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006:出立前に

「さて、じゃあまずは行程についてでも話そうか」


 リチェルカーレが机に地図を広げる。ツェントラールと周りの四国が載っている地方地図だ。

 今俺が居るのは、ツェントラールの中心にして首都スイフルにある王城らしい。らしい――と言うのは、俺自身まだ外に出た事が無いからだ。

 ツェントラールを中心にして、左上にダーテ、右上にコンクレンツ、右下にエリーティ、左下にファーミンという配置となっている。


「アタシとしてはまずコンクレンツ帝国を叩いておきたい所だね」

「確か、四国の中で最も攻めてきている国だったな。じゃあ見に行くのもコンクレンツが最初か?」

「いやいや、見に行くんじゃない。そのまま叩き潰しに行ってしまおうと言っているのさ」


 腕組みして得意げに言い放つリチェルカーレ。


「マジ?」

「大マジさ。あぁいう手合いはより強い力で完膚なきまでに叩き潰さないと分からないだろうからね」


 エレナの話を聞いた限りでは、コンクレンツ帝国は覇道を行くタイプの国に思えた。

 仮にツェントラールを落としたらそのまま周りの国にも仕掛けるだろう。そして最終的にはこの地方の統一を狙うに違いない。

 力の信奉者とでも言おうか、悪と言い切る事は出来ないまでも、攻められる側からすれば厄介なこと極まりない。


「だが、どうやって潰すんだ? 全軍で攻め込むのか?」

「アタシが潰すのさ」

「……一人で?」

「そうだよ」

「えっと、本気で言ってます?」

「まぁ、その辺はその時になったらわかるよ」


 神に願い自身の存在を変換し、数百年を生きるという特異な存在となったリチェルカーレ。

 敵国を自分一人で叩き潰せると豪語するのも、それによる自信の表れだろうか。

 人間の寿命を遥かに超えて研鑽する事が出来るというだけでも凄まじいアドバンテージだしな。


「けど、その前に自国の事も知ってもらわないとダメだね。まずはこの首都スイフルを散策しようか」


 城を出てすぐの場所にある広場では、連日バザーが開催されているらしい。

 そこでは農産畜産水産とは別に、こちらの世界ならではの武器防具、魔術道具などの販売もされているのだとか。

 元の世界でも武器防具くらいは趣味の領域で作られているが、さすがに魔術云々となると制作は不可能だ。

 旅の開始から早々に楽しめそうだ。可能であるならば何か買いたいところだが、そういや手持ちの資金が無かったか。


「続いては冒険者ギルドに行こうか。冒険者として登録しておけば何かと便利だからね」

「おぉ、ファンタジー世界定番のやつだな。ちゃんと存在するのか……」

「期待していたのであれば丁度良いね。その時を楽しみにしているといい」


 この国を救った後は、おそらく冒険者として世界を巡る事になるハズだ。

 色々詳しい事を聞きたい気もしたが、まぁギルドへ行った際にその場で聞けばいいだろう。


「その後は、道中で達成できそうな依頼があれば受けつつ、コンクレンツ帝国へと入る事になる訳だが……」

「入った後はどう動くんだ? まさか一直線に攻め込むつもりか?」

「いや、変な動きを見せない限りはただの旅人として扱われるからね。散策しながら進むよ」


 いくら敵国と言えど、末端の町村や人民に罪はない。あくまで討つべきは中心だ。

 それに、他の国を知りたいと言ったのは俺だ。人々の暮らしや文化を見て回るのも目的の一つとしたい。

 何せ俺はカメラマンだ。せっかく来た異世界なんだし、とことんまで取材してやる……。


「ちなみにだけど、このプランは他の皆には内緒にしておくれよ。絶対に反対されるからね」

「だろうな……。コンクレンツに攻め込む、なんて正気の沙汰じゃないし」

「そういう訳だから、打ち合わせはこれで終了だね。他に何か聞いておきたい事はあるかい?」

「魔法について聞きたいな。さっきレミアと戦っていて、気になった事がある」


 彼女は『魔術は魔導師の専売特許』だと言っていた。なぜ魔導師の専売特許が魔術なのか。

 魔術を使うのは魔術師じゃないのか。魔導師は魔導を使うから魔導師なのか――? 俺は一気に浮かんだ疑問を放出していく。


「あー、それはごもっともな質問だね。単純に言うと『魔導』と言うのは、魔力を行使する技術を総称した言葉なんだ。『魔術』と言うのは、魔導の中の一単元に過ぎない」


 魔力を行使して様々な現象を引き起こす魔術。魔力を道具へ注ぎ込み、魔力の宿った道具を作り出す魔工術。

