悪役令嬢の正体は?
王立エラトステネス学園
ここは入学試験に合格すればどのような年齢、性別、身分のものでも学び研究できる王立の教育機関。
魔法、帝王学、武術、芸術、錬金術、史学などを学ぶことができる。
そして、ここは人気乙女ゲーム《月のカケラ》の世界だった。
それを…………
「なんで貴女は、私が幸せになれる世界を壊すのよ!!」
この乙女ゲームの主人公のエリカは入学式の新任の教員紹介で学園のホールの壇上に上がった《元》私のひいおじいちゃんを指差しながら叫んだ。
私のひいおじいちゃんは太平洋戦争中に南の国で亡くなったとおじいちゃんから聞いた。
そして、私がこの世界に来て拾ってくれたのもこの元ひいおじいちゃん。
今は転生して前世の記憶と自分と同じく前世の記憶を持つ錬金術師とどんな魔力でもエネルギーに変える魔術式を生み出し、中世ヨーロッパ並みのこの国に電灯のようなものが灯り、馬車の代わりに魔力で動く車、携帯電話のように魔力で遠くにいるものと連絡が取れるようにまで発展させた。
偉人みたいなポジションかって思われるけど……
「この悪役令嬢の癖に!!」
そう……
私のひいおじいちゃんはこの世界で悪役令嬢に転生していたのです。
◇ ◇ ◇
《月のカケラ》とは
中世を思わせる、魔法有りのファンタジー乙女ゲーム。
攻略対象者は、王子、錬金術師、魔術師、他国の王子。
のはずが、元ひいおじいちゃん現悪役令嬢のデニス・スカルスガルドが開拓しまくったせいで、近代の文明レベルにまで上がってしまった。
ヒロインの反応からこのゲームを知らないこの世界のものでなく、どうやらこの《月のカケラ》をプレイした事がある者がヒロインに転生してる可能性が高いが、流石に全校生徒の前でその反応は目立つ。
しかも、国の発展に貢献した者を悪役令嬢など呼んでしまったら……
◇ ◇ ◇
『ひいおじいちゃん……
このゲームの主人公が乙女ゲームどころかほぼ全校生徒から避けられたり、無視されているんだけど……』
この世界の人にわからないように話す時は日本語を使ってひいおじいちゃんと話している。
『あの場でそんな事を言ってどうなるか考えない方が悪い』
『でも、仮にも教師でしょう』
『しょうがないな……』
そう言って、食堂でポツンと一人で昼食を取るエリカの隣の席に座った。
「席を取ってくださってありがとうございます。」
「ちょっと、いきなり隣に座らないで!!」
『正義のヒロインだったか?
俺の言う事を聞かないとこのまま孤立するぞ……』
『日本語?俺?』
『俺も前世とやらでは日本人でな、お嬢さんもだろう……』
『同じ日本人……俺って事は前世は男?』
『あぁ、と言ってもお嬢さんが生きていた時代より百年ぐらい前に生まれて戦争で亡くなったけどな』
『そんなに前に死んだのになぜ私がヒロインってわかったの?』
『そこにいる黒目黒髪の日本人みたいな助手が俺の曾孫らしい。
《月のカケラ》というゲームとやらをやっていてその世界と同じだとか言っていた。
俺が悪役令嬢だとも言っていたな。
もしかしたらお嬢さんが孫の言うヒロインだと思ったわけさ』
『やっぱり、貴女が悪役令嬢なのね……』
『いかにも……
それでは悪役令嬢らしくヒロインさんに宣戦布告させてもらおうか。』
その瞬間、勢い良く手に持っていたコップの水をエリカにぶっかけた。
「貴女生意気なのよ!!
いきなり、人の事を悪徳令嬢だって叫ぶなど、失礼ではありませんか?」
悪徳令嬢何?
令嬢詐欺師か何か?
