3.勝者の敗者
ゲプロスが打撃を受けてはゲデルを投げ伏るという攻防が続いていた。
地面はいたるところが陥没しており、戦闘の凄まじさを物語っている。
両者ともに息が荒くなっており、決着は時間の問題と思われていた。
「どうやら底なしの体力という訳ではない様だな!」
「その言葉、そのまま返そう。私もここまで追い詰められるとは思っていなかったがな!」
合図もなしに再び間合いを詰めぶつかり合う二人。
ゲデルは投げられ慣れてきており、咄嗟に受け身を取ろうとする。
ゲプロスもそうはさせまいと、毎回違った技を仕掛けるのであった。
蓄積したダメージが祟ったのか、ゲデルは一瞬よろめいた。
いまだ!とゲプロスは覆いかぶさるようにしてゲデルを掴み、逆さまになるよう掴み上げた。
「これは受けられまい!行くぞ!」
ゲプロスは上体をそる様にして勢いをつけてから一気にゲデルを頭から地面に落とした。
まるで稲妻が落ちたかのような衝撃音は、今までのどの技よりも大きく響いた。
拘束を解かれたゲデルは、地面に仰向けになって動かなくなった。
シャリアがゲデルの名を呼び、駆け寄ろうとするが他の村人たちに止