王太子殿下に婚約破棄をされてしまいますがその王太子殿下の新しい婚約者こそ一番の被害者だった為、代わりに報復してみましたわ。
「本当に申し訳ありませんわ……バラック公爵令嬢様」
家へ極秘でやってき、いきなり謝罪して来たのは私の“元”婚約者であった王太子殿下の新しい婚約者様でした。
――数日前(舞踏会にて)
「サリーナ・バラック!!今を持ってお前との婚約を破棄させて貰う!!」
あぁ……遂に、遂にこの時が来てしまったのですね。
王太子殿下であられる貴方様とは幼い頃から共に勉学に励み婚約者として育てられて来ておりました。
……それなのに。近頃はすっかりお気に入りの令嬢が出来たようで学園でも人目もはばからず馴れ合っておられました。令嬢と言ってもその娘の家は子爵家、王族、特に次期王となる王太子の妃としては不十分なのです。
殿下も可哀想なお方なのです。多少は同情いたします。現陛下であられるお父上は滅びかけていた我国を建て直した英雄。幼い頃から何かと比べられ苦しんでおられる姿をいつもお隣で見守っていました。
それでも必死に頑張っておられる姿に私は妻として支えられるよう精進しようと決意をしたものです。
ですが、殿下はご自分で間違った選択をされた。周囲に負け、曲がってしまわれた。もう後戻りは出来ないのです。
「お言葉ですが殿下、そのような勝手許されるとも?」
もう二度とリオと呼ぶことも無い。サナと呼ばれることも無い。殿下が子爵令嬢……エアリア・スペル様を選ばれた時点で決まった運命ですわ。
「お前は俺とエリアの仲に醜い嫉妬をし、学園でエリアに酷い嫌がらせをしてきた!この他に理由が必要か!」
「証拠がありまして?」
「本人がそう言っている!!」
それは証拠ではありませんわ。第一近頃は忙しく学園も欠席させて頂いておりました。……幼い頃のひたむきに努力されていた姿を知っているからこそ本当に殿下には失望してしまいます。
そして、ちらっと視線を向けた先のエアリア様にも失望をします。軽く縮こまってただ震えているだけ。王太子妃になる覚悟など何処にもない。
あぁ、殿下の取り巻きの子息の方々に頭を撫でて貰い慰めてもらっておられますね。婚約者でもない令嬢の体に触れるなど醜聞も良いとこですわ。
まぁ、婚約者である私が居ながらエアリア様を舞踏会に連れ添うなど不倫の公表をしているようなもの。元から醜聞しかありませんけれど。
「それは証拠にはなりませんわ……と言ってもどうにか言い包められてしまうのでしょうけれど」
王族と言う身分を使って。
「分かっているのなら認めたら良い!!」
「私もこの婚約にこだわっている訳ではありませんわ」
「!だったら……「ですが!決めるのはこの婚約を決められた陛下ですわ。ですが、どちらにせよエアリア様に王太子妃は務まりませんわ」」
妃というのはお人形のように殿下のそばに座っているだけでは務まらないのです。ですから、私も恥にならないように勉学に励んでいた。
「!エリアは優しく民を労ることのできる優しい子だ!お前は身分でエリアの事を見下すのか!俺は誰になんと言われようともこのエアリア・スペルと婚約を結ぶ!」
……先時ご自分が私に対して身分を振り翳しておきながら良く言われますわ。
何も私も意地悪でこう言っているわけでもありませんのよ。
エアリア様は身分が弱い、となると後ろ盾もない。王族の婚約者の最低ラインは伯爵家、様々な陰口や苦言も言われるでしょう。様々な厳しい視線を浴びせられることもあるでしょう。今でさえ怯えている娘がこれに耐えられるのでしょうか。
まず、きちんとした礼儀作法も子爵令嬢となると学んでいない可能性も高い。貴族である以上最低限のことは学んでいるでしょうが下位貴族と高位貴族以上ではまた世界も違うのです。
周囲の貴族から聞こえてくる声は既にエアリア様達を非難する声。この反応を見て分からないのでしょうか。
「……陛下がいらっしゃるのを待ちましょう。ここは私的な場ではなく国中……いや、他国の方もいらっしゃる舞踏会。このような騒ぎを起こせば只ではすみませんわ…………皆様、今宵このような場でお騒がせしてしまい申し訳ありません。私はこの事に強く責任を持ち、陛下方次第ではどのような処罰も……」
