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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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171:大人達の秘め事

 壇上から女王の行動を見守っていたけど、想像以上にエゲつないな……。

 言葉一つで動きを止めるどころか生殺与奪も自由とは、完全にエルフ達を支配下に置いている。

 そして、俺がさっき予想していた通り、やはり彼女は読心能力を持っていたようだ。


 リチェルカーレによると、同族のエルフに対しては視界に収めるだけでほぼ百パーセント丸裸に出来るらしい。 

 エルフ以外に関しては何となく感情が読める程度であり、仮に接触したとしても、本人が望まぬ限り深くは読めないとの事。

 さっきレミアが手を差し出していたのはそのためか。確かに、話すよりも見てもらった方が早いしな。


「もしかして、女王は単なるエルフじゃなくてハイエルフってやつだったりするのか……?」

「ハイエルフはイースラントの貴族階級だね。けど、あの子の場合は唯一無二の存在。言うなればハイネスとでも称するべき存在だよ」

「……なるほど。文字通り王族や皇族って事か。って事は、彼女自身に限らず、彼女の親や子も?」

「当代以外はハイエルフだよ。あくまでも、あの証である宝石を宿す当人のみがエルフの頂点たる存在なんだ」



 女王の証である額の宝石は現トップであるエルフしか発現せず、先代から次代へ継承される形で受け継がれる。

 加えて宝石は『神により管理されしもの』とされており、第三者はもちろん宝石を宿す当人ですら触れる事が出来ない仕組みとなっている。

 誰の目にも見えるが決して触れられず、強奪不可能。そんな人知を超えた仕組みのもの故に、証として説得力が生まれていた。



「さて、そこの貴方達が『エルフ独立同盟』などという組織を設立し、中心となった三人ね」


 そんな頂点たる女王に指し示された三人の中年エルフ達がビクッと震える。

 今まで若者達が次々と秘密を暴露されてきたから、今度は自分達だと自覚したのだろう。


「まず貴方。他種族と慣れ合ってはならないと言いつつ、密かに異種族の性奴隷を飼っているわね」

「は、はは……何の事ですかな?」


 うわ。いきなりえげつない部分を抉ってきたぞ。誤魔化そうとしているが、男の声が上擦っている。


「き、貴様! そんな下劣な事をやっていたのか……!?」

「常々「他種族など下等。触れる事すらおぞましい」とか言っていたのは何だったのだ!」

「何と悲しい事だ。お前達は長年共に里のために働いてきた私より、ついさっき唐突に出てきたこの者を信じるのか?」


 若者達が次々と事実を言い当てられていたからか、今回も真実に違いないと同胞を責め立てる二人。

 仲間達の変わり身の早さに、当事者の男も思わず情に訴える作戦に出た。どうやら、彼らの付き合いは長いらしい。


「……飽きてきたのよね? 今まで散々にエルフの女を喰ってきたから」


 しかし、仲間達の気持ちが揺らぐ前にさらなる追い打ちをかける女王。この手の事に慣れてるな。

 自信に満ち溢れた確固たる断定の口調は、否応なしに『真実を語っている』という認識を聞く者達に植え付ける。

 女王の言葉は、彼らの長年の友情よりも強かった。二人の仲間達は、ついに男から視線を反らした。


「いい加減に観念なさい。白を切っても無駄よ、わたくしにはわかるの。貴方は思想よりも性欲を優先したのよ。民を導く資格はないわ」

「く、くぅっ……」


 男はついに自供した。女王の言う通り、今まで散々にエルフの女を喰ってきた事で、同族には飽きていた。

 そこで目を付けたのが他種族だった。人種が違えば具合も違うのではないかと試してみたら想像以上で、気付けばどっぷりハマってしまっていた。

 わざわざ奴隷を調達してきたのは、彼の中にかろうじて残るプライドが、他種族を同等の存在と見る事を許さなかったためだという。


「貴様はエルフの男の恥だ。今まで同胞の女達の何を見て、何を感じてきたのだ。飽きを感じるのは貴様の喰い方が悪いからだろう。俺は今までに飽きを感じた事など一度もないぞ」

