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056:共和国の闇

 朝。俺達はさっそくエリーティ共和国への侵攻プランを立てていた。

 プランとは言っても、ほぼ一人でコンクレンツ帝国を落としたリチェルカーレが居るのだ。もはやゴリ押しに近い。

 ただ、共和国がひた隠しにしていたあの場所へ入り、後は一直線に本拠地を目指すというだけだ。


「共和国が隠していた場所……ですか。この映像を見る限りですと、ただの荒野に見えますが」

「ただの荒野だったら、わざわざ国境沿いに豊かに見える町を作ってまで存在を隠蔽したりはしないだろ……」


 今は昨晩撮影した映像をノートパソコンで再生しており、三人でそれを眺めている。

 さすがは暗視カメラ、夜の荒野もバッチリだ。にしても、ほんとに明かり一つない空間だな。


「リューイチの言う通りさ。あの荒野には、表沙汰になってはマズイものが色々とあるんだよ」

「表沙汰になってはマズイようなものを、何故貴方は知っているんですか?」

「アタシは引きこもっている間にも外の情報を知るために色々な伝手を用意していたんだ」


 半端ないなその伝手。国外秘の秘密を取ってくるなんて……まさかあのメイド長じゃないだろうな。


「残念ながらリューイチが想像しているであろう人物とはまた別なんだ。あの子は基本的にツェントラールから出ないからね」


 俺が思い浮かべる人物が他になかった事もあってか、ズバリ言い当てられた気がする。長年生きているだけあってか、メイド長ですらも『あの子』呼ばわりなんだな。

 そう言えばメイド長は王家の専属であり国に仕えている身だったか。そんな立場の人間が国を蔑ろにして外へ出る訳にもいかないか。


「それで、その荒野にはどうやって侵入するのですか? まともに行けそうな場所に心当たりがあるとかですか?」

「どうやっても何も、こうやってだよ」

「ひゃあ!?」


 リチェルカーレが指を鳴らすと同時、床に黒い穴が開き、レミアがその中へと落下していく。

 俺は慣れてきた事もあってか、穴が開くのと同時に飛び込むようにして、出先での着地を既に考慮している。



 ・・・・・



「痛った!」


 中空に空いた穴から落下し、思いっきり尻餅をついてしまうレミア。

 普通に段差から飛び降りたかのように着地する俺。そして、大物感漂わせてゆっくり降下してくるリチェルカーレ。


「い、いきなり何が……って、ここは!?」


 レミアの驚きようからして、もしかして自分自身は空間転移を経験した事が無かったんだろうか。

 コンクレンツ帝国で指輪を提供された部隊長達が転移しているのを見ていたとはいえ、普段あんまり縁のない事ならば驚きもするか。


「目的地到着だよ」


 俺達は一瞬にして、当の荒野へと転移していた。後ろを振り返ってみれば、壁に囲まれたシェーナの町並が見える。

 さぁ、一体ここに何があるって言うんだ……? リチェルカーレの言う、とびっきりの闇とは……。



 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――!!!!!



 突如鳴り響くサイレン。まるで深夜に鳴り響く消防団召集のサイレンのごとく、辺り一帯に響き渡る大音量だ。

 原因は言わずもがな分かっている……俺達だ。国がひた隠しにしてきた場所へ侵入しておいて、何事も無い訳が無いのだ。


「ど、どうするんですか! いきなりこんな事になってしまいましたよ!?」

「慌てる必要はないさ。どうせこれから力押しで突っ切るんだ。それに、お待ちかねの『闇』の一つ目が見られるよ」


 俺達の目の前の土壌がボコボコと蠢き、中から何かが這いずりだしてくる。

 一体や二体じゃない、それこそ百では利かない程の数だ……一体何が出てきたというんだ?


