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009:魔法グッズ

 イタリアの市場ではまず見かけないであろう店。それが武器や防具を販売している店だった。

 まさに戦いが身近にあり、死が近い世界ならではの店と言えるだろう。


 ある店には、明らかに戦うための刀剣類やハンマー、オノといったものが並べられている。

 またある店には全身を覆う金属鎧や、特定部位を保護するための軽装鎧が並べられたりしている。


「やはり、君にとっては珍しい物なのかい?」

「あぁ、こう言ったものは展示品か、マニアにとってのコレクションアイテムとしてしか存在しない。実戦で使われている事はまずない」

「ならば一体どうやって戦って……あぁ、先日の『アレ』か」


 どうやらリチェルカーレもこっそり謁見時のやり取りを見ていたらしい。


「そうだ。俺達の世界ではそういう効率重視の物が主流なんだよ。そもそもそういった物ですら積極的には使用しない。あくまでも最終防衛手段だ」

「にしてはナイフの戦闘術の錬度といい、躊躇いなく玉座を撃った事といい、只者ではない雰囲気だったじゃないか」

「さすがに全ての人間がそうじゃない。俺は向こうの世界で数少ない戦場に籠っていたから、自ずと技術が身に付いただけさ」


 現地の兵士達から色々と教えられたしな……。有能なボディガードも雇っていたけど、百パーセント頼りきりではいざという時にどうにも出来ないから積極的に学んだものだ。

 また、撃つべき時に撃つ事を躊躇ったらその瞬間に自分が死ぬ事になると叩き込まれていたから、引き金を引く事に関しての躊躇いはもう無くなっている。


「向こうの世界では、こんな武器で戦うような時代は遥か昔の事だからな……」


 試しに、円筒状の容器に乱雑に入れられていた剣の一つを手に取ってみるが、金属製だけあってか、片手で持つとズシリと来る。

 持てない重さではないが、この世界で戦う人間は常にこんなものを振り回して戦っているのか。一日中ズッシリと重いハンマドリル抱えて作業している現場の人とどっちがしんどいだろう。

 闘気で身体強化すれば、さっき見た巨大なパンプを持ってたおっさんみたく、こんな剣くらいなら棒切れのように軽々と扱えるようになるんだろうか。


(うーん、俺も闘気を扱えたらいいんだけどな……)





 それから次の店へ向かった訳だが、そこで俺のテンションが一気に上がった。


「すげぇ。これが俗に言う『魔法グッズ』ってやつか……!」


 そう、目の前に広がるのは杖やらステッキ、謎の小瓶に入った薬品や数々の宝石類など、創作物で良く見る典型的な魔法使い用アイテムの数々だった。

 金属製の武器や鎧は、実戦で使われる事は滅多に無いにしろ現実でも存在する。だが、こう言ったものは地球上に存在しなかった。まさに異世界へ来たという感じだ。


 試しに目の前にあった、自分の身長ほどもある長い杖を手に取ってみる。

 材質は木。手触りとしてはつるつるで、完全に磨き上げられ、表面も光っている事からニスのようなものが塗ってあるのだろうか。

 先端には拳大の赤く丸い宝石がくっつけられている。なんだか凄い高そうな杖だな……。


「いや、この杖は最安値クラスさ。一万ゲルトもしないだろうね」


 リチェルカーレに言われて値札を見てみると、八千五百ゲルトと記載があった。 

 向こうの世界で馴染み深かった物で換算すると、ゲームソフトを買うような感じか。


「杖において重要なのは、使用者の魔力をどれだけ底上げ出来るか、魔術の発動をどれだけ助けられるか……それと、後はデザインセンスだね」


 彼女が指し示したのはカウンターの奥。蓋が開けられた木製ケースの中、クッションに寝かせられるようにして一本の杖が置かれている。

 自分が先程手にした杖とは違い、木そのままの色ではなく鮮やかな白で塗られている。棒の部分にも煌びやかな装飾がされており、先端もまるで美術品のような意匠が成されていた。

