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310:三様の恐怖

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」


 完全に消し飛んだハズのガンプだが、まるで巻き戻しでもされるかのように再生して復活する。

 これは『冥王のゆりかご』による効果だ。領域内であれば、例え粉微塵に消し飛んでも元に戻るという『死』を否定する空間。

 イチエから「殺してはマズイ」と言われていたのを聞いていたのか、バリアと同時に展開していたようだ。


「い、一体、何がどうなって――」


 身体自体は完全に再生されるが、果たして心の方はどうだろうか……?

 汗だくとなって荒い息を吐いている事からも、おそらくは先程の魔力球リンチについてハッキリと覚えているのだろう。


「俺はさっき、奴の魔術でやられたハズでは……」


 ガンプが俺達の方を見てくる。どうやら俺達の反応を見る事で、先程自身に起こった事を整理しようとしているようだな。

 俺を含めてリチェルカーレのやり方を見慣れていてノーリアクションの者も居るが、見慣れていない者の反応は等しく恐ろしいものを見るような目をしている。

 それだけで証拠は充分だろう。言動はアレでもさすがはAランク冒険者だな。未知の事態に対しても、そうやってどうにか対応しようとしている。


「なぁイチエ。俺に何が起こったのかを説明出来るか?」


 ここに居る面子の中では唯一の顔見知りであろうイチエに顛末を尋ねるのは正解だ。初対面の俺達では信用ならないだろう。

 イチエは先程の出来事に怯えを残しつつも、ガンプに聞かれた通り彼の辿った経緯を丁寧に説明する。


「なるほどな。それ程までに規格外な事をやってのけるとなると――お前は『隠居ルトレット』ってやつか」

「はは、隠居呼ばわりは久々だね。確かにアタシは見た目通りの年齢じゃ無いし、君の想像を超える長い時間を魔導の探究に費やしてはいるけどね」

「クソッタレ。そんなの聞いてないぞ。まさかとは思うが、他の奴らも――?」

「では、試してみますか?」


 次の候補に名乗り出たのはエレナだった。既にアンティナートを使用して力を開放しており、激しく立ち昇る緑のオーラがその身を包んでいる。

 美しく長い金髪が逆立つ程の力の奔流。それだけで、ガンプは目の前の相手がどれだけの膨大な力を解き放っているかを察したようだ。


「……ご、合格でいい! 合格でいいからやめてくれ!」


 リチェルカーレにやられた事を思い出したのか、ガンプは急に弱気となる。


「それは困ります。模擬戦で実力を見て頂かないと合格にならないのでしょう?」

「さ、さっきのやつで実力は分かったから! 同等かそれ以上なんだろ!? もうやらなくてもいい!」

「不正はいけませんよ。試験官としての使命をちゃんと全うしてください」


 指をポキポキと鳴らしながら一歩一歩近付いていくエレナ。気のせいか、一歩進む度にズシンと足音が響いているように感じるのは気のせいか?


「そ、それを俺へ向ける前に地面を殴ってみてくれ!」

「地面ですか? 別に構いませんが……えいっ」


 ドグシャアッとエゲつない音と共に地面が割れる。バリアで囲まれた中庭全域が崩壊し、周りで見ていた俺達もバランスを崩して転倒する。

 中心部は凄まじい衝撃によって陥没しており、中庭に一つの巨大なクレーターが誕生してしまう事となった。

 リチェルカーレの奴はちゃっかり浮遊していたのか、腕組みした状態で何事も無かったかのようにその場に佇んでいた。

 