「サリーナ!その必要は無いぞ」
突如大きく開け放たれた扉から入って来られたのは陛下、その人でした。
ふふっ、ナイスタイミングですわ陛下。ついつい、ほくそ笑んでしまいます。
私が忙しくし、学園を欠席していたのは陛下に殿下の近状を伝え調査して頂くため。この婚約が解消されるのは、もとより決まった事だったのですわ
……殿下がこのような場にエアリア様を伴い婚約破棄を宣言されてしまったのは予想外でしたがそれは断罪の場が早まったに過ぎません。なんの問題もありませんわ。
事実陛下は殿下へと言い訳の余地も与えずに次々と追求なさっておいでです。
「お前は王太子としてそれに見合った行動をしなければいけなかった筈だ!!お前は王太子として間違った行動をする者に対して宥めなければならなかった筈だ!!なのに全て反対の行動をとった!!醜聞だ。もはやお前だけでは無く、お前の取り巻き子息達にとってもエアリア嬢にとっても、そして、なんの罪もないサリーナにとってもな!!」
「どうしてこんな女の事を庇うのです父上!!エリアのことを虐めるような女ですよ!?」
「そのような事実どこにある!既に調査済みだ。明らかになったのは己の息子の情けなさだけだ!!」
この国の英雄である陛下が断罪をされる姿は実に似合っており、格好良いですわ。……まぁ、その断罪相手は己の息子達なのですけども。
英雄が一つ間違ったとすると息子の教育ですわね……しかし?私と他の王子様と王女様は同じ教育を受けましたわね。やはり悪いのは殿下ですわ。
まぁ、この後も着々と断罪は進められ、殿下は王族からの抹消、取り巻きの子息達は家から追放など処罰が言い渡されましたわ。皆、嫡男でしたが優秀な弟くん達が居るようなので安心です。……まぁ、私は無事婚約が解消され満足ですわ。
あぁ、エアリア様とは無事(?)婚約なさったようですよ。どんな茨の道が待っているのかも知らずに婚約を許されたことを大喜びされていましたわ。(絶対婚約を許されたのも陛下からの処罰の一つですわ)このことからも、どんなお粗末な頭の構造をされているのか容易に想像出来てしまいますわね。
――現在
私は数日前の婚約破棄騒動を思い出しておりましたが今の状況を思い出し、意識を前の令嬢に向けます。
正直言ってエアリア様の印象はあまり良くありませんわ。自分から婚約者を奪ったから、という事では無いんですけれども。
「……謝罪はお受けしますわ」
……今のエアリア様は、今までのエアリア様とは随分と印象が違います。
今まではそれこそ舞踏会のときのように小さく縮こまって怯え、いつも殿下(もう殿下ではありませんね)シーリオ達から慰められている印象しかありませんでした。
ですが今はそのルビーのような瞳がしっかりと私の瞳を捉え凛と椅子に座っておられます。まるで別人ですわね。
私の家、バラック家は水や氷の魔術に特化した家系でその強さや冷たい印象を与えやすい特有のブルーグレーの瞳から恐れられることが多いのですけれど……。
思い切って聞いてみましょうか?何となくエアリア様にはこれが一番いい気がします。
「エアリア様。随分と印象が違いますわね?」
「私のことは呼び捨てでお呼びくださいバラック公爵令嬢様」
「それでは、私のこともサリーナと。堅苦しい呼び名は無しですわ……それで?それがエアリアの素かしら?」
「えぇ」
「それでは演技をして王太子であったシーリオに取り入ったと?」
「……そうなりますわ」
ですが、エアリアはそのような事をする者には見えませんわ。この姿も演技で家へわざわざ来たのも計算の内なのか……それとも“家”の指示で動いていたのか。
「それはどうしてかしら?」
「家の指示……なのですが。それだけなら私は蹴りましたわ。子爵令嬢が王族に取り入るなど無謀だと」
「その言い方だとやらざるを得なかった理由がありますのね?」
「私は15になるまでに王族の婚約者にならないと死ぬ呪いをかけられていたのですわ。誰かに助けを求めようにも見つかれば命は無かった……」
!
