section2 reaper and Devil
この調子で書けるといいな
「ここが、暁 四霊が入り浸っている場所…… 」
榊から任務を与えられて半日、佳苗は自身が隊長を務める部隊を副隊長に預けて単身スラムへと赴いていた。もちろん強化スーツや制服を着ていてはスラムの住人に怪しまれるため、警察手帳と拳銃だけを持って私服での潜入調査である。
「お邪魔します」
現地エージェントがいると伝えられた場所は、スラムと都市部の境目あたりに位置する寂れたバーであった。入って店内を見渡す限り、特段変わった様子はない。
「おや、こんな所に女性が一人とは珍しい」
マスターらしき老人が佳苗に話しかける。佳苗が黙って席に着こうと動き出したその瞬間、薄暗い奥の席から声がした。
「こういう所はマスターが席を勧めるまでは座らないのがお約束だぜ? お嬢ちゃん」
「…… 」
改めて席を勧めるマスター。佳苗は気まずそうにカウンター席に座った。
「こういう店は初めてですかい? 」
「はい。ある人を探して少しこの辺りを回っていて…… あ、ブラックで大丈夫です」
「かしこまりました。ブラックですね」
改めて店内を見渡す佳苗。入った直後は気付かなかったものの、チラホラと席は埋まっているようだった。
「はい、お待たせしました。で、どんな人を探してるんで? 」
「あぁ、この写真の男なんですが…… 」
「はいはい、四霊さんね。そこで飲んでるよ」
老人は静かに奥の席を指差す。そう、探していた男はさっき佳苗をとがめたその人だったのだ。
「はじめまして、暁さん。私は…… 」
「自己紹介は大丈夫、サブから話は聞いてる。柊 佳苗さんだっけ? 」
「人の上司を変なあだ名で呼ばないでください。不誠実ですよ」
四霊と呼ばれたその男は、マスターにおかわりを注文しながら手をヒラヒラと振った。
「わりぃな。サブとはもう20年くらいの付き合いでな今更あだ名以外で呼べねぇよ」
「だとしてもです。親しき仲にも礼儀ありと言うじゃないですか。それが仕事絡みとなればなおさら…… 」
「おいおい、日が暮れちまうぞその調子じゃ」
固まる佳苗。初対面の相手に説教モードに入った事に対する恥じらいは隠さきれず、少しだけ目の前の男から目を逸らした。
「え、あぁ、すみませんつい…… 今回の任務の話に移ってもいいですか? 」
「あぁ、どうぞ。参考資料があるなら見せてくれ」
おかわりのウイスキーを貰いながら、佳苗に手渡された資料に目を通す四霊。しかし、とあるページで突然、四霊の資料をめくる手が止まった。
「……何かありましたか? 」
「いや、特に」
「では、今回の任務はこのリリアンの調査、上手く行けば身柄拘束までを目標とします。ここまで宜しいでしょうか? 」
「…… 」
佳苗は説明を終えたが、四霊はただターゲットの写真を眺めている。返事すらよこさないその態度にしびれを切らした佳苗が口を開く。
「あの、理解していただけました? 」
「……パス」
「はぁ!? 」
そそくさとタバコに火を点ける四霊。佳苗は思わずカウンターを叩いた。
「あなた何を言って…… ちょっと本気ですか!!? 」
四霊そのままライターで資料の束にも火を点け、まるで見計らったかのようにマスターが用意していた大型の灰皿に放り投げた。
「あなた自分の立場を理解してます? こちらの要請を拒否するなら法令に従って今すぐ逮捕して…… 」
「あぁ、俺元軍人なんだわ。違法改造じゃないから捕まらないぜ? 」
呆気にとられる佳苗。いきなり飛び出た本来あり得ない情報に思考が停止する。
「え?あなた一体…… 」
「すまんマスター、こいつのコーヒー含めて会計頼む」
「4500円です」
「了解、また来るわ」
「はい。ありがとうございました」
状況が飲み込めず固まる佳苗を尻目に、四霊は無言で飲み代をカウンターに置いてそのまま店を出ていってしまった。
「悪いけど別日に来てくれや、お嬢ちゃん」
「ちょ、待ちなさい!! 」
急いで店を飛び出たが、すでに彼は佳苗の視界から消えていた。
(白目)