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488:富士の山に桜が咲く

 大地を揺らす衝撃が収まり、舞った土煙も収まろうかというその時、サクラは驚愕する事となった。


「……噓でしょ?」

「残念だが、届かないね。()()じゃあ足りない」


 リチェルカーレは指二本――人差し指と中指だけでサクラの刀を挟んで受け止めていた。


「魔力障壁を打ち破るだけの力はあるようだけど、アタシ自身の防御を破るには至らなかったね……残念だ。少し前に挑んできたカンプナルはアタシの顔に拳を当てて出血させたんだけどね。キミは弟弟子にも劣るのかい?」

「カンプナルが……大姐ダージェを出血させた……? アイツの拳の方が私の剣よりも強いと!?」


 激昂するサクラ。闘神と呼ばれたカンプナルは、彼女よりも後に賢者ローゼステリアの弟子となった男である。

 強さを求めひたすらに剣の道を追求してきた彼女が「弟弟子に劣る」と言われてしまった事は、何よりもプライドを刺激するものだった。


「(くっ、刀を抜いて……抜けない!? だったら手の方を離……離せない!?)」


 サクラは体勢を立て直そうと手を引くも、尋常じゃない力でつかまれているのか刀を抜く事が出来なかった。

 ならば手の方を離せばと思い至るも時既に遅し。リチェルカーレは既にサクラを拘束する魔術を張り巡らせていた。


「さて、お馬鹿な妹弟子には手痛いお仕置きをしないとね。これでもまだ分からないようなら、次は本当に――」

「あ、あの……大姐……?」


 右掌に魔力を溜めるリチェルカーレに冷や汗を流すサクラ。籠められている魔力量が尋常じゃない。

 刀を振り下ろしたままの姿勢で固められているサクラの腹部へ向けて、魔力が込められた掌が容赦なく叩き込まれる。

 ズダァン! と、まるで衝突事故でも起きたかのような轟音と共にサクラが空の彼方へと吹っ飛んでいく。


 ◆


「うっそだろ、おい。あのサクラの攻撃ですら通らないのかよ……」

「俺は魔女の魔力障壁すら破れなかったが、魔力障壁を破ったとしても魔女自身の防御力が尋常ではないときたか。とんだ罠だな」


 スラーンとスネイデンが唖然としている。ここしばらくサクラに修行を付けてもらっていたらしいから、強さを良く知っているんだろうな。

 自分達の遥か先に居るサクラですら通用しない。魔女――リチェルカーレに刃を届かせる事を目標にしているスラーンからすれば絶望的な事実だろう。

 日常的なじゃれ合いでなら俺のゲンコツでもダメージを受けるんだけどな。戦闘モードとなると、アイツはほんと無敵だな。


「フジヤマの攻撃が通らなかったからパワーで勝るサクラで挑んだんだろうに、それでも無理となると……どうするんだ?」

「少なくとも俺達の前では今まで全く本気を出していなかった。ここまで劣勢であるならば、本気を――」

「――既に出していたと思うぞ。あのリチェルカーレを前に、手を抜いて攻撃するなんて出来るか? あんた達はどうだった?」


 リチェルカーレは対峙した時点で既に圧倒的な力の片鱗を見せていた。これを感じ取れないような奴はただの馬鹿だろう。


「……言われてみれば、俺も初対面の時は「本気でやらなければ不興を買う」と思わされたな」

「本気を誘ってきた上でそれを正面から叩き潰し心を折る……。龍伐を一時的に解散し、各々が修行に励む事になるきっかけになった事件だったな」


 彼ら曰く、結果として飛躍的に強くなれたのだから、リチェルカーレに大敗した事については後悔していないらしい。

 ただ、未だに剣聖へたどり着けていない事と、目指す目標が想像以上に高い壁であった事を痛感させられ凹んでもいるとの事だった。

 わかるぞ。俺も日々修行を続けて鍛えてはいるつもりだが、最前線組には追いつけている気がしないからな。



 ◆



「おっと、ちょっとばかり飛ばし過ぎてしまったようだ」


 指をパチンと鳴らすと、中空に空間の穴が開き、そこから飛んで行ったハズのサクラが墜落してきた。

 勢いそのままに墜落して土煙が舞い、小さなクレーターが形成された。その中心部でサクラは苦しそうな表情を浮かべつつも何とか起き上がるが、すぐその場に伏せて嘔吐してしまった。


