section3 lightning runs
なんだかんだ文章書くのが好きなんだな、俺
「一体何なのよあの男は…… 」
もはや怒りを通り越して呆れていた。やり場のない苛立ちを道端の石ころにぶつけながら、佳苗はとりあえず都市部に向かって歩き始めた。
(榊司令はよくあんな奴を贔屓してるわ…… )
かつては摩天楼だった高層ビル群の跡を無言で進む佳苗。しかし、5ブロック程進んだあたりで突然足を止めた。
(やはりね。おおよそ10歩後ろ、それも複数人…… )
「こそこそ隠れてないで、用向きを伝えていただけないかしら」
振り向く佳苗。さっき通った時には何もいなかったはずなのだが、2mほど離れた場所に目出し帽を目深に被った男が三人ほど立っている。
「あら、こんにちは。用向きは何かしら? 」
「おいおい、ここはスラムだぞ? ちょっとは考えたらどうなんだい? 」
一番ガタイのいい男が問いかける。そばにいる二人はズボンのポケットからバタフライナイフを取り出し、チャカチャカと振り回し始めた。
(さすがに銃は使えない。危ないけどやるしか…… )
構えを取ろうとゆっくりと腕を上げる佳苗。その瞬間、風起きるような鋭い音と共に佳苗の頬を何かが掠めた。
「違法改造…… 」
恐らく投げたものは石ころか何かなのだろうが、相当な速さで投げられたらしく佳苗の頬から血が滲み始めた。
「私をリンチして金目の物を奪おうってところかしら」
「おうとも! これさえ受けていれば普通の人間は敵にならねぇからなぁ!! 」
コルウスへの改造手術、通称『EATS』。ダンゴムシを探す子供が石をひっくり返すかのように自動車を投げ飛ばすほどの力を持つエイリアンと正面戦闘をするために人間に施す強力な人体改造。『エポカ』と呼ばれるエイリアンとの戦争中に生み出された『それ』は今や軍人ではなくスラムの犯罪者たちの武器へとなり果てていた。
「さっさと財布だけ置いていってくれれば命は取らねぇぞ? 」
「やってみなさい!! 」
男たちに向かって駆け出す佳苗。大柄なリーダー格は余裕の笑みを浮かべて突っ立っているが、ナイフを持った二人は佳苗の剣幕に気おされて後ずさりした。
(EATSを受けているのはこいつだけ…… こいつを倒せば!! )
思い切りハイキックを繰り出す佳苗。バキッ、という鈍い音と共に確かな感触が足を伝わる。警官としてかなりの戦闘経験を積んでいる佳苗にとっても会心の当たりだった。
「うそ…… 」
「お前、軍人か何かか? 」
「グッ!…… 」
大男が腕を振る。ハエを払う程度の動作だったが、女性の体を3,4mほど吹っ飛ばされ廃ビルの壁に激突させるには十分だった。
「ウッ、くうぅぅ……、ッ!」
息をつく間もなく二人がナイフを持って突っ込んで来る。佳苗は慌てて壁を背に、二人の突進を躱して息を整える。
「さっきの威勢はどこに行った? あぁ? 」
「でもこいつ、まだ戦う気らしいぜ? 」
にやつく男たち。佳苗は胸部を覆う鈍痛に歯噛みした。
(肋骨を何本か持っていかれたか…… )
不思議と恐怖はなかった。というよりはこんなスラムに非武装で来たことを後悔していた。覚悟を決めて息を大きく吸う。
「タマ欲しけりゃ取りに来いよ!! この……ッ!? 」
一瞬、風が吹いた。と同時に先の大男が突如コンクリートの壁にめり込んでいった。
用語解説『EATS』
『Epoka's Ability Transplant Surgery(エポカの能力移植手術)』の略。人体を遥かに超越する能力を持つ侵略的高知能エイリアン『エポカ』に対抗するため、エポカの肉体の一部を人間に移植する手術。これにより身体機能を爆発的に向上させるだけでなく、適合率が高い一部の者には特殊能力を得る可能性がある。
しかし、そもそもEATSの成功率は30%程度であり、特殊能力の発現確率は0.01%にも満たない。