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私の世界は今よみがえる  作者: ハチノサギリ
第1章-目覚めの魔王
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9.仮面の騎士団長

 集められた村人たちは不安に駆られていた。

 何人かは森の有り様に興味を示していたが、普段ほどの元気はない。

 今回ばかりはゲデルを攻める気配すらない。


「皆、私の力が及ばなかったばかりにすまない」


 ゲデルは深々と頭を下げた。

 搖動に引っ掛からなければ村を守れていたかもしれない。

 そうしたやり切れない思いもあるのだ。頭くらい下げないと気が済まない。


「止してください。相手の方が上手だっただけなんですから」


「同じ人間が相手だったんです。自衛する事も出来たのに、あまり抵抗できなかったのは我々の責任です」


 同じ人間と言う言葉が示唆する通り、別動隊の兵士たちは揺動部隊の反応の前に霞んでしまうほどの一般人だったのも確かだ。

 ゲデルだけに責任を持たせようとしない姿勢は素晴らしいが、転嫁しているだけでは意味がない。


「命あっての物種です。ゲデル様が戻ってきてくれなければ私たちは全滅でしたよ」


「そうよ。だから顔を上げて、元気出して」


「え?あ、うん。あれ?」


 元気づけよう。と、皆を集め話し始めたはずが、何故が逆に元気づけられている。

 これではいけない。と、ゲデルは話題を切り替えることにした。


「そうだね。確かに命あっての物種。

 それに私はまだ君たちを必要としているんだ。

 この森を見てほしい。亜人達は村で得た知識を使って開拓を始めている。

 森の外を見た人はいるか?畑ができていただろう?」


 村人たちは再び周囲を見渡し、ざっと見たときにはわからなかったが、要所要所で村人が教えた技術が使われている。

 蔓の編み方、ロープの結び方、小屋の立て方。それら全ては村人が教えたものだった。


「これでもまだまだといった所だ。

 でも、もしここに居る皆が亜人と協力してこの森を始めに荒野を開拓したらどうなる?

 森は広大だ。資材には困らないだろう。燃やされた村以上に大きな村を作ることも可能だ」


 何人かは声を漏らし、お互いを見合って頷く者も居る。

 もうひと押しか。


「王国兵の言う通り。私は魔王種であり、名の通り魔王に成るつもりだ。

 今まで通り、皆と楽しくやっていくための国を作りたい。

 その為には、君たちの協力が必要なんだ。

 この森は新たな国の礎となるだろう。

 最初が重要なんだ。その重要な場所に君たちは居るんだ」


 騒めきが広がる。

 言葉の意味を整理しているのか、魔王の支配下になることについて相談しているのか。

 様々な内容の討論が始まった。

 余り時間がないので悠長には待っていられないのだが、こればかりは彼らの意思で動いてもらいたい。

 なので、余計な口は挟まないでおこうと思っていた矢先だった。一人の女性が前に出てきて村人たちの方に振り返った。

 シャリアだった。


「結局みんなどうなの?ゲデルちゃんについて行くか行かないか、答えは二つに一つ!」


「はん!ぽっと出の小娘が魔王なんぞ笑わせる!」


 声高らかに反論しだしたのは村長だった。

 突然の発言に驚きの声が上がるが、村長はそれを無視した。


「経験も浅い上に学もあまりあるようには見えない。

 そんなのに任せられるか?無理だろうよ!」


 黙って聞いていたシャリアの顔は今にも殴りかかりそうなほどである。

 しかし、そのあとに続いた村長の言葉は意外なものだった。


「ならばどうだ?学があり、経験がもある我々大人が教えてやるべきだろう?

 私は責任を持たんぞ!ただ教えるだけだ。

 不安なら何が不安か伝えてやればいい。だからお前たちも考えるんだ!

