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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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147:さらばダーテ王国

 ――どうせならファーミンの問題も解決して併合し、地方を統一した上で代表者が集まって会議した方が効率がいい。


 ザッとその後の流れを話す事となり、最終的に俺達が出した結論はこれだった。

 ジーク達もその案に乗り気で、この国のみならず地方全体が平和になるならばと後押しを約束してくれた。

 あとは一旦ツェントラールに戻り、準備をしてから砂漠の国ファーミンへと向かう事になるだろう。


「じゃあな、ジーク。次に会う時は、この地方が統一された時だ」

「あぁ。それまでにこのダーテ……いや、リザーレ領を住みよい地域に変えてみせる」

「ファーミンの件は俺達に任せてくれ。今までの三国のように何とかしてみせる」


 ガッチリと握手。最初から「畏まらなくて良い」と言われ、敬語なく話せたフレンドリーな王子。

 エリーティのジョン=ウーとはまた違うタイプの友人となった。二人を会わせたら面白い事になりそうだ。

 見た目とは裏腹に強かったし、さらに鍛えればジーク達とも互角に戦えるだろうな。


『スピオンよ。お主は我が配下でもあるが、その前にこの地の要人だ。妻子と共に、民の良き暮らしのために励むが良い』

「ありがとうございます。新たに頂いたこの身命を賭して、必ずや良き生活の場を創り上げます」


 スピオンと、その妻子である二人もその場に跪き、この地の発展を誓っていた。

 

『そしてティアよ。お主とは報酬で契約を結んだ身ではあるが、死者ではない故に厳密には我が部下とは異なる。好きにするがいい』

「そうだな。それならば、私もこの地のために働かせてもらおう。元々は、この国の貴族だからな。もう、道は誤らぬ」


 いや、魔族化を維持して俺の指をペロペロしている時点で大きく道を誤っているからな……。


「今はまだこの指すらもまともに食せぬが、食せるようになった時は覚悟しておくがいい、もう一人の主よ」


 艶めかしい美女の舌なめずり……。その仕草は俺からすれば極めてエロいのだが、同時に恐ろしい。

 俺は聖性を宿すゆえに魔の存在にとっては猛毒であるが、同時に異邦人であるが故に極めて美味でもあるという。

 そのため、未だに舐めて味わうのが精一杯で、まともに食しでもすればその身が滅んでしまうらしい。


 そういや大公の屋敷で俺を喰った魔物が爆発四散していたが、今思えばそれはそういう事だったのか。

 ティアさんや。どうか、ずっと聖性を克服できないでいてくれ――って、こう願うと何かフラグみたいで嫌だな。



 ・・・・・




 各々が別れの挨拶を済ませた後、ダーテ王国からの撤退は実にあっさりとしたものだった。

 エリーティから戻るのと同じく空間転移であっさりと王城へ戻り、一応はという事で王に話を聞かせておいた。

 相変わらず魂が抜けそうな顔で頼りにならないが、王子や王女は神妙な顔でしっかり話を聞いている。


 リチェルカーレとしても、その辺りの人間がしっかり聞いていればそれでいいのだろう。相変わらず王に対する扱いが酷いな。

 俺も謁見の際の出来事が影響して、どうにもこの王に対しては畏まった態度で接するのが苦手だ……。


「では、失礼するよ。次に来る時はファーミンを落とした後になるだろうね。地方統一に備えて心構えをしておく事だ」


 最後にそれだけ言って、俺達はあっさりと王城から退散した。

 そして、その後に行くのは魔導研究室だ。内密の話をするにはもってこいだな。

 リチェルカーレが手際良く茶と菓子を準備してくれたが……今度は大丈夫だろうな?