 魔力を自身の中へと巡らせ、身体を強化して戦う魔闘術……など、魔力を用いた分野は様々に存在しているらしい。

 魔術特化なら魔術師、魔工術特化なら魔工師、魔闘術特化なら魔闘師と、それぞれそう呼ばれるという。


「魔導師と言うのは、それら様々な技術を平均以上に使いこなせる者を示す称号だ。王宮に仕えるには、最低限この魔導師でなければならない」


 レミアが魔術は魔導師――と言ったのは、王宮内で魔術の使い手が魔導師しか居なかったからだろうか。


「ちなみに、魔導師だから優秀という訳ではないよ。魔導師があらゆる技術を五のレベルで使えるとするなら、魔術師の中には魔術を十のレベルで使える者も居るからね」


 一芸に秀でているか、平均的に使えるかの違いか。王宮では平均的に使える方を重視している訳だな。

 そりゃあ国のトップの下で様々な任務に携わる訳だから、色々使えないと問題あるわな……。


「それで、肝心の『魔法』についてはどうなんだ? ル・マリオンには魔法って概念はあるのか?」

「あるともさ。ル・マリオンでは、俗に人ではたどり着けない領域にある規格外の力の行使をそう呼んでいる」


 なるほど。例えば、火を起こしたり風を起こしたりなどは、魔術を使わずとも道具を用いる事でも再現可能だ。

 しかし『空間を超える』と言った事や『時間を移動する』と言った事は、魔力の行使無くして実現はあり得ないレベルの事象。

 それこそが人ではたどり着けない領域――まさに、魔法と称するべき規格外の力と言えるだろう。


「ちなみに、いま例に挙げた空間を超える事や時間を撒き戻す事は、魔力の行使を以てしても実現できない事だとされていてね。空間、時間、ここに重力を加えて『魔導師の三大難題』と言われているんだ」


 確かに重力も道具でどうこうできる領域じゃないな……。元の世界の文明ですら到達していない領域だし。

 ましてや空間を超えたり時間を移動するなど夢のまた夢だ。実現するかどうかも怪しいぞ。


「って、俺達さっき空間を飛び越えてこの部屋へやってこなかったか?」

「おぉ、さすがに気付いたね。その通りだよ。アタシは空間を超える魔術を扱う事が出来るのさ。これも人間の寿命を遥かに超えて修練した賜物だね」

「ついさっき『魔力の行使を以てしても実現できない』とか言ってたような……」

「別に『出来ない事だ』とは断言されていないさ。あくまでも『出来ない事だとされている』だ」


 断定した形になっていないのは、古来より三大難題に挑み続ける魔導師達の意地に違いない。

 今のところ実現できていないが、いつかは実現してみせる……そう思い、難題に挑み続ける魔導師が今も何処かに居るのだろう。


 ただ、リチェルカーレ曰く習得には百年以上の歳月を要したらしい。

 古代の魔導書の意味を理解するためにウン年。理解した内容を魔術として発現させるのにウン年。発現した魔術を安定させるまでにウン年。

 そこからさらに、空間の座標に関する知識と計算方法の習得、空間を超える際の負荷軽減の方法確立、空間を超えた際に生じる出口の位置の誤差修正などなど。

 三大難題とされるものは、いずれも数多の行程がある上に、その行程一つ一つの解決にも膨大な年月を費やさねばならない程に難しいものだという。

 人間が生きているうちに習得するのは無理だな。まず、リチェルカーレのような例外でないと不可能だろう……。


「って、さっき空間を超える『魔術』って言わなかったか? さすがにそれは『魔法』と言っていいんじゃないか?」

「魔法は『人ではたどり着けない領域にある規格外の力の行使』と言ったじゃないか。たどり着いたアタシにとってはもう『魔術』なのさ」

「いいのかそれで……」


 まぁ、俺としては別に呼び方なんてどうだっていいんだがな。


「ちなみに俺はその魔力とかいうのを扱う事が出来るのか?」

「それは『資質判断』をしないと何とも言えないね。冒険者ギルドで実施してるから、その時を楽しみにしているといい」

「せっかく異世界に来たんだ。向こうではあり得ない力だし、使えたらいいんだがな……」


 出発は明日の朝となった。行く前に何人かに挨拶して、密やかに出発する予定だ。

 大々的に送り出しでもされたらたまらない。まぁ、それはしないようリチェルカーレが釘を刺しに行く予定らしいが。


「とりあえず今日はまだ時間があるから、今のうちに城内を色々見ておく事をオススメするよ」

「そうさせてもらうか。外以前に、まだこの城の事すらロクに知らないしな……」

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