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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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090:神よ、何故私を見捨てたのですか

 ――ダーテ王国辺境、ニヒテン村。


 人口百人足らずの小さな村であり、村民達は農耕を主として細々と暮らしていた。

 しかし、王国貴族達はそんな村からも容赦なく徴収を行い、金銭面でも資源面でも大きく圧迫されていた。

 農産物をほとんど持っていかれ、金銭の類も税金としてごっそりと持って行かれてしまう。

 もはや村民はその日を凌ぐのにも苦労していた。にもかかわらず、要求は止まらないため働く事は止められない。

 このままでは村の壊滅もあり得ると判断した村長は、国に対して陳情を行う事にした……。



 ・・・・・



「ここだな、ニヒテン村というのは」


 村の入り口に、何十人かの馬に乗った兵士達が現れた。

 それに気付いた村民は、先頭に居た兵士に「すぐさま村長を呼んで参ります」と言伝し、その場を去った。

 十分足らずして入り口にまでやってきた村長は、その場で平伏して兵士達を歓迎する言葉を述べる。


「私がニヒテン村の村長で御座います。陳情をお聞き届け頂きましてありがとうございます」

「よいよい。民の言葉に耳を傾けるのも我らの仕事だからな。ちゃんと陳情通り、もう飢えるような事が無いようにしてやろう」


 そう言って、兵士はひれ伏している村長の背中に槍を突き立てた。


「がはっ!? な、何を……」

「言ったではないか。もう飢えるような事が無いようにしてやろう、と。ならば、死ねば解決する」

「そ、そんな……馬鹿な……事、が……」


 絶望の表情と共に村長が顔を上げるが、そこを狙って馬の強烈な蹴りが直撃する。


「よし、兵達よ! これより任務を開始する! ニヒテン村の民を飢えから救ってやれ!」


 先頭に居た兵士はリーダーだったようで、後続の兵士達に対して任務の遂行を指示した。

 地面に崩れ落ちた村長が次々と馬に踏まれて無残な事になっているが、それを気にする者は誰も居なかった。




 村の各所から悲鳴が上がり始めたのは、それから間もなくの事だった。

 兵士達が馬上から剣や槍を振るい、次々に遭遇していく村人を殺していく。

 しかし、そんな中である兵士は思ってしまった……。


「待てよ? 最終的にぶっ殺せばいいんだったら、別にどう殺そうとも自由なんだよな……」


 この任務は、極端な話『村人達を飢えから救う』という建前で行われる虐殺である。

 飢えに苦しむ村人が居なくなれば問題が解決するというのであれば、皆の腹を満たしてやるよりも殺し尽くした方が手っ取り早い。

 その分、無駄に食料を消費しなくて済む。ダーテ王国の貴族達にとって、平民に恵んでやる飯など米一粒も無い。

 こき使える人員が減るのは痛手だが、その人員を兵士達に殺させる事でストレスの解消をさせ、士気を維持するようにする。


 兵士達の中には、真面目に正義を志して志願する者も居るが、中には歪んだ思考を持つ者も存在する。

 合法的に人を殺したい、他人を見下したい、任務にかこつけて横暴に振舞いたい――武器を持たせるには極めて危険な思考。

 だが、王国はあえてそう言う兵士を手勢に取り入れている。汚い貴族社会においては、時に非道も必要となる。

 それらを躊躇いなく実行出来るものが必要だ。表面的に活躍する光側の兵団に対し、裏で活躍する闇の兵団と言った所か。




「そーら! 飛んでけやクソガキが!」


 身の丈ほどもある鉄の塊……金棒を、容赦なく小さな子供に向けてフルスイングする兵士。

 当然その一発で子供は飛んでいってしまい、半ばで形を崩しながら民家へ突っ込み、民家諸共に崩壊する。


「ははっ、お前の子供嫌いは異常だな。なんだ、子供に親でも殺されたか?」

「……俺にとっては、家族に等しきものを奪われた」


 子供を殴り飛ばした兵士は、過去に子供から悪質な悪戯を受けた事がある身だった。

 注意をしたものの悪びれる事など無く、親からは「子供のした事なのに」と逆に責められ、かつての同僚からも同様の理由で狭量だと笑われた。

 しかし、その子供の悪戯によって彼は自身の誇りでもあった兵士の鎧を一セット分ダメにされてしまっていた。

 新たな鎧が国の費用で支給されはしたが、最初の鎧は兵士になってからずっと共に戦ってきた思い出の詰まったものだった。


「なるほどな。ま、俺は笑わねぇから安心しろよ」


 そう言いつつ、その兵士も地面に引き倒した女の腹を割いて中身を取り出している。

 ズルズルと腸を引きずり出しては顔を近づけ「臭っせぇ」と顔をしかめ、無造作に地面に放る。

 その後も次々と臓器を取り出しては一つ一つを観察し、用済みのものを捨てていく。


「お前こそ何をやっているんだ? 解剖学にでも興味があるのか」

「女ってのは表面を綺麗に装っていても、中は汚ぇ。今、それを実感した所だ」


 そう言って、女を解剖した兵士が子供を殴り飛ばした兵士の鼻先へ指を近付ける。

 血生臭い臭いと糞の臭いが混じった、何とも言い難い臭いが吐き気を催す。


「はぁ。どっかに居ないもんかねぇ。本当の意味で綺麗な女っての……」

「残念だが、お前の理想を体現するような女は存在しないと思うぞ」

 



