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028:閑話 農村の守護者、その始まり

 俺はライヒト・フース――通称、ライ。ツェントラールで冒険者をやっている。

 ランクはB。自分で言うのも何だが、国内じゃ割と上位ランクに位置する冒険者だと思うぜ。

 何と言っても、あのオーガをソロで倒す事が出来るんだ。もしかしたら、実力的にはAランク級かもな。


 俺は今、依頼を消化して首都スイフルのギルドへやってきた所だ。

 その依頼内容とは『オーガの角の採取』、奴らの額に生えている長さ三十センチ程の角をもぎ取って来いって話だ。

 もちろん、それは容易な事じゃねぇ。身長にして五メートルはあろうかという筋肉の化物だ。一撃一撃が大砲みてぇだし、並外れた筋肉はもはや鎧だ。

 だが、俺にとってはおつかいみたいなもんだ。軽く角を斬り飛ばして、その事で怒り狂った奴をぶっ倒して……それで終了だからな。


「アイリさーん、ここに居ましたかぁ。見てくださいよ、俺オーガ倒してツノ取って来たんすよー」


 俺はギルドの受付へと駆けこむ。だが、受付なら何処でも良いって訳じゃない。俺はアイリさんが担当しているカウンターにしか行かない。

 アイリさんというのは、首都スイフルのギルドで受付嬢をしている女性スタッフの一人。俺にとって好みドストライクな女性だ。

 俺がツェントラールに留まっているのも、首都スイフルを中心に活動しているのも、正直言ってアイリさんが居るからに他ならない。


 肩下まで伸ばした茶色の髪と、ばいんばいんと弾むくらい大きな胸。キリッとした強気な表情が、彼女自身の美しさをより際立たせている。

 何かとギルド内でやらかす荒くれ者達にも怯まず注意しに行く心の強さを持っているし、かつては冒険者だった身らしく、腕も立つと言われている。

 くぅ~っ! 現役なら是非とも俺のパーティにお誘いしたかったぜ……。


「はい、おめでとうございますー。報告をお願いしますねー」


 そんなアイリさんの対応は何とも事務的なものだった。有象無象が普通に任務達成を報告した際の反応と全く変わらない。

 営業スマイルで依頼のブツを確認し、達成を承認するとともに報酬の入った袋を渡してくれるが……


「ちぇー。つれないなぁー。オーガのツノだぞ、あのオーガの……」


 もしかしてオーガですら『たいしたことない』とか思われてるのか? ならどうすりゃあいい、幻獣とか神獣でも倒して来いってか? 

 俺と入れ替わるように新人らしき冒険者のペアがアイリさんの前に座る。また別の依頼を受けてアピールしに来るか……と思ったが、何やら無視できない話を始めたぞ。


 冒険者の評価を高めるのは何か――そう話題が切り出されたのと同時、三人が一瞬だけこちらを見た。

 どうやら俺を例の一つにでも挙げたのだろう。俺はあの座席から死角になるような位置に陣取り、話の続きを聞く事にした。



 ・・・・・



 そうか、俺が率先して受けていた依頼のほとんどは、所詮金持ちの欲を満たすためだけのものでしかなかったのか。

 俺自身も強敵を倒してドヤってたけど、それらのモンスターは別に近隣へ被害を出していた訳じゃないし、別に誰も困ってはいなかったんだよな。

 むしろ、人から隠れるようにしてひっそりと暮らしてたってのに、そこへ俺が土足で踏み込んで荒らしてしまっていたと……。


 本当に困っている人達からすれば、何もしていないのと同じ――そっか。そりゃあアイリさんが微笑んでくれるわけがないわな。


(……くそったれ!)


 気が付けば、俺はギルドを飛び出していた。




 本当に困っている人達からの依頼――となると、十中八九近隣の村からの害獣駆除などだな。 

 アイリさんが口にしていたが、確かにあの手の依頼は労力の割に報酬が見合わない。よって依頼を受けてもらえる確率も低い。

 だが、だからこそ……そんな依頼をこなせば今度こそアイリさんから評価されるハズだ。

 となると、相応の準備が必要だ。ダンジョンに潜って強敵を倒しに行くのとは状況が異なるんだからな。


 俺も駆け出しの頃はそういう報酬に見合わない依頼もいくつか受けていた。下積みで中堅の冒険者パーティに入っていた頃「こういう経験を積んでおけ」と依頼を受けさせられたんだよな……。

 その時の経験が、まさか今になって役立つ事になろうとは思わなかった。どうやら俺は良い先達の下で指導を受ける事が出来たようだ。当時は不満を言ってすまなかったと思う。




 素早く準備を済ませ、再びギルドへ駆け込む。そして依頼が張り出されている掲示板を見ると……あった!


