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カルトアイランドZ  作者: 冷凍野菜
第2章
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第19話 パラベラム

 京平たちが公民館に戻ったことで、住民たちは皆、安堵の表情を浮かべた。小野田率いる迎撃部隊が全滅し、代わりにカナリア聖教の戦闘員らが現れたらと住民たちは考えていたのだろう。

 稲森たちは、公民館の玄関で帰りを待っていた家族と抱き合ったり、安心して膝から崩れ落ちた妻に話しかけたりしている。京平にも、夏海が駆け寄ってきた。


「おでこから血が……」


「ああ、これは蛍光灯の破片で切っただけだから大丈夫。なんだ、心配してくれたのか?」


 心配そうに言った夏海に、京平は笑って見せた。

 夏海は「心配して損した」とでも言いたげに半目で京平を睨みつけ、「別に」と一言だけ言って、梓のほうに走って行った。


「夏海ちゃん、今回も前のときも、かなりそわそわしてたのよ。あんたが相当心配だったんでしょうね」


 未来が、夏海を目で追いながら京平に話しかけた。京平は未来の横顔を見た。


「そう言う未来は、心配じゃなかったのかよ」


「心配だったよ、もちろん。すごい銃声が聞こえてきて、京ちゃんたちが向かったほうから炎が上がるのを見て心配にならないわけない」


 未来が京平の目を正面から見返す。京平はばつが悪そうに目を逸らした。


「そうか、その、悪かったな。まあ、俺はこの通りピンピンしてる」


「見れば分かる。そんだけ沢山、重そうな鉄砲抱えてられるんだからね」


 未来は、京平が両肩に提げている散弾銃と二丁の自動小銃、短機関銃を見て言った。

 京平も自分の身体を見下ろし、まるで一昔前のアクション映画のようだと思った。もっとも、銃だけあっても京平は往年のアクションスターのようなマッチョではないので、すぐに撃ち殺される端役が精々だろうが。


「重くないの?」


 未来の問いに、京平は「重くないわけないじゃん」と返しながら、自動小銃二丁と散弾銃を肩から降ろした。


「これ、どうします?」


 京平は、回収した短機関銃や自動小銃を何丁も持って歩いてきた小野田に話しかけた。

 持ってきた三丁の銃器をどこに持っていったら良いか聞いたつもりだったのだが、小野田は三丁合わせて十キロ以上あるそれらを、まるで発泡スチロールでも拾うかのように軽々とまとめて持ち上げた。


「持たせて悪かった。あとはこっちでやるから」


「え、あ、はい。ありがとうございます」


「こっちこそ、京平くんの協力がなければ全員無事に帰ってくることは出来なかったかもしれないんだ。ありがとう」


 小野田はそう言って、何丁もの銃器が擦れるカチャカチャという音をさせながら京平に軽く頭を下げた。そして、大量の銃を引っ提げ、しかし全くその重さを感じさせない軽快な足取りで公民館の廊下を歩いてゆく。

 小野田なら映画のヒーローのように、銃器をぶん回して敵をなぎ倒す役回りが出来そうだなと、京平は思った。



 京平と未来がホールに入り、しばらくすると、何丁か銃を持った小野田がホールの引き戸をガラガラと開けて入って来た。


「皆さん、ちょっといいですか」


 小野田はホール内の住民たちに呼び掛けた。二階の団欒室にいる子供たちと母親を除く三十人以上が、ぞろぞろと小野田の近くに集まる。


 小野田は銃器をテーブルにドサッと置き、先ほどの戦闘について説明を始めた。

 小野田は一分前後で、敵の規模と装備、どう排除したかについて軽く話しただけだったが、表現をオブラートに包むようなことは一切しなかった。そのせいか、戦闘に参加しなかった多くの住民が、主に「どう排除したのか」についての話で眉をひそめた。


 彼らは、いくら敵とはいえ銃で撃ち殺しただとか、火炎瓶で焼き殺しただとかといったことは聞きたくないのだろう。

 この期に及んでそのような反応をする住民たちに、京平は呆れと怒りが入り混じったような感情を抱いた。あと少しで撃ち殺されていた京平からすれば、無責任な彼らの態度に怒りを抱くのは当然だったが、それ以上に、現状が見えていない彼らに対する呆れが強かった。


