第18話 歓迎! カルト信者御一行様
京平は未来に揺り起こされた。
知らぬ間に寝ていたらしい。随分寝た気がしたが、壁の時計の針は一時を指していた。全開にされた窓の外は暗いので、当然深夜一時である。
「小野田さんが呼んでる。車の光が近づいて来てるから、出迎えに行くって」
未来が言う。
瞬時に目が覚めた京平は、勢いよく立ち上がった。寝ている間にかいた汗で全身がべたついており、京平は顔をしかめる。
「三人とも、二階にいるんだぞ」
京平は未来と夏海、梓の三人にそう言って、足早に団欒室を出た。
ミニUZI短機関銃を持って階段を下り、バリケードを潜って一階の廊下に出たちょうどそのとき、AK-47自動小銃を手にした小野田と、水平二連散弾銃を持った住民がホールの引き戸を開けて廊下に出てきた。
さらに消防団員の男たちが四人、その後から出てくる。消防団員の一人は、物干し竿の先端に包丁を括り付けた手製の槍を持っていた。
「京平くん、一条さんに言ったんだけど――」
「ええ、聞きました。車を出迎えに行くんでしょう?」
「そうだ。さっき屋上の下田さんが、蛇原山の尾根にヘッドライトの光を確認した。車が昭野島一周道路をこちらに向かってきていると思われる。急げば、こっちのほうが早く集落入口のバリケードに到着できるかもしれない」
小野田は京平に状況を説明しながら、足を止めることなく大股で公民館の玄関を出た。
小野田を先頭とする七人は、駆け足で崖登集落の出入口へと向かう。
ヘッドライトの光はそちらの方向に見えたらしい。また、四つの光点が見えたというので、車は二台いるらしかった。
北集落からの避難者なら良いが、京平たち以外に北集落から逃げてきた者は、未だに一人もいない。
今回も違うだろう。
カナリア聖教昭野島支部にどれだけの戦闘員と銃器があるのかは分からない。
だが、先の戦闘で射殺した戦闘員二人がどちらも銃器と十分な量の弾薬を持っていたことから、敵は全員が銃器で武装している可能性が高いだろうと、小野田は言った。
「まず、私が指示したら、消防団の四人は火炎瓶を敵に投げつけてください。敵が見えなくても、指示したら交差点のあたりを目がけて投げてください」
小走りで移動しながらも、全く息を乱す気配のない小野田が指示を出す。
京平は隣を走る崖登住民が持っているレジ袋を横目で見た。レジ袋にはビール瓶が何本も入っており、カチャカチャとガラスの擦れ合う音がしていたが、その正体が分かった。
火炎瓶が銃器に対してどの程度役に立つのかは分からないが、少なくともナイフや槍よりかはマシだろう。
「稲森さんと京平くんは、火炎瓶の炎が敵を照らし出したら、とにかく撃ちまくってください。特に京平くんは、一発ずつ狙って撃つのではなく、フルオートで乱射して敵を怯ませるように」
「了解です」
京平は小野田にそう応じながら、油断なく周囲に短機関銃を向けて感染者と敵の不意打ちを警戒する。
一行は、街灯も月明りもなく、闇に包まれた崖登集落を進んでいった。
京平たちは、狭い村道に自動車数台を直列に停めただけのバリケードの前に到着した。
向かってきているはずの車はおらず、京平たちのほうが敵より早く到着できたようだった。
あと数分もすれば敵は来るだろうが、短時間でも準備時間があるのは大きなアドバンテージになるだろう。
それぞれの持つ武器の取り扱いや行動予定などの最終確認を簡単に行った後、六人は小野田の指示した持ち場へと移動を開始した。
京平は昭野島一周道路と村道の両方に面する一軒家の二階に陣取り、小野田の指示通り、一周道路に面する窓の下で待機する。
しばらくすると、微かなディーゼルエンジンの低音が聞こえてきた。
京平は頭を少し上げ、窓ガラス越しに外を窺った。街灯が消えた一周道路は闇に包まれていたが、どんどん大きくなるエンジン音が車の接近を知らせる。
二、三十メートル先のカーブミラーが、懐中電灯などではあり得ない強い光を反射して輝いた。
そして、数秒後。淡黄色のヘッドライトが二対、カーブを抜けて現れた。
「来た……!」
京平は見つからないように即座に頭を下げ、窓の下で短機関銃の槓桿を引いた。槓桿と繋がっている遊底がカシャッという金属音とともに後退し、真鍮色の初弾が右側面の排莢口に覗く。
頭を下げていても、窓から差し込んでくるヘッドライトの光と空気を震わすエンジン音から、二台がさらに近づいて来ていることが分かる。
二台は減速し、京平の潜んでいる家の前の交差点を曲がる。そして、タイヤの滑るザザッという音を立てて急停車した。道路を塞いでいる横向きの軽バンに気づいて、先頭車両の運転手が慌ててブレーキを踏み込んだのだろう。
ダン――!