「ひぃっ。あ、あれは……ゾンビですっ!」


 怯えたような声で叫ぶレミア。確かに、姿を良く見てみると人間の姿をしているが、部位欠損や骨の露出が見られるな。

 中には年月が経過しているのか腐敗した者も見られる。嫌な臭いがこちらにまで漂ってきたぞ……。


「わ、私ゾンビは苦手なんです……。切っても切っても倒せないし、何より気持ち悪くて……うぅっ」


 確かアンデッドは『邪悪な気で動く存在』だったな。その元の気を絶たない限り、いくら肉体を傷つけても意味が無いという。

 一番効果的なのは法力の光だが、光であるならば魔力の光でも代用できるが……レミアって光使えたっけ?

 確か、謁見時の対決では魔術に関して「そんな器用な真似は出来ない」とか言ってたか。なるほど、対処法が無いな。


「はいはい、こんな時のための救世主サマを呼ぶよ」


 リチェルカーレがパンパンッと手を叩くと、黒い穴が開いておなじみ死者の王が顔を出す。


「ひゃわあぁぁぁぁ! こ、今度は何ですかぁ!?」


 びっくり仰天するレミア。そういや死者の王の事は知らなかったか。


『そちらのお嬢さんは初めましてかな? 我は死者の王。俗に言うリッチという種族のアンデッドである』

「ハ、ハジメマシテ……」


 まるでロボットのようにぎこちなく返事するレミア。王が勝手に彼女の手を取り握手をしているが、彼女の目は明後日の方向を向いている。


「まぁレミアはさておき、今はこんな状況だ。お願いしていいかい?」

『うむ。我にとってゾンビは下僕も同然。この状況、わざわざ我のために兵を用意してもらったに等しい』

「何とも愚かしい事だよ。よりにもよって死者の王たるリッチに対して死者をけしかけるなんてね」

「いや、あちらさんもさすがにそれは予想できないと思うぞ……」

『何であれせっかくのプレゼントだ。ここはご厚意に甘えて根こそぎ頂こうではないか』


 王が右手を掲げると、目に見えて黒いオーラがゾンビ達に向けて解き放たれる……。すると、ゆったりとこちらに向けて歩いていたゾンビ達がぴたりと動きを止めた。


『右手上げて! 左手上げて! 右手下げないで左手下げる! ……うむ』


 うむ、じゃないよ。ゾンビに何やらせてんだ王は。ゾンビ達はゾンビ達でしっかり指示に従ってやっているし……。

 手が欠損しているゾンビ達が気持ち「?」って顔をしているように見えるのは気のせいか。手が無いと上げる事が出来ないもんなぁ。


『回れ右ッ!』


 ゆったりとした動作ながらも、ゾンビ達がクルリと回転する。足が欠損している個体も、何とかして転回しようともがいている。実に忠実だ。


『では行け、我がゾンビ軍団よ! 共和国の兵共を蹴散らすのだ!』


 ドタドタと前進を始めるゾンビ軍団。かなり進軍ペースが遅いように感じるが、一応これでも走っているのだろう。ゾンビと言えば鈍足だからな……。

 機敏なゾンビとか見た事ないわ。とは言え、見た事が無いからといって存在しないと決めつけるのは危険だな。思い込みは視野を狭める。


「えぇい、まだるっこしい! もっとペース上げろ腐乱死体共!」


 今度はリチェルカーレがゾンビ達に向けて光を放つ。すると、ゾンビ達の姿勢が徐々に整い始め、しまいにはマラソン選手ばりに全力疾走を始めた。

 言ってるそばから機敏なゾンビを見る事になるとは思わなかった。リチェルカーレが身体強化の魔術をかけたんだろうが、ゾンビにまで効果があるのかよ。

 足の欠損で上手く走れない個体は腕の力で匍匐前進の如く走るゾンビ達を追従していく……。昔見た道徳のアニメを思い出す光景だな。


「さて、これで戦線は大混乱のハズさ。アタシ達はまったりとついて行こうじゃないか」


 リチェルカーレはいつの間にか召喚されていた王の馬車へと乗り込んでいく。俺もそれに続く。