 数時間前、崖登集落の家々に物資を回収しに行った住民三人がテクニカルから銃撃を受けて死亡した際には、「住民が殺された」ということが注目され、誰も小野田と下田が敵を二人射殺したことにまで意識を向けなかった。

 だが、今回は待ち伏せに成功し、住民側に犠牲を出すことなく十四人もの敵を全滅させている。

 そのため、今度は小野田率いる迎撃部隊が殺した「十四人」のほうに気が向いてしまったのだろう。

 一歩間違えれば、京平や迎撃部隊に参加した住民の誰かが死んでいたかもしれないなどとは考えもせずに。


「降伏を呼びかけるとか出来なかったのか? いくら敵とはいえ、やりすぎじゃないか。十四人全員殺すなんて……」


 いつも「妖怪ババア」に野次を飛ばしていた老人が、小野田の説明が終わった後の沈黙を破った。

 あまり感情を顔に出さない小野田が、若干呆れた様子でテーブルの上に置いていた自動小銃を持ち上げた。


「いいですか? 敵は全員、このような強力な銃火器で武装しているんです。そんなカルトの狂信者相手に降伏勧告なんかしたら、即座に銃弾で答えが返って来て、こっちが穴だらけにされてましたよ。私たちが死んで、奴らの崖登への侵入を許していたら、ここにいる三十七人は皆殺しにされていたというのに、随分と甘い現状認識だ」


 呆れだけでなく怒りの滲む小野田の声音に、老人は気圧されて黙り込んだ。


「カナリア聖教の戦闘員はまだいると考えられる。そして、確実に、また襲撃を仕掛けてくる。それに備えることに対して何か意見のある者はいますか」


 小野田が鋭い眼光で住民たちを見回す。誰も何も言わない。小

 野田は「いないですね」と言って、元の調子に戻って話を続けた。


「崖登を守り抜くためには、備えの強化が不可欠です。

 まず、二つある集落入口のバリケード付近に、敵や感染者の接近を監視する見張りを立てます。また、皆さんには、消防団と自治会を中心とした守備隊に加わっていただきたい。

 守備隊は交代で休憩しながら公民館で待機し、見張りが敵や感染者の接近を報せたり、万が一敵が奇襲を仕掛けてきたりした場合には、戦ってもらいます」


 小野田はそう言って、テーブルの上の銃器の束から、一丁の自動小銃を手に取った。小野田が先ほどの戦闘で使用し、今もスリングで肩から提げている自動小銃と同じ種類のものだ。


 小野田は手にした自動小銃から弾倉を外し、槓桿コッキングレバーを引いて装填済みの銃弾を排出した。


「これはAK―47という自動小銃です。他にも拳銃に短機関銃、散弾銃が合わせて六丁ありますが、今から皆さんには、銃器の使い方を簡単に説明します。……まず、弾倉を入れる」