「あら。さすが里中のエルフの女を喰い尽くす勢いの男は言う事が違うわね。何せ、人妻や彼氏持ちでもお構いなしですもの……この節操なし」


 今度は奴隷を飼っていた男を非難していた側の男が槍玉に挙げられる。


「なにっ!? お前、よりにもよって人妻や彼氏持ちの女にまで手を出したのか……!」

「他種族に見境なく手を出している貴様よりマシだろう! それに、貴様も飽きる程にエルフの女を食ったと言っていたではないか!」

「私は娼婦か、金に困って身を売ってきたような者としか関係を結んではおらん。手当たり次第の貴様と同じにするな!」


 大の男が二人、女を喰った云々で口論する。最低なレベルの言い争いだな。

 その口喧嘩を動けなくされた状態のまま聞かされる他のエルフ達はたまったものではないだろう。

 何人かの女性エルフに至っては泣き出している。なるほど、彼女らが被害者って訳か。


「そ、その反応……。まさか、君も……?」


 泣いている女性エルフの一人に声をかける男性エルフ。女性は黙って頷く。


「い、今思えば妙だったんだ。あの時、初めてだったにしては、何処か違和感が……」

「えぇそうよ。その時点で既に私はあの人の手に掛かっていたわ。初めてを貴方に捧げられなくてごめんなさい」

「そんな。まさか、あの方が……そんな……」


「お、お前もそうなのか? 俺という夫がありながらどうして……!」

「仕方がないじゃない! 貴方ったら、忙しいからとちっとも私の相手をしてくれなかったんだもの」

「こっちは命を懸けて里を守る仕事をしてるんだぞ。その間に、お前と言う女は……」


「妹よ。お前は、どうなのだ……?」

「ごめんなさい、兄さん。お願いだから、これ以上は言わせないで」

「くっ、学び舎の生徒にまで手を出していたのか!」


 なんかあちこちが修羅場になっているが、暴く秘密の方向性が違いやしないか?

 さっき口に出していた『エルフ独立同盟』などとか、色々と掘り下げる事はあるだろうに。


「何と嘆かわしい事だ。このような、里を守るどころか破壊するような者達を、私は同胞として見ていたのか!」


 最後に残された男が涙を流しながら叫ぶ。身体は動かせないままだからか、非常にシュールだ。

 体育会系で見た事があるな。スポーツの大会で大敗した選手達が、監督から鬼のように責められている時みたいな。


「わたくし個人としては、貴方もなかなかだと思うわよ。秘書が用を足しに行く際、いつもこっそり後をつけて香りと音を堪能しているでしょう?」


 特に叫んでいる訳でも無いのに非常に通る女王の声。その声は、賑やかになっている場を一瞬にして沈黙させた。

 一体何を言っているんだ……? とばかりに、エルフ達一同がしかめっ面で当の男を見据える。仲間だった二人も同じような顔をしている。

 異種族マニア、寝取りクソ野郎と来て、今度はまたキワモノな性癖の持ち主だな……。二人と比べて若干スケールが小さい気もするが。


「そ、そんな……! 代表が、いつもそんな事を……」


 顔を真っ赤にした女性エルフが愕然としている。この人が、女王の言う男の秘書なのだろう。

 基本的に排泄行為と言うのは何よりも羞恥の感情が強い行為であり、多くは性行為を許す相手にすら見せるのを躊躇う。

 だからこそ、その誰もが知らぬ神秘を覗いてみたいというフェチは少なからず存在し、そういう界隈も実在する。


「だが、誰にも迷惑を掛けてはいないであろう。私は彼奴らと違い、誰一人として直接手を掛けてなどいない」


 開き直りやがった。だが、この手の問題は女性側が被害を訴えたら事件として成立するのが定番だ。

 この世界ではどうだか知らんが、もし不問にされるのであれば、俺が代わりにこの男をぶっ飛ばしてやろう。

 聴覚嗅覚ときたら、いずれ視覚触覚味覚とエスカレートしていくに決まってるからな……。


「そういう問題ではないわ。秘書は決して合意の下で貴方に音を聞かせたり臭いを嗅がせた訳ではないの。倫理観や道徳観の問題よ」

「ならば、ここでそれを暴露した貴方が一番の問題ではないか! 知らずにいれば、秘書は被害意識を感じる事などなかった!」


 事件を表沙汰にした者が悪いのだと言わんばかりの主張。居るよな、こういう往生際の悪い奴。

 時代劇とかだったら「えぇい、貴様など将軍ではない、偽者だ!」とか言って斬りかかるシーンだぞ。

 奴の場合は動きを拘束されているから、出来たとしてもセリフを言うくらいなのだが……。


「そもそもおかしな話なのだ! 本国の女王がわざわざこんな場所に来るはずがないだろう! 貴様は偽者だ!」


 ……まさか、本当に言うとはな。

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