数瞬の静寂の後、乾いた炸裂音が鳴り響いた。小野田が現れた車を敵と判断し、自動小銃を発砲したのだ。
さらにガラスの割れる音が連続し、揺らめく赤い光が窓の外に複数生まれる。住民たちが投擲した火炎瓶が敵を攻撃すると同時に、辺りを照らし出す。
打ち合わせ通りだった。
京平は立ち上がり、短機関銃を窓の外に向けて構えた。右手の親指で握把根本のセレクタを操作し、安全から連射に切り替える。
この部屋の窓からは、交差点を曲がってすぐに停車したトラックと後続のワンボックス車を見下ろすことができる。まさに絶好の射点だ。
敵を求めて銃口を巡らせた京平は、赤い炎に照らされるトラックの荷台に据え付けられた機関銃を見つけた。咄嗟に引鉄に指を掛ける。
だが、京平は発砲しなかった。
島民らを容易に圧倒できるだけの火力を持つ機関銃だが、それを操作するはずの機関銃手の男は、後頭部から血と何かの混合物を荷台にぶちまけて、仰向けに倒れていた。
小野田がやったのだろう。最大の脅威である機関銃を最初に潰すのは当然といえば当然の判断だった。
連続した銃声が轟く。
前方をバリケード、後方をワンボックスに挟まれたことで身動きが取れず、機関銃手を失ったために反撃することもできないテクニカルの運転席に、小野田が次々に小銃弾を叩き込んでゆく。
揺らめく炎に照らされるテクニカルのフロントガラスに複数の穴が開き、ガラスの内側に赤黒い液体が付着するのが見えた。
ワンボックスの側面スライドドアが、隠すつもりもない大きな開閉音を立てて勢いよく開き、銃を持った黒い服の男が飛び出してきた。
京平は即座にワンボックスに短機関銃の銃口を向け、引鉄を引いた。
ダダダダダダ――!