【畑を荒らすモンスターの群れの駆除 アシャラ村 Dランク】


 一週間くらい前から誰も手を付けていなかった依頼だったから覚えている。わざわざ数日かけて出向いた村で、雑魚とは言え決して少なくない数であろうモンスターの群れを駆除するのだ。

 それでいて、提示された報酬ではとてもじゃないが準備に費やした費用と戦った労力――挑む者によっては怪我したりもするだろう――それらを賄うには全然足りない。

 だからこの依頼書に提示されている対象のDランクの冒険者はほとんどこの手の依頼を受けない。駆け出しで金が無い上、経験の未熟さから各種経費がベテラン以上にかさむからだ。

 しかし、村側も高位ランクの冒険者を動かすに足るだけの報酬を出す余裕などない。現在進行形で村が被害を受けている以上、収益は減る一方だしな……。


 ならばどういう層が依頼を受けるかと言うと、報酬を気にしないほど懐が豊かなベテラン冒険者で暇をしている者や、こういう系統の依頼を好んで受けている特定層だったりする。

 それらの者達がいなければ依頼は放置されてしまい、最悪の場合は依頼を出した村が壊滅的な被害を被ってしまう場合もある。まぁ、最悪一歩手前くらいで国が兵を出すけどな。

 だが、そうなる前に俺が受ける事にした。自分で言うのも何だが、目的は不純だ。でも、この依頼の結果如何によっては俺が『こういう系統の依頼を好んで受ける特定層』になってやるつもりだ。

 今までBランク冒険者としてハイレベルな依頼ばかりこなしてきたから懐は潤っているし、俺ほどの腕ならそう余計な出資をする事もなく、かつ労力もそう使う事なくこなせるハズだ。


「と言う訳でアイリさん、俺はこの依頼を受けようと思う」

「……貴方にしては珍しいタイプの依頼ですね。どういう風の吹き回しでしょうか?」


 当のアイリさんは、新人冒険者を利用して俺を間接的に咎めておきながら、全く知らないふりをしている。

 一瞬だけ俺を見た事も、その後俺が近くで隠れている事も見越してあんな話をしたんだろうに……だが、それでこそアイリさんだ。

 どういう意図で俺を焚き付けたか知らないが、ならそれに乗っかってアイリさんが理想とする冒険者になってやるぜ。


「気分転換だ。大物ばかり狩り過ぎて疲れたからな」

「……そういう事にしておきましょう。では、アシャラ村の事はお任せしましたよ」

「おう、任せとけ!」


 アイリさんが笑顔で送り出してくれた――! 意気揚々とギルドを出た所で、俺は良く知る人物達と出会った。


「よぉライ。また高難度の依頼にでも挑むのか?」


 声を掛けてきたのはロートという冒険者だった。Bランクの冒険者で『紅蓮』というパーティのリーダーをやっている。

 背中を預けられるくらいには信用できて、なかなかに腕が経つ奴だ。今までに何度も共闘してきた事もある、いわゆる気が置けない間柄って所だな。

 背後には『紅蓮』のメンバーと思われる奴らがついてきていた。確か皆Cランクだったか……正直、なんか見ていて頼りなさげな奴らだ。

 まぁロート自身が好きで組んでいるならそれでいいとは思うが、真剣に冒険者として上を目指しているようなら、こういう奴らはいずれ足枷となるんだぜ。


「ちょっくらアシャラ村までモンスターの群れを狩りに行くところだ」

「アシャラ村……まさか、ギルドにずっと残ってた、あのDランクの依頼か?」

「あぁ。少しばかし思う所があってな。駆け出し冒険者の頃に立ち返ってみたくなったんだよ」

「……何を思ったのかは知らないが、下位ランクの依頼だからって油断はするなよ」

「わーってるよ。俺は絶対この依頼を達成して戻ってこなきゃならない理由があるからな。死んでたまるかよ」


 Aランクにまで駆け上がっても、ちょっとした油断から低ランクモンスターのゴブリンに殺されてしまうようなケースもある。

 モンスターって時点でどんな奴だろうが侮るのは悪手だ。例え心臓を貫こうが頭を砕こうが動く奴もいる。スライムのようにある程度バラしても元に戻るような奴もいる。

 完全に息の根を止めるまで、その場から根絶しきるまでは戦闘態勢を維持し続ける。これも駆け出し時代に先達から教えられた心得だ。

 あの当時、武器を持った手を斬り飛ばしたからと気を抜いていたら、背後からその斬り飛ばした手に刺し貫かれてしまった事があるからな。教えは身に染みてるさ。


 その箇所である腹をさすって改めて気を引き締めた所で、さぁ目的地であるアシャラ村へと向かいましょうかねっと。

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