 小娘っても力は持ってるんだ。それでやろうって言ってるならやって貰おうじゃないか!」


 責任を持たないと豪語するのは彼らしい。

 だが、心はみんな理解できた。歓声と拍手が巻き起こり、場の空気は一気に好転した。

 反論する物は誰一人として居ない。

 彼らは一度火が付くとなかなか止まらないのだ。

 もう安心だろう。


「折角だ。私の作戦に協力してくれると助かるんだけど」


 ゲデルはこれから起こる事を予測し、村人たちに伝えた。

 最終的には相手は全軍突入してくるだろうと。

 そして、相手の兵種から考えられる限りの対策出し合った。

 次こそは、と誰もが村の二の舞は御免と奮起する。


「王国兵団、見えました!」


 対策の準備をしていると、見張りの獣人が鐘を鳴らした。

 王国兵が目視できる範囲まで進軍してきたのだ。

 すでに日は傾いている。野営せずに来たという事は、この戦いを短時間で終わらせるつもりなのだろう。

 こちらが地の利を得た防衛線、時間を置くほど厄介になると踏んだのだろう。


「ナイン、秘伝の方はどうだい?」


「一人だけだが、何とか形になったのである!」


「上出来じゃないか!」


 一人でも居ればいいのだ。それだけで作戦は8割成功したようなもの。


「あ、あんまり期待されても緊張するっす……」


 ナインの秘伝を習得したのは獣人の娘だった。

 ゲプロスの弟子の一人なのだろうか、素手で戦うような恰好をした獣人は不安そうな声を上げている。


「これから言う指示通りに動けば問題ない。

 仮に失敗してもこちらで何とかするから安心してほしい」


 緊張感を与えすぎると、何かしらの見落としや失敗の原因になる。

 責任感や緊張感は無くてはならないものだが、持ちすぎても良くないのだ。


「ゲプロス、そっちはどうだ」


「ダカンター兄弟に指揮を執らせてます。問題はないかと」


 あの二人は引き際をちゃんと弁えている。

 戦いの指揮も重要ではあるが、引くときはしっかり引くことも同じくらい重要なのだ。

 いたずらに犠牲者を出すような指揮官なんて粛清の対象。

 そのようなものが居ないのは、彼らの戦闘経験ゆえだろうか。


「村人たちの指揮はシャリアに一任している。

 後は私たちがしっかりやるだけだ」


 ゲデル達がしくじれば、そのつけは全て後続に回る。

 秘伝を会得した彼女には何とかすると言ったものの、実際は厳しい。

 騎士団長と装甲虫、どちらかだけでも無力化しないと大損害は免れない。

 詳細がわからない騎士団長はともかく、装甲虫は目に見えた脅威。

 あの重量での突進、間に合わせの柵程度ならば物ともしないだろう。

 折角亜人達が作ってくれた物を滅茶苦茶にされるのも癪である。

 どちらかしか止められなくなった場合、優先すべきは装甲虫の方だ。


 作戦会議を済ませ、最終確認も怠らない。

 秘伝を会得した彼女も、問題なくそれを扱える事を実践して見せてくれた。

 彼女はゲデルの指示通り、身を潜めた。


「よーし、今度は三人で出迎えようじゃないか」


 敵兵団に向け、三人は威風堂々と歩む。


---


「あなた方は馬鹿ですか?」


 王国騎士団長は呆れたようにして投げかけた。

 手練れも含め、兵が全員揃ったところにたった三人で相手は立ちふさがったのだから。

 それも、本来ならば兵を使って守護すべき対象が二人も居る。

 蛮勇馬鹿以外の何物でもない。それが人間ならばの話だが。


「確かに、森を要塞に改築してるなんて私も予想外だった」


「そっちじゃありませんよ。そこの獣人、貴方はどうなんですか。

 魔王と吸血鬼を捕らえ、こちらに渡せば命だけは保証します」


「それこそ馬鹿か。

 俺達は先制して村を燃やされてるんだ。誰も信用できるわけがないだろうが」


 当然の反応であると言える。

 騎士団長は放火を指示した兵長を横目に見るが、悪びれた様子もない。

 先に民間人に手を出した以上、交渉は絶望的だろう。


「仕方ありませんね。たった三人だろうと我々は全力を尽くすのみです。

 ……ですが、そんなので我々の目をごまかせると思っているんですか!」


 騎士団長が杖をかざすと、その先から小さな火球が発射された。

 火球は茂みの方へ向かい、隠れていた獣人の持つ弓に命中し炸裂した。


「しまった!」


「見つかってしまったのだ!」


「こんなことだろうと思いました。確かにそうですね。

 強い力を感知していれば弱い力は掠れてしまいます。

 ですが、探知方法は魔力だけじゃないんですよ」


 ゲデルとナインの反応を見て得意げになったのか、意気揚々に語りだす騎士団長。

 ゲプロスは険しい顔をして目を伏せている。

 誰が見ても彼らの作戦は失敗したと認識できる。

 それも作戦だったのだ。獣人の持った弓はただの飾りであり、それで攻撃するつもりだったと認識させる為の囮。

 本命は会得させた投擲発現である。

 突然魔法を飛ばしたのは想定外だが、結果は想定通りだった。


「なんてね、魔力感知さえ阻害できれば十分なのさ」


「なん……!」


 短い単語を言い終わるよりも早く、装甲虫の櫓が衝撃を受け崩壊した。

 驚いた装甲虫が体を左右に振り、兵を振り落とし櫓の崩壊を加速させる。


「やっぱり思った通りなのである!生物の上に乗せる以上、あまり頑丈なのは作れないのだ!」


「最初から櫓を……魔法……貴方達は秘伝を何だと思っているんですか!」


