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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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195:緊急依頼に集う冒険者達

 長老会議の開催地でもあるヒワールには、数百人にも上る多くの人々が集まっていた。

 一週間前に冒険者ギルドで告知があった『緊急依頼』――モンスター大討伐の募集を受けて集まった冒険者達だ。

 リチェルカーレとエレナを除く俺達は、そんな冒険者達に紛れて依頼者からの説明を待っていた。


「冒険者の皆様方! この度は緊急依頼に応じて頂き誠に感謝致します! 私はファーミン最長老ユーバー・ラッシェント・ユングと申します」


 広場の前方に用意された高台。その上から、まずファーミンの最長老が感謝の意を告げる。あの人、そんな名前だったのか。

 名乗りを聞いた冒険者達の間では「最長老?」と疑問の声が上がっている。それは自分も最初聞いた時に思った事だ。

 他の国はどうか知らないが、ここでは一番年上の人間が最長老と呼ばれている訳ではなく、一番歴史の古い部族の長がそう呼ばれている。


「これから少し我が国の歴史を話させて頂く事になりますが、依頼の概要を説明するにあたりどうしても触れなければいけない内容ですのでご了承を頂きたい」


 最長老が五分程でまとめた話は、俺達が少し前に聞いた事があるようなものだった。

 過去にこの地で起きた魔族との闘い。その際、魔族によって空間に穴を開けられてしまった事。穴を閉じる事が出来ずに結界で封じた事。

 そして、結界の中では未だに瘴気が溢れ続けており、穴からも魔族が飛び出して来てしまっている事などが話された。


「結界だって……!? そんな話、初耳だぜ……」

「そもそも、あの大砂漠に踏み込もうって奴があまり居ないからなぁ」

「それよりも魔族が居るって、俺達なんかで大丈夫なのかよ」


 冒険者の中には、当然ながらファーミンの知識に疎い者だっている。一つの国だけを活動領域とする者も珍しくない。

 また、結界についても説明があり、通常は不可視の状態にされている事や、結界に触れた者は無意識のうちに向き転回させられる事などが話された。

 それらについても心当たりがある者が居たのか、会場内のあちこちががざわついていた。


「前々からファーミンの砂漠は魔境だとは聞いていたが、そんなからくりがあったのか」

「うーん、確かに西へ向けて走っていたと思ったら、いつの間にか東に向かって走っていて町に戻ってしまった事があったな」

「不可視の結界と言われても、あまり実感が湧かないよなぁ……」


 喧騒に包まれる会場。俺達は全てを知っているから動じなかったものの、情報が無い者達にとっては衝撃が大きかったようだ。

 結界の事そのものは知っていたであろう者達も、さすがに『魔界に通じる穴』が封じられていたとは知らなかったのか、依頼者に不信感を抱く者も居た。。


「魔界へ通じる穴……か。こんな身近に、そんな恐ろしいものがあったとは……」

「聞いた限りでは、世間に全然知れ渡っていない話だな。身近な奴らで情報統制してやがったか」

「穴に飛び込めば魔界へ行けるんだろうか」


 世間に出ている情報が少ないのも仕方がない。結界を守るために何が一番有効かと言えば、結界のそのものについて何も知らない事だ。

 情報を知りさえしなければ、そもそも手を出す事もない。俺達がファーミンの入り口で出会ったドワーフが口を濁していたのもそれだろう。 

 知ってしまえば絶対に意識の片隅にそれが残る。もし百人に話したら、その百人全てが必ず『何もしない』とは言い切れない。


 そんな情報を洗いざらい話したのは、単純に『ここで全て終わらせる』という決意からだ。

 それに、話しておかなければ作戦が意味不明になってしまう。依頼者を信じてもらうという意味もあるだろう。

 冒険者達の中にはブーイングを飛ばす者も居たが、最終的に「報酬さえ出ればいい」と言って落ち着いた。