「いや、さすがにそれはキツいからな……。Aランクの俺でもちょっとヤバイからな……」


 尻餅をついた状態で情けなくぼやくガンプ。最初から戦う意思など無かった彼だが、どうやらこれで完全に参ったようだ。

 だがそれでは困る。俺達は冒険者のランクを昇格させるための試験のために来ているのだ。他の人達の試験が中止されたら困る。


「では、次は私が試験を受けさせて頂こうと思います」

「いや、その――」


 次に名乗り出たのはセリンだった。相手の事情など知るかとばかりのタイミングで、間を置かずに声をかける。逃げる隙は与えないって事か。

 恐ろしい事に、彼女は挨拶してから完全に気配を断って近づいた後、わざと目の前で姿を現した。周りも対象に含んでいるのか、俺にも姿が見えなくなった。

 セリンの気配を断つレベルはここまでに達していたのか。そりゃあフォルさんも太鼓判を押すわけだな。暗殺者としてもやっていけるぞ。


「ぐあっ!? 一体、何が……」


 そして、再び気配を断ったと思ったら、ガンプの背後にその姿を見せる。彼女はそのタイミングでガンプの背をナイフで突き刺していた。

 痛みに顔を歪めるガンプに対し、セリンは追い打ちとばかりに恐ろしい宣言を叩き付ける。


「次、十秒後にまた刺しますね」

「なに……っ!?」


 またも気配を断ち、宣言通り十秒後に刺す。完全に気配を断たれているため、攻撃される箇所が分からない。

 さっき攻撃を受けた事で、不意に刃物で刺される痛みを体感した。それと同じ痛みを、少しの時間をおいてまた与えられる。

 知らずにやられるのならともかく、知っていて攻撃を受けなければならないというのは、一体どれほどの恐怖だろうか。

 

 これを何度か繰り返すうち、やられている側は徐々に心の方が耐えきれなくなってくる。

 その場にうずくまり、泣き叫んで許しを請うようになるのだ。これは俗に言う『待つ時間に恐怖する』という心理的な戦法だな。

 昔、ある格闘漫画で読んだ事があるぞ。ガンプはまさにそれと同じような末路を辿る事になってしまった訳だ。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! もう勘弁してくれえぇぇぇぇぇぇ!!!」


 エレナの時点でもう参っていたであろうガンプだったが、これが追い打ちとなって子供のように泣いてわめき始めた。

 さすがにその姿にいたたまれなくなったのか、イチエが割って入り試験の中断を宣言。試験に参加していないレミアも助力し、ガンプを搬送。


「あ、中断はしますけど中止じゃないですよ。すぐに別の試験官をお願いして連れてきますので」


 それはありがたい。試験のために王都に来たようなものだからな。



 ・・・・・



「おいおい、一体こりゃあどうなってんだい? 冒険者昇格試験……だったよな?」


 改めてイチエに連れてこられたのは、筋骨隆々の大柄な男性だった。

 上半身は胸部アーマーを装着するのみで、まるで鍛えられた己の肉体を周りに見せつけているかのようだ。

 短髪である事も重なって、まるでその様はランクの高いボディビルダーのようですらある。


「ガンプさんが女性冒険者に対して失礼な事を言って、怒らせてしまったんです」

「またアイツか。今までにも度々同じような事をやって苦情は来てたが、今回は状況が違うみたいだな」

「えぇ、残念ながら相手が悪かったです。今までは格下ばかりで好き勝手やってきましたが――」


 男性は俺達の前までやってくると、早々に深々と頭を下げて謝罪してきた。


「すまなかった。俺はギルドマスターのフォレスだ。ガンプの奴が大変な失礼をしてしまったようで申し訳ない」

「冒険者パーティ『流離人』の刑部竜一です。こちらにいるのがメンバー達です」


 俺の自己紹介に続いて、仲間達も順に自己紹介していく。フォレスと名乗った男は王都のギルドマスターらしい。

 ツェントラールのギルドマスターだったアルコさんといい、ギルドマスターは筋骨隆々が定番なのか?、

 いや、ドラクセルスのアンシアーノさんはお爺さんだったな……。とは言え、若い頃は筋骨隆々だった可能性もあるか?


「さっき「今までにも度々同じような事をやって苦情は来てた」って言ってましたが、何故その時点でガンプをクビにしなかったんですか?」


 俺は自己紹介ついでに、先程フォレス自身が言っていた台詞をそのまま返す。


「奴とは長い付き合いでな。それこそ幼い頃から共に一流の冒険者を目指してきた仲なんだが――」


 なるほどな。付き合いの長さから身内の不正を見逃してきたパターンか。

 こりゃあ弁解次第ではアイグル云々関係なく元々から王都ギルドが腐っていた可能性もあるな。

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