そのような呪い聞いたことありませんわ。恐らく禁呪か何かなのでしょう。お父様やお母様に聞いて見る必要がありますわね。
?
ですが、呪いの解呪条件は“王族”と婚約すること。シーリオは王族から席を外された筈。大丈夫なのでしょうか?
「それが、禁呪というだけあって難しい術式で私にかけられた状態では不完全だったようで……王族から席を抹消される前にシーリオ様が私と婚約すると宣言されただけで解呪の対象になったようですわ」
それは…………
「シーリオ様に初めて感謝いたしましたわ。上手く懐に入り込めた時はこの国の未来を思って嘆いたものですわ。……子爵令嬢である私が王族の婚約者になるなど不可能だ。15までの命だと覚悟を決めていましたのに」
「……」
「家の皆の頭がお粗末なのは困りましたがシーリオ様の頭もお粗末で本当に助かりましたわ」
「……ふっ」
急に毒舌気味になるエアリアに少々驚くもすぐに笑いが込み上げてくる。
「ふふっ!!ねぇ、エアリア。家に報復をしたくない?……この話を聞いたからには私は陛下の家臣として報告をしなくてはいけないの。貴方は色々と鬱憤が溜まっているだろうし、陛下も事情を分かってくれない方では無いわ」
「そのような事宜しいのですか?私は自分の為に貴方から婚約者の座を奪った悪女ですわよ?」
「あら?貴方の何処が悪女なの?何も悪くないわ。謝罪は受け取ったわよ?」
本当に、エアリアは善人なんですわ。……悪いものに対しては本当に厳しいようですが。
あのシーリオ達についている芝居をするのは相当な苦痛だったでしょう。
私はシーリオ達……いや、シーリオ達も被害者(?)になりますわね。エアリアの話を信じるならば元凶はスペル家ですわ。まぁ、どちらにせよ迷惑をかけられましたもの私も一緒に報復いたしますわ。
――後日(謁見の間)
陛下の協力の下、謁見の間を使った大規模な断罪の場が用意されることになりました。
この国の主な貴族の他にあの舞踏会へ居合わせた他国の王族の方なんかも居られます。
……全くそのような方がおられる場で愚かなことをしてくれたものです。恥を見られただけでは無く、お陰で我国は数年間はこの国に対して外交において下手に回らなくてはいけなくなってしまいましたわ。
不機嫌さを隠そうともしないシーリオとスペル家の当主(エアリアの父)がやって来る。
そして、私の側にエアリアが居るのを見て驚愕の表情を浮かべておられます。
「どうしてエアリアがそこに居るんだい!?」
「エアリア!?まさか……!!」
「ふふっ、シーリオ様、父上ご機嫌麗しゅう♪」
「エ、アリア……?」
えぇ、シーリオの気持ちも分かりますわ。謁見の間に呼び出されさらなる処罰かと怯える中でか弱く臆病なはずの愛しのエアリアが妙に凄みのある笑みを浮かべているんですもの。困惑して当然ですわ。
スペル子爵は娘が裏切ったことに薄々気づいたようで私達の方へ縋るような視線を向けてきていますね。
この場に集っている者には事前に軽く事情説明済みの協力者ですし、知らぬはシーリオただ一人ですわ。
「さて、シーリオ……いや、用があるのはスペル子爵に、だな。……心当たりがあるな?既に事は把握済みだ。言い訳を聞く為にこの場を態々用意したわけではない」
「っ、い……一体何のことでしょうか。陛下」
すっと陛下の目が見極めをする様に細められる。その目に現れている気持ちは“失望”とそれ以上に“怒り”ですわね。私も同じ気持ちですわ。
これだけ言われていてなお、とぼけて逃げようとするとは。情けないですわ。
「陛下、発言の許可を頂いても」
「……あぁ、許す。――バラック公爵」
!?