ほとんど繋がって聞こえる短機関銃の連射音が京平の鼓膜を叩き、発砲炎が目を眩ませる。
発射された銃弾は、京平の目と鼻の先で窓ガラスを木端微塵に撃ち砕き、ワンボックスの白い車体に着弾の火花を散らした。
今まさに車内から出ようとしていた戦闘員が複数の銃弾を浴びて仰け反りながら後ろに倒れ、車内に逆戻りする。
京平は反動で暴れる短機関銃を横に振り、ワンボックス車の前から後ろまで薙ぎ払うように銃弾の雨を降らせた。
ワンボックスの天井が火花を散らして穴だらけになり、スモークの施されたサイドウインドウが木端微塵に砕け落ちる。車体を構成する薄い鉄板もウインドウの強化ガラスも、銃弾相手には遮蔽物にすらならないようだった。
発砲が勝手に止まった。ミニUZIが誇る毎分九百発超の連射速度は、三十発入り弾倉を二秒足らずの短時間で撃ち尽くしてしまう。
京平は空になった弾倉を即座に捨て、ポケットから新たな弾倉を取り出して短機関銃に叩き込んだ。
そして槓桿を引き、ワイヤ式銃床を肩に当てて再び外の敵に銃口を向ける。
「ヤバい……!」
だが、京平は窓の外の光景を見て、後ろを見もせずに思い切り飛び退いた。
直後、複数の銃声が外で鳴り響き、まだ枠に残っていた窓ガラスが木端微塵に砕け散る。タンスに後頭部からぶつかって床に倒れた京平に、ガラス片が降り注いだ。
敵の銃弾は、この木造家屋の壁を車の薄い鉄板同様に容易く貫通し、内装を滅茶苦茶に引き裂いてゆく。不可視の銃弾が風切り音を伴って飛び交い、引き裂かれた木片や石膏ボードの破片が飛散する。
京平が弾倉を交換する隙を見てワンボックスから飛び出した戦闘員らが、京平がいる民家の二階に銃撃を始めたのだった。
集中砲火を受ける角部屋から這って抜け出した京平は、階段を転がるようにして駆け降りる。銃撃は京平がいた二階の角部屋にのみ集中しており、敵は京平がまだあの部屋にいると思っているらしかった。
京平は他人の家の中を土足で駆け抜け、さっきまでいた角部屋の真下に位置する台所に飛び込む。
流し台の前には横長の採光窓があり、その曇りガラス越しに、二階を銃撃する戦闘員らの黒い影と発砲炎の光が見えた。
「母さんと北集落の仇だ。くたばれ」
京平は戦闘員の一人に照星と照門を重ね、引鉄を引いた。
連続する凄まじい銃声。目が眩みそうになる発砲炎の閃光。
曇りガラスに、親指が入る程度の大きさの穴がいくつも開いてゆく。その向こうで、戦闘員が何発もの銃弾を浴びて、踊るような奇妙な動きをしながら倒れるのが見えた。
京平は引鉄を引いたまま、短機関銃を横に振る。
高い連射速度の代償である強烈な反動が、銃口を上へ上へと押しやろうとするのを、被筒を握る左手でどうにか抑え付けながら。
一瞬にしてグズグズになった曇りガラスが窓枠から崩れ落ち、その向こうで戦闘員らが次々と銃弾に倒れてゆく。
一人の戦闘員が成すすべなく鮮血を散らして倒れ、どうにか京平に銃口を向けようとした一人が、かなわず顔面を貫かれて即死する。さらに一人がまた九ミリ弾に搦め取られ――――。
京平は自分でも気づかぬ間に雄叫びを上げながら、予想外の方向から銃撃を受けて混乱する戦闘員らに向け、がむしゃらに短機関銃を乱射する。
発砲炎が、カメラのフラッシュのように、一瞬だけ明るく台所を照らし出す。激しい銃声を伴うそれが一秒間に十五回以上繰り返される。
一発一発がほぼ繋がって聞こえるほどの発砲音と発砲炎。肩と手に伝わってくる激しい振動。それら全てが、京平の五感を容赦なく乱打した。
弾倉が空になり、京平は引鉄から指を離した。
空薬莢が板敷きの床の上を転がる軽い金属音が、耳鳴りの向こうに微かに聞こえた。
腕と肩が、ジンジンと疼くような痛みを送ってきている。鼻を突く刺激臭は、硝煙の臭いというやつだろう。
京平の銃撃でぼろぼろになった曇りガラスの残りが窓枠から落下し、ステンレスの流し台に落ちて砕けた。
「死ねえええぇぇぇぇ!」
