2.前途多難な風向き
今回はグレン王子目線です。
かなり苦労人ですが、たぶんこの旅で大切なものが見つかります。
そして、エラトステネス国の人々は女王陛下を含めてフリーダムです。
デニス・スカルスガルド
エラトステネス国第一王子の婚約者らしいが、そもそも何故つい30年前まで他国の王族との婚姻が原因の権力争いと戦争に嫌気がさし、どの国のどの領土の貴族とも結婚しない宣言までされた女王陛下が己の息子の許嫁を貴族の娘であるデニス嬢に決めたのか……
そもそも女王陛下の一人息子であるオイラー・ベータ・エラトステネス王子の父親は不明というのもひっかかる。
それに、この国はデニス嬢の発明の数々によってここ数年で急成長をしている。
「ダメだ……わからない……」
グレン王子は図書館の史学に関する書物の棚の前で呟いた。
「この国の言葉はわかっても他国の王子にこの国の歴史までの理解は難しいか……」
声の方を振り向くと汚れた作業着姿のオイラー王子が立っていた。
「史学の授業で遺跡で発掘調査しにいったら大発見したんだ。グレン王子は俺が女王陛下と伝説の竜の子って説を否定してるけど……」
「人と竜の子って神話みたいな話を信じてる人がこの国にいるんですか?」
「少なくとも俺は信じている。
ほら、遺跡で俺の掌ぐらいある鱗を見つけたんだ」
「鱗?ガラスにも見えるが……」
「この薄さで色々衝撃を加えても割れないガラスを作る技術はまだこの国にはないが?」
「デニス嬢が試作品として作ったとか……」
「試作品をわざわざ遺跡に置く意味はないだろう」
「竜そのものがいない限り神話は神話だ。」
「そういう事を言っていると俺がアルダシル王国とこの国の間の公海にあるホンメル島の王の剣を持って帰ってエラトステネスとアルダシル両国の王になろうかな?」
「それは……」
「剣を抜く為に長期休暇中に無人島に冒険……」
半ば呆れ顔なデニスにオイラー王子が目を輝かせながら
「俺がこの国の地を統べる竜の息子なら風を統べるエラトステネス国とアルダシル国の間にある島の聖霊の姿が見えるかもしれない!!」
「っで、島にたどり着いて無事に剣が抜けたらエラトステネス次期国王にして伝説通りアルダシルの王だって名乗るの?
両国で戦争が始まるわよ……」
「なら、島に行くだけにする。」
「仮にグレン王子が剣を抜いてアルダシルの王だって勝手に名乗っても王位継承者と争いが起きるし、貴方と一緒に行ったとなれば他国への国政干渉及びこの国がグレン王子派勢力とみなされて攻撃される可能性だってある。」
勝手に俺と一緒に島を冒険する許可を学園と国に貰ってくると言って駆け出したオイラー王子を探したら勝手に話が進みそうになっていた。
「私は島に行きたいとは言っていない……」
と表情を1つ変えずにグレンがぼそりと呟いた。
「でも、錬金術や魔法ではなくて、伝説や伝承の中に君の国の疫病をどうにかする手掛かりがあるかもしれないだろう?」
「だが、何かが犠牲になっても何も手掛かりがなかったらどうする……」
「そんな風に臆病な王族しかいないから、国が疫病で滅びかけているままじゃないのか!!」
そうオイラー王子が叫んだ瞬間にデニスの拳がオイラー王子の頬にめり込んでいた。
平手打ちでなくて拳が……
「私なら殴っても問題ないでしょう……
オイラー王子……
一国の王子に対してその発言は不敬ですよ」
いやいや、いくら婚約者とは言え自国の王子を拳で殴る方が不敬にならないか?
なんて、思っていた時
「剣を抜くとか王になるとかは関係なく、島にしか生息してない動植物で薬とか作れるのではないでしょうか!!」
と廊下から思い切り扉を開いてエリカ嬢がデニス嬢の研究室に入ってきた。
「あの島では魔法は使えないらしい、未知の生物もいる……それに私は島には……」
なぜ、エリカ嬢は私を島に行かせたがるんだ。
エリカ嬢はこそこそデニス嬢の耳元で何かを話している。
「研究の為なら何名かの教員と学生で行ってもいいかもしれないわね……
それに、魔法が使えない環境での過ごし方がわかる者も必要……
結局私も行くことになるのか……」
とため息を付きながらデニス嬢も必要な物のリストを助手に渡した。
私は行きたいとは一言も言っていない……
そんな心の叫びも虚しく、オイラー王子が島に疫病を治す手掛かりがある可能性があると書いた手紙をアルダシル王国国王に送った為、アルダシル王国からは疫病を治す手掛かりの為の王からの緊急勅命が下り自分の意志に関係なく強制的に島に行くことになった。
「虫眼鏡、魚介類の調理図鑑、寝袋、グローブ、野草図鑑、魚用の仕掛け、鍋、ナイフ、水を貯める為の折り畳み式タンク、雨具、防寒具テント……」
それにしても、デニス嬢が助手に準備させた物が本当にこの令嬢は軍人ではなく令嬢なんだろうかと疑問に思えるほど無駄がなく使えそうなものばかり選んでいる。
魔法が使えない事を想定して、作った無人島マニュアルの内容も完璧過ぎる。
そして……
「まさか、エラトステネス国王とアルダシル王国の両国共同軍事訓練になるとは……」
エラトステネス国王軍の軍艦クイーンディアーナを見上げてグレン王子は呆然と立ち尽くした。
「無人島に行くのに軍艦……」
しかも、アルダシル王国では木造帆船の軍艦が主力だが、前世で見たような鉄鋼で出来た軍艦のようだった。
「最新技術を詰め込んでいるからスゴいでしょう。魔力艦と言って魔力炉で発生させた熱で蒸気タービンを動かし、スクリューを駆動して航行できるようにしているのよ。」
隣にいる日傘を差したご婦人が自慢気に話す。
「今はどの国とも戦争していなくて、平和なのはいいけど、この船を動かす機会がなくてね……
両国共同軍事訓練か面白そうじゃない?」
金髪に碧眼でオイラー王子に似ている顔立ちでご婦人はにっこりと笑った。
まさか……
「ディアーナ・ベータ・エラトステネス女王陛下……」
なんで女王陛下までこの港に来ているんだ。
「気になって見送りに来てしまいました。
この訓練が両国の発展の為になるといいですね」
本当にどうなるのだろうか……