【短編】気まぐれ鳥人さんの日本飛行
口に咥えた魔物避け。
肺に空気を流し込み。
フーッと吐けば青空の元に煙が上がった。
今日は快晴。所々に灰色の雲が広がる。
一戦終わりのこの一服。
雨の日も風の日も。
雪の日は流石に寒さで手が震えた。
伸びた爪がカチカチと音を立てて危うくこの魔石燃料の加熱式の魔物避けを落としかけたな。
異世界に来てから、薬草が主体だった魔物避けの煙を肺に入れる方式の物が、技術により加熱式のなるべく身体に無害なモノに変わった。
肉も前より旨く感じる。酒は嗜む程度だったが、日本の酒が美味しすぎるからか前よりよく飲むようになった。
特に『ぶらんでぇ』ってヤツが好き。
まぁ、飲まなきゃやってらんないってのが1番かも知れないが。笑える。
辺りには魔物と仲間の死骸が死屍累々。
辺り一面血の海だ。
今日も1匹ポツンと、生き残ったのはオイラだけ。
昨日一緒に『かれぇらいす』を頬張った日本の仲間の姿は見えない。多分どっかに転がってるんだろう。
この戦いが終わったら、好きな奴に告白するとか言ってたが……ソレは違う奴だったかな? 顔が似てるから覚えられないや。
羽とか鱗とか尻尾ないし、耳も特徴はないし、全部同じに見える顔。特に保護色で同じ服着てるから、オイラには見分けが未だにつかないや。すまん。
さて、一服終わって何処に行こうか?
至る所に遠くの方で黒煙が上がり、耳を澄ませば日本人よりよく聴こえる耳がドンパチやってる音を拾う。
次は溶けた赤い塔の方に向かうか。
あそこは高さがあって眺めがよくてお気に入りの場所だったが、見るも無惨だな。
先月ドラゴンにやられたっけ。
もう一本の高い塔は無事だけど時間の問題だろうな。
突如世界に空いた『穴』。
穴の先に迷わず突っ込んで行った好奇心旺盛な種族は、穴の先の異世界『日本』に魅了され和平条約を結んだ。
知性ある探究心旺盛な変わり者の学者エルフ達に日本の科学者達が意気投合。
言葉の壁もなんのその。あっと言う間に異文化合流が始まった。エルフ長寿だからな。暇してたんだろう。
アイツらきっと『けぇき』や『あいすくりぃむ』にトドメの『ぱふぇ』にやられたのかも知れないとオイラは疑ってる。あの種族やたら甘いもの好きだし。
後から加わったドワーフは酒に釣られて、馬鹿みたいに何やら色々作ったらしい。加熱式の魔物避けもそのひとつだ。
そこまではよかったんだけどなぁ。
翼を広げて、助走をつけて空に舞い上がる。
少し前に穴から出て来たサイクロプスを避けながら、赤い塔を目指して飛行して行く。
黒い穴は日に日に膨張し、魔物が行き来きし始めた。
どちらの世界も警戒して防衛してたが、流石に範囲が広がりすぎて対処しきれない。小さな物から入り込み、今では大型のが行き来している。
日本以外にもこの黒い穴が幾つも空いたらしくて、どこも手一杯らしい。
日本は魔物なんて居なかったから城壁がなかった。移民がオイラ達の世界に雪崩れ込んでる。
残ってるのは、急拵えで作った日本の城壁や本土から離れた島に避難民が殺到してるらしいよ。
しかし、ドラゴンも出てきたとなったらもう駄目かも知れない。
若いドラゴンがよさげな新天地の繁殖場所を求めてかなりの数コチラに来たらしい。
先月何とか1匹仕留めたけど、多分また来るだろう。
日本の黒い穴から来たヤツじゃなかったから、どこか別の場所から飛んで来たみたいだ。
溶けて固まって赤い塔。半分ほど高さがなくなったソコに腰掛けて、ちょっと休憩。
昨日の夜からブッ通しで動きっぱなしだ。魔物の奇襲がウルフ系だったのもあって、毛皮が欲しいから慎重に倒せなんて命令されたもんだから……はぁ〜。
折角綺麗に仕留めたのに、気がついたらまた自分だけ。やってらんない。最初から構わず討伐すれば良かった。数が多すぎたな。
腰に付けたマジックポーチを漁って『ちょこれぇと』を取り出す。
