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賢者③ 冒険者達、出発

 




 (最悪だ、不意打ちでこんな無様なミスをしてしまうとは)





 

 魔王との対決が始まった時、僕達は優勢だった。

 あの魔王でさえその身に秘めた歴代最高の才能と、それを惜しむ事なく引き出す為の努力をして来た彼女を止める事ができなかった。



 確かに今まで以上の苦戦だっただろう。しかし明らかに勢いが優っていた僕達は確実に平和へと近づていた。











 時は少し戻り魔王との戦いの最終局面。



 

 僕達の優勢はそのまま覆る事なく戦いは進んでいった。

 そして僕達の攻撃を受けてよろけた魔王を見て、僕と

アリスはその一瞬に全てをかける。



 「いけ! マーニャ!」



 周りの騎士達によって弱まっていた魔族達を僕の広範囲魔法で全てを焼き尽くす。



 「行ってマーニャちゃん!」



 そしてアリスが味方だけに防御結界に張って僕の魔法と魔族の攻撃、その二つから守る。


 誰も勇者を止められるものはいない。

 僕達二人が作った道を勇者のマーニャが通っていく。



 「ええ、あの人の為にも……私は勝つ!!!」



 そして彼女の剣が魔王の首へと迫った瞬間──!



 「!?」



 彼女の動きが止まった。

 剣が首に触れるその直前でピタッと止まったのだ。

 何で首を切らない、そう疑問を思った瞬間に魔王ではない誰かの声が魔王の間を響かせる。




 『行け……闇に堕ちた勇者よ』


 


 上を見れば形が不確かな、しかし悍ましい顔を覗かせる魔物がいた。今見るまで全くコイツに気づけなかった。コイツは一体……いや今なんて言った。


 「なんだと、それは一体──」


 最大の問題にいち早く気づいた僕がその見知らぬ魔物へ聞こうとするが、その前にアリスの声が聞こえた。


 「危ないっ!」


 僕が何かを言う前に彼女は防御結界を展開する。

 しかし何を焦っていたのかその結界で覆ったのは僕とアリスの二人だけ。

 少し離れていた騎士達には届いていない。

 だが僕は彼女が尋常じゃない様子だと気づく。


 (彼女が全力で防御結界を張っただと!?)


 彼女は焦って僕達だけ結界を張ったのではなく、僕達しかはれなかった。



 魔王より強力な攻撃から防ぐのに必要な結界がこれほどしか広げられなかったのだ。



 そして一閃。



 何者かによって放たれた斬撃によって騎士達は肉片へ変わってしまった。そのまま聖女の結界にも到達するがなんとかヒビが入った所までで止まる。


 しかし僕は内心恐怖に染まっていた。

 ヒビが入った意味を理解してしまったからだ。


 (こんな事が出来るのはアイツしかいない……!)


 聖女であるアリスの結界は人類最高峰だ。僕でもこの結界を展開されたら突破する手段は何一つもないだろう。



 だが唯一、この結界を突破できる()()がいる。



 「何してるんだマーニャ!?」

 「…………」


 

 剣を振ったのは勇者マーニャだった。

 彼女は魔王ではなくこちらに向かって剣を振り払っている。あれはマーニャが使う斬撃を放った姿だ。

 つまりこの結界を攻撃したのも、騎士達を殺したのも勇者という事になる。


 「レックス! アレは私達の知ってるマーニャちゃんじゃない!」

 「…………!」


 いつもはのほほんとしている彼女からは想像できない真剣な声を聞いて、僕も勇者の決定的な異変に気づけた。

 よく見たら彼女は闇のオーラを纏っている。

 それはあり得ない。彼女は勇者であって同時に光の力を持つ存在だ。それが闇のオーラを纏っているなんておかしい。


 だが賢者は思い出した。勇者が昔話をする様になってから教えてくれたおとぎ話の存在を。

 そして彼女が一番気に入っているページに載っていたソレを。


 「あれは絵本の……洗脳魔法か!?」


 賢者の僕でさえ知らなかった幻の魔法。闇のオーラによって洗脳する最悪の魔法だ。

 しかしその魔法は無いとされていた。

 昔にも勇者と魔王の対決があったが一切その魔法についての情報がなかったからだ。

 もしあったのなら記録されているだろうし、既に使われているはず……。


 (さっきの笑い声の主か!?)


