はここで叩き込んでおく時間もあるだろうから、問題ないだろう。冒険者上がりなら、山奥でのサバイバルも問題ないだろうし」
「おやっさんとおかみさんはどうなんだよ？」
そう尋ねると。
「何を言ってるんだ。俺もうちの家内も、元々は冒険者上がりなんだ。もう、二十年以上も大昔の話だがな」
「え？ そうだったんだ……」
「俺もその話は初耳だ……」
おればかりでなく、ラファエルも驚いていた。
「その頃の話は積極的にしてなかったからな。現役当時も地味な仕事が多かったし。ラファエルが子供の頃には既に足を洗って、宿屋家業を始めていたから、知らなくても不思議じゃないな」
おやっさん夫婦にそんな過去があったとは。
「まあ、そういうことなんで、山の中での暮らしもそんなに問題ないだろう。昔取った杵柄ってヤツだ」
「ふむ……」
一気に話が現実味を帯びてきたぞ。
「これ、おやっさんもラファエルもそれで話に乗れるなら、話は決まりだが……」
二人の顔を見比べながら、そう確認すると。
「俺は乗るよ。面白そうだし、本格的な温泉宿となれば、作るのも腕が鳴る」
ラファエルは乗り気だ。
で、おやっさんの方は。
「なら、話は決まりだな。宿を運営する人の方は俺がなんとかする」
というわけで、急な話だが温泉宿の話ができあがってしまった。
「そうすると、早めに設計をやらないといけないな」
ラファエルにそう言うと。
「設計より先に、測量だな。ジェルンはいつ帰るんだ？」
「そうだな……ソフィーの検診が終わったら、すぐにでも帰るから、来週半ばくらいかな」
「じゃあ、その時俺も一緒に行って良いか？ 測量と現場を見ておきたいからな」
「おまえ、どうせうちの風呂が目当てなんだろ？」
「まあ、それもあるがな。はっはっは」
まったく、現金な奴め。
でもまあ、やるなら早く、やれるうちに測量からやっとかないと、話が動かないからな。
ラファエルには来てもらわないと捗らないから来てもらわないとだが、ラファエルを呼ぶならおやっさんも声はかけないといけないよな。
それに、新しく作る温泉宿のマスターをやってもらうわけだから、しっかり現地は見てもらう必要がある。
「じゃあ、おやっさんはどうする？」
一応、おやっさんにも聞いてみる。
「ああ、さすがにちょっと日にちが近すぎるなぁ……。残念だが、人の調整が付かないな……」
と、残念そう。
まあ、それなら仕方がないな。
「とりあえず、建物を建てる前には一度現地は観ておきたいね。その辺、計画立ったら早めに教えてくれ」
「わかった。そうするよ」
そんなわけで、急遽持ち上がった計画はスタートすることになったのだった。
