表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はジャイアン  作者: りっきぃ
6/45

6 幸田孝の生涯 その6

 タカシ達が自衛隊に入隊して5年が経過した。両親とタカシの望み通り、妹は短大に進学して保母さんとして就職も決まっていた。タカシの仕送りのお陰で生活はなんとかなっていた為、苦しいながらも赤字を出さない程度に細々と商売は続けていた。子供達のために少しでも蓄えを残す事と、タカシの帰る場所を残しておきたいという親心からであった。


 この頃になると商店街でも店舗を畳むところが増えて来て、いわゆるシャッター商店街と化していた。そんな中、駅前再開発の計画が立ち上がり、大規模マンションを建設するために商店街一帯の土地が買い上げられるようになって来たのである。しかし毎月給料のほとんどを仕送りしてくれるタカシのためにも帰る場所をなくしたくない両親は、商売を止めることは考えていなかった。他にも数店舗、商店街の灯を消してはならぬと営業を続けるところもあり、再開発計画は遅々として進んでいなかった。



 

 そんなある日のことである。


 

 自衛隊宿舎にて朝食を食べていたタカシの元に警察から電話が入って来た。


 昨夜遅くに幸田精肉店が火災で全焼し、両親も妹も焼死したという訃報であった。



 休暇をもらってすぐに帰郷したタカシが見たのは、実家の店舗があった場所一帯の建物が真っ黒焦げになっている風景だった。家族との対面は警察の死体安置所で、見るに耐えない姿と化していた。


 警察と消防の見解では、商売で使用していた揚げ物用の油の火を消し忘れて発火したのではないかとのことであった。


 タカシにとってそれはあり得ないことだった。幸田精肉店では揚げ物の油を毎日交換していたのである。お惣菜の味を追求するためにそれだけは創業当時から守り続けていたことだったのである。また、精肉を扱うため店舗内の温度が上昇しすぎないように、油の火はすぐに消すように両親からきつく仕込まれていたのである。


 警察にそのことを伝えたが、見解が覆ることはなかった。むしろ中学生の頃に随分と警察のお世話になっていたこともあり、タカシの話はまともに受け入れてさえもらえなかったのである。


 

 通夜と葬儀はかろうじて火災を逃れた商店街事務所で行われた。広範囲に広がった火災ではあったが、死者はタカシの家族だけで幼なじみ達の家族は住居は失ったが難は逃れていた。幼なじみ達も休暇をもらって葬儀に参列していたのだが、誰もがタカシの話に頷き幸田精肉店が火元になったことが信じられないでいた。


 通夜が終わり商店街の昔からの顔なじみの人々に火元の謝罪をしながら酒を酌み交わしているうちに、駅前再開発の計画の話を知ることになる。少し酔った人々の間からは地上げ屋による放火ではないかという憶測まで飛び出した。しかし確証のないただの憶測に過ぎないためタカシにはどうすることもできなかった。


 ただ今はただ明日の告別式で両親と妹を送り出してあげることが先決だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