8 幸田孝の生涯 その8 尋問
男性は喉の痛みと息苦しさで目を覚ました。手足の自由を奪われた状態で椅子に縛り付けられたまま、顔を天井に向けた状態で首を固定されていた。口から喉の奥の方まで水道のホースのようなものが差し込まれている。さらに片方の鼻の穴からも細いエアーポンプのホースのようなものが差し込まれており、そこからかろうじて呼吸ができている状態であった。口のホースの先は顔より高い位置にあり、そこにはじょうごが差し込まれていた。一人の男がホースとじょうごを持ち、もう一人の男がじょうごに何か黒くて細かいものをサラサラと流し込んでいる。
「おっ?お目覚めのようだぜ。腹が減っただろうからいいもん食わせてやってるぜ。乾物屋のおばちゃんからたっぷりと乾燥わかめをもらってきたから遠慮すんなよ。」
どれだけワカメを流し込まれたのかわからないが、かなり胃もたれしている感覚だけはわかった。そこでゆっくりと口と鼻からホースを抜き取られ、ヌルヌルテカテカしたホースが床に投げ捨てられた。
「薬局のおばちゃんからもらったワセリンたっぷり塗っといたから食道に傷はついてないはずだぜ。感謝しろよ。」
ワカメの塩分からだろうか、猛烈に喉が渇いていた。
その時、ゆっくりと大柄な男が近づいてくるのを感じた。タカシである。両手にペットボトルの水を持っている。上を向いたまま固定されている口に向かってそのペットボトルが差し込まれる。吹き出しながらも気道がまっすぐになっている状態なのでその水が胃に流れ込んでいくのがはっきりとわかった。そこで拘束が解かれて体の自由がきくようになったが、体が妙に重いのとタカシの威圧感で立ち上がることすらできなかった。タカシの隣にいる男が自慢げに話し始めた。
「これは古代中国で使われていた拷問なんだけどよ、乾燥わかめを大量に食った後に水を飲むと腹の中でワカメがみるみるうちに膨れ上がって地獄の苦しみを味わうことになるんだ。ほらもう腹がパンパンになってきてるぜ。」
確かに目で見てわかるほど腹が膨れてきている。ここでタカシの口から重く威圧感のある声が響く。
『お前の罪を全て話せ。罪ある者の名前を全て教えろ。』
腹の痛みのせいで意識が朦朧としてしている上に、頭の中に直接響くような威圧感のある声には逆らおうとする気すら起きなかった。
「ビデオカメラの前で正直に洗いざらい喋ってくれたら、薬局のおばちゃんからもらってきた強力下剤を飲ませてやるぜ。」
もう威圧感のないチャラい言葉にさえも逆らう気力は起きなかった。