代償
代償…代償か。大抵の場合は願いと釣り合うように出来ている。契約は人ではないものと唯一対等に取引できるものだから、なるべく不正をせずに行いたい。僕の場合、僕自身が差し出せる物…。
「魂…かな。一番釣り合うとしたら」
「そうだ、テメェはそれがどうゆう意味で言ってんのか分かってんのかぁ?」
悪魔に魂を食べられれば二度と持ち主には帰って来ない。魂が無くなれば輪廻転生が出来なくなり、その一生だけで人生は終わる。まぁ、神が魂を核にして転生させるのだから当たり前だけど。だからといってどうとなる訳じゃあないから少なくとも僕としては元に戻ったとしか考えられない。
「別に僕は別人になったとしても生きたいと思わないよ。」
そう言うと彼はうげっとした顔をした。
「最近の人間は皆こうなのか?」
多分僕は稀な方だと思う。
「とりあえずお互いに了承したし、契約成立だね。」
彼の目を真っ直ぐ見てそう言うと彼は舌打ちしイカレポンチが…と呟いた。又、大きな溜息をし僕にゆっくり近づいた。丁度彼の胸筋が僕の目の前まで来た辺りでピタリと止まり僕を上から見下ろした。眉間に皺が寄っていて高圧的な印象だ。腰を曲げて段々と顔が僕の方に近づく。正直、そろそろ彼の銀髪が目に入りそうだから止めて欲しいのだけれど。
すると彼は鋭く黒い爪を僕の手首に突き刺したかと思うと、何かを彫り始めた。見たことの無い文だ…魔界の文字なのか?彫られた文字が薄紫色に輝いて、手首には黒色の謎の文章がぐるりと彫られていた。
「これが契約の証だ。契約解除の時、これは消えるからな。」
なるほど。道理で見た事が無いと思った。家に有る書物全て読んだけどこの文字は見た事すら無いのは、こうゆうことだったのか。それなら納得する。
「そうだ、君の名前をまだ訊いていなかったね。名前は?」
「は?なんでテメェに言わなきゃなんねぇんだよ。」
「名前が分からないと互いに呼ぶ時不便だろう?第一余り人に君が悪魔だと知られたくない。」
そうだ。悪魔の印象は一般的には余り宜しくない。人を堕落させる、誘惑する、などなど悪評が多い。まぁ実際そういうものなのだが。今後の為にも余り彼を悪魔だと知られたく無い。
「…チッ。ガランだ。」
「そう…ガランよろしくね。僕の名前はアイ。アイ・シェン・フォールド。アイって呼んで」
彼と目を合わせ、にっこり微笑んだ。すると彼は耳に掛かった髪の毛を払った。悪魔の耳はエルフの様にとんがっているから邪魔なのだろう。オールバックにしているので前に垂れない分マシだが、邪魔なら切ればいいのに。
「着いて来て。それから、扉から出る時は気をつけてね。頭ぶつかるよ?」
身長はざっと見た感じ2メートルくらいあるから倉庫の扉じゃ潜らないと通れないだろう、角もあるから余計に。彼は舌打ちをした後潜りながら扉を通った。
僕等は開けた廊下に躍り出た。真っ赤な絨毯が敷いてあり、長い長い廊下に途切れること無く続いているのは昔から変わらない。壁には一定の間隔を空けて壁掛けランプが付いている。儀式は真夜中から始めた筈だが、大きい窓からは光が差し込んでいるのが見えた。壁際にはメイドが二人何やら話し込んでいた様だけど、扉の開閉音に気付いてから慌てて会話を止めた。