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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第七章:唐突に始まる学園モノ? 魔導学院編
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245:竜一の精霊契約

 ハルが精霊を召喚し、その上契約も成功させた。


 まるでキョンみたいな外見と、鳴き声までも「キョン」という、彼女にとってはイヤガラセみたいな存在だったろう。

 しかし、ハルにとっては可愛らしい動物の見た目をした存在は好みだったようで、契約を拒否する事は無かった。

 もし彼(?)との契約を拒否したとしても、他にハルを気に入った精霊が現れるかもしれない……が、現れない可能性もある。


 そういう意味では、最初に現れた精霊と素直に契約をするのが無難であろう。

 ハルがキオンと名付けたパートナーと共にこちらへ戻ってくる。さすがにキョンとは名付けなかったか。

 席へと座ったハルと入れ替わるように、今度は俺が席を立ってレーレン教授の所へと向かう。


「よろしくお願いします」

「はい。ではそちらに立ってお待ちください。魔法陣を展開します」


 俺の足元に複雑な文様の描かれた魔法陣が出現する。

 後で聞いた話だが、こう言ったものはその場で書くのではなく、あらかじめ構築してあるものを呼び出しているらしい。

 精霊を召喚するための魔法陣もまた、召喚によって呼び出されるという事だ。便利だな、召喚魔術……。


 魔法陣が光を放つと、俺の中に温かいものが入り込んでくるのが感じられた。

 これが魔法陣によって俺という存在の情報が読み取られているという状況なのだろうか。

 まるで布団に包まれているかのようだ。だが、ここで気を抜く訳にはいかない。


 俺は水晶玉占いをするかの如く両手を構え、ハルがやったのと同じように魔法陣へと力を注ぎ込む。

 やがて召喚用の魔法陣が輝き始め……お、おぉっ。これはもしかして俺も精霊の召喚に成功したという事か。

 だが、光が激しさを増すと共に何故か校舎までも振動し始め、やがては地震の如き激しさに。


「な、なんだ!? どうなったんだ……!」

「わ、わかりません! 私も講師になってからこんなのは初めてで!」


 俺とレーレン教授は立っていられず、揃って転倒してしまう。

 それからしばらく発光と揺れが続いたかと思うと、最後にドンッと凄まじい爆発音。

 目を閉じていてもなおチカチカする程の激しい光が教室を包み込む。


「ぐ、うぅぅ……目が痛ぇ。結局、精霊の召喚は成功したのか、失敗したのかどっちなんだ……?」

「あれを見てください!」


 教授が示す先は召喚用の魔法陣だ。そこには、魔法陣の真ん中から伸びた一本の腕。

 どうやら右腕のようだが、その右腕は精一杯真上に伸びてみたり、手で床をバンバン叩いてみたりと激しく動いている。

 見た感じ、人間の腕と同じような形に見える。動物のように毛があったり、爬虫類のように鱗がある訳でもない。


「あれ、もしかして出てこようとして出られない……って事か?」


 様子を見守ってみるが、一向に右腕より先が出てくる気配がない。


「引っ張ってみれば出てくるかもしれませんね。リューイチさん、やってみてください」

「わかりました。自分としても精霊のパートナーは欲しいですからね」


 俺は魔法陣から出ている右手を両手でしっかりつかむが、その瞬間に俺の中からごっそりと力が抜かれるような感覚に陥る。

 なんだこりゃ……これは、この腕の主に力を吸われているって事でいいのか……? こんな一気に持っていくのかよ。

 持っていかれたまま引っ込まれてたまるか。誰だか知らないが、そっちも出てこようとしているのなら大人しく釣られてくれ。


 思いっきり腕を引っ張ると、何かが引っかかるような違和感。まるで小さな穴から腕だけを出しているような。

 魔法陣が狭い? この人間のような手の大きさからして、本体はそんなに巨大でもない気がするんだが。

 いや、ここは常識が通じない異世界。この手が想像を絶するおぞましい異形の怪物から生えている可能性も否定できない。


 とにかく、こちらの世界へ現れるにあたって魔法陣が引っかかっているというのなら、魔法陣をぶっ壊すつもりで引っ張ってやる。

 申し訳ないが精霊側の負担は考慮しない。痛いかもしれないが、俺も一生で一度の機会なんだ。必ず精霊を召喚する……!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ピシピシと魔法陣にヒビが入り始める。これが割れれば、引っかかっているものが無くなるだろう。

 だが、この魔法陣は裏界とこちらを繋ぐゲートでもあったはず。割ってしまっても良いのか?

