秋
四季の検査入院が決まった。とは言っても日にち自体は既に決まっていたらしい。それからは毎日のように見舞いに行った。
「これでどう?」
俺は四季に完成した2つのwordを見せる。題名は、『春』そして『夏』。
「ふーん。」
彼女は腕を組み、顎に手を当てて唸る。暫くして、顔を上げた。
「クソつまんない。」
「そうか。」
文章力の問題だろうか。確かに俺には文才がない。彼女との思い出をまとめるには時間がいるのかもしれない。
「わかった。もう一度よく書き直して…」
「そうじゃない。」
途中で四季が割り込んできた。今まで無かったことだ。少し動揺した。
「桐花ってさ、私のことしか見てないよね。」
「…………」
その通りだった。
「私はね、これを思い出として残したいんじゃないの。」
それは意外だった。
「桐花はさ、人に話しかけないだけで、人見知りじゃないし、むしろ優しいしかっこいい。きっとこれから色んな出会いを経験して、色んな別れがあると思う。でも桐花は優しいからきっとそのひとつひとつで傷ついて悲しんじゃうと思うの。だからね、私は桐花に私じゃなくてもっと周りを見て欲しかった。水族館のお魚さん達みんな綺麗だったよ、クラゲも可愛かったよ、カニも、ジンベイザメだって!イルカだって凄かった!ターンしたり高いところにあるボールにタッチしたりショーの人を持ち上げたり一緒に泳いだりして凄かったよ!水しぶきも飛んできたし可愛い鳴き声だったし楽しかったよ!桐花にはそういう思い出でいいの!私なんかじゃなくて!すぐにいなくなっちゃう私なんかじゃなくてっ!」
後半は嗚咽を漏らしながら声を絞り出していた。胸が痛い。泣いちゃダメなのに涙が止まらなかった。彼女にかける言葉は……
「………四季だから……」
「へ?」
「四季っ……だから!楽しかった!四季とじゃなきゃっ…ダメだった!理由なんてどうでもいい!ただ一緒に居たかった!それだけっ……それだけなんだよ!………私なんかじゃない……他のっ……誰かとか別れとか………どうでもいいし怖いなら出会わなくていい!……でも四季はぁっ!」
言葉はが出ない。息が苦しい、胸が痛いし涙で上手く顔も見えない。きっと俺は今みっともない顔を晒しているんだろう。それでも伝えたかった。もう二度と伝えられなくなる前に。
「四季は!特別だからぁっ!」
言葉にした。意味も無いのに。言いたかったから言った。子供みたいな神経していた。顔を上げると四季も泣いていた。子供みたいに泣きじゃくった後、死人みたいに静かに眠る四季の手を握っていた。対面終了の時間を知らせに看護師が来るまで。そして帰路に着く。夜風がいっそう冷えていた。これ以降、四季の体調が良くなることは無かった。