 小野田はポケットから、先ほどの戦闘で撃ち尽くしたものらしき空の弾倉を取り出し、AK―47自動小銃下部の弾倉口に挿入した。


「続いて、槓桿を引いて初弾を薬室チャンバに装填」


 小野田が槓桿を引く。カシャッという金属のぶつかり合う音が、ホールに響く。


「側面のセレクタを下げ、単射セミオート連射フルオートに合わせる。基本的に、連射しても当たらないので単射で一発ずつ撃つように」


 セレクタレバーを「安全セーフティ」の一つ下の「単射セミオート」に合わせ、小野田は全開になっている窓のほうを向いて銃を構えた。


銃床ストックをきちんと肩に当て、頬を銃床の上に当てて構えたら、敵を手前の照門リヤサイトと銃口側の照星フロントサイトに重ね合わせ、引鉄を引く」


 引鉄を引くカチッという意外に大きい音が鳴る。


「弾倉内の弾を撃ち尽くしたら、このレバーを押して弾倉を外し、新しい弾倉を入れて槓桿を引いてください。AK―47については以上になります。質問はありますか?」


 小野田は住民たちを見回し、誰も発言しないのを確認すると、空の湾曲弾倉を外し、自動小銃をテーブルに戻した。

 そして、今度は京平が持っている短機関銃を一回り大きくしたような見た目の短機関銃を手に取った。


「これはUZI短機関銃サブマシンガン。短機関銃の操作方法は、ほぼ自動小銃と同じです」


 小野田はUZIから弾倉を抜き、再度弾倉を挿入すると槓桿を引き、自動小銃と同様に構えて見せた。


「撃つ直前まで、引鉄トリガには指を掛けない。安全装置を掛けていようと、銃口は敵以外には向けない。これは、全ての銃器に当てはまることなので、必ず忘れずに守ってください」


 弾倉を抜き、引鉄を引いて遊底ボルトを前進させてから、小野田は短機関銃をテーブルに置いた。


「続いて、自動拳銃。これも弾倉を握把グリップ内に挿入し、スライドを引いて初弾を装填。安全装置を解除すれば撃てます」


 小野田は一通りの動作をやって見せ、自動拳銃をテーブルに置いた。そして、最後に散弾銃を取った。


散弾銃ショットガンは、この中で一番扱いが簡単で、一番当てやすい銃です。これはポンプアクション式なので、前床フォアエンドを引いてショットシェルを薬室に送り、引鉄を引けば撃てます」


 小野田は銃身下の持ち手の部分を手前に引いた。ガシャッという特徴的な音とともにショットシェルが銃身下の管状弾倉チューブマガジンから薬室に送り込まれ、既に装填されていたショットシェルが排莢口から排出される。


「撃ったら、またフォアエンドを引いて装填。これを繰り返します」


 小野田はガシャッガシャッという音をさせながら、連続してフォアエンドを引く。その度に排莢口からショットシェルが飛び出し、テーブル上に落下する。

 装填していた弾を全て吐き出し終えた散弾銃をテーブルに戻し、小野田は「質問はありますか」と言って住民たちを見回す。

 明らかに急いでいる様子の小野田は質問が出るのを待たず、「では、銃を配ります」とだけ言って、若い住民の男たちに有無を言わせず銃を押し付けていった。


 若いといっても、少子高齢化の進む昭野島では四十代でも若いと言われるので、あくまで「比較的」若いという意味である。住民三十七人の中で、まともに動ける現役世代の男は十人いないかもしれない。


 まだ現役なのだろうが、ほぼ初老の域に入ろうとしている小太りの住民に最後に残った自動拳銃を渡そうとする小野田の前に、未来が割り込んだ。


「わたしも守備隊に加わります」


 一瞬面食らったような顔をした小野田だが、未来に拳銃を差し出した。

 手に取った未来は、重さを確かめるように拳銃を上下させる。比較的身長が高い未来だが、それでも武骨な黒い拳銃は未来の手には大きく見えた。


「それは九ミリ弾を使う拳銃で、反動が少しきついぞ」


「わたし、水泳部で鍛えているので、腕力には自信があります」


 小野田はそれを聞いて満足したのか、未来に予備弾倉を渡す。未来は受け取った弾倉をズボンの尻ポケットに捻じ込んだ。


 小野田は、恐る恐るといった感じで自動小銃を持っている二十代後半くらいの二人に目を向ける。


「自動小銃の二人は別々に、二つある集落入口の民家に潜み、教団戦闘員と感染者が来ないか見張ってください」


 小野田の指示に、二人は露骨に嫌そうな顔をした。

 二人のうち、背の高いほうの男が小野田に聞く。


「もし戦闘員や感染者が接近してきたら、どうやって報せるんです? 狼煙でも上げろと?」


「敵が見えたら、当たらなくてもいいのでとにかく撃ってください。銃声は大きいから公民館からでも分かる。銃声が聞こえたら、我々が駆け付けます」


 小野田の言葉に、二人は「冗談じゃない」というような反応をした。

 当然ではある。

 銃を撃って自分の居場所をばらした上で、小野田たちが来るまでの時間を一人で耐えなければならないのだ。機関銃を搭載したテクニカルから攻撃を受ければ、小野田たちが到着する前に殺される可能性すらある。

