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031:武術大会襲撃

「やぁ、おはよう。気分はどうだい?」


 朝、起きたら室内にリチェルカーレが居た。しかもダイナマーイモード。あぁ、そういや膝枕してくれていたんだっけ……。


『ご主人。仕掛けておいた罠に何人か引っかかったようだ』


 俺たちが戻ってきた後、王はリチェルカーレがあちらこちらに仕掛けた罠を見て回っていたらしい。

 朝になる頃には、既に何人かがその罠に掛かっていたのだという。やはりエンデの町は危険なところなんだな。


「……どうなったのか、聞いても?」

「みんなしてアタシが開けておいた次元の穴に落ちたんけど、実はその穴の中にはとんでもない怪物が居てね……」

「あー、もういい。その時点でオチがわかった」


 体よくエサにされたって訳か。怪物といえど生物なのだろうし、腹も減るというわけか。

 そういう事なら、落ちた奴らは失踪したまま二度と帰ってくる事は無いな。

 この町のルールで言えば、次元の穴から出てくる事が出来ない弱者が悪いって訳だ。


「ロビーで王の威容を目にしておきながら襲撃してくるとは、中々に肝が据わった者達が居たものだね」

「今となっては影も形も無いけどな。けど、確かに良く襲撃をかけようと思ったもんだ」


 ロビーの座席に腰を下ろし、朝ごはんに舌鼓を打っていると、少し離れた座席からこちらを睨みつけて舌打ちしている男の存在が目に入った。

 恰好からするに神官のようだ。エレナの講話中、列席していた者達の格好によく似ているぞ……。


『分かりやす過ぎる程の負の感情をこちらに向けておるな。我にとっては、それはもはや雄弁に語っているのと同じ事だ』

「神官にとってアンデッドは不倶戴天の敵。個人個人でその度合いに差はあるが、どうやら彼は徹底的に根絶したいタイプのようだね」


 つまり、理由を問わず個体を問わず、アンデッドでさえあればとにかく殺すという事か。そんなタイプの奴からしたら、目前に対象が居たら負の感情が噴き出すのも当然か。

 だが、さすがにこの場で吹っ掛ける事を良しとしなかったのか、早々に席を立った神官はそのまま宿から去っていってしまった。

 近いうちに改めて襲撃とかしてくるんだろうか。町のルール上、そう言った事は一切禁止されていないので、一応は気を付けておかないとだな。


「お、あんたら降りてきてたのか。昨晩、ウチの客が三人失踪したんだが、もしかして……」


 そんな不穏な空気が漂った朝食の最中、俺達に声を掛けてきたのは宿の主人だった。

 相変わらず宿の経営者とは思えない風貌で、突然の出現にビビる俺。いや、これくらいの人でないとこの町ではやっていけないんだろうけどさ。


「だとしたらどうするつもりだい? せっかくの客を消したとアタシ達を排除するかい?」


 主人は声の感じからして怒ってはいないようだが、リチェルカーレもそれを分かった上で乗っかっている感じだ。


「そんな無謀な事はしねぇさ。俺はこれでも見る目はあるつもりなんだ。明らかにヤバイと分かっている奴らに喰って掛かるほど耄碌しちゃいねぇ」

「こんな可愛らしい少女を捕まえてヤバイとは何とも失礼な事だね。全く、そうは思わないかい? リューイチ」

「いや、お前はヤバイだろ……」

『うむ。間違いなくヤバイな』

「よし、二人共。今すぐ表に出ようか」

「……ちゃんと食いきってからな」


 王と二人して、主人の言う『ヤバイ』を肯定する。主人としては、リチェルカーレではなく、王の事を言ったつもりなんだろうけどな。

 死者の王として骸骨の姿で現世をさまようモンスターに『ヤバイ』と言われてしまうって相当だぞ。昨日の荒行を考えると、残念ながら俺も否定は出来ないが。


「む、確かに。せっかく食事を提供してくれたのにそれは失礼だね」

「気ぃ使ってくれて感謝するぜ、お嬢さん」


 変に律儀な所があるリチェルカーレだった。しかし、感心したのもつかの間。食事を終えて宿を出た後、俺と王は揃って尻を蹴り飛ばされた。



 ・・・・・



 宿を出ると、王はその場から姿を消し、俺とリチェルカーレの二人で動く事となった。

 通りを歩いていると、人波の多くが同じ方向へ向けて歩いている光景が目についた。


「昨日言っていた武術大会の観客だろうね。開催日は今日だし」

「……今日なのかよ」


 昨日とはうって変わって、町全体が明るい雰囲気を醸し出している。通りには出店が並び、まるで祭りが開催されているかのようだ。

 歩いている客の多くが男性で、女性の数が少なく、子供や老人をほとんど見かけない事を除けば、平和的な光景に見える。

 荒事も起こっていないようだし、この光景が日常のものであれば何も問題無いんだがな……。


「この町の住人は大半が第四騎士団の所属で、あとは傭兵団と物好きな冒険者くらいだね。第四騎士団長が治めるだけあってか、第四騎士団の居住地という側面が強いんだ」


 子供や老人をほとんど見かけない疑問点についてリチェルカーレがフォローを入れてくれる。

 町の仕様が弱肉強食だけに、多くの騎士達が故郷に家族を残した状態で単身赴任をしているのだそうだ。

 なるほど、確かにこんな町で家中に力のない家族を放置して置いたら、それはつまり『どうにでもしてくれ』って事だろうからな。

 まともな思考の持ち主なら連れてくるはずが無いか。自分自身、明日は我が身なのかもしれないのに。