京平が銃口を下げたそのとき、黒い戦闘服に身を包んだ中年男が絶叫しながら、採光窓の前に勢いよく飛び出してきた。
中年男の血走った目と、京平の目が合った。
男の持つ拳銃は真っ直ぐに京平を向いており、対する京平は弾の切れた短機関銃をだらりと床に向けている。
京平は全身の血管が収縮し、視界が暗くなるのを感じた。隠れるにしろ応戦するにしろ、どう考えても間に合わない。
「神罰だ! 地獄に落ちろ!」
男が叫びながら、拳銃の引鉄にかけた人差し指に力を込める。
京平はその様子を、ただ黙って見ていた。
外で、一際大きく重い銃声が鳴り響くと同時に、男の背中から血飛沫が舞った。
男は後ろから飛び蹴りでも食らったかのように仰け反り、拳銃を握る腕が跳ね上がる。軽い発砲音がして、男の拳銃から発射された銃弾が、天井の直管蛍光灯に突き刺さった。
薄いガラスの破片が京平に降り注ぐ。
驚愕に目を見開く男の横に、飲み口に火の着いた茶色いビール瓶が飛び込んできた。
瓶の割れる音とともに、男が炎に包まれる。
男は全身を包む炎を消そうとしているのか、それとも単にパニックになっているだけなのか、気が触れたかのように身体を捩り、腕をぶん回して暴れる。
再び銃声。
京平は、向かいの家の窓に発砲炎が光るのを確認した。
暴れていた男はラグビー選手のタックルでも食らったかのように吹っ飛び、採光窓から見える範囲の外に消えた。
「助かった……」
京平は胸を撫で下ろした。
まだ激しく鼓動する心臓が元の調子を取り戻すのを待ちつつ、京平は台所脇の勝手口を開け、家の外に出る。
外には、まさに地獄絵図と言っても過言ではない光景が広がっていた。
台所の窓の下では、先ほどの戦闘員の男が炎に包まれ、煙を上げている。
穴だらけになったワンボックスの周囲には黒い戦闘服に身を包んだ死体が何体も転がっており、開いたままのスライドドアからは車内で死んでいる戦闘員の姿も確認できた。
ワンボックスの前のテクニカルは火炎瓶の直撃を受けたらしく、炎に包まれている。
向かいの家から水平二連散弾銃を抱えた稲森が出てきた。
散弾銃は鹵獲品ではなく、下田から借りたものだ。もちろん、猟友会員である下田が合法に所持していたものである。
「さっきは助かりました。危うく撃ち殺されるところでしたよ」
京平が礼を言い、稲森は「気にしなくていい」と返した。
「京平くんがド派手に撃ちまくってくれたおかげで、こっちは気づかれもしなかった。礼を言うのはこっちのほうだ」
京平と稲森が話している間に、小野田と火炎瓶担当の四人が民家の塀を乗り越え、バリケードを迂回して現れた。
細い村道を塞ぐようにして燃え盛るテクニカルの横を通り抜けることは出来そうにないので、京平も帰りはそのルートを通ることになるだろう。
「京平くん、大丈夫か?」
小野田の問いに、京平は自分の身体を見下ろし、「ええ、なんとか」と答えた。
「これから使えそうな道具と武器弾薬を回収します。敵がまだ生きている可能性もゼロではないので、注意は怠らないようにしてください。怪しかったら、このように積極的にとどめを刺して構いません」
小野田はそう言って、見もせずに足元に転がる戦闘員の頭を撃った。京平以外の五人は、いくら敵とはいえ死体に鞭打つような行為に眉を顰める。
自分らだって散弾銃なり火炎瓶なりで多かれ少なかれ死体をつくり出したというのに、今さら死体損壊くらい気にするなよと京平は思ったが、口にはしなかった。
京平はワンボックスに乗り込んだ。京平の銃撃によって、ワンボックスの内装は滅茶苦茶に破壊されていた。シートからスポンジが飛び出し、飛び散った血が車内を斑に赤く染めている。
京平は、頭に被弾しているなど、死んでいることが一目瞭然の死体以外は、セレクタをセミオートに合わせた短機関銃で丁寧に一人ずつ頭を狙い、とどめを刺していった。
弾が勿体ない気もするが、実は生きていた敵に不意打ちされるようなことになるよりは断然いい。