お父様!!一体何をお話になるおつもりで?私達、家族の事になるとすぐに暴走されるのですから……。この場で魔法を行使するのだけはやめていただきたいですわよ?
「スペル子爵。既に証拠は揃っているのです。禁呪使用に王族、公爵家を貶めようとした反逆罪。もはや、家が存続することは厳しいでしょう。それでも言い訳を?」
「なっ!?そ、その証拠と言うのは……」
「エアリア嬢にかかっていた呪いの解析は我家が既に行っていますし、様々な所から証言も来ています……どうやら貴方はお仲間に切り捨てられたようですね?」
今の所魔法を突っ込むつもりは無いようですが陛下の役目を奪い追求を始めてしまわれました。全く、古くからお父様のことを知っている陛下も呆れ顔ですわ。
「っ!む、娘を利用して何が悪い!!家の娘を上に売り込むなど貴族では当たり前だろう!!バラック公爵もその娘を利用したのだろう!?」
『……』
「……へぇ」
あら……思いっきりお父様の地雷を踏み抜かれましたわね……。私は別に駒扱いされて怒るようなことはないのですけれど。
お父様は重度の親馬鹿ですわ。シーリオとの縁談が正式に決まったときなど特に大変だったのですわよ?
「なっ!」
即座に謁見の間が凍り付く。比喩ではありません。物理的に、ですわ。お父様が遂に魔法を使ってしまわれたようです。流石お父様、関係のない人は凍らせないようにそこには気をつけておられるようです。
「……お父様やり過ぎですわ。スペル子爵、先程の発言は自白という事で宜しくて?」
「っー!あぁ、そうだ!このエアリア!!バカ娘め!!禁呪まで使ったのに役に立たず!やっと王太子に取り入ったかと思えば廃嫡など……!!ふざけるな!!」
「ふざけるな、はこちらの台詞ですわ」
その後についつい狸親父と続けそうになりますわ。権力と金に囚われた可哀想な人だこと。野心家なのは結構なことなのですけれど知能が追いついてないですわよ。
横目に見えるエアリアは表面上は繕っていますが、自分の父親の様子に叫びたいのを我慢しているのでしょう。ぎゅっと強く手を握り薄っすらと掌から血が滲んでいます。
そっと手に触れ治癒魔法をかけます。
「っ!サリーナ様……申し訳ありません」
「ふふっ大丈夫よ」
エアリアは呪いをかけられていたとしても、行ったことだけを見れば悪女だ。ここで出て来ても良いことはないと分かっているのでしょう。
今なお、エアリアへと責任転換し、言い訳をしようとしている子爵へとさらなる嫌悪感をいだきます。そして一つ一つの言動にイラッときますわ。
『あぁ、もう煩い!!』
どうやらイライラが頂点に達したのはお父様も同じだったようです。
「謁見の間を凍り付かせただけじゃ足りないか?体ごと凍らせてみる?人の限界ってどこまでだろうね?」
「実は私はバラック家でも異端なのですわ。闇魔法も得意ですの。……五感全てを奪ってみましょうか。誰も居ない真っ暗な世界はきっと楽しいですわよ?」
「ひっ!」 ――バタンッ
この馬鹿げた茶番は子爵が気を失ってしまったので終了いたしました。……妙な水溜りが出来ていようとも気にしてはいけませんわ。
陛下に謁見の間に用意してもらったのは単に公式の場として記録が残るからですわ。こんな馬鹿げた姿が記録されるとなると楽しくって仕方がありませんわ!
この間、陛下含め集っていた貴族達はただ呆然と見守っているだけでした。当事者であった筈のシーリオは未だに事実に頭が追いついてないらしく呆けておられます。時々「嘘だろ……」と呟いておられますので徐々に理解はされておられるようですが。
とにかく!!私は……いえ、私達は子爵を虐……追求でき、シーリオの傷をえぐ……現実を見させることができ、非常に満足いたしました。
特に、エアリアは後に高笑いしておりましたわ!!
誤字報告有難うございます。深夜に書いたので色々と間違いがありすいません(汗)
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