ゴミの潜水艦
水深20メートル。
いっぱい並んだ計器を見てそれだけは理解できた。
のぞき窓からは藻や、ブラックバスがうっすら見えた。すごく幻想的な空間が広がっていた。
確実に、ゆっくり沈んでいる。僕は実感した。
やはりこれは潜水艦なんだ。
「僕の夢は琵琶湖の底を探検する事です」
一瞬シーンとなった。次にギャハハハと何人かが笑った。そして教室中に笑い声が広がった。
なんだか恥ずかしくなって続きを読めなくなった。
「ねぇ続き読んで」
ずっと気になってたリコちゃんが僕にそう言った。
僕の家は琵琶湖の一番北(湖北とよばれている地域)にあって、学校帰りにいつも琵琶湖を眺めるのが日課だった。
ある日、湖岸に捨てられている潜水艦っぽい潜水艦を見つけた。たぶん潜水艦だと思った。丸くごつごつした形で、どんな水圧にも耐えそうな感じがした。
僕は自転車を止め、通学用のヘルメットを外した。
一段と強い風が吹いたので、ぞわぞわした。僕の背中を押している気がした。
あの時、作文は最後まで読めなかった。
リコちゃんには申し訳ないことをした気がしていた。
順調に沈んでいた潜水艦が、突然何かにぶつかって揺れた。すごい衝撃が来て、大きく回転して逆さまになってまた戻った。
僕の身体は一瞬宙に浮き、いろんなところにぶつけた。
体中すごく痛かったが、起き上がってのぞき窓を見ると真っ暗闇だった。
潜水艦はまた沈んで行ってる。
琵琶湖の水深は一番深いところで103.58メートルと言われている。
もう近いのかも知れない。
突然、のぞき窓にものすごく大きな魚影が映った。
僕はギョッとして床に座り込んだ。
ビワコオオナマズだ。ほんとにでかい。琵琶湖水族館のやつより数倍でかい。
僕は震えていた。震えの原因は恐怖だけではないと自分でも分かった。
艦内が寒くなってきたのだ。3分前と全然違う。半袖から出る腕を何度もさすった。
思い出した。湖の底へ向かうほど水温は下がり続け湖底になると7度くらいしかないのだと。その水温が伝わってくるのだ。ここが底だと言わんばかりに。
すると、ごとん……と衝撃音がした。
沈むのが終わったようだ。湖底に着いたのだ。
静かだが巨大な闇に包まれている感じ。水のうねりとでもいうのか途方もない恐怖と圧迫感を感じる。
僕は……琵琶湖の底に……いる。
あくまでこれは僕の想像だ。
僕「今、琵琶湖の底だよ」
リコ「うそだぁ。どうやって行ったの?」
僕「潜水艦を拾ったんだ」
グッジョブ!みたいなうさぎのスタンプが来る。
リコ「じゃまたあとでね!」
本当はそんなやり取りできるほど仲良くもない。
しかし誰かに言いたい。だから帰らないと。
僕は、ありとあらゆるボタンや計器類の操作をした。しかし、潜水艦はうんともすんともいわない。
もうのぞき窓をみるのが怖かった。
動け。浮上だ。浮上してくれ。
帰らないといけないんだよ。
「くそッ! こんなゴミの潜水艦、誰が作ったんだ!」
その瞬間、艦内のいたるところから火花が散り始め、ゴゴゴ……と水流と作る音がし始めた。と、思った次の瞬間、ほんの1秒もかからない時間で潜水艦は湖面まで一気に加速した。
信じられないくらいの重力を感じながら僕はのぞき窓を見た。
今度は宇宙だった。