「さて、王子達から聞いた話の中で、気になった点はあったかい?」

「リュックさん戻ってきたんだってな。騎士団長と懇意な関係にあるって聞いたぞ」

「失踪される前から、度々先輩はのろけ話をしていましたね……。多少情けない所もあるが、それくらいの方が良いと言っていました」


 確かに、あのリュックさんはグイグイと引っ張っていくタイプだ。

 言い方は悪いが、多少ばかりヘタレな感じの男の方が彼女にとってはやりやすいのだろう。


「私は、メイド長が部下のメイドのため一緒にファーミンへ行った――という話が気になりますね」

「ファーミン出身のメイドが居たのか……。確か、長期失踪していた姉が帰ってきた旨の手紙が来たと言っていたな」


 長期の失踪となると、十中八九マイテの事だろうな。エリーティの復興に区切りをつけて帰ったのか。

 せっかくだし、向こうで合流でもしたいところだ。色々とその後の話を聞きたい。


「それらの問題も気になるが、俺としては特に気になる事が他に二つある」

「二つ……ですか?」

「「……」」


 俺の言葉に反応したレミアに対し、ゴクッと唾を飲み込んだ人物が二人。


「……どうして、王が連れてきた女の子がここに居るんだ?」


 そう、王が合流していた時に抱えていた女の子だ。

 極めて大人しいのか、俺はまだこの子の声すら聞いていない。


『この子は天然で聖性を宿す者だ。神官であるエレナならば、その意味が分かるだろう』

「なんですって!? そんな……ちょっと、ごめんなさいね」


 エレナが少女の手を取り、目を閉じて少し待ち……クワッと目を見開いた。


「……貴方。一体、どんな生き方をしてきたというの?」


 エレナのつぶやいた疑問にも、少女は首をかしげるだけだ。

 あの少しの間に、エレナは少女から一体何を感じ取ったと言うんだ……?


「お名前、教えてくれますか?」

「……ピュルテ、です」


 ようやく開かれた口。喋るのが苦手なのか、積極的には言葉を発しようとしない。


「ピュルテ、聞いてください。貴方は厳しい修行も無しに聖性を宿している稀有な存在です。天然の聖性持ちは、まず教会に狙われるでしょう……」

「教会に? 穏やかな話じゃないな……。まさか、ミネルヴァ聖教か?」

「えぇ。しかし、ミネルヴァ聖教に限らず、聖なる者を主として信仰する様々な宗教にとって、その価値は計り知れないものです」


 曰く、教会では修行などで聖性に目覚めた者は養殖物のような扱いをされているのに対し、生まれつき聖性を宿す者は天然物として尊重されているとの事だ。

 法力そのものにも違いがあるそうで、前者と後者で同じ量の法力を放出したとしても、後者の方が明らかに純度が高く力も強いという。

 そんな存在であるが故に聖人・聖女として崇められる事もあるそうだ。この子をダーテに放置していたら、ヤバい事に巻き込まれていたかもしれないな。


「それに、これから向かうファーミンはミネルヴァ聖教に次ぐ勢力の八柱教を信仰する者が多い土地です。勢力拡大のためにと狙ってくる者も居るでしょう」


 八柱教とは、魔術の属性にある『火、水、風、雷、地、木、光、闇』を象徴する『八柱の母なる精霊』が存在するという考えを元に成り立っている宗教らしい。

 ファーミンは多数の部族が混在し、長達が共同で国を動かしている。いわば明確な一つのトップを持たない国だ。八柱の精霊達が並んで象徴とされる八柱教は彼らの理念に合うのだろう。

 ミネルヴァ聖教のように一つのトップを掲げた宗教を主流にしてしまうと、それに倣って一つのトップを巡る争いが起きてしまうかもしれないからな……。


『安心せい。この子をファーミンに連れていくつもりはない。戻ってくるまで、王城で預かっていてもらう。その間に、神官見習いとして修業をしてもらおうと思っている』

「私もそれが良いと思います。大きな力を持ちながら扱い方を知らないのでは危険ですから……。周りの人も、自身も傷つけてしまう可能性があります」

「王城に居る間は、神官達の他にも魔導師団や騎士団にお願いして警護してもらいます。可能な限り、一番心強い先輩が警護につけるようにお願いはしておきましょう」


 王達の提案に「はい」と頷くピュルテ。あまり言葉を口にしないが、意志は強いようだ。


「ピュルテの話にも関連してくるのですが、この子が天然の聖性持ちであるなら、私達神官は人工の聖性持ちとなります」

「世間的にはそれが普通なんだけどね。聖性とは、神官を志す者達が厳しい修行の果てに得るもの……。何処の地域でもそう思っているだろうさ」

「むしろ、修行もなしに聖性を宿しているなど、そんな事があり得るのか……という認識でしたね、私としましては」


 だからこそ、世間的には知られておらず、教会関係者のみが知るという天然の聖性持ちが狙われる……って訳か。

 厳しい修行の果てに得られるはずの力を最初から備えているとなると、そりゃあ確かに奇跡の存在だわな。


「私は、そんな人工の聖性持ちの中でも極致と言える存在なのです。王国で見せた私の力、それについて今からお話致します」

「それはちょうど良かった。もう一つの気になる事と言うのは、他ならぬエレナの事だったんだ」

「え? リューイチさんが、私の事を……気になる、だなんて……」


 ぽおっと頬を赤らめるエレナ。いや、そういう意味じゃないからな……?

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