 それ以外の場所でも、最終的に殺しさえすれば何をしてもいいという結論に至った者達が好き放題に暴れていた。

 ただ単に女性を犯すだけならまだ可愛いもので、四肢を斬った上で槍に刺して踊っている者や、死体でオブジェを作り出すものなど、狂った者達が本性を現し始めていた。


「ぐへ、ぐへへ……。俺はこいつを持って帰って調教でもしてやろ――ぐはっ!」


 そんな中、肩に女を抱えた兵士が、背後から槍で一突きにされる。


「馬鹿野郎が。俺達の任務はこの村の人間を一人残らず殺し尽くす事だろうが。持ち帰るんじゃねぇよ」


 崩れ落ちる兵士と、落下して地面に倒れる村の女。しかし、これは助けられたのではない。

 任務は殺し尽くす事――当然、この女もその対象になっており、あっさりと首を刎ねられて絶命する。


「やれやれだ。部下が馬鹿だとほんと困るぜ。任務失敗したら俺達が貴族の方々に殺されるだろうが」


 兵士は転がった女の首を手にすると、絶望の表情のまま固まった様子を見てニヤニヤしつつ、切断面を股間へとあてがった。


「くぅ~っ、いっぺん使ってみたかったんだよな。こっちの穴」


 もはや人間扱いすらされていない程の凄まじい惨状に、まだ兵士達の手に掛かっていない村人達は恐怖と絶望で気が狂いそうになっていた。

 自分達もあんな無残に扱われるのか。目の前の光景を自分に投影し、老若男女問わず慟哭を抑える事が出来なかった。

 殺されるなら殺されるでいい。でも楽に殺されたい。もし死ななかったとしても、あんな目にあわされて生き永らえるくらいなら死んでしまいたい。

 そう思うあまり、自殺してしまう村民の姿もあった。死んでさえしまえば、その後に何をされようとも感じる心など無いのだから……。


「神よ、何故私を見捨てたのですか……。我々が、一体何をしたというのですか……」


 いっその事、気が狂ってしまえば楽だったのかもしれない。しかし神に祈りをささげる男はこの場に至っても冷静だった。

 それ故の事だろうか。この地獄のような光景に、凄い勢いで走り込んでくる人間の姿が見えたのは……。



 ・・・・・



「はぁ、はぁ。急ぎ足でエリーティから戻ってみれば……。なんですか、この惨状は……っ!」


 ニヒテン村に駆け込んできたのは、紫髪のメッシーバンが特徴的な眼鏡の女性だった。

 ここまで旅をしてきたのか、比較的軽装な服に、リュックサックを背負っているだけのラフな格好だ。


「おやぁ? こんな所にお客さんとは、想定外だ」


 近くに居た兵士が第三者の存在に気付く。同時に手で合図し、他の兵士達も呼び寄せる。


「その装備……王国の兵士団ですね。こんな所で何をしているのです!」

「何って、任務だよ。俺達は今、飢えに苦しむニヒテン村の民を救ってやってるんだ」

「この目を覆いたくなる惨状が……救っている?」

「あぁ、死ねばもう飢える事も無いだろう? それに、無駄な食料の浪費も減る。一石二鳥じゃないか」

「そこまで……。そこまで腐っていましたかこの国はっっ!」


 女性が怒りと共に炎の魔術を放ち、口上を垂れていた兵士を吹き飛ばす。


「うぉっ! 詠唱も杖も無しに……。こいつ、かなりの使い手だ!」

「何者だテメェ! ただの旅人じゃねーな!?」

「私はゼクレ・テーリン。訳あって外遊に出ていました当王国の王室秘書です」


 ゼクレは眼鏡を指でクイッといじると、懐から金属製の王国の紋章を取り出した。

 これは王家に仕えている者が手渡される証であり、この証がある限りは貴族と同等の権限を発揮できる。


「なんだと!? ……くっ、どうやら紋章は本物のようだな。何故、王室秘書がこんな所に!?」

「外遊に出ていたと言いましたよ。戻った矢先にこの村から悲鳴があがっていたので駆け付けたのです」

「け、けど邪魔をする事は許されないぞ! この命令はファウルネス大公のご命令だ! いくら王室秘書と言えど、大公より権限は下だろう!」

「ファウルネス大公……あの男ですか。確かに、あの男ならこのような事であっても躊躇いなく指示するでしょうね」


 再び炎の魔術が放たれ、一撃二撃と陣取る兵士達を打ち抜いていく。


「あくまでも邪魔をするか! だったらこちらも実力行使だ! 大公の名の下に、逆らう者を処刑するぞ!」


 誰かが叫んだのと同時、皆が雄叫びをあげて一斉にゼクレに向けて突撃する。

 しかし、ゼクレも手慣れたもの。紙一重で攻撃をかわすと同時に零距離で魔術を撃ちこみ確実に落とす。

 魔導師でありながら距離を取らず近接で華麗に戦う姿に、兵士達は初めて恐怖の表情を見せた。

 一方で数少ない存命する村人達は、本当の意味で自分達を救ってくれる救世主がやってきたと感動の涙を流していた。


「ちっ、さすがは王室に身を置くだけの事はあって実力者だな。だが、これならどうだ?」


 兵士の一人が、茫然と戦いを眺めていた子供を抱え込み、刃を首元へ突きつける。


「くっ、卑怯な……!」

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