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348:適した力

「行きますよ、先生……!」


 再び地面を強く蹴り、弾丸のように飛び出していくエレナ。

 先程と同じように大司教が黒い気を噴出させて攻撃を防ごうとするが、さすがに同じ手は通じない。

 掌により強大な法力を纏わせ、一点集中で気の壁を突き破って大司教に法力の刃を突き立てる。


 大司教の肉体が肥大化している事により、エレナの攻撃が通ったのは腹部に位置する部分だった。

 本来であれば首元の首飾りを砕けるような位置関係だった事を考えると、大司教の肥大化は明らかに倍以上。

 貫かれた腹部から血がこぼれるも、その程度では全くダメージすら感じていない様だった。


 そして、エレナが突き刺した手を抜くと、その瞬間にも傷口が再生してしまう。

 生半可な攻撃は全く意味を成さない。大司教を暴走させている首飾りが放出する邪悪なる力も衰える気配を見せない。

 その影響でますます大司教が人外と化して行き、ついには口からビームを放出するまでに至ってしまう。


(……さすがに変貌しすぎですよ。元に戻せるのでしょうか)


 法力を纏わせた手をバリア代わりにしてビームを弾くと、流れ弾が大聖堂を打ち貫き天井に大穴を開けてしまう。

 そんな事お構いなしに大司教は次々とビームを放ってくる。エレナも喰らうためにもいかないため次々と弾き飛ばすが、その度に大聖堂が崩壊していく。


「エレナ! このままでは大聖堂が崩壊してしまいます!」


 レミアの指摘で、ようやく状況を把握。このままここで戦い続けていたら大聖堂が崩壊して一網打尽となってしまう。

 かと言って、大司教を外へ弾き飛ばして戦闘を続ければ、今度は町が大惨事に陥ってしまい、現在以上の被害が出てしまう。

 そこまで至って、エレナはアンティナートに眠る歴代教皇達が持つ力の中から、この状況に適した力を引き出す。


(そう。これはリチェルカーレさんも使っていた……)


 エレナから放たれる法力が大聖堂の中を眩く照らす。まるで屋内に太陽が生まれたかのようだ。

 目を開けていられない程の光に、敵も味方も関係なく皆が等しく視界を奪われる。

 もちろん、一部の者達はそんな状況にすら対応しており、対応できた者達だけが何が起きたかを正しくを認識する。


「へぇ、あの子も至ったか。ま、次元の違う戦いをするにあたっては必須だからね……」


 嬉しそうに頷くのはリチェルカーレ。もちろん彼女はエレナが何をしたのか把握している。

 力を持ち過ぎた者達がそのままこの世界で戦いを始めてしまえば、世界そのものが崩壊してもおかしくない。

 そのため、力によって『自分の世界』を作り出し、そこで思う存分に力を振るうという手段に至る。


 エレナはまさにそれを実現したのだ。彼女自身の力に加え、アンティナートで上乗せした力と、歴代教皇の知識。

 それらを合わせ、彼女もまたリチェルカーレ達のような規格外の領域へようやく踏み込む事となった。

 エレナと大司教がこの場から消えたのは、エレナが自身の世界へ招き入れる相手を大司教のみと決めたからである。


 それによって、大聖堂では邪悪なる力の供給が断たれ、一般参加者達や聖騎士達が気を失ってその場へ倒れていく。

 幸いにもこの時点で死亡者は無し。少なからず損傷を負わせてしまった者達も居たが、力の供給が断たれる前に傷付けられた者達は既に回復済みだ。

 念には念をと言う事で、エレナの決着が付いた後には邪悪なる力に冒された身体の浄化も含め、完全な形での治療を施す事になるだろう。


 ◆


「ここは、ミネルヴァ聖教の本殿……」


 確か、力で作り出された領域は『当人の思い出』が反映される。となると、私の思い出として強く印象に残っているのは、やはり――幼い頃を過ごしていたレリジオーネのミネルヴァ聖教本殿。私にとっての『自宅』と言う事ですね。

 今となっては欲望の権化たる父ですが、幼き頃は良き父親であったように思います。当時の私の前ではそういう姿を見せていなかっただけなのかもしれませんが、当時の私には見えるものこそが全てでしたからね。

