section 13 it's too late to mourn
ギャリッ、と擦れる音がした。四霊の身長よりも長い晋也の太刀は目の前の男の頬を掠めていた。
「踏み込みが甘いんじゃないか? 」
「お前ほどじゃないがな!! 」
間髪入れずに斬撃に派生する、が四霊はそれを鱗で覆った右手で受け止めた。
「二つ目の能力、か。さしずめ『龍』の具現化か」
「お前に見せるのは初めてだったな。まぁその武器だ、ちょっとくらい許せよ」
「構わないさ。こっからだからな、俺たちの戦いは」
刀身を水平に構え直す晋也。四霊もそれに応える形でボクシングの様にガードを上げて態勢を整える。四霊の拳に稲妻が走ると同時に、晋也の得物から青白い炎がほとばしった。
「ぬぅん!! 」
「はあぁ!! 」
二つの衝撃が激しくぶつかり合う。既に日が落ちきった夜の街頭にまばゆい閃光が溢れ出した。すかさず間合いを取る二人、周りを取り囲んでいた晋也の部下たちは軒並み吹き飛ばされて路傍のビルに叩きつけられた。
「……ちっ、やっぱり火は無理か」
「昔はそこまで向こう見ずじゃなかったのにな。焼きが回ったか? 」
四霊の手首にはくっきりと刀傷が残っていた。しかしその傷口は何かで焼かれたかのように惨い塞がり方をしている。
「……それでギブアップ、なんて言わないよな? 」
「心配するくらいなら黙ってかかって来いよ。お前、お喋りは苦手だろ? 」
「……あぁ、それじゃ遠慮なくっ!!」
勢いを増しながら突っ込んでいく晋也、四霊は紙一重で剣戟を躱して相手の顎辺りを思い切り蹴飛ばした。晋也の肉体は軽々と宙を舞い、ちょうど佳苗が括り付けられていた柱をへし折った。
「手荒だが、これでちっとは自由になったろ。おい柊!! 生きてるか? 」
「佳苗で大丈夫です…… ゲホッ、…… ホント、無茶苦茶しますね、四霊さんは 」
「怪我は? 」
「ないです、そんな事より四霊さん、その手…… 」
佳苗が話し終わらないうちにがれきの奥から突っ込んで来る晋也。突進と同時に四霊の左肩に太刀を突き刺し、そして相手を蹴り飛ばす形で得物を引き抜いた。
「四霊さん!! 」
「……貴様は黙ってろ」
「グッ…… カ、ア…… 」
喉笛を正確に打ち抜かれ、その場にうずくまる佳苗。晋也は目の前の無力な婦警を冷たく見下ろし、踏みつけた。
「榊さんからこいつの救助でも頼まれたのかい? そんなんだからリリアン……いや、百合子に刺されたところに傷なんかもらうんだよ馬鹿が」
「……えらく喋るじゃねぇか。昂ってんのか? 」
「バカ言えよ。今のあんたなんか、その気になれば酒の肴にもならねぇ。かつて最強のコルウスと言われた男が情けない」
佳苗の髪を掴んで強引に引き上げる晋也。そして四霊が見ている目の前で彼女の二の腕辺りに軽く刃を突き付けた。
「ああぁ!…… うっ、グぅ…… 」
「さっさとしねぇとこの女も…ッ!? 」
正しく稲妻だった。気づけばさっきまで太刀を振りかざしていた青年は佳苗の視界から消え、青白い火花に包まれた四霊が目の前に立っていた。
「百合子にも言ったが、俺はお前たちに生きてほしかったんだ。お前たちなら必ずどんな困難も乗り越えられると信じていたんだ」
「あ、アァ…… 」
何とか声を絞り出そうとするも、苦しいうめき声しか出せない佳苗。目の前の男はいつものどこか悲しいまなざしを秘めた得も言われぬ表情を捨て去り、阿修羅の様に怒りが目の奥に燃えていた。
「ここまで落ちやがるとはな、晋也。今すぐ最大火力で来い」
「あぁ、言われなくてもやってやるよ四霊さん」
がれきの山を吹き飛ばしながら蒼炎を纏う晋也。もはや佳苗の声は四霊に届かない。
(だめっ!…… 怒りに飲まれて戦うのは命を削る行為なのに…… )
「さぁ、最終ラウンドだ晋也」
「あぁ、来いよ! 最強の男よぉ!! 」
再び交わる二人。二人の攻撃がぶつかるたびに周りの建物が音を立てて崩れ落ちていく。
「流石、速いな四霊!! ……っ!? 」
突如、晋也の太刀が音を立てて砕け散った。一瞬動きが止まったその瞬間、四霊の姿が『消えた』
「グハッ!? 」
吐血して膝から崩れ落ちる晋也。その胸には、さっき折れたはずの刃先がしっかりと突き刺さっていた。
「……折れて宙を舞った剣先が地面に落ちる前に5mも飛んでくるとは、化け物だなホント」
「わざわざ煽りやがって…… なぜそんなに死に急いだ! この馬鹿が!! 」
「違う、違うんだ四霊さん。俺たちは死にたいんじゃない。『こういう生き方しか出来ない』んだ」
もはや虫の息となった晋也の体を優しく抱きかかえる四霊。やっと息ができるようになった佳苗はすぐに二人の元へと駆け出した。
「あんたくらい強くなったら、答えが見えるかと本気で思ったのさ。それが、このざまさ…… 」
「もう喋るな、今すぐ…… 」
「もういいんだ…… 俺は心底楽しんだよ。ありがとう…… 」
「……ったく、最後まで馬鹿な奴だったよお前は」
静かに立ち上がる四霊。そして真後ろにいた佳苗を強く抱きしめた。
「ちょ! え!? 」
「最後まで俺は人殺しだったな 」
うっすらと笑みを浮かべる四霊だったが、佳苗はその眼の奥に悲しみが眠っていることを見逃さなかった。
「そんなことはありませんよ。だって…… 私は、守れたじゃないですか」
静かに微笑む佳苗。一瞬意表を突かれた驚きの表情を浮かべた四霊だったが、少し間をおいて空を仰いで大きく息を吸った。
「の割には雑な扱いしちまったがな」
「……帰りましょう」
「あぁ、そうだな。色々疲れた」




