4.交換条件
ゲデル達が到着するころ、村は騒然としていた。
お飾りとはいえ村長なのだ。一大事である。
しかし、喧騒の原因はそれだけではなかった。
村の人々が二つに分かれ、言い争いをしていたのである。
「おいおい、何をしているんだこんな時に」
ゲプロスが声をかけると、気が付いた何人かは駆け寄ってきてすぐさま隠れるように指示を出してきた。
状況説明を求めるも、まずは身を隠すことが先決だと言われるが、既に遅かったようだ。
対立していた村人がゲデル達を見つけ出し、取り囲んだのだ。
それを押し返すように若者たちが動き、ゲデルを中心としてまた二分された。
ゲデル達に対して罵詈雑言を浴びせる村の高齢者たちと、ゲデル達を庇護する若者たちで二分していたのだ。
高齢者達はこの問題はゲデルさえいなければと責任転嫁的な事を主張しているのだ。
村長と似た者同士、説得に骨が折れそうである。
「今はこんな言い争いしてる場合じゃねぇんだろ?!」
「黙れ!獣人如きが!」
何を!と、激昂したダカヴァンであったが、ここで手を出されては余計に面倒なことになる。
なので、ゲデルはダカヴァンの毛深い喉元を撫でてやり、宥めることにした。
彼は何か言いたそうな表情をしているが、聞いてやる余裕はない。
「原因がどうであれ、まずは村長だろう?
王国兵は何を要求しているんだ?まさか、事実確認もなしに捕らえたわけじゃないだろう」
村長の印象は一言に最悪としか今のところ言い様がない。
亜人やゲデルに対して睨みつけたりぼそぼそと何か言ったりと、釈然としない態度が目立っていた。
シャリアが言うには、村の長という立場が危ぶまれる状況を作り出したゲデル達が気に入らないのだろう、という事らしい。
亜人はもともと適応力が高いので、村と森を行き来する生活にもすぐに慣れたが、人間たちはそうもいかない。
受け入れがたいものがあるのは少し理解できるが、あそこまで態度に出されると、ゲデル達としてもやりづらいものがあるのだ。
村の若者や一部のお人好しも、あの態度は如何なものかと訴え、それが村長を中心とした高齢者達の反感を買っているらしい。
それが、今回の件で爆発したのだ。実際に起きている問題をそっちのけで不満を垂れ流している。
これもまた、解決しなければならない問題なのは確かだが、今は相手にしている場合ではないので、率直に若者の方から話を聞くのだった。
彼らの説明が終わるころには言いたいことを言って少し冷静になったのか、高齢者グループは静かになっていた。
説明によると、王国兵は魔王の身柄を魔封じの紐で拘束し、村長と交換で引き渡せ、というものだ。
十中八九罠だろう。だが、引き渡しに応じないことを理由に攻め込んでくることも考えられる。
今後の事を考え、現段階で人間と事を交えるのは愚策だろう。
ならば、どうするか。村人を納得させ、無事に村長を奪還する方法はない物だろうか。
下手に王国兵を刺激してしまえば、村人全員が反逆罪として捕まってしまう恐れもある。
かといって、村長を見捨てればゲデルの信用は地に落ちるだろう。
それだけは何としてでも阻止しなければならないのだ。
「ゲデル様、ちょっといいですか?これを触ってみてください」
ゲプロスが小声で呼び、こそこそと紐を持ち出し、手渡してきた。
ゲデルは意図を理解できず、渡された紐を引っ張ったり手に巻いてみたりしてみた。
特に何も起こらない、ただの紐のようだが。
「やはり、要求してきた王国兵はゲデル様の詳細までは知らない様子」
「うん?」
若者たちは喜びだし、ゲプロスは何か納得している。説明がほしい。
「この紐こそが魔封じの紐です。魔法使いやそこらの魔物ならともかく、基礎的な力が高い我々やゲデル様からすればただの紐も同然です。
魔力を遮断するだけのただの紐なので頑張れば引きちぎれる」
「捕まったふりをしても、頃合いを見て助けなしでも抜け出せるってことか」
ゲプロスはその通りです、と頷き、王国兵の交換条件にあえて乗ってみる事を提案した。
念には念を入れて何かほかの策も無いかと軽く話し合うが、状況がそれを許さなかった。
このままではせっかく纏まり掛けていた亜人との関係がおじゃんになりかねない。
もたついてここまでの積み重ねを崩してしまうのは得策ではない。
ゲデルはよし、と腹をくくるのであった。
「はい注目!」
ゲプロスの咆哮ともいえる呼びかけに喧騒が静まり返った。
