表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

付き合って数ヶ月がたった。とは言っても毎日一緒に登校する訳でもなく、家に着いてからメールでやり取りするだけ。趣味とか授業のこととか、業務連絡みたいに早く終わることもあれば、電話してくる時もあるし、体調が悪くてと母親が出る時もある。それでも毎日の日課のような彼女とのやり取りを、俺は純粋に楽しんでいた。そうしていくうちに、学校は夏休みに入り、俺達は初めてデートすることになった。明日ヶ丘水族館でイルカショーを見ようと窓辺が言い出したことがきっかけだった。

「明日、朝8時に水族館の前で集合ね!」

快活な文面のメールに了解とだけ返して眠りにつく。蒸し暑い空気も、寝てしまえば気にならなかった。

「お、お早いですな。」

「そういうお前もだろ。」

水族館入口に設置されていた時計は朝7時を指していた。2人で入館料を払い、水槽を見ていく。名も知らない色とりどりの魚に群れで泳ぐ魚、巨大な魚、魚じゃない水生生物。記念撮影もしながら2人で歩くと、見て回るのにも時間がかかった。

「ちょっとそこ、座ろっか。」

窓辺が休憩用のベンチを指さして言った。2人で腰かけると、窓辺が俺を見つめてきた。

「結構体力あるね、君。」

「そうかな。」

窓辺は少し息を切らしながら、頬を赤く染めている。彼女が余命1年の病人であるという変えようのない事実が脳裏をよぎる。必死に気を紛らわして忘れようとしていたのに。俺は窓辺を見つめた。花柄のあしらわれた紺色のワンピースは彼女にとても似合っていた。窓辺がそっと肩を寄せる。落ち着くようないい香りがした。恐らくシャンプーの匂いだろう。別段シャンプーに興味はないが、きっといいものを使っているのだろう。暫くして、窓辺の体力が回復すると、俺達はイルカショーを見に行くことにした。

「わあっ!見て見て!イルカだよ!」

「見えねぇよ。」

最前列に近いところで見れたおかげで、とても嬉しそうな窓辺が見れて、俺は満足だった。イルカショーの内容はよく分からない、飼育員の手の動き1つで多種多様な技を披露するのは目を見張ったぐらいだろうか。水しぶきをかけられつつも、とても楽しい時間を過ごせた。

「ふい〜今日は楽しかったね!」

「そうだな。」

水族館からの帰り道、俺達は公園に立ち寄ってベンチに腰掛けていた。夕日が眩しく体を照らす。窓辺が眩しそうに眉をひそめた。

「イルカショー見に行けてよかった。動画でしか見た事なかったから。」

「そうか、良かったな。」

沈黙が2人を包む。会話は苦手だった。

「ねぇ…桐花。」

そう窓辺に呼ばれ、反射的に顔を向ける。瞬間、なにか柔らかいものが唇に触れた。一瞬だった。脳がそれを認識するよりも早く、お互いの頬が赤く染る。

「好きだよ。」

「……お、俺も……」

「俺も……なに?」

「俺も………好き……」

「誰が?」

「…………し、四季が…………好き………だ……」

恥ずかしさと言葉にできない感情で頭の中がぐちゃぐちゃになる。やり直せるならやり直したいと思う反面、何度やっても恥ずかしさに勝てない気もした。お互い見つめあったまま時間が経った。互いの頬は赤らんだまま、四季が笑う。

「帰ろっか。」

「うん。」

俺達は手を繋いで帰路に着く。四季を家まで送り届けると、夜道を一人で帰った。冷たいはずの夜風も、該当が照らすだけの薄暗い夜道も、何故か今は明るく、身体が火照ってしょうがなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