 心当たりがあるとすれば魔王とは別の笑い声の正体。もしかしたらあれがこの洗脳魔法に関わっているかもしれない。


 そんな事を考えている内にマーニャの次の攻撃が来るのを察知する。

 振り払った剣を戻しもう一度構えをした。その構えは練習で何度も見たことがある。もしそれを使えば今度は聖女の結界でも耐えきれず僕達は殺されてしまうだろう。


 彼女と戦う事は死を意味する。


 それを昔毎日戦っていた僕だからこそ分かってしまった事実を、舌を噛み潰したくなるほど悔しみながら認める。


 (まずは撤退してこっちの体制を取り戻す……!)


 そうして僕が開発した転移魔法陣を背中へ展開する。


 「チッ! アリスここは逃げるぞ! まずはお前が……ッ!?」

 「レックス!?」


 それで逃げようとするが僕の口から大量の血が出て来てしまった。

 まだ勇者は攻撃していない。


 なら誰がやったのか……僕は突然の状況に対して冷静にこの原因を突き止めていた。


 (魔王の呪いか……!)


 さっきの勇者が攻めていた状況とは違う。彼女があちら側になってしまった事で出来た時間の余裕で、勇者の次に強い僕に力封じを使ったらしい。


 (しかも一瞬で肉体が腐るほどの……!)


 掛かったばかりだというのに身体中に呪いが浸透し命を蝕んでいる。この状態だと即死だが……。


 『聖なる守りを彼に』


 短い詠唱。しかしその一言で僕の呪いは止まる。

 流石は聖女だ。治療や守りにおいて彼女に勝る人はいない。たとえマーニャであっても。


 ただ今はそんな事に関心している暇はない。


 早く逃げなくては。そう思って下がっていた視線をアリスに戻すと……。



 「アリス……?」



 聖女は勇者の剣によって腹を貫かれていた。



 「さ、っすがマーニャちゃんね。……私の結界を簡単に壊しちゃ、うなん、て」

 

 ああ、あの呪いを解除する為に結界の力が弱まってしまったんだ。

 そう絶望的な状況の中僕の頭は焦る事なく原因を理解していた。


 僕のせいでアリスがこうなってしまった事実に。


 彼女が僕を助けてくれたおかげで、そのせいで彼女はこんな事になってしまったのだと。


 「できたら……平和な、世界でもっと、話したかった……んだ、けどねぇ〜……」

 「何で……僕なんかを?」


 力のない笑みで言った彼女の言い分に対して賢者の顔は絶望に染まっている。

 彼女の口から吐く血を見て、彼女から感じる魔力の波を見て、頭では認めたくない事実を体が完全に感知していた。


 

 彼女はもう助からない。



 だからこそ彼女は決断した。

 彼女を聖女たらしめている最終奥義を発動する事に。


 

 彼女の体の一部が結晶化した。

 そしてその結晶は勇者にも伝っていく。



 「何でって……私よりレックスの、方が、強いじゃん」


 彼女から産み出される結晶が勇者を含めたこの空間へと侵食していく。

 その結晶は何よりも硬く、使い手であるアリス以外誰も破る事ができない封印の結晶、封印の空間。


 こちらからは攻めるは出来ずとも魔王側からも攻めることが出来ないある意味最強の守り。

 そして《《聖女自身の命を犠牲にして成り立つ》》最低で最高の封印技だ。

 

 「そんな事ない……お前は誰よりも幸せを願ってただろ!?」


 僕に感謝してきた人達には大怪我をしていた人がたくさんいた。

 だがそれは全てアリスが治してくれた。全ての怪我をだ。僕やマーニャでさえ治せないような傷でさえ彼女は治しきってみせた。

 

 「村の人達の笑顔を守れたのはお前がいたからだ!」


 この事実は絶対だ。

 僕やマーニャだけでは守れなかった笑顔を彼女は守って見せたのだ。


 「……私ね、貴方達の事が、羨ましかった」


 聖女ではなく一人の女性としてアリスは優しい顔で言う。


 「私は人を癒すか、平和を祈ることしかできなかった」


 ……勇者と出会う前の彼女だ。

 彼女は特別な聖女という存在でありながらも守りと回復だけが最強であるが故に、賢者である僕がやっていたイジメと言う手段から人を守る事はできなかった。


 彼女が僕に挑んでも負けるだけ。

 そしてその結果は虐められていた奴らにアリスが加わるだけだ。減るのではなく加わるだけ。


 何も変えることのできない自分に対して己のことを蔑んでいたんだろう。


 「だから誰かを守れる力を持っていた、貴方達に憧れを抱いてたのよ」

 「そんな事ない……お前は僕を……変えてくれた……!」


 人の笑顔を守る事の良さを教えてくれた。

 マーニャと一緒にイジメをしていた僕を変えてくれたんだ。


 弱いものイジメをしていた僕なんかよりアリスの方がずっと……!