ここまで注目されるとゲデルにとって逆にやりづらいものがあるが、今後の為だ、これもいい経験だろう、と自信に言い聞かす。
「村長を安全に開放するにはどうするか、すこしそれについて相談したんだけど、確実にするにはまず私が捕まらなければだめだろう。
なので、誰か魔封じの紐とやらで私の両腕を縛り王国に引き渡してもらえないだろうか」
老人たちもあっさり条件を呑むという判断を下すとは思っていなかったのだろう。
先ほどまでの騒めきとは、違った内容の騒めきが広がった。
「ゲデルちゃん、本当にいいの?それで大丈夫なの?」
心配そうに伺ってきたのはシャリアだ。
全員が注目している場で再確認する行為、ゲデルを心配して聞いたというよりは、人の為にゲデルが動いているという事実を印象付ける為の物だ。
これでなかなかシャリアも人心掌握がうまいのである。亜人と真っ先に打ち解けたのも彼女だったのだ。
なので、後は彼女達に任せることを期待して、ゲデルは言いたいことを言うだけだった。
「大丈夫、なんとかしてみせる。ただ、もしもの時はみんなに期待しているよ」
ゲデルにとっては無意識だったのだが、この期待しているという言葉は彼女に良い扱いをしてやったとはいえない高齢者達の心に響いた。
彼女は否定されようとも、こちらを信用する心構えだけは変えなかったのだと。
流石にこれ以上恩を仇で返すわけにもいかないと、否定的な意見は途絶えた。
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かくして、ゲデルはシャリア達に村の外まで連行されたのだった。
「この子が魔王よ。さぁ、約束でしょう?村長を還して」
「裏切ったなー!くそー!私は魔王なのにー!」
わざとらしい演技だと誰もが目をそらしたくなっていた。
だが、ゲデルを始めてみる王国兵達は特に気にした様子ではなかった。
どちらかと言うと、その容姿の方が気になっていた様だ。これが魔王?まだ子供ではないか、と兵達は次々に動揺や疑問を口走る。
この兵士たちは、悪い連中ではない様だ。
しばらくして、約束は約束だと捕らえていた村長を連れてきた。
どうやら、近くで待機していたらしい。
恨めしそうな目でゲデルを見てるが、すこし睨み返したら目をそらされた。
「確かに魔王なのか?」
「レヴァナード公爵閣下は黒い角が魔王種たる証と仰っていた」
新しい名前が出てきた。レヴァナード公爵とやらが今回の騒動を起こしたのだろうか。
引き渡しが終わり、歩き出したのを見計らって直接聞いてみることにした。
「レヴァナード公爵?君たちは王国の命に従ってるんじゃないのか?」
「慎め、と言いたいが黙って歩くのもなんだし教えてやろう」
こちらが反抗的でないからか、親切に語りだす王国兵。
曰く、ゲデルを捕らえる為に村長から捕まえろという命令を出したのはその公爵であり、王国からの命令ではないらしい。
なので、これから連行されるのはその公爵のところまでで、そこから先は公爵次第だとか。
この間、何度も公爵素晴らしいという様な語りが出たので、よほど信頼されている領主なのだろうと理解できた。
親切に語ってくれたのも領主の良さを話したくて仕方がないといった所か。
ともあれ、王国まで直接連れていかれるわけでないのは幸いだった。
王国からの脱出となると、大騒動間違いなしだし、村がどうなるかわかったものではない。
このまま捕まったふりをして、公爵と直接話を付ければいいだろう。
ここまで信頼されている人間だ。聞く耳持たずなんてことはないだろう、とゲデルはすこし楽観し始めた。
蜘蛛が引く荷車までの間だけのお話し、その程度の認識だったが、この公爵ベタ褒め話は領地につくまで続くのであった。
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ゲデルが引き渡され、代わりに帰ってきた村長に村人たちの視線が突き刺さる。
特に、若者たちからの視線は敵意さえ感じられるものだった。
だが、村長は怖気づくことなくいい気味だとだと言い放った。
これには若者たちと意見が割れていた村の高齢者も、それはあんまりだろうと、村長に詰め寄る。
村長はその様子を見て怒りをあらわにした。
「もとはと言えば、あの小娘が原因だろう!私は被害者なのだぞ!」
「しかし、盗賊団との諍いを解決したのはゲデル様ですよ?