 しかしレミアが呆けたまま状況について来れていない。まぁ、目の前で起こっているのは異様な事だからな……。

 俺はと言えば、コンクレンツ帝国で濃密過ぎる時間を過ごしたせいで耐性が付いてしまった。


「あぁ面倒くさい、早く乗れっ」


 リチェルカーレが手を叩くとレミアの足元に穴が開き、呆けていた彼女はそのまま転落してしまう。

 落ちてきた先は俺達が乗り込んでいる馬車の中だ。強引に移動させてしまうところが何ともリチェルカーレらしい。


「あ、あれっ? ここは、一体……」

「ここは王が用意してくれた馬車の中さ。前を見るといい」


 そう言ってレミアが前方の窓にかかっているカーテンを開いて外を見た途端に「ひっ」と唸った。

 そこには王が腰を下ろしており、御者として馬を操っている後ろ姿が。


「そ、そう言えばさっき、リッチを召喚してましたね……。夢とかでは無かったんですね……」

「もしかしてゾンビだけでなくガイコツも苦手なのか?」

「いえ、ゾンビは見た目が気持ち悪いですけど、ガイコツはそんなに……ですが……」

「おそらくレミアは王の気に当てられているのさ。常人ならば気を失う程の圧倒的な死の気配を敏感に感じているからこそ、恐れが芽生えているんだ」


 俺が何ともないのは、おそらくコンクレンツ帝国におけるリチェルカーレの荒行のせいだろう。

 死の気配に恐れを感じているという事は、つまり死を恐れているという事。今や死すらも戦いに利用する俺は既に感覚がマヒしているという事なのだろう。

 かと言って、レミアの前で王の眷属を演じていた時のような振る舞いはしづらいな……何か別のやり方を考えないと。



「……そうですか。ゾンビ達を支配下に置いて共和国兵に向けて突撃させたと」


 リチェルカーレから現状の説明を受けたレミアはため息をついていた。

 普通だったら、あの場面では死力を尽くしてゾンビ共を蹴散らし、戦場を熱く駆け抜けるような場面であったハズだ。

 それをこう――何とも異様な手段で対応してしまうというのはなかなか理解が追い付かないのだろう。


「そういやゾンビってのは自然に発生するものなのか? 意図して生み出すものなのか?」

「ゾンビは死体に瘴気が詰まりに詰まったものが生前の本能的な部分を動かす事で成り立つものなんだ。だから、自然にも発生するし、意図して生み出す事も出来る。前者で言うと、瘴気が濃厚な場所において志半ばで力尽きた冒険者などが変貌するケース。後者で言うと、処刑した死体などに強引に瘴気を注ぎ込んで変貌させるケースだね。今回のゾンビは、言わずもがな……だけどね」

「つまりは処刑された人達が変貌させられたってケースか。何百人以上も居たが、まさか全部ゾンビにするために……?」

「それはないと思うよ。ゾンビ化した人間は倒すのが厄介にはなるけど、知性は失われてコントロールも効かないし、兵力としての運用が難しい。わざわざ生きている人間を殺してまでゾンビ化させるメリットはない」

「あくまでも別件で処刑された人間達を再利用している……って事だな」


 にしては数が多い。この国が共和国とは名ばかりな『あの国』と同様だというのなら、おそらくはくだらない理由で処刑された者が多いんだろうな。

 指導者に口答えしたとか、会議中に居眠りしていたとか、他所の国の娯楽に触れていたとか。この調子だと、ハンガーを投げつけたりしただけでも殺されてしまいそうだ。

 当人だけならまだしも、一族郎党諸共にってケースもあっただろう。それこそ、指導者の匙加減一つで軽く人が死ぬ。何とも命の価値が軽い国だ……。


 コンクレンツ帝国とは違う意味でぶっ潰さなければならないな。こんな国の影響がツェントラールにまで及んだらと思うと恐ろしい。

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