プロローグ
あぁ、うるせぇなぁ……
朝っぱらから頭に響くような目覚ましの音なんて聞きたくないんだよ。
ん? 目覚まし?
「うあぁぁぁ!」
今日は俺が新しく入学する事になった清鳴高校の入学式の日。
昔から俺は朝が苦手で、案の定入学式という正式な儀式な日にも寝坊してしまった。
当然朝飯は抜きで、新しくまだ自分の匂いが染み込んでいない制服に袖を通した。
持ち物も詰めている時間がもったいないので、俺は何も持たず部屋から飛び出し、リビングや両親の寝室がある一階へと階段を下っていった。
「あらぁ、和人。朝ごはんは?」
リビングには父さんと母さんがご飯を食べており、母さんが茶碗を持ちながら俺に尋ねた。
「わりー、母さん。今日は朝飯いらねーや」
そう言うと俺は行ってきますも言わず玄関を飛び出した。
外は日差しこそ暑いものの心地よい風が吹き抜けており、その中を全力で駆けていくのはなんとも皮肉である。
住宅地を抜けるとすぐに清鳴高校が俺の視界に入ってくる。
清鳴高校まで走れば五分もかからないで着いてしまう。清鳴高校を受験した理由の1つである。
喉渇いたな……。
風が心地よいといっても俺にとっては喉の潤いを乾燥させるものでしかなかった。
い、いやいや! 遅刻しちゃいけないから走るんだっ!
――俺の足は自然とコンビニへと向かっていた。
自分の気持ちの弱さに嫌気がさす。
「あれっ? 和人じゃん」
俺はその声の主へと視線をずらした。
「え? な、なんで陸がここに?」
俺が驚くのは無理もなかった。
陸も清鳴高校に受かったはずであるのに、私服でアイスを食べながらここにいたからだ。 陸はかなり真面目で中学の時から校則は一度も破ったことは無い。
ツンツンとしたショートヘアが特徴的で身長はスラっとした百八十センチで、俺より十センチも高い。色白な顔とは裏腹に運動真剣はかなり良い。
髪が長めで色黒な俺とは見た目は正反対である。
「え? なんでって……。特に意味は無いんだけど」
陸は視線俺から全く反らさず、不思議そうに尋ねてきた。
「だって真面目なお前が今日の入学式サボるなんて珍しいじゃん」
「え?……」
しばらく沈黙が流れたあと、再び陸が口を開く。
「入学式って……。明日でしょ?」
「マジで!? え……、だって、今日四月十日だよな?」
「今日は九日だよ」
陸は全く悪びれていない顔でそう答えた。
「えっ……」
俺はあまりにも予想外なことを陸に言われて、言葉が何一つ紡ぎ出せずにいた。