section6.5 moving Shadows
四霊と佳苗のミーティングと同時刻 都内スラム区域奥地にて
「ボス、先日第三スラム区域にてウチの末端が三人ほど殺されました」
「ほう? 第三区域とは珍しいな。あそこはだいぶ治安が安定しているはずだが」
そこは廃墟にしてはかなり掃除が行き届いている広間であった。最奥には玉座のような椅子があり、そこには少し小柄な青年が自分の身の丈ほどもある日本刀を携えて座っていた。隣には金髪の女性を侍らせている。
「は、はぁ…… 」
青年が座る玉座の前には、ガタイのいい大男が頭を下げて跪いていた。
「で、ですが間違いなく死者が出た、と…… 」
「死者の情報を詳しく寄越せ。 死因は? 」
青年の前の男が顔を上げる。青年は目の前の大男に目もくれず、頭を差し出す美女の頭をなでていた。
「三人のうち二人は一般の構成員で、一人は既にコルウス化が終わっている戦闘要員だったようです」
「戦闘要員が、か」
「はい。主要なメンバーが都心部に出払っていたらしく、今回死んだ三人を含むいくつかの巡回組を残してほとんど第三区域にいなかったそうです」
報告書らしき紙面を読み上げる大男。玉座の青年は無言で頬杖をつく。
「うち戦闘要員の一名から、落雷直撃に近い火傷跡が見つかったとの報告が上がっております。二名は外部からの衝撃による複数個所の骨折が原因だそうです」
「……第三区の天気は荒れてなかったはずだろ? 」
「はい。恐らくは敵対してる別集団からの攻撃かと…… 」
「了解した。第二区域の『我武者羅』ってチーマー共を潰せ、そして四区の研究者どもに金を積んで三区の構成員のコルウス化を急がせろ」
青年が席を立つ。女性も同じタイミングで青年の腕をつかむ。
「ま、待ってください晋也さん!! そんなこと言ったってエイリアンの死骸はもう…… 」
「うっせぁなぁ…… 『我武者羅』の倉庫からでもいいから絞り出せ、お前それでも『紅虎』の幹部なのか? それともここで焼かれてぇか? お? 」
青年の手から突如として青白い炎が立ち昇る。大男は慌てて首を横に振り、大股で部屋を去っていった。
「でも珍しいわね、電撃なんて」
「今さら特殊能力を持つ奴が生れてくるとも思えんしな…… お前はどう思う? リリアン」
「そうねぇ、もしかしてだけど…… 『あの人』かしら? 」
「まぁ、そうだろうな…… さ、命令は出した。俺たちも行こうか」
晋也と呼ばれたその青年は椅子の横に置いてあった日本刀を取り、女性に手を引かれるまま歩き始めた。