 彼女が助かって欲しい一心でそう思うが現実は非情だった。


 彼女の体が段々と結晶へと生まれ変わる。

 聖女が生み出す結晶はエメラルドグリーンの輝きをしていて、見ている全ての人が残酷な程に美しいと思わせる魅力がある。

 それが足から始まりそして顔付近まで染まってしまっている。


 「それに私は誰よりも笑顔を見たいから、この選択がみんなが笑顔になる未来だと信じてるから……!」


 僕の体が突然吹き飛ぶ。

 

 (これは……!?)


 当然僕がやったわけでも無い。そして後ろには展開されている転送の魔法陣がある。

 彼女の風魔法のせいだろう。僕はされるがままに魔法陣へ飛んでいき、そして転送する最中に彼女は……


 「後は……お願い」


 絶望でも悲しみでもなくいつもの彼女らしい笑顔でそう言ってくる。

 それを最後に僕は魔法の光に包まれていった。



 












 


 「おい…………大丈夫か?」

 「……ッ、お前か」





 死にたくなる程苦しくて長い夢を見ていた。

 目を覚めたらいつもの見慣れた部屋が見える。魔王に惨敗した日からずっと寝続けている僕の部屋だ。


 僕の見える視線には天井以外に昨日来た冒険者パーティーのリーダーがいた。


 僕は聖剣を復活させる作業をしていたはずだが、そう思って窓の方を見れば太陽が顔を出していた。


 (あぁ、疲れで寝ちゃったのか)


 聖剣の解析作業は本当に疲れた。

 天才である僕でさえ難航した作業だ。リーダー達だって他を渡っただろうがアレだと復活どころか解析もできなかっただろう。


 「それで……聖剣は」

 

 リーダーが聞いてくる。あんなに苦しそうにしてて徹夜宣言も出来ていない今の状況を見れば心配になるだろう。

 ……いやこいつの顔は心配して無い顔だな。何でか信頼している。


 「寝てしまったが問題ない。ホラ、これが完全体の聖剣」


 徹夜すると言っておきながら寝てしまった僕だが仕事はしっかりしている。というか慣れてから作業効率が上がって早く終わったから眠れたんだった。


 明後日の方向に手を向けて、人差し指だけクイっと上げると床から聖剣が浮いてきた。


 「すごいな、『浮遊魔法』じゃないか……いや、賢者だから流石と言ったところか……?」

 「その通りだ。何せ僕は魔法の天才だからな。究極とまで言われる魔法くらい訳もない」


 僕の指示で聞く聖剣はそのままリーダーの方へゆっくりと動いていく。そして浮いている聖剣をリーダーが掴みそのまま背中へ戻した。


 僕が復活させた聖剣は勇者が持つ聖剣と同じ様に輝いている。


 「一応言っておくがその武器は伝説の武器だ。当然剣としての能力も最高クラス。マーニャが持つ聖剣より少し劣るが代わりに……」

 「闇の魔力を打ち払う力がある。だろ」

 「流石に知っているな」


 マーニャが持つ聖剣を簡単に言えば勇者専用の剣。

 光の魔力も多少あるが一番気にすべき点は勇者が持つと剣の能力が向上することだ。

 内容こそシンプルだが厄介な事この上ない。使い手が歴代最強なのだから尚更だ。


 その反対にこの聖剣もいい能力ではあるが勇者のより劣る。しかし優っている点があってそれは光の魔力量だ。

 光の魔力は魔王やあの時襲った謎の魔物が持つ闇の魔力の反対の力。

 闇に支配されてしまった勇者とそれなりに相性はいいだろう。


 「まあ闇を打ち払うのは知っているが、そんなので勝てるなんて思っていない」

 「それも当然だな。もしそんな風に思ってたらぶん殴ってる所だ」

 「それは急に暴力的だな。どうしてだ?」

 「あの天才を舐めているのは僕にとっても屈辱的だからだ。僕が認めた奴なんだ。そんな奴が他人に舐められてるとムカつくだろ」

 「……同感だ」


 そこで互いにフッと笑う。

 何やかんやで同じ経験をしてきた二人だ。どこか通じ合うところがあったのだろう。

 少し和やかな空気が流れたがリーダーは勇者倒しの本題に入る。


 「ところでアンタから聞きたい情報がある。アンタのトラウマを蘇らせてしまう事になるが……」

 「勇者が洗脳されてしまった時の事だろ? そうなってしまったのも僕が至らなかったからだし、今はトラウマとか言ってる場合じゃない」


 リーダーの真剣な顔に賢者も本題に入る。

 その姿は昨日の時とは違い生力を感じる様だった。


 「絵本だとお姫様が闇に囚われる事になるが、この洗脳を行うのは魔王本人じゃないんだ」

 「ああ、そうだな」

 