 京平でも、自らの死を以て危険が迫っていることを報せるなんて仕事、やりたいとは全く思わなかった。


「消防団に無線機はないんですか?」


 流石に無茶な指示だと気づいたのか、小野田が消防団に聞いた。


「ポンプ車に、北集落の第一分団と連絡をとるための車載無線機が」


 中年の分団長が答える。小野田はさらに「そういうのじゃなくて、トランシーバみたいなのは?」と聞くが、分団長は「そういうのはない」と否定した。


「狭い崖登地区の中で無線が必要になることは少ないし、今時は携帯がありますんで」


 分団長が言う。だが現在、携帯電話はどのキャリアのものも圏外である。


 小野田は少し考えるような素振りを見せたが、一刻の猶予もない今の状況では、他に手段はなかった。

 小野田は二人に「全力で急行する」と言って説得を試みるが、二人とも断固拒否の姿勢を見せる。


「死ねって言っているようなもんじゃないですか。感染者じゃなくてカナリア聖教だったら、機関銃で撃ってくるんでしょう? 小野田さんたちが来るまでの五分で、家ごと穴だらけにされちゃいますよ」


「だが、見張りなしでは敵の崖登集落への侵入を見落とす可能性がある。カナリア聖教だって馬鹿じゃない。次は、気づかれることなく崖登に侵入しようとするかもしれない。危険な仕事で嫌がるのは分かるが、誰かがやらなければならない仕事だ」


「だったら、せめて六人を二班に分けるとかではだめなんですか?」


 二人はしつこく説得してくる小野田に食い下がる。だが、小野田も譲るつもりはないらしい。


「両方の入口に同時に敵が現れた場合なら別だが、数少ない戦力を分散させることなく敵が来たほうに集中するには、公民館で待機するのが最も効率が良い。それに、敵や感染者が蛇原山から崖登に侵入してくるようなことが起こらないとも限らない。君らの家族だっている公民館を、ガラ空きにすることはできない」


 小野田はなおも二人を説得しようとする。だが、二人はなかなか見張り役を引き受けようとはしない。

 周囲からも、志願する者は現れない。出来るだけ小野田から視線をずらし、目が合わないようにする。

 京平も、他の銃を持っている者たちも、何かの拍子に「じゃあ、君がやってくれないか」と小野田に言われるのを恐れているのだ。京平を含めた誰もが、まだ死にたくはなかった。


 ガラガラという音とともに引き戸が開き、虫食いだらけの小汚い段ボール箱を抱えた七十代の老人がホールに入って来た。


「小野田さん、これ使えないかな」


 老人はテーブルの上に段ボール箱を置いた。段ボールの中を覗き込むと、古びたトランシーバと充電用ACアダプタが乱雑に詰め込まれていた。


「二十年以上前に消防団で使っていた無線機です。防災備蓄倉庫の奥に放置されてました。中の充電池は死んでても、新しい乾電池を入れれば動くかも」


 老人の話を聞きながら、小野田はすぐさま箱から取り出したトランシーバの電池蓋を開け、中から単三形のニカド電池を取り出す。幸い、電池に液漏れの形跡は見えない。


 小野田は周囲を見回し、テレビと照明のリモコンから単三電池を三本調達すると、トランシーバに入れた。

 電源を入れると液晶に周波数らしき数字が表示され、スピーカーがノイズを流す。どうやら、壊れてはいないらしい。


「攻撃はしなくていいので、二人は敵の接近をこのトランシーバで報せてください。それなら出来ますか?」


 小野田が二人に聞く。二人は「まあそれなら……」といった感じで、渋々ではあったが見張り役を引き受けた。

 公民館から?き集めた乾電池が古びたトランシーバに入れられてゆき、見張りの二人と他数人に配られた。


 トランシーバの操作を確認した後、二人はホールを出ていった。

 守備隊と消防団以外の住民らにはバリケードのさらなる補強、手製の槍や火炎瓶といった武器の製作などの仕事が自治会によって割り振られ、集会は解散となった。

 住民らはそれぞれの持ち場に向かい、ホールには半分程度の住民が残った。


 小野田は京平と未来、稲森を含む守備隊に、一階ホールでの待機を命じた。

 小野田を入れて七人の守備隊の面々はホールの一角に集まり、ある者は三つ並べたパイプ椅子の上に横になり、ある者は手帳に何か書き込んでいる。京平たち守備隊は、今後間違いなく発生する戦闘に備えて体力を温存するため、こうしてサボることを小野田に命令されていた。