 端に付けられた鮮やかな青色の宝石は、赤色の宝石よりも遥かに大きく、また輝きも目に見えて分かる程に違う。そんな魔術用に加工された宝石は魔導石と呼ばれるらしい。


「これが……三百五十万ゲルト。まぁ、初級者用の杖の中では割と高い方じゃないかな」

「三百五十万で『割と高い』……なのか。しかも、初級者用?」

「力を付けた者がこの杖を使ったりしたら一発で壊れてしまうよ。そもそも、こういうバザーはほとんどが入門者用の品ばかりさ」


 ステッキの方も、数千~数百万。宝石単体も同様の価格幅だ。薬品に関しては数百~数万くらいだろうか。

 恐ろしいのは、自分達が見学している間にも数十万クラスの品物がちょくちょく買われていってる事だ。

 単体の宝石は使い捨てアイテムで、杖やステッキに付けられた宝石も使い続けていればやがて壊れてしまうという。 

 初心者クラスですら少なくない出資なのだ。上級者クラスともなると、もはや出資を想像したくもない。


「ちなみにアタシのコレだけど……いくらすると思う?」


 懐から取り出したのは漆黒の宝石だった。しかも、ブリリアントカットと思われる非常に綺麗な形をしている。

 地球では見られない程に大きな物。もし競売にかけられたのであれば何十億と値段が付きそうだ……。


「やっぱ、何十億?」

「ふふ。もしかしたら、それくらい行くかも……だね。これはアタシの自作だから、実際の値段は分からないんだけどさ」


 宝石そのものの質や大きさも大事であるが、カッティングの形状などでも色々と性質や能力が変わってくるらしい。

 そのため、上級者になると自身でピッタリ合う宝石を探し出し、好みに合わせた加工までもやってしまうような者が居るとの事だ。

 リチェルカーレ自身がそのタイプだという。曰く「アタシの力に耐えられる既製品など無いから作るしかない」とか。


「店主、良ければアタシの魔導石を見てもらえないかい?」

「お嬢ちゃんは魔導師かい? 見てもらいたい石とは、どんなものかの……」


 店主は如何にも経験豊富そうなお爺さんの魔導師だ。

 自分のように全く知識のない人間が見たら、如何にも名のある高名な存在と思わされるオーラがある。


「これさ」

「どれどれ……? む!? な、なんじゃこれは……」


 漆黒の宝石を手渡した瞬間、老魔導師が驚愕の表情となり、瞬く間に全身から汗が溢れ出す。

 そして、ガクガクと震え出したあたりで、リチェルカーレが宝石を手に取る。


「これは一種の中毒症状だね。術者があまりにも大きな力を秘めた魔導石を手にした際、その力に耐えられずに起きる症状さ」

「おいおい、どれだけとんでもない物を渡したんだよ……」

「と、まぁアタシが扱うレベルの魔導石はこういうレベルの物って事さ。並大抵の魔導師では扱えないよ」


 リチェルカーレが老魔導師に手をかざし、淡い緑色の光でその身を包む。

 彼女曰く『法力を用いた治癒魔術』であるらしい。魔力だけでなく法力も扱えるのか……。


「無茶させてすまなかったね、店主」


 脱力して床にへたりこむ店主に謝罪をして、俺達は店を後にする。


「魔導石は先程言ったような性質だから、弱者が分不相応に強力な物を悪用する事は出来ない。最低でも術者と魔導石の力が釣り合うくらいでないと、所持する事すら出来ない」

「じゃあ、あの老魔導師はリチェルカーレと比べて……言い方は悪いが、かなり弱かったって事か?」

「そうなるね。少なくとも初心者向けの魔術用品を取り扱うだけのノウハウはあるようだから、中堅クラスではあるんだろうけど」

 

 あの老魔導師、中堅クラスなのか……高名な存在に見えていたのは俺の思い込みだったか。

 少なくとも、中堅じゃ扱えないくらいにリチェルカーレの魔導師としてのレベルは高いって事になるのか。


「この後は『冒険者ギルド』に立ち寄るよ。そこでキミに魔術適性があるか無いかを調べる事が出来る」

「以前言っていた『資質判断』ってやつか。俺が何に適しているかを調べられるんだな」

「あぁ、だが『何にも適していない』という結果が出て夢破れて去って行く者達も少なからず居る」


 身も蓋もないな……。せっかく異世界に来たんだし、俺も魔術の一つくらい使ってみたいぞ。何らかの適性がある事を願うばかりだ。



 ・・・・・



 一通りバザーを散策して、広場から離れた噴水広場のベンチに腰を下ろす俺達。

 俺の物理的な収穫はといえば、リチェルカーレから貰った串焼きと唐揚げくらいだ。武器防具や魔法アイテムは結局見るだけで終わった。今の俺には扱えないから仕方がない。

 後はカメラで密かに撮影していた、異世界におけるバザーの様子くらいか。宿に着いたら動画を取り込んで保存しておこう……。


「冒険者登録をするのは、身分を得るためのものでもあるんだ。身分証を城で発行できない事も無いが、それはあくまでこの国の民である事を示すだけのもので、それ以外の役割は無い」

「……それだと何か困るのか?」

「他の国では他の国独自の身分証明書が必要となってしまう。また手続するのは面倒だろう? 国によっては、安易に他国民に身分証を与えてくれないケースもあるしね」

「あぁ、そこは地球と同じなんだな……。全世界共通の身分証明書とかは無いのか?」

「そこで冒険者ギルドさ。冒険者ギルドは全世界に広がる組織。故に全世界で通じるし、パスポートの役割も兼ねている。世界を巡りたいなら必須だね」


 俺はツェントラールを救ったその後は全世界を巡りたい。そうなれば、確かにパスポート的役割を持つ物は必須となる。

 戦闘能力の有無を問わず、人として問題のある性格でさえなければ基本的に誰にでも門戸を開放しているらしいし、たぶん大丈夫だろう……たぶん。


 事実、戦うための力を全く持たなくても冒険者として登録をしている者達もおり、物探しや雑用など命の危険が無い依頼をこなして日銭を稼ぐ者が居るという。

 全体的に見ると危険な依頼が多く、死と隣り合わせとされる冒険者だが、選ぶ依頼によっては安全圏内で稼ぐ事も出来るのだ。

 その分報酬は少ないし、もはや冒険もしていないから冒険者と呼んでいいのかどうかも疑問だが、ギルドが承認しているなら良いのだろう。


「だったら、ついでにアタシも登録するかー」

「リチェルカーレ、長生きしてるのに冒険者未経験だったのか……」

「今までずっとこもりっきりの研究の虫だったからね」


 ちなみに冒険者は定職に就いた状態、学校に在籍している状態でも登録ができるらしい。

 本業の合間に副業としてやっている者や、戦闘技術を学ぶ学校が授業の一環で生徒を冒険者登録する所もあるという。


「よし、じゃあ早速冒険者登録をしに行こう! ギルドは何処だっ!?」

「……ここだよ」


 何と、当の冒険者ギルドは噴水広場に面する形で接していた。


「近っ!」

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