 そんな父と共にミネルヴァ聖教の教えを学び、法力の扱い方を学び、そして家族の暖かさを学んだ。それが本殿の中でも一番広大で荘厳な大広間。数百人を収容して大規模な儀式を行う事も可能な、本殿の主要とも言える部分。


(……やはり、いつかは決着を付けなければならないと言う事ですね。お父様)


 改めて自分自身に業を突き付けられた気分ですね。でも、今はそれよりもやらなければならない事が控えている。

 先生は暴走させられながらもまだ周りを見るだけの知性は残っているようで、明らかに自分の居場所が変化した事に気付いている。 

 戸惑っているのかと思いましたが、しばらく辺りを見回した後、人外と化した大きな口をニヤァと広げて不気味に笑った。


 直後、先生の首元に下げられていた首飾りが胸元へと沈み込んでいく……。さすがに、それが狙いである事には気付きますよね。

 ですが、関係ありません。肉の中に埋め込まれてしまったのであれば、その肉諸共に破壊するだけの話です。

 こちらの決意を察したのか、先生は溢れる力を容赦なく四方八方へと噴出させる。もはやそれは私と言う一個人への攻撃では無かった。


 根源から溢れ出る力をただ勢い良く放出しただけ。それだけでいくつもの力の奔流が生まれ、本殿の大広間を抉る。

 そちらがその気なら、こちらも……。先生と同じように、私の内を巡る法力を束ねて撃ってみましょう!


 ◆


 エレナの法力が収束し、ビームとなって大司教を撃つ。大司教は己を包む力をそのままバリアとして利用し、攻撃を受け止める。

 しかし、その威力に踏ん張りがきかないのかそのまま押されて行き、大広間の壁に激突してそのまま突き破ってしまう。

 崩れる瓦礫の中に埋もれる……かと思いきや、大爆発が起きて辺り一帯が丸々消し飛ぶ。言わずもがな、大司教の仕業である。


 その隙を逃すエレナではなく、いつの間にか間近にまで来ていた彼女は大司教の胸部を狙って攻撃を仕掛ける。

 しかし、そこに拳を合わせられてしまい、ぶつかり合った拳が衝撃波を発生させ、広間の石畳をゴリゴリと破壊していく。

 互いに一撃を決めようと拳足を突き出し合うが、双方共に『回避する』という選択肢はないのか、一歩も下がる事なく攻防を続ける。


 神官の女性と異形と化した巨躯の撃ち合いは、端から見れば無謀極まりない対戦カードである。

 女性が闘気を得意とする前衛タイプであればまだ分かるのだが、後衛タイプの神官だからなおの事だ。

 その上で、事もあろうに神官の女性の方がやや優勢なのだから、非常識極まりない状況である。


 時には正面から拳や足をぶつけ合い、時には上手く受ける事でいなし、互いの拳足が届く間合いを維持。

 攻防の過程で、互いの額が割れるほどの勢いで頭を突き合わせた事もある。だが、血が出ようが骨が折れようがお構いなし。

 エレナは溢れる法力で、大司教は邪悪なる力で瞬時に回復し、損傷と回復を幾度となく繰り返す。


 当然の事ながら、その間にも二人は移動を続けているため、広間……いや、本殿そのものはもう見る影もない程破壊され尽くしている。

 本殿が破壊された事で外側に広がっている世界が見える。しかし、そこにあるのは何処までも続く不毛の大地と曇天のみ。

 エレナが作り出した世界であるが故に、彼女の心理が反映されたものとなっている。そのため、この大地と空はエレナの心そのもの。


「はぁ、はぁっ……。まさか、こんな形で先生と戦う事になるなんて……ぐぅっ!?」


 岩のような巨腕がエレナの腹部を撃つが、その直後にエレナの拳が大司教の頬を撃ち抜く。

 その細腕からは信じられない程の力が載せられた衝撃で、大司教の首はあらぬ方向へ曲がりつつ、そのまま仰向けに転倒。

 すかさず起き上がろうとするが、今度は起き上がりに合わせられた回し蹴りが大司教の顔面を射貫いた。


「その力の源を破壊します!」


 右手に太陽を具現化したかの如き強い光を収束させ、再び倒れた大司教の胸部にそれを突き刺した。

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