我々だけで解決できたものでしょうか」
ゲデルがいなければ盗賊団とは今も争っていたと主張する若者たち。
責め立てはしたものの、自分達だけで解決できたかと聞かれれば黙るしかない高齢者達。
村長も同じく、その問いには沈黙しか返せなかった。
「ティスゼンさん」
村長とではなく、名前で呼びかけるシャリア。
立場的な意思ではなく、一人の人間としてどう思うのかという問いだった。
だが、ティスゼン村長は顔を背けた。
誰もが失望しかけた時だった。
「領主ほどの者であれば、大抵珍しい物の貢ぎ物には目がないはずだ」
「村長?」
独り言のように喋りだしたが、皆にしっかりと聞こえるように声を張り上げていた。
「珍しい魔物の毛皮を手に入れたと言い張れば、多少の魔力や臭いはごまかせるだろう」
村民たちは一様にして村長の言葉に耳を傾けた。
「毛皮をかぶし贖物と偽装してあの黒い獣人を送り込むのだ。あの小娘と二人であれば脱出くらいはできるだろうよ」
確かにこの村で一番強いのはゲデルとゲプロスだろう。
しかし、それだけでは不安がぬぐえないし、潜入に成功するかも怪しい。
下手をすれば運んだ人間たちも罪人としてとらえられるかもしれない。
村民たちはそう言った懸念を口々にする。
「ならば、私が行こう。借りを返すだけだ。
それに、私は低級とはいえ魔法使いの端くれだ。多少の印象操作なぞ、取るに足らん問題だ」
先ほどまでとは打って変わって協力的になった村長。
彼も非情というわけではなく、態度を改めるタイミングを逃し続けていただけだったのだろう。
次第に、引くに引けなくなってしまったのだ。
「なにをぐずぐずしている?さっさと亜人共に話を通さんか」
村長に急かされ、村の若者がゲプロスたちの元へ説明に向かっていった。
ゲデルが連れていかれて数時間が経とうとしていた。
岩蜘蛛で追いかけるつもりではあるが、早くても遅くても計画はうまくいかないだろう。
行動が早すぎれば相手を警戒させてしまう。手遅れは論外だ。
しかし、村長が魔法使いであることにより、ある程度の猶予が生まれる。
魔法を扱わない人間にとって、魔法とは完全なる未知の領域なのだ。
それこそ、何でもできる不思議な力とでも思っている連中も多いだろう。
だが、実際には多くの制約があり、人により得手不得手もはっきりしている。
魔法使いは魔力そのものがなんであるかは各々の解釈で理解しているが、学的にどういうものなのかはだれも理解していない。
魔力とは、曖昧なものなのだ。故に、はったりと度胸の世界でもある。
魔法使いにとって、相手を信じ込ませる人心掌握も一種の魔法と言えるだろう。
現に、ティスゼン村長は若かりし頃の自分をかつての村民達に信じさせることにより、今の地位を獲得したのだから。
「ゲプロス様を呼んできました!」
ゲプロスは村長が指揮を執っていることに面食らったが、すぐさま説明を求めた。
村長は先ほどの作戦を話し、ゲプロスに可能かどうかを尋ねる。
無理なようであれば、さらなる力添えが必要だろうと考えたが、無用な心配だったようだ。
領地にいった事がある人間から、地理や町の様子等の情報を聞き出しより詳しい作戦を起てる。
ゲプロス達にとってこれは死活問題であり失敗は許されない。魔王の脅威がなくなれば、荒野の亜人達による森の争奪戦が始まってしまうのだから。
なので、念入りに情報を集め、話をまとめる。