 僕のミスでああなった負い目を感じていた僕は、呪いで死にそうになりながらも正体不明の魔物の手がかりを探していた。

 勿論勇者の伝説が描かれている、マーニャが大好きなあのおとぎ話も読んだ。


 「なら単刀直入に聞く。その闇魔法を使う魔物を見たか」

 「ああ」

 「!」


 僕は即答する。僅かに違う所もあるが絵本に描かれていた魔物と、魔王の間で声を響かせていた謎の魔物は同一人物だ。


 「その魔物が勇者の戦いをどうするかを聞きたいんだろうが……まあ来るだろうな」


 恐らく奥の手である魔法を使って手に入れた勇者という駒だ。リーダーが勇者と善戦していれば確実に邪魔してくるだろう。


 それを聞いたリーダーは無言になる。十中八九洗脳魔法を使う魔物の事を考えているだろうが、それに対する答えはもう用意していた。


 「僕も出る。自分の失敗は自分でけりをつける」


 正直僕にとって魔王はいい。奴を倒さないと世界に平和が戻らないが、倒すと言う最低条件は勇者さえ戻ってこれば問題ない。勇者が戻るかどうかはリーダーがどうにかする。


 しかしあの魔物だ。勇者を洗脳してこちらを嘲笑ったあの魔物は僕のミスだ。

 魔王という最終決戦での油断。幹部含めた周りの雑魚を倒した事から生まれてしまった、無意識に思ってしまった横槍が入らないという意識の隙間。

 そこを突かれて勇者が敵に、聖女が命を落とすという結果を招いてしまった。


 もし聖女があそこで己の命を犠牲にしなければ今頃は魔王の手によって王都は落ちていただろう。


 これは僕のわがままでもある。だが己の失敗は己で償う。魔王はいいがあの魔物だけは僕が確実に始末したかった。


 「……分かった」


 その意思が伝わったのだろう。リーダーは何も聞かず了解の返事をした。


 「なら俺達は俺達だけの作戦で行く。そっちはそっちで忙しそうだしな。とにかく俺らは今から出発していくがいいか?」

 「いや待て」


 今にでも出発しそうなリーダーだが声で制する。僕はマーニャとの親友である以上一つだけ聞かなければならない事があった。

 あの聖剣を調べて分かった、特殊な魔力に関する重大な事である。


 「……お前、あの聖剣の魔力は分かっているんだよな?」

 「ああ」


 即答された。今更ではあるが既に決心はついている様だ。


 「…………一つ言うがお前は天才じゃない。天才じゃない中では頑張りすぎてる方だ。だが天才と凡人の間には圧倒的な壁がある」


 僕も全ての魔術を扱える程の才能があるから天才の方だと自覚がある。その僕でもマーニャとの間に大きな壁を感じた。

 それがマーニャと目の前にいる男になるとその差はもっと大きくなるだろう。


 「凡人でもすごいことはできるが、天才や選ばれた者でなければ逆立ちしたって出来ない事もある……改めて聞くが、本気か?」

 「さっすが賢者さんだな。でも答えは同じだ。俺は行く」


 その返答から沈黙が続く。

 僕から見えるこの男の子目は覚悟を決めている目だ。決めたとなったら最後まで突き通すほどの。


 「…………分かった、行け。後は全部僕がやっておく」

 「ああ。アンタの武運祈っとくぜ」


 そう言って男は静かに部屋から去っていった。


 「…………ハァ」


 僕がそれを見届けてため息を吐いた後、僕も僕の準備を進めるとする。

 

