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カルトアイランドZ  作者: 冷凍野菜
第3章
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エピローグ

 京平は上半身だけベッドから起こしてフレームに寄りかかり、今日も昭野島とカナリア聖教の話題で持ち切りのワイドショーをぼんやりと眺めていた。

 病室備え付けの小さいテレビに映っているのは、防護服に身を包み防毒面ガスマスクと自動小銃を持った陸上自衛官らがタンデムロータの大型ヘリコプターに乗り込む映像だ。

 大型ヘリの後ろでは駐機場では数機の輸送ヘリが暖機運転しており、カメラが空を向くと、旋回しながら待機している三機の戦闘ヘリが映し出された。

 戦闘ヘリのスタブウイングには複数のロケット弾が吊るされており、機首下部の機関砲ともども、剣呑な雰囲気をロータの騒音とともに辺りに撒き散らしている。

 数時間前に陸上自衛隊駐屯地を飛び立った「調査隊」の重武装ぶりは、海保の巡視船に対戦車ロケット弾をぶち込んだカナリア聖教対策だけでなく、京平たちが証言した「感染者」の存在も大きいのだろう。


 京平たち三人が海上保安庁の巡視船に救助されてから、今日で五日が経つ。

 京平は救助された後、撃たれた右肩の応急処置を巡視船の医務室で受け、港に着くや否や海保のヘリコプターに乗せられて防衛医科大学校病院に移送された。

 医者の「運がいい。きれいに貫通していますよ」の言葉通り、手術は前後の傷口を約十針ずつ縫っただけで一時間とかからず終わった。

 銃弾を食らっている時点で運が良いとは思えないが、腕が千切れたり死んだりしていないだけマシということだろう。

 手術以降、朝晩二回のガーゼ取り換えと抗生物質注射以外にこれといった治療はしておらず、まだ右手は使えないものの回復は順調だった。


 だが、それにもかかわらず、退院の目途は全く立っていない。

 トイレ付きの一人部屋を宛がわれた京平は、病室の外へ出ないよう言いつけられていた。


 唯一の出入口であるドアの鍵は開いている。だが、すぐ外で自衛隊の警務官が二十四時間警備しており、外出は不可能だった。

 もっとも、連日朝から晩まで、入れ替わり立ち代わりで訪れる警察や政府の役人などに昭野島で起こったことについて聞かれ、それに答えて一日が終わるので、例え外出したくても、そんな暇はない。

 それに、病院のすぐ前の道路には、どこからか嗅ぎつけてきた報道陣がずらりと並んでいるので、外出したいとも思わなかった。


 ドアがノックされた。

 テレビ画面の左上には「09:06」と表示されており、本日最初の面会時間としてはだいぶ良心的だった。

 一昨日など朝五時に突然叩き起こされ、顔を洗う暇もなく政府の偉い人から質問攻めを受けることになったのだ。


「どうぞ」


 京平が言うと、ドアがスライドした。


「京ちゃん!」


 外の警務官がドアを開け切るのを待たず、未来が病室に飛び込んでくる。


「傷は大丈夫なの!?」


 ベッドに手をつき、身を乗り出すようにして聞いて来る未来に、京平は「あ、ああ。大丈夫……なのかな」としどろもどろになって答えた。

 今度はどこのお役人かと思っていた京平は、想定外の来訪者に驚きを隠せなかった。


「もう何日も会ってないから、心配してたんだよ!」


「大げさすぎるよ、未来お姉ちゃんは。たった三日会わなかったってだけで」


 後から病室に入って来た夏海が、ベッド脇の椅子に座る。

 京平は掛け布団を二つ折りに畳んで足元にまとめ、ベッドの上で胡坐をかいた。


「面会に来るなら教えてくれよ」


「出来たらしてたよ。でも、スマホ取り上げられちゃったし、電話もパソコンも使わせてくれないんだよね」


 ベッドに腰掛けた未来が不満げに言った。

 救助された日の夜、三人は電話で十分程度話したが、それ以降、京平が二人と話す機会はなかった。

 携帯電話は昭野島に置いてきてしまったし、京平も未来たちと同様に外と連絡を取ることは禁じられていた。

 外の警務官に頼めば、二人と電話で話すことくらいは許してくれたかもしれないが、二人が安全な警察施設で保護されていることは聞いていたので、特に電話をしようとは思わなかった。

 一連の戦闘で負った小傷や筋肉痛は治りつつあったが、精神的な疲労は回復にまだ少し時間がかかりそうだった。


 なんとなく寂しかったので流していただけのテレビを消そうと、京平はサイドテーブルの上のリモコンに左手を伸ばした。

 スマホがない代わりに、テレビカードだけは外の警務官に頼めばいくらでも貰えるのだが、見てもいないのに点けっぱなしにするのは流石に勿体ない。


 京平がリモコンの電源ボタンに親指を乗せたそのとき、「生き残った中高生とは!?」と煽り立てるようなテロップとともに中継されていた防衛医大病院前の映像が突然、スタジオの女性アナウンサーに切り替わった。


『――速報です。昭野島事件と同日に日本を出国し、それ以降行方が分からなくなっていたカナリア聖教教祖、植松孝男およびその他幹部らが乗っていたと見られる教団所有のプライベートジェット機が、中国(うち)モンゴル自治区のロシアとの国境付近の山中に墜落しているのが発見されました』


 原稿を読み上げるアナウンサーの声はそのままに、墜落した小型ジェット機を撮影したと思しき荒い画質の映像に画面が切り替わる。


 京平は電源ボタンに親指を乗せたまま、呆けたようにテレビ画面を見つめる。

 未来と夏海も口を閉じ、テレビ画面に視線を向けた。


『地元当局の発表では、損傷が比較的軽微だった機内には争ったような跡と夥しい血痕が残されていたものの、乗員乗客の姿はなく、軍と警察が周囲の捜索を続けています。周辺の地域では数日前から、林業従事者や山に出かけた一般市民の行方不明が頻発しており、当局は植松ら教団幹部の写真を逃走中の犯罪者のものとして公開するなどし、周辺住民に注意を呼び掛けています』


 テレビカードの残額がなくなり、画面が暗転した。

 狭い画面に、強張った三人の顔が薄らと反射していた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 広がったのがロシアや中国あたりなら問題ない なぜならこの二カ国なら空爆や砲撃してでも感染者を殲滅する体
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