「流れを確認しましょう。
まず、ゲプロスさんを毛皮と一緒に木箱に詰めて、公爵……つまりは領主の元へと急がない程度の速さで送り届けます」
シャリアが言う急がない程度の速さとは妙な言い表し方だが、道中で見つかってしまえば成功率が大幅に下がるのは間違いない。
レヴァナード公爵が居住を構える町までは、早くとも丸一日かかるのだ。
ゲデルを連行している連中が休息をとっている間に観測できる位置まで追いつけばいい。
なので、急ぐ必要はない。ただ、余裕があるわけでもない。
「追いついたならば時間を調整する必要があるな」
「単純に追いかけるのではなく、まず遠巻きから街を眺められる位置へ向かうのが良いだろう」
それぞれが意見を出し合い、救出作戦を確実な物へと改善していく。
ゲデルを助けるために、人と亜人が一丸となって知恵を出し合っている。
そこに、これまでの蟠りはなかった。
余裕のある状況ではないが、シャリアはこの光景を見て喜びを感じざる得なかった。
かくして、若者数人と村長がゲプロスを潜入させるための運び手となり、出発の時を迎えた。
「マチョウなら半日もかからないんだがなぁ」
「無理言わないでください。扱える者がいませんよ」
蜘蛛車であることに若干の文句を言うが、あまり早くても意味がない。
散々説明して分かり切ったことなので、村長なりに緊張をとき解そうとしたのだろう。
ちなみに、マチョウとは飛ぶことを捨て再び四足歩行に戻った鳥の事である。
長らく二足歩行だったと思われる後ろ脚は特異的な進化を遂げており、持久力と瞬発力両方に優れている。
岩蜘蛛よりも早く力強いが、肉食寄りで気性も荒いので腕の立つ調教師がいないと危険なのだ。
野生化したマチョウは魔物の代表格でもある。
魔力を糧にすることはできないが、魔力の感知能力に優れどれだけ離れていようと、縄張り内であれば一直線に向かい襲い掛かってくる非常に危険な奴なのだ。
一般的な村が扱う生物ではない。
日も暮れ始め、普通であれば休息をとり始める時間となった。
村長たちは進路を変え、遠回りして目的地へと向かう。
本来であれば、暗くなってからの移動は自殺行為なのだが、この特殊な荒野においては外敵が少ないため特に問題はない。
50年足らずで急速に変わった環境に適応できる生物などはほとんどおらず、魔物でさえ多くが絶えてしまった。
その為、夜間行動する肉食種などよほどの不運でない限り出くわすことがないのだ。
「位置はどうだ?」
「はい、この位置で間違いないかと」
どれ、と村長は呟き望遠鏡を取り出した。
街を眺めるも見回りの兵以外は誰もおらず、夜が更けているので明かりも少ない。
「特に変わったものはないな。交代で見張り番をして寝るとしよう。方角を間違えるなよ?」
「待て、それを貸せ」
木箱からゲプロスが身を乗り出し、村長から望遠鏡をひったくった。
望遠鏡を覗き込み、街の反対側を見ると蜘蛛車が街へ向かって走っていた。
方角からしてゲデルを乗せた蜘蛛車だろう。彼らは休憩を挟むも休眠までは取らずに移動していた様だ。
「こんな時間に領主の元へ行くのか奴らは?!」
「なんだと?」
今度は村長がゲプロスから望遠鏡を奪い、再び街を覗く。すると、先ほどは意識していなかったが、領主の屋敷と思わしき建物に明かりが灯っているではないか。