「ポンプ車の無線機で本土と通信できないかな」


 ふと未来が発した疑問に、その前でコーヒーを飲んでいた中年男性が「無理だろうな」とにべもなく答える。


「あれは北集落の一分団と崖登集落の二分団の間の連絡用だから、電波が弱くて本土には届かない。さっきやってみたけど、ダメだった」


 男が着ている消防団の制服の胸には、「有賀」の名札が縫い付けられている。

 崖登集落の住民の名前はほとんど知らないが、これから一緒に戦うことになるであろう守備隊の名前くらいは憶えておかなければと思い、京平は他の守備隊の面々についても名前と顔を頭にインプットしてゆく。

 京平、未来、稲森、小野田以外の三人は、全員が消防団の制服を着ているので苗字は分かった。稲森も制服こそ着ていないが、消防団員だと言っていた。


『こちら細井。聞こえますか? 東側入口横、稲森さんの家の二階に着きました。今のところ異常なし』


 テーブルの上に置かれたトランシーバが、突然ノイズとともに声を発した。

 パイプ椅子に深く腰掛けて目を瞑っていた小野田が、流石の反射神経で即座にトランシーバを取り、側面のPTTボタンを押して応答する。


「細井さん、こちら小野田。了解。警戒を続けてください。終わり」


 自衛隊と警察で無線には慣れているらしく、小野田は口調が板についていた。


『あー、こちら林。西側入口付近の武田さん宅に着いたんですけど、酷いですね。家は穴だらけだし、前の道路は死体がゴロゴロしてる……』


 トランシーバが今度は細井と違う声を発した。その声は、ノイズだらけの無線越しでも分かるほど、震えていた。

 彼は、つい数十分前に京平たちが作り出した射殺死体と焼け焦げた死体の数々を見たのだろう。


「林さん、こちら小野田。さっきの戦闘の痕跡です。全部、カナリア聖教の戦闘員の死体なので安心してください。送れ」


『…………警戒を続けます。以上』


 事も無げに言う小野田に対し、林が無線の向こうで「そのどこに安心できる要素があるのか」と言うのを堪えているのが分かる。


「ねえ、この後どうなるんだろう」


 隣の未来が、小声で京平に聞いた。夏海と梓は、二階団欒室の子供たちの見守りを頼まれているので、ホールにはいない。


「さっき小野田さんが言っていた通り、救助をここで待つしかないだろ」


「いつまで? 明日かも、一週間後になるかも……」


「それまで耐えるしかない。非常食と水は二週間分はあるらしいから、なんとかなるだろ」


 不安そうな未来を落ち着かせるため、京平はわざとらしいくらいに楽観的な予想を言った。

 普段は楽観的な未来がここまで弱気になっているところを見るのは初めてだが、この状況で悲観的にならないほうが、むしろおかしいのだ。楽観的なことを言う京平だって、本心では現状が厳しいことは分かっている。

 だが、楽観しても絶望してもなるようにしかならないのだから、まだ楽観していたほうがマシだと京平は思った。


「感染者だけならまだしも、カナリア聖教は絶対また襲ってくるんでしょ? そしたら――」


「そしたら、俺たちの出番だ。さっきだって叩き潰してやったんだ。次もまた血祭りにあげてやる」


 京平はそう言って、テーブルに置いた短機関銃を持ち上げた。鉄のずっしりとした重さが頼もしく感じる。


 弾倉は装填したぶんも含めて三本だけで、弾数にして約九十発。何人いるかも分からない敵に対してそれで足りるかは、分からない。

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