なんてツッコミよりも早く、エリカにかかったコップの水がみるみる乾いて言った。
「この子が貴女に無礼な発言や行動をしたのはわかりますが、これはやり過ぎではないですか?」
「この子の態度が気に食わないのよ」
「同じ年齢ぐらいとは貴女の生徒でしょう!!」
「ちっ……、この辺にしといてあげるわ」
そう言って紙くずをエリカに投げて逃げた。
深く青い髪の毛イケメン二人に近づいてきた。
「シェーンベルク卿……」
「ホディノット家の……乾かしておきましたが大丈夫ですか?」
「シェーンベルク卿ありがとうございます」
「同じ学年なんだから、アーノルドでいいですよ。貴女は……」
「エリカと申します」
『ひいおじいちゃんこれでよかったの?』
『イベントとやらは発生したならよかっただろう?』
確かに発生したけどね……
『デニス様が攻略対象ならよかったのに……』
悪役令嬢が攻略対象な乙女ゲームがあってたまるか!!
ヒロインがひいおじいちゃんの書いた
『イベントは発生した
後は頑張れ』
の日本語のメッセージを読んだ後に攻略対象のアーノルドも午後もそっちのけでひいおじいちゃんの研究室まで駆け出してきたらしい。
確かに、ひいおじいちゃん性格イケメンだけど……
『なぜ、攻略対象に転生してくれなかったのですか~』
『婚約者の王子の権利と富を使って国を発展させる天命を与えられたんじゃないか?』
悪役令嬢にそんな天命与えられるか!!
『例え、俺がこの国の王子に転生していても、攻略できるのは珠緒だけだろうな……』
『珠緒さん?』
『ひいおばあちゃん……おじいちゃんからは家が決めた結婚で仮面夫婦だったって言われていたけど、ひいおじいちゃんがベタ惚れだったみたい……』
『しかも、この助手に瓜二つなんだが俺の事を本当に嫌っていたのか笑った顔を一度も見たことはなかった。
俺が死んだ知らせを聞いて笑っていたかもしれないが……』
『珠緒さんはこの世界に転生されていないのですか?』
『そう期待してこの助手を拾ってみたが性格が正反対だった……
同じ姿形で転生してても、俺を愛してるなど思うことないだろうが、俺の曾孫までいるって事は必死に生きてきたんだろう……
感謝ぐらいは伝えたいからな……
会いたくないと言えば嘘になる』
そう言った瞬間に研究室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「先生、今日の講義でわからないところが……」
と男子生徒が入室してきた。
「あっ……貴方は……」
「アルダシルから留学してきたグレン・アルダシル・ランバートです。」
彼はグレン・アルダシル・ランバート
アルダシル王国の第2王子
《月のカケラ》の攻略対象のキャラ紹介によればたしか、自国で蔓延した疫病の治療&予防方法を見つけるため、近隣諸国の中で唯一発病者を一人も出していないエラトステネス王国に留学にきた。
クールでミステリアスな為大人気なキャラの人だ。
「アルダシル……」
と首を傾げるエリカ
この国でつい30年前まで他国の王族との婚姻が原因で100年ほど戦争が続き、女王のどの国のどの領土の貴族とも結婚しない宣言後はほぼ鎖国状態で入国制限している。
といってもアルダシルのように緊急事態が起きて助けを求める国からの要請には答える。
エラトステネス王国は島国で大陸から離れている事が幸いしてアルダシルのような大陸の国々で流行している疫病の感染者がいなかった。
今まで、感染者が出なかったのは島国という地形のお陰だと思われていたが、この国にたまたまアルダシルからの貿易船の中に感染者が複数いたにも関わらず、蔓延する事なく、この国に入ると感染者の症状も治まり次第に回復した。
しかし、治ったと思い帰国する際にエラトステネス王国を離れた瞬間に感染者は症状を再発した。
それにしても……
「グレン様、私ってやっぱり珍しいですか?」
「これは失礼しました。私の知っている者に似ている顔つきだから眺めてしまいました」
この世界にこんな日本人顔知人が?
って思ったけど大陸の向こう側にはアジアっぽい国があるのかもしれない。
なんて思っていると
『お前は珠緒というものを知っているか?』
とひいおじいちゃんはグレン様に尋ねたが、どうやら彼に日本語通じないのか表情一つ変えず何も答えなかった。
『お前は珠緒というものを知っているか?』
知っているも何も自分の前世は珠緒という異世界の女性だが、それを知っているかのように質問してきたデニス嬢とは何者なのだろうか?
そう言えば入学式で言われていた……
『悪役令嬢って何?』
デニスの正体が解ればアルダシルを救う手掛かりがわかるのだろうか……