 どうやら彼女の中では意表を突かれたことよりも、魔導士として秘伝を広めていることの方が気に障った様だ。

 ゲデルとナインが追走劇中に秘伝による迎撃を行なっていたことは、騎士団長に報告されるだろうと踏んでいた。

 騎士団長は騎士と言うよりは魔導士だ。つまり、魔導士として秘伝を一度に多くの人物に教えようとするとは思わない。

 地位を築くほど卓越している人物だからこその固定概念。そこに付け込んだのだ。

 ゲデルがかき消せる程度の魔力で遠距離魔法を放っても威力はたかが知れている。

 投擲発現は魔法の発生場所そのものを放つのだ。距離と威力は比例しない。

 しかし、その秘伝はゲデルとナインが先に使用していた。故に、彼女は獣人が秘伝を使えると予測できなかった。

 魔導士としてあり得ないからだ。


「今度はお前たちが火に包まれる番だ!俺が受けた苦痛、返してやるぞ!ナイン!」


「任されたのである!」


 装甲虫の櫓に積まれていたのは放火の為の油。

 魔導士兵を乗せ、遠距離攻撃に対する対策は万端の筈だったのだろう。

 しかし、櫓が振り落とされ崩壊してしまえば元も子もない。

 投げ出された瓶は地面との衝突で割れ、油は周囲に飛散していた。

 そこに、ナインの小さな火炎魔法が放たれる。もちろん、投擲発現でだ。

 小さな火種は、瞬く間に燃え広がった。


「キシィィィィイイ!」


 装甲虫を中心にして火に包まれた。

 軋むような叫び声を上げ、もがき苦しむ装甲虫。

 これで、王国兵は戦力の半分を失ったも同然である。


「凝り固まった君には信じられないだろうね。魔法と秘伝を私たちが共有しているなんて」


「そのような無秩序、認めてなるものですか!装甲虫を破棄、総員重歩兵を前に密集陣形で突入せよ!」


 唾を飛ばす勢いでゲデル達の行いを否定し、兵達に指示を出す。

 今の彼女に先ほどまで感じられた余裕など微塵もない。


「その興奮、だいぶ効果はあったみたいだね。

 ……ふふん、搖動とは古今東西通じる良い戦術だ」


「き……さまぁ!」


 決め台詞を返されたことがよほど気に障ったのか、丁寧な口調すら消えた。

 騎士団長は杖を再びかざし、地面に投げ立てた。

 すると、彼女を中心とした円陣が出現。

 ゲプロスは反射的に飛びのいたものの、ゲデルとナインは取り残された。

 大地は揺れ、轟音が鳴り響き、円陣は輝きを増す。

 光の円陣から岩盤が飛び出し、壁となってゲデル達と騎士団長の3人を周囲から断絶した。


「三人まとめるつもりでしたがいいでしょう。

 どうやら僕はあなた方を見くびっていたみたいです。まさか我々に奇襲を仕掛け、最低限の兵力で大きな戦果を挙げるとは……。

 ですので、下手な策をとるよりは正々堂々正面から叩きつぶした方が効果的と見ました」


 結局は力押しか、と思ったものの。

 この状況下で敵の主戦力を隔離したと見れば最適解だろう。

 ゲデルは周囲の壁を見渡す。大地が盛り上がったものでは無く、岩盤状に再構成されている。

 ちょっとやそっとの衝撃で破壊できるものでは無いだろう。


「大した自信だね」


「合理的判断に従っただけです。僕がいなくてもあなた方を隔離すればうまくやるでしょう」


 マチョウから降りて杖を回収し、ゲデル達に向ける。

 指揮官としての威厳的な態度はなくなり、今度は一人の戦士として立っているのだろう。

 気迫が違っていた。先ほどよりも強い緊張感を感じさせる。

 彼女もまた、ゲデル達と同じく集団で戦うよりは個人で戦う者なのだろう。


「こっちも同じなのである!ゲプロス殿は咄嗟の判断に優れているのだ!奴を逃がしたのは失敗であったな!」


 ナインは懐から布を取り出し、それを振ったかと思えば細い剣が出現した。

 どうなっているんだ、とゲデルは物凄く興味をそそられたが、今は堪えるしかない。


「面白いことしますね。そのような奇術で僕を翻弄するつもりなんですか?」


「これは趣味なのである。町の人々には楽しんでもらえたのだ」


 親しみをもって接したからこそ勝ち得た信頼。

 今でこそ冷静さを取り戻しているものの、ナインの内心には静かな怒りが満ち溢れていた。

 民に手を出すものは許しておけない。今のゲデルならその心を言葉にせずとも理解できる。


「ゲデル殿、先手は我輩に譲ってもらいたいのだ」


「わかった。無理だけはしないでよ」


 ナインは真剣な顔つきになり、構えた。

 ゲデルにとって、止める理由はないし、騎士団長の戦い方を先に見ておいた方が有利に戦える。

 恐らくはナインも後にとっておく切り札としてゲデルを見ているのだろう。


「くっくっく、ついにこの時が来たのである!

 我輩の飛翔剣術をとくと味わうがいいのだ!」


 ナインの靴底が輝き、魔力を放出して滑るように宙を舞う。


「魔法には速攻の近接戦闘が有利なのだ!」


 空中より突撃するナイン。

 加速を乗せた剣が騎士団長を穿つ。

 だが、それは杖によって弾かれる。ナインが次の攻撃を繰り出すよりも早く、杖を回転させるように打撃を見舞う。

 既の所で回避してナインは反撃を試みる。

 しかし、全ての攻撃は杖によって弾かれ、隙あらば打撃を加えようと振るわれる。


「どうしたんですか?騎士団長である僕が魔導士の恰好をしているからって、魔法しか扱えないと思っていたんですか?」


 ナインは完全に弄ばれていた。

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