2 幸田孝の生涯 その2
時に子供とは悪気がないだけに非常に残酷である。
担任の先生の滑舌の悪さが原因とはいえ、一度定着してしまったイメージはそう簡単に払拭できるものではない。本人が望もうが望むまいがタカシのニックネームは小学校入学と同時に「ジャイアン」で定着してしまうことになる。幼稚園の頃から仲の良かった幼なじみ達はともかく、小学校から同級生となったもの達は無条件で乱暴者のガキ大将のイメージをタカシに抱くこととなる。
幼なじみ達の商店街派閥がすでに形成されていることも相成り、同級生達がタカシ達を悪い意味で一目置くようになってしまう。それでも面倒見の良いタカシは幼なじみ達とこれまで通りに遊び、悪印象のニックネームを気にしないようにして平和に学校生活を送っていた。
状況が変化したのは4年後のことである。
妹が小学生になったのだ。
妹思いのタカシは毎日一緒に登下校し、幼なじみ達も一緒になって妹が学校生活に速く慣れるように甲斐甲斐しく面倒を見たのである。
そしていつの間にか妹はジャイアンの妹の「ジャイ子」という不名誉なニックネームで呼ばれることとなる。
幸せな家庭で優しい両親と兄に大事に育てられ、兄の幼なじみ達からも実の妹のように可愛がられてきた女の子が、小学校に入学して間もなくして不名誉なニックネームで同級生達からいじられることとなるのである。
最初はそんな妹の苦悩に気づかなかったタカシではあるが、妹の変化や幼なじみ達からの情報により妹が「ジャイ子」と呼ばれていることを知ることとなる。
自分がジャイアンと呼ばれることには不快感こそあったが幼なじみ達の存在もあり、気にせずに学校生活を送ってきたタカシではあったが、可愛がってきた妹が自分のせいで不名誉なニックネームで呼ばれていることにはひどく憤りを感じてしまった。小学校5年生にして生まれて初めての「怒り」である。
そしてタカシと同様に妹を可愛がってきた幼なじみ達もそんな状況を許せなかった。
彼らは妹をジャイ子と呼ぶ人間をことごとくシメて回るという行動に出るのである。
タカシと幼なじみ達は学校中で逆らう者がいない集団となり、中学校に入学する頃には地元でも有名な不良グループと目されるようになってしまっていた。
性根は優しく妹を守りたいという心が彼らを逆に悪者と見られるようにしてしまったのである。