「おっ、うえぇぇっ。げえぇぇぇぇぇ……」

「さすがに効いたろう? さぁ、どうする。フジヤマ、サクラ――」

「悔しいけど、()()()()じゃまだまだ及ばないみたい」


 倒れ伏すサクラ。直後、彼女の姿が霞のように掻き消えていき、別の人物へと姿が切り替わった。

 フジヤマに交代――ではない。大きな体格のフジヤマに反して、今現れた人物はサクラと比べてもさらに小柄である。

 加えてショートボブと言った感じの黒髪は、二人の特徴と比べても全く異なるものだ。


「……不覚です。フジヤマとしても、サクラとしても貴方に勝てないとは。想像以上に差は大きかったようです」


 第三の人物が起き上がる。サクラと比べて少し幼めの顔立ち、つり目気味で気の強さを感じさせる表情。

 それでいてクールさを感じさせる声色はサクラよりも大人びた感じであり、見た目とのギャップを感じさせる。


「久しぶりだね。ようやく本当の意味での再会となった訳だ。賢者ローゼステリア十二人の弟子の一人、序列八――剣聖・富士山(ふじやま) (さくら)

「本当にお久しぶりですね、大姐。まさか再びこの姿で貴方の前に立つ事になろうとは……」


 富士山桜。それこそがフジヤマとサクラ――二つの姿を持つ侍の本当の姿であった。

 彼女はそれぞれ違う方向性の剣術を極めるために異なる性別、異なる体格の姿となって日々修行を続けていた。

 自身が女性であるにもかかわらず、わざわざ別の女性の姿になっていたのは体格の問題であるらしい。


「剣聖!? フジヤマ……いや、サクラか? とにかく、貴方が剣聖だったのか!?」

「黙っていて申し訳ありません。確かに周りからそう称されてはいるのですが、私自身はとてもそのような称号を名乗れるようなものではないと思っていましたので」


 剣聖は謙虚であった。自分自身がまだまだ途上にあると思っているため、まるで剣の頂点とでも言わんばかりのその称号を自称するのを避けていた。


「と言う事は、俺達は既に剣聖の修行を受けていたと言う事か……」

「通りで飛躍的に成長出来てる訳だ。今思えば、フジヤマもサクラも教え方が上手かったからな」


 剣聖を探し求めていた二人からすれば寝耳に水の話であるが、知らず知らずのうちに望みを叶えてもいた。

 自身の剣術を磨き上げると言う目的は、この上ない最高の指導者によって達成されていたのだ。


「良い弟子に恵まれてよかったね、桜」

「弟子……と思った事はありませんでしたが、とても良き原石であるとは思います」

「どちらにしろ、君が指導した子達の前でみっともない所は見せられないよ」

「心得ております。フジヤマでもサクラもない、富士山桜としての全力でぶつかるつもりです」


 桜もまた、リチェルカーレと同じく空間に穴を開いて自身の刀を取り出す。


「大姐と同じく、私も久々に専用の刀を使う事になりますね。力を貸してください――『永久桜とわさくら』」


 白とピンクを主体で構成されたデザインの可愛らしい鞘、桜を象徴するかの如き色の刀身。

 パッと見は『女の子向けの刀』と言ったデザインに見えるが、披露された刀身からはギラギラとした鋭い『剣気』とも言える力が放たれていた。

 漆黒で不気味な気を放つ妖刀の如き『終焉之正宗』とは対極的に、永久桜から放たれる力は『聖刀』とでも称されるべき清廉なものだった。

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