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342:次の国へ……行くか否か

 それぞれのやりたい事、やるべき事を終えた一同は、宿泊先のロビーに集まっていた。

 竜一は、宿から提供された朝食を堪能しつつ、周りで食事するメンバーの様子をチラチラと窺ってみた。

 皆いずれも明るい顔だ。特に、少し前まで何か思い悩んでいたハルも、すっかり暗さが消えている。


(どうやら、問題は解決したみたいだな……。細かく聞くのは野暮か)


 竜一達は共に旅をする仲間ではあるが、全てをさらけ出してしまえる程の親密な間柄でも無い。

 故に、相手側から自発的に話題に出さない限りは掘り下げるのはやめておこうと考えた。


「さて、それぞれの行動が終わって再び集まった訳だが、今後はどう動いてくのかを考えようと思う。何か意見はあるか?」

「次の国は『タサヴァルタ』になる訳だけど、陸路で行くならスヴェリエを大幅に北上してから南下するというルートを辿る必要がある。けど、船を使えば大幅なショートカットが出来る」


 リチェルカーレが魔術で壁に地図を投影し、続けてスヴェリエとタサヴァルタに色を付けて分かりやすく表示してみせる。

 竜一の世界――地球に当てはめて考えてみると、陸路はスウェーデンを北上して地図上側から南下してフィンランドへ入る形となる。

 海路はストックホルムからオーランド諸島を経て、フィンランドの南西スオミへ渡るような感じである。


(迂回して陸路か、ショートカットの海路か……)


 ◆


 俺はミネルヴァ様によってこの世界へと召喚された。

 召喚された直後は、まず『俺の召喚を願った者の目的』を達成するために動く必要があった。

 だが、その目的が達成された後は……自由だ。そして、俺は今まさに自由の只中にある。


 俺はその後の目的を『ル・マリオンを巡る』と決めた。平たく言えば『世界一周旅行』みたいなものだ。

 そう決めた以上、この世界の国々は可能な限り隅々まで巡りたい。だが、同時に思う事もある。

 それは「この一巡で本当に隅から隅まで巡る気」なのかという、世界一周旅行と矛盾するような事だったからだ。


 しかし、どうルートを巡るにしても、必ず『通過しない場所』というのは生じてしまうものだ。

 それを埋めようとして戻ったりするのも良いが、そうやって特定区域内を完全制覇するまでしらみつぶしに動き回るのが、果たして『旅』と言えるのか。

 その時定めたルートに従って一方通行で通り抜けていき、道中で何かしらを取りこぼすくらい緩い方が、如何にも『旅』って感じがする。


 そもそも、ピアカデア地方に降り立った直後のコンゲリケットをあっさりと横切っているんだよな。

 本当にこの国をしっかり巡るなら、斜めに伸びた国の形状に従って俺達も斜めに向かって進むべきだった。

 だが実際はそうしていない。そして、その事について俺自身も全く異論を挟まなかった。


 何故なら、巡っていない場所は『また別の機会に廻れば良い』という、至極単純な答えに行きついたからだ。

 俺は既に自由を与えられた身。世界を一周したらもうそれっきりと言う訳ではない。別に何周だってしてもいいんだ。

 その時に、今回巡っていなかった別のルートで改めて一周する。それを今後の人生で何度も繰り返せばいい。


 ゲームだってそうだ。一周目で全てやり尽くそうとしても、必ずやり尽くせない『何か』が存在する。

 そういった『何か』に出会えるのは、決まって二周目に入ってからである。だからこそ、一周目は駆け抜けてしまうのも手。

 故に、俺は状況によってはショートカットするのもアリだと考える。後はそのための大きな判断材料が欲しい。


「陸路の方は何か行っておいた方が良いような場所ってあるか?」

「んー、これと言って有名な名所とかはないかな。そういうのは大抵この王都や南側、離島にある感じだね」

「北の方は物凄く寒いですから、季節によっては氷で作られたホテルが建つのですが……」


 氷で作られたホテルか。確かに北国においては名物と言える場所の一つだな。


「優れた術者であれば、真夏だろうが砂漠のど真ん中であろうが氷のオブジェなんて作れてしまうからねぇ。別に珍しくもなんともない」


 魔術という概念があるこの世界においては、それこそ季節も場所も問わない……か。

 地球上だったら本当にその場所その時期でしか見れないんだろうが、ル・マリオンだと価値は薄く感じるな。


「王都にある名物や、離島や南側にあるものについては?」

「特に有名なものと言えば、博物館や庭園ですね。大昔の船舶を展示した所や、世界的に有名な賞にまつわるものを展示する所、伝統的な生活や家屋を展示する所がありますよ」

「庭園の方は元々王家の別荘だった場所を大衆向けに開放した所だそうで、植物園や菜園、果樹園やオープンカフェなど色々見て回る事が出来ますね」


 レミアとエレナのテンションが上がってきている。どうやら、各々にとって好きな方向性のようだ。

 王都内にあるというならば、ついでに寄ってもいいかもしれないな。俺もこの世界の昔の事や、世界的に有名な賞も気になる所だ。


「離島は町自体が世界遺産になっている所もありますし、この王国の南には国内でも最も古い歴史を持つ大聖堂があったりしますね」

「大聖堂……」


 レミアが言及した大聖堂。この単語を聞いた瞬間にエレナの表情が曇った。

 彼女はミネルヴァ聖教の現教皇ヴェーゼルの娘であったが、欲にまみれて腐れ切ったミネルヴァ聖教に絶望して出奔した身。

 ミネルヴァ聖教の大聖堂ともなると、腐敗の中心に近い大物が仕切っているだろう。エレナにとっては敵地だ。


「……よし、じゃあその大聖堂を潰しに行くのは確定だな」

「リューイチさん、いいんですか?」

「あぁ、俺達は明確な目的を持っている訳でも急いでいる訳でもない。やりたい事があったらやるべきだ」


 俺は他の皆にも何か行きたい場所ややりたい事がないかを尋ねてみる。


「あ、あの。ピアカデア地方ではこの地ゆかりの聖人の列聖を祝い、悪霊などの邪悪や病気を退ける祈りを捧げる祭があると聞きました」

「残念ながら少し時期を外れちゃってるね……。ちなみにその祭はスヴェリエだけじゃなくタサヴァルタやアレマンなど色々な国で行われてるよ」


 その特徴からするに、俺達の世界で言う『ワルプルギスの夜』の事だな。

 ただ、この世界だとガチで悪霊が存在するし、病気などを退ける祈り――と言うか法術も実在するからな……。

 それどころか、祭の日にはミネルヴァ様がちゃっかり加護を与えていたりしてな。


(ご名答)


 俺の心の中へわざわざご回答ありがとうございます。ガチの加護がもたらされているとか、民衆は知る由もないだろうな。

 残念ながら、時期的に今回はルーの願望を叶える機会は無さそうだ。だが、いつか祭の時期に再訪したいものだ。

 とりあえず次の目的地は『大聖堂』だな。腐敗したミネルヴァ聖教の拠点を一つ潰して、エレナの勢力圏を拡大するぞ。


 そんな感じで、相談の結果まだ隣の国には渡らず、国内を南下する事になった。

 最初はどうやって隣の国へ行くかの相談だったはずだが、物事はどう転ぶか分からないものだな。

 だが、そんな行き当たりばったりもまた面白い。綿密な計画とはまた違った楽しさがある。


「よし、じゃあ大聖堂……の前に、王都内の博物館や庭園を見て回るか」

「「「「「「賛成!」」」」」」

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