周りがカリカリしててコーティングされてるから、ちょっとくらいの暑さなら溶けない。
カリコリ言わせながら食べて、水筒の魔道具から水を飲む。思ったより喉が乾いていたな。
やたら美味い干し肉……胡椒がピリッとしていて酒に合うんだよな。もぐもぐ。ガジガジ。
塩辛さに『びぃる』が呑みたくなったけど、我慢して水で流し込む。
空になった水筒をマジックポーチに仕舞い、魔力補充したからまた2〜3時間すれば水が水筒いっぱいになるだろう。
大分涼しくなったとは言え流石に飲まず食わずじゃ身体が持たない。
次の休憩は早めにしようと思って、またどうしようかなと考える。
昼寝でもするか? と、閃いたら信号弾が上がった。あ、ハイハイ行きます。
いつもより低くなったこの塔にきっとオイラがいるのが見えたんだろう。救難信号だったから急いで行く。
「オ疲レサマ。休ンデルトコ悪イ」
「いいよ。どうして呼んだの?」
「子ドモガ残ッテタ。申シ訳ナイガ、西ノ城壁へ運ンデ欲シイ」
やっぱり、異世界人は騎士道精神が強い。
だから魅了される種族が後をたたなかったんだ。
弱肉強食のアチラでは見向きもされない者も多い……オイラからするとココはとても優しい世界だ。
高潔な血でも入ってるのかと言わんばかりに、大体皆んな礼儀正しい。
他の黒い穴を潜って帰って来なかったのがいると聞いたけど、この島国はかなり高待遇だったな。
多分、形が似てる学者のエルフが先に来たのもよかったんだと思う。
魔物の脅威がない時に『でっさんサセテ!』と、鼻息荒く言われて日本の芸術? の学校に連れて行かれた時は流石に苦笑いしたけど。
オイラの尾羽がある身体が珍しいらしい。翼を広げたら発狂乱でよく分からない言葉を言いながらもっと喜ばれた。
アレは楽でいい稼ぎだったな。「りある※●△□キターーーッ!!」って雄叫び何だったんだろ? それしか聞き取れなかったな。
ジッとしてるのが飽きたと言ったら、食事風景を録画されたっけ。
あの『スキヤキ』美味かったな。
歯ごたえのない柔らかい肉はちょっと物足りなかったけど、甘いタレとジュルッとした生卵が最高だった。
「捕食しーん」って言われたけど、オイラどうしてもあの棒2本で食べられない。
日本人が食べ方器用過ぎるんだよ。
コチラは皿が小さ過ぎるし、何より直ぐに割れるからどうしても溢れる。綺麗に食事するって難しい。
獣人もかなりの数が出稼ぎで来たけど、どこかの喫茶店で人気だったらしいしな。何かの聖地と言っていた。
日本人の『もえ』と『ワビサビ』が未だにオイラ分からないよ。
わさびツーンとするから未だに『スシ』はあのツーン抜いてもらってるけど、手で食べられるから『スシ』わりと助かる。
不安そうな顔の柔らかい子どもを手渡されて、こんな軟弱な人族直接持つのは怖いからポーチから出した寝床用のシーツに包んで身体に括り付けてもらい、そのまま飛びたった。
目指すは第2都市の西の方。アソコは穴から離れてるから、大分城壁が強固になりつつある。『タコヤキ』食べて帰ろうかな。
トロッとした中身に複雑な味のするソースが旨いんだ。
たまに牙に当たるタコの食感がコリってしてるのもオイラは好みだな。
野菜がたっぷり入った『オコノミヤキ』は草食系の獣人が割と好んで食べてるらしい。
子どもはあまり喋らない。
けど、たまにすすり泣いてるみたいだ。
シーツの上からそーっとさすり、城壁上に到着してから保護色を纏った大人に事情を説明して引き渡すと、別れ間際にペコリと涙と鼻水でぐしゃぐしゃ顔の子どもに礼をされた。
日本人特有の『お辞儀』の仕方。
未だに慣れないこの所作だけど、ちっちゃなか細い声で「アリガトウ」と言われたんで気持ちは伝わった。
「ごめん」じゃなくて今回は感謝の意味だったんだな。
目当てのタコヤキを食べたら戻ろうかと思ったけど、やめておけと言われた。ん?