領主はこの時間に来ることを予期していたのか、そういう計画なのかは定かではないが、予定が大いに狂ったのは確かだ。
こんな夜中に贖物を届けるなど、不審極まりない。
朝まで待てば、確実に手遅れになってしまう。ここまで来て計画は頓挫してしまったのだ。
「しかたない、ここからは俺一人で行かせてもらおう」
「早まるな!」
「しかし、余裕はもうない!」
「待てと言っとるだろうが!私の魔法なら眠った相手をより深く昏睡させることができる」
ゲプロス一人で向かわせれば、見張りの兵に見つかりたちまち大騒ぎになる事間違いなしだろう。
ならば、予定とは違うが協力して潜入するほかない。
確実性を高めるには昏睡魔法が必要不可欠なのだ。
「直接眠らせることはできないのか?」
「そんな悠長なことしていたら騒がれるだけだ!お前さんなら殴って気絶させることなど造作もないだろう」
ゲプロスの格闘家としての腕前もそうだが、彼が扱う衝撃魔法こそ重要なのだ。
衝撃魔法とは内側に響く打撃、人間であれば軽く頭に当てるだけでも意識が飛んでしまう。
「わかった。見張りを気絶させればいいんだな?」
「まずはそこからだ。あとは私の指示に従ってもらうぞ」
蜘蛛車の見張りに一人おいて行き、3人で街に潜入する。
見回りの兵に物陰から襲い掛かり手早く気絶させる。眠った兵から制服をはぎ取り、路地裏に毛皮をかぶせて寝かせる。
それを三回繰り返し、騒ぎを起こさず人数分の制服を確保できた。
「ちょっとこれ、きつくないか?」
「手ぬぐいで口元隠せ。少しはマシになるだろう」
筋骨隆々なゲプロスにとって、一般的なサイズの服装では合わないのだ。
村長は口でごまかすか、出会いがしらから気絶させていくしかないかと強行的な手段も考え始めていた。
町は寝静まっており、誰とすれ違う事もなく屋敷に向った。
領主の屋敷には厩舎もあり、兵の詰め所も兼ねているものと思われる。
こそこそして怪しまれるよりは、正面から堂々と向かってみることにしたのだった。
「見回りご苦労、君たちは何班だったかな?」
「えぇっと、最近配属されたばかりで度忘れしてしまいまして……」
連れてきた若者に演技をさせ、通じなければ気絶させる。
屋敷の門番が一人しかいないのは不幸中の幸いだ。
通常、こういうものは二人一組で行うものなのだが、危機感が薄いと人員削減をしたがるものなのだ。
ここの領主も相当に危機感が薄いのだろうと、ゲプロスは紐の件も合わせて思うのだった。
「しかたないな……えっと、うわ、でっかいな君!そうか!3班だな?亜人兵が居るって話だけどなるほど、こりゃ屈強な兵士だ」
「あ、そうですそうです!思い出しました!こいつを人里に慣れさせる名目もあって見回りしてたんですよ」
咄嗟に話を合わせるこの若者も、なかなかの役者である。
しかしながら、こいつ呼ばわりされたゲプロスはちょっと顔をしかめた。
ともあれ、門番を騙すことには成功し、問題なく通過できた。
ゲプロスはさっそくゲデルの気配を探ろうとするが、後ろから門番に呼び止められた。
ばれたか、と三人が心構える。
「な、なんでしょう」
先ほど対応した若者が恐る恐る返事をし、振り返る。
屋敷に侵入してしまったこの場で騒ぎにでもなれば、まさに八方ふさがりというものだ。
瞬時に対応できるように、村長とゲプロスは神経を研ぎ澄ませる。
「初日で疲れてるだろう?明日は昼からでいいからゆっくり休めよ」
良い人だった。