京平は車内の「掃除」を終えてワンボックスを降りると、運転席のドアを開けた。
運転手は頭に被弾して絶命しており、とどめを刺す必要はなかった。
血塗れの運転手をシートから地面に引きずり降ろし、腰のホルスターごと自動拳銃と予備弾倉を回収する。
運転手の死体漁りを終えて運転席を覗き込むと、タクシーに積んである無線機のような機材が、ダッシュボードに固定されているのが見えた。
京平は敵の無線を傍受できるかもしれないと一瞬期待したが、無線機は天板に開いた穴から薄い煙を吐いており、前面の液晶は真っ暗だった。京平の撃った弾が、たまたま当たってしまったのだろう。
全ての窓ガラスが割れ、車体は穴だらけにもかかわらず、ワンボックス車のエンジンは普通に動いていた。
京平はアイドリングの振動を発するエンジンの頑丈さに感心しながら、イグニッションキーを抜いてエンジンを切った。
後部座席で死体から武器弾薬を回収する小野田を手伝うため、京平も再びワンボックスに乗り込み、中で死んでいる戦闘員から銃器と弾薬を回収する作業を始める。
車内で死んでいる戦闘員は運転手を含めて五人だった。全員、京平が車ごと撃ち抜いた者たちだ。
一気にこれだけの人数を殺したことに京平は驚きこそしたものの、罪悪感といったものを覚えることはなかった。
「こいつらは、私たちを殺しに来ていたんだ。殺さなければ、私や君や、君の妹さんや友達まで殺されていたかもしれないと考えるんだ。そうすれば、少しは気が楽に――」
小野田が京平を励ますように言うが、京平はそれを遮った。
「お気遣い、ありがとうございます。でも俺、こいつらを殺したことに対して特に何も感じてないんで、大丈夫ですよ。むしろ、母の復讐ができて清々しているくらいです」
小野田の心配を見当違いだと切り捨てた京平を、小野田は驚きと憐憫の入り混じったような顔で見た。京平はそれを気にせず、死体から自動小銃と弾倉をてきぱきと回収してゆく。
全ての死体から武器弾薬の回収を終えると、京平と小野田はワンボックスを降りた。
京平は回収した自動小銃二丁と散弾銃をスリングで両肩に提げ、腰のベルトに拳銃を挟み、さらに右手には短機関銃を持っている。さながら歩く武器庫である。
流石に回収した弾倉までは持ちきれなかったので、それらは車内にあったレジ袋に放り込み、今は小野田が左手に持っている。
「こっちは銃からナイフまで、使えそうなものは全部回収しました。一応、こんなのもありましたよ」
回収した銃器を持った稲森たちが、小野田に黒い革表紙の本を手渡した。
表紙に何も書いていないが、恐らく何時間か前に襲いかかってきたカナリア聖教の戦闘員が持っていたのと同じ「Xデー カナリア教国樹立のとき」だろう。
小野田は本の表紙を開けてタイトルだけ確認してから、忌々しげに、テクニカルを包む炎に放り込んだ。
「そっちには死体は何体ありました?」
「三体。一体は燃えていて、銃は回収できなかったですけど」
稲森の答えを聞き、小野田は「全部で十四人か」と呟いた。
「カナリア聖教の戦闘員、これで全部だったりしないかなあ」
白髪交じりの男が小野田に尋ねる。質問というより、そうであって欲しいという願望だ。だが、小野田は「どうでしょうね」と言ってから、それをほぼ否定した。
「カナリア聖教昭野島支部には、役所に申告している分だけで百人以上の信者がいました。こんな明らかに非合法な連中を頭数に含めていたかは分からないですが、まあ戦闘員はまだいると考えたほうがいいでしょう。銃器が全員に充足し、それなりに統率も取れている。かなり厄介です」
小野田は話しながら煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。煙草の先端が赤く光り、みるみる短くなってゆく。
小野田は凄まじい早さで煙草を吸い切り、指で弾いた。
死体と破片と空薬莢が散らばる路面に、新たに吸い殻が加わった。