「近々アノ都市ハ封鎖スル」
「あぁ〜……オイラのお気に入りの場所がぁ」
「大丈夫、ココノ『たわー』モ悪ク無イダロ?」
「まぁ、それもそうか。今日からお世話になるよ。『串アゲ』も好きだし」
「配属先ハマタ後ホド」
「了解であります。んじゃ、タコヤキ食べて寝ようかな。ふぁ〜……」
雇われ傭兵のオイラ。
生活リズムが違うので、働ける時に来てくれと言われてる。
緊急の際はさっきみたいに呼ばれるけど、所在が大体固定なんで今のところ不便はない。
オイラの世界の出稼ぎ労働者はほとんど元の場所に帰ったけど、代わりに傭兵が増えたな。
タコヤキをハフハフ頬張りながら、次に買った奴は人狼だった。食べながら情報交換でもしようかな。
《調子は?》
《ボチボチだな。お前さんは?》
《寝床が変更だよ。全く不愉快。まぁ、サイクロプスが出て来ちゃって仕方ないかなとは思うよ》
《アレはデカいし硬いからな〜。災難だったな》
幾つか当たり障りのない話をしていたら、どこから入手したのか知らないけどヤバい話をされた。
《別の大陸でS級クラスの大型のサンドワームが確認されたらしい》
《もうダメだなその大陸。ドラゴンに地上どころかサンドワームに地下までゴッソリ荒らされるだろうなぁ》
《俺達はそろそろ帰ろうかと思ってる。ドラゴンが襲来したって言うし、お前さんみたいに飛んで逃げるとか出来ないからな》
《それもそうか。達者で暮らせよ》
向こうでも中々出くわさないドラゴンが出たってことで、他の傭兵から直接帰るって言われたのは5人目だ。
撤収作業を始めた傭兵のクランもいるから、かなりの数この世界にいなくなるだろうな。
何故かこちらで絶大な人気を誇る冒険者はまだ大分残ってるけど、時間の問題だろう。
まぁ、オイラは気軽な独り身だからまだまだコチラにいたい。
本当は移住したいくらいだけど、流石にオイラをお婿に貰ってくれる酔狂な人族いないだろう。コッチの世界の人がもうちょい頑丈な身体の作りならなぁ……壊れちゃいそうで。
そもそもオイラの見た目が怖いか。
悲鳴を上げられたのは1度や2度じゃない。
でも、高い建物沢山あって向こうの世界より好みの寝床も豊富なんだよな。
今は塔がお気に入りだけど『びる』の高いのも中々捨てがたい。作りも頑丈。
新たな寝床を目指して、飛行する。
到着したら魔物避けのあまり出ない煙を燻らせながら、地平線に消えゆく夕日を眺める。やっぱり何度見ても綺麗だなぁ。
最初はこの景色に魅了されてそのまま居座ったオイラ。
甘いものに釣られたエルフと大差ないだろうと笑う奴もいるだろうな。
アイツら殆ど『ぱてぃしえ』って職業の日本人に胃袋掴まれて結婚してコチラに腰を据える気らしい。『りあじゅー』爆発しないかな?
それでも、オイラもこの世界の高い所から見る夕日が綺麗だから明日も頑張れるのは事実だ。
いつかお嫁さんになってくれた人と一緒に見るんだ(何かの『ふらぐ』がたった予感)。
あの日本で1番高い塔の所を封鎖されるのはシャクだし……運んだ礼儀正しいぐしゃぐしゃ顔の子どもの住処だ。
やっぱり明日本格的にサイクロプス狩りに行こうかなぁ。
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高所好きの鳥人さん
鳥人のいる世界は魔物が存在し、その所為で殺伐としていて城壁に囲まれている。日本に比べて高い建物自体が殆どないので都市のビル群に魅了された変わり者。
お気に入りの赤い塔をドラゴンブレスで溶かされて、怒り心頭で単騎でドラゴンに挑み見事勝利。
日本政府は鳥人の事を『ドラゴンスレイヤー』と命名して前にも増して英雄と崇めている。
なるべく日本にいてもらいたいので、高い所は鳥人にはフリーパスで寝床の所有が認められているのは暗黙の了解。実は鳥人が移住したいってまだ知らない。
鳥人も結婚しなくても移住出来るってまだ知らない(きっとリア充エルフ達のせい)。
次の日サイクロプスを討伐し、結局都市封鎖の話はなくなり日本で1番高い塔の上で、ご満悦でブランデーを呑む満身創痍の鳥人が双眼鏡で確認されたとかされなかったとか。
鳥人
《ガハハハッ! ここは相変わらず馬鹿みたいに風が強すぎるっ!? 傷にしみるしさみぃー! めちゃ眺め最高!!》(爆笑)
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挿絵見たくない方ブラウザバッグ!
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バックショット鳥人
塔の上にて。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。