 そんなことは今更だな。魔法陣をぶっ壊してでも引きずり出すと決めたんだ。このままやってやる。


「こなくそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 さらに力を籠めると、窓ガラスが割れるような破砕音と共に爆発が起きた。

 只中に居た俺は当然ながら吹き飛ばされてしまい、教室の壁に身を叩き付けられる。


(痛ぇ……精霊召喚はどうなったんだ?)


 目を開いた俺は、自分の所へ何かが飛んでくるのを目にする。

 それはゆるやかな軌道を描いて、伸ばされた俺の脚の上にポフッと乗っかった。

 パッと見では、ボールくらいのモコモコの白い塊。まるでウールのようだ。


『あいたたたたた~……。ど、どうなったの~?』


 毛玉が喋った。どうやらそれは生物であるらしく、何やらウニウニと動き始めた。 

 間もなく毛玉から手と足、それに頭がピョコンと生えてきた……。見た目としては、三頭身の人型だ。

 元々の世界ではまずあり得ないようなマスコットじみた体型。それも精霊であるが故なのか。


 胸の部分と腰の部分がモコモコに覆われており、頭には一対の小さなツノが見える。

 着衣の特徴から、おそらくは女性なのだろう。腰まで伸びたサラサラの金髪もそれを思わせる。

 一方、顔は目元までを覆うくらいに伸びた前髪によって、もはや口元しか見えなかった。


「君は、精霊……なのか?」

『そうだよ~。私は雷の精霊で、ワ――ふぎゃっ!?』


 名乗ろうとした精霊――どうやら雷の精霊らしい――が、突然上から降ってきた何かに潰される。

 降ってきたのは一つだけではなく、数えてみたら合計七つ。それらが全て精霊に重なるようにして積まれていく。

 埋もれてしまった精霊。一体何が降ってきたのかと思いきや、よく見たら全てが三頭身の人型だった。


『む……ここは、まさか……』


 最初に身を起こしたのは、赤髪のおかっぱ少女だった。精霊なのに、眼鏡かけてるぞ……。

 纏う衣装は何故か俺達の世界で良く見る女性用のスーツだ。キャリアウーマン?


『何たる事でしょう。ワイティを止めるつもりが、我々までも人間界へ引きずり出されてしまうとは』


 眼鏡を人差し指でクイッと動かし、何やら独り言をつぶやいている。

 ワイティと言うのは、おそらく先程の雷の精霊の事だろう。ワ――とか言いかけてたしな。


「……一体、何者なんだ?」

『これは失礼。申し遅れました。私は火の精霊で、ウェスタと申します』

「ご丁寧にありがとうございます。俺は刑部竜一です」


 火の精霊か……。確かに、髪の色が赤いな。だが、印象と違って非常にクールだぞ。

 つられてこっちも口調が丁寧になってしまった。俺はてっきり、火の精霊と言えばもっとこう――


『うおぉーっ! これが人間界か! すっげえぇぇぇぇぇっ!』


 そうそう、こんな感じでテンションが高くて暑苦しそうなノリって言うか。

 燃える炎のように本人自身も熱い。やっぱ炎の精霊はこうじゃないとな……って、なんか髪が青いんだが。


『アタシは水の精霊ヴァルナだ! くぅーっ、まさか裏界を飛び出すとは、こいつぁ燃えるなぁ!』


 そのノリで水の精霊なのかよ。絶対に火の精霊と属性が逆だろ……。

 ボサボサのショートカットで少年のようにも見えるが、アタシと言う以上は女性なのだろう。


『相変わらずの脳筋ですね。これは異常事態なのですよ。こういう時こそ氷のようにクールに物事を考えなければ』

『いーじゃねーか。せっかく来たんだし、全力で楽しもうぜ! アタシらにゃこんな機会滅多に無ぇしよ』


 なんで雷の精霊に続いて火の精霊と水の精霊まで出てきたんだ?

 それに、他にもまだ倒れている――精霊、だよな? も居るみたいだし……。

 一体、どれだけの精霊が現れたんだ? 精霊召喚の儀式で、一気に何体も現れるってのは良くある事なのか?


「い、一体何が起きてるんですかこれは……」


 うーん。レーレン教授が腰を抜かして驚いているのを見るに、珍事と見た方が良さそうだな。

 どうすりゃいいんだ。これはもう流れに身を任せるしかないのか?

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