 こんな所に居住させられる第四騎士団が気の毒で仕方がない。まぁ、中には喜んでいそうなのも居るだろうが。


「で、肝心のターゲットだけど、今日は武術大会の会場に居るよ。何せ主催者だしね」

「乗り込むのは領主の館とかじゃなくて会場か……。すげぇ注目されそうだな」

「そこがポイントさ。アタシが今日を選んだのは、今回の事を多くの者に目撃させる意図がある」

「作戦は決まっているのか……?」

「当然さ。いいかい――」


 聞かされた計画は、至極単純なものだった。武術大会の会場に乗り込んで、襲撃する。ただそれだけだ。

 しかし、不意打ちなどで首を獲ってもインパクトに欠けるため、正面から乗り込んで正々堂々とやってのける。

 もしお抱えの騎士団が襲い掛かって来たとしても、それらもまとめてなぎ倒していくらしい。




 俺達が会場へたどり着くと、そこは激しい熱気に包まれていた。

 満席の観客席に、武舞台で戦っている二人。どうやら既に試合は始まって居るようだ。

 その様子を見たリチェルカーレは、指を鳴らす事で開始の合図を送る。


 誰に、って……それはもちろん――


 

 ・・・・・



 会場では、今まさに第一試合が行われている真っ最中だった。


 闘っているのはコンクレンツの首都シャイテルに籍を置く駆け出し冒険者ノイリーと、ツェントラールの首都スイフルに席を置くロートという冒険者。

 ランクはそれぞれDランクとBランク。両者の実力差は圧倒的だが、ノイリーは先達に胸を借りるつもりで果敢に挑んでいく。

 ロートの方も、将来を期待出来そうな冒険者の登場に嬉しさを感じているのか、顔に笑みさえ浮かべつつそれを真正面から受け止めている。


「いいぞいいぞ。冒険は時に勢いも大事だからな……もっと君の可能性を見せてくれ」

「はい! うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 両者共に操るは片手剣。だが現在は盾を装備していないためか、ノイリーは両手で握って使っている。

 ノイリーが剣技とは呼べないような荒々しい乱打を叩き付けるが、ロートは片手に持った剣で軽々と攻撃を弾いていく。

 その隙に、開いた片手に闘気を込めて、ガラ空きとなっているノイリーの腹部へと叩き付けた。


『おぉっとー! これは痛烈です! 押していたかに見えたノイリー選手、一撃で戦況を覆されましたー!』


 武舞台の端まで飛ばされたノイリーは、よろめきながらも起き上がるが、その瞬間に信じられないものを見てしまった。

 中空に黒い円形状の穴が開き、そこから白い粉末が噴き出したかと思うと、それらは徐々に形を成し、最終的に人骨の姿を象った。


「な、なんだ……あれ……」

『い、一体何が起こったのでしょうか!? 突然、武舞台に謎の人骨が出現しましたぁーっ!』


 人骨は最後にボロボロながらも豪著な衣装を身に纏い、武舞台へと降り立つ。


『やぁやぁ人間達。楽しんでおるかな? 我は人呼んで『死者の王』である。君達には『リッチ』と言った方が解りやすいかね?』


 闘技場全体に通る声でそう名乗った死者の王は、キョロキョロと辺りを見回す。

 目線が合ったノイリーはガクガクと震え、ロートは即座に剣を構えて臨戦態勢となった。


『ふむ……。この場を取り仕切っておる者は居るかね?』

『俺だ!』


 間髪入れず、観客席の一角から声が上がる。そこには、デスクのある座席にしっかりと腰を下ろす一人の騎士の姿があった。

 銀の鎧に身を包んではいるが、鎧が覆われていない所はガチガチの筋肉で固められており、一般的な成人男性と比べてみてもかなり大柄である事が解る。

 かなり離れた場所から喋っているのにもかかわらずこちらに声が伝わってくるのは、おそらく拡声する魔術を介しているのだろう。


『俺の名はアロガント! 武術大会の主催者であり、エンデの主であり、コンクレンツ帝国騎士団第四騎士団団長である! アンデッド共の親玉が一体何用だ!?』

『ついさっき、この町で非常に不愉快なモノを見てしまってな……。これはいっそ代表に責任を取ってもらおうかと思ったのだよ』

『なんだその訳の分からぬ理由は。街で起きた些末な出来事なんぞ俺が知るか! せっかくの武術大会を邪魔するというのなら容赦はせんぞ!』


 二人がやり取りする間、ロートはノイリーの傍にまで駆け寄っていた。


「ロ、ロートさん……」

「大丈夫かノイリー? 駆け出し冒険者に正直アレはきついだろう」

「な、なんなんですかあいつは……」

「本人が名乗っていた通りであるならば、リッチだ。アンデッド系モンスターの最上位にして、死者の王。冒険者ギルドで付けられた危険度ランクはA以上」

「え、A以上って……。ロートさん、確かBランク冒険者でしたよね」

「あぁ、正直言ってリッチはBランク冒険者が討伐隊を結成し、Aランクでも何人かで組んで事に当たるほどの大物だと言われている」


 ロートも実際に遭遇および交戦したという経験がないため、ギルドの情報を元にした伝聞形で語る。

 何せリッチなど滅多に遭遇するようなものではないのだ。基本的にこちらが住処へ赴くなどしなければ、遭遇する機会などない。


「……そんな存在が、一体何故ここに?」

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