 ……まあもう終わってるだろうが。







 少し時間が経ってから僕は口を大きく開いた。


 「執事! 扉の外で僕の出撃準備から戦闘準備まで済ませているだろう執事! 部屋に入ってこい!」


 我ながらツッコミどころありまくりな呼び方である。だがさっきリーダーが閉めた扉から開く音が聞こえてそれは間違いではない事を把握する。


 「いやぁーせっかく頼りになる執事を久々に見せようかと思っておりましたが……」

 「お前が頼りになるのは昔から分かっている。それでさっき言っていた事は当たっているんだろ?」

 「ええ。それと国王との連絡する準備も済ませています」


 流石は執事。話が早い。

 国王は最後の抵抗として世界各地にある冒険者を集めて勇者へ立ち向かう作戦を立てている。

 その作戦が成功する確率はごく僅かだろうが……。


 だが今はそれより可能性のある話が出て来たところ、いきなりの話ではあるが賢者である僕が証言しておけば一応の信頼は得られる。

 そうなればこの作戦は延期になるはず。


 「それより執事、さっきの男にはちゃんとお礼はしたんだろうな?」

 「……? ええ勿論」

 「ならいい。後は勇者奪還の褒美でも考えておくんだな、恐らく戦闘後で僕は疲労で寝込むから頼んだぞ」

 「分かりました」


 それを聞いて執事を出て行く。

 僕一人だけが残された部屋に静寂が戻り、朝の小鳥の声しか聞こえないこの世界で僕は思う。


 (……マーニャを救えるのはお前だけだ。頼んだぞ)















 「お、やっと出て来たなリーダー!」

 「これから私達は歴史的戦いをしに行くわけですか……うーん高揚感より恐怖が優ってますね……」

 「今更怖気付いても遅いですぞ」


 館から出て門を潜るといつもの仲間が見えて来た。

 聖剣を背負った俺に対していつもの様に話している『絵本の探索者達』

 そしてこの日常的な緊張感の無さからむしろ頼もしさを感じてしまう俺。


 結局『戦友』と呼べる程共に戦って冒険して来たんだと改めて思わされた。


 (待ってろよマーニャ。俺だけでお前を救う事は無理でも、俺は俺が今まで積み上げて来た全てでお前を超えてやる)


 昔、村で一度も勝てなかったライバルに勝つ唯一にしてのラストチャンス。


 結局人類を賭けた戦いではなく、幼馴染との大切な戦いにしか見れない俺は勇者ではないだろう。

 だがいい、俺は俺にできる事を全力でやる。それだけだ。


 そう思ってリーダーとして戦友達に声をかける。


 「なあお前ら、当然だがおとぎ話のラストは知ってるだろ?」


 その言葉にみんなは当たり前だと反応する。まあ分かりきっていたが。

 そう思いながら一つの本を懐から出す。


 「この絵本の主人公である勇者は、闇に囚われたお姫様を救ったらしい」


 複製の本ではなく新しい冒険に出た夜にお母さんからくれた思い出の品の絵本だ。

 そこであのページを開く。小さい頃から特段に何度も読み返していた、クシャクシャのページを開いて俺は話を続ける。


 「今の俺らは少し違うが、闇に囚われた勇者を救いに行く、つまりこの絵本と同じ物語を辿っているんだ」


 勇者がいる地へと向かっている俺は歩きながら、並んで歩いている戦友達に言う。

 するとミシェルがからかうような顔をして僕の前へと出た。


 「少し違うって言っても同じところはあるだろ。二人とも互いのことを思ってるって所だ」

 「お前な……」


 その言葉に俺は呆れ顔になるがボウルスが俺の肩を掴んでくる。


 「ご安心ください。今は無理でも魔王との戦いを終えた後に僧侶である私が祝福しましょう」

 「何をだよ」


 いつもの仏面なボウルスも少し笑っている。地味男だから少しカッコ良くなっているが、この顔はからかっている時の顔だ。


 よくわかんない妄想をしてやがるが俺は否定するぞ。


 「そもそも勇者は世界を救う英雄だぞ? そこら辺にいる冒険者の俺とじゃ釣り合わないよ」


 俺なりの理屈を言ってみた。

 これでそんな妄想話は終わるだろうと思ったが思わぬところから奇襲を受けてしまう。


 「なら勇者を救えば世界を救う事になる。つまり釣り合うので助けた後に告れば良いと思いますがな」

 「おっさんまで……!」


 いつもは真面目なジョイスのおっさんまで便乗する始末。

 割と真面目な話をしようとしていたが結局こんな会話になってしまった。


 (結局俺らは俺らか……)


 だがいつもの事かと諦めの笑みを浮かべた。

 今までもこんな風に乗り越えて来たんだ、今回もいつもより全力を出して乗り越えていこう。


 「よぉしおまえら! 世界を救いに行くぞ!」


 その掛け声と共に俺達は最後の戦いへと出向いたのだった。

 

 


 









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