「色々と思う所はあるだろうが、申し訳ない。報酬に関しては、依頼書に示した通りきちんと支払う。どうか我々を助けてほしい、この通りだ」


 最長老が壇上で一礼し、説明は一旦区切りとなった。



 ・・・・・



「うわぁ、結構な数が来てますね……。この地方、こんな沢山の冒険者が居ましたっけ?」


 新米冒険者のノイリーが所属する冒険者パーティ『新紅蓮』もこの場に居合わせていた。


「外部から噂を聞きつけた者や、割の良い依頼にだけ食いつく者、引退済みだったが今回限定で復帰した者達など、見た限りでは様々な者がいるようだ」


 リーダーのロートは冒険者としての経験が豊富ゆえに、この場に居合わせている者達の多くについて情報を持っていた。

 顔を見ただけで何処でどういう活躍をしていたかが思い浮かぶくらいには交友が広く、ノイリーと会話する間にも幾人もと挨拶を交わしていた。

 残念ながらノイリー個人の知り合いはこの場にはいないようで、沢山の者から認知されているロートをうらやましく思った。


「リーダーがうらやましいですか? そう焦る事はありませんよ。貴方はまだ始まったばかり、コツコツ実績を積み重ねていきましょう」


 ノイリーの頭にそっと右手を添えて撫でるヴァーン。彼は神官でもあるため、かつては幾人も迷える子羊の悩みを聞き相談にも乗っていた事がある。

 彼にとってノイリーは冒険者としての後輩であると同時に、非常にわかりやすく感情を表に出す子供……正しき方向へと導くべき存在であった。

 かつてはアンデッド討伐に固執して道を誤っていた彼だったが、死者の王に負けてからというもの、王に対して以外の執着はすっかり消え去っていた。


「ありがとうございます、ヴァーンさん。俺、この討伐で名を上げて見せます!」

「とは言え、無茶は厳禁ですからね。自身の実力にあったモンスターを選び確実に討伐する事です」

「勇気と無謀をはき違えない……大丈夫です。これもリーダーに教わった教訓ですから」


 幸運な事に、ノイリーは新人としては異例な厚遇で先達の冒険者から様々な事を教わる事が出来る環境に恵まれた。

 新人がやらかしがちな過ちを犯そうとすれば、すぐにロートやヴァーンが止め、きちんと注意してくれる。

 また、戦闘の訓練はもちろん、冒険で必要な様々なノウハウも実践しつつ教えてもらえるため、非常に成長が早かった。


 そのため、新人の中では極めて健全な精神を持ち、かつ磨かれた実力者として密かに注目されている。

 一方でそんな冒険者を育て上げたロートとヴァーンも、優れた指導者として冒険者ギルドから新人教育の依頼を受けていた。

 新紅蓮の新たな出発は幸先の良いものだった。その勢いをさらに高めるため、この度の緊急依頼にも参加を決めた。


「あ、ヴァーンさん。先日仰っていた通りですね。空間に穴が開けられているって……」


 壇上では、ちょうど最長老が『結界の中に封じられているもの』について言及したところだ。

 しかし、ノイリーは事前にヴァーンからその事を聞いていたため、特に驚きはない。


「事前の情報収集はとても大切です。我々は知っているからこそあらかじめ備える事が出来ましたが、周りの方々はそうもいきません」

「魔族が出現するかしないかの情報は俺達の生命をも左右する重大事項だ。いま突然知らされた者達は気が気ではないだろう」


 この時点で、新紅蓮は既に緊急依頼で集った冒険者達の中では頭一つ抜けていると言っても良かった。

 彼らは事前に核心の情報をつかんでいた事で、魔族の出現も考慮した装備やアイテムをきちんと備えてきていた。

 一方で慌てふためくのは多数の冒険者達。パーティによってはメンバーの何人かを急遽買い物に走らせている。


「……この依頼、間違いなく命を落とす者が現れるだろうな」


 ロートは感じていた。覚悟の違いが各々の運命を大きく左右することになると。


 しかし、彼は知らなかった。そんなこの戦いが、後々に世界を大きく変える要因となる事を。

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