section11 sometimes it's an old story
「まだここにいたのか、四霊」
「おん? まぁな。やっぱりキツイもんがあるからな」
ビルをワンフロア吹き飛ばすほどの戦闘をしたというのに、四霊の顔はいたって平静だと言えた。しかし榊は四霊の目の端に悲壮感がにじみ出ていたのを見逃さなかった。
「……やっぱり、百合子だったか」
「あの野郎、無茶苦茶な能力改造なんかやりやがって…… 」
かわいらしい花が添えられた簡素な墓だった。もちろん墓石もなければ目印と言えるものは何もなかったが、二人にはこれで十分だったと確信していた。
「ということは…… 」
「ご明察、佳苗を連れて行ったのは晋也だ。すまん」
気にすることはないさ、と榊は四霊の肩を叩く。四霊は手に持っていた酒を墓に垂らし、天を仰いで大きく息を吐いた。
「お前とは結局飲めなかったな。まぁ最期くらいはうまい酒飲んで逝ってくれよ、俺はこういう送り方しか出来ねぇんだ」
「…… もう行くのか」
「あぁ、あいつのいるところは分かってる」
「応援は必要か? 」
「いや、一人で行くさ。自分でケリをつけてくる」
「そうか。気をつけろよ」
「おう」
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「ん…… 」
佳苗の目の前に広がっていたのは、とても綺麗に整理された小部屋だった。
「よぉ、目が覚めたか婦警」
壁紙から小物に至るまで白で統一されたその部屋には、明らかに不釣り合いなサイズの長刀を携えた小柄な青年が丸椅子に腰かけてこちらを見ていた。佳苗は部屋を見渡したが、佳苗の目に入る範囲では窓がない。
「ここは…… 」
体を起こそうとしたが、手錠のようなものがつけられており身動きが出来なかった。青年は無言で椅子を立ち、佳苗を覗き込んだ。
「ここは『紅虎』のアジトさ。俺は斗鬼田 晋也、ここで頭を張ってる」
「それって…… 」
「あぁ、見ての通りの犯罪者さ。殺してみるか? 」
「…… 」
晋也の目に殺意がこもっていないのは見るからに明らかだった。どうやら先刻身に付けていた強化スーツは全てはぎ取られているようで、ベッドの上の自分の体が身に付けているのはアンダースーツだけだった。
「……地下ですか? 」
「あぁ」
「……あなたは、何者なんですか? 」
「四霊の古い知り合いさ。お前もあいつが昔軍人だったのは知ってるんだろ? 」
無言で首を縦に振る佳苗。晋也はちらりと目の端で佳苗を見やり、話を続けた。
「俺は四霊ともリリアンとも違う…… あの二人は親の仇を討つためにコルウスになったが、俺はコルウスの『強さ』に憧れた」
「……本当に? 」
「……何が言いたい? 」
『二人しかいない』という条件もあるのだが一気に場が凍り付いた。それでも佳苗は聞かずにいられなかったのだ。
「私をさらわなくたって、四霊はあなたと戦う。それがあの人よ」
「……フッ、ハハハハハ…… 」
「何がおかしいの? 」
「本当に四霊に覚悟があるのなら、とっくの昔にリリアンは…… 百合子は死んでるさ。どうせ榊から聞かされているんだろ? あいつがかつて何をしたのか」
再び無言で頷く佳苗。彼女は晋也から言い知れぬ違和感を覚えたのだが、その正体が何なのかを見つけることはできなかった。
「俺たちはな、あの時四霊から『殺してもらえなかった』のさ。分かるか? 俺たちはもうこの世界に生きてはいけないはみ出し者なんだぞ? 」
「……私は、あなたの仲間だった人に両親を殺された。」
「……同情を買いたいのか? 」
「違う ……いや、多分警官になるまではそうだったんだと思う。でも…… 」
「『お前に生きてほしかった』、か…… 力を求めるしか能のない俺なんかを生かす、愚行以外のなにものでもねぇ」
吐き捨てるように視線を落とす晋也。しばらくうつむいた後、再び佳苗を流し目で見やった。しかしその眼の中に吸い込まれそうな闇が宿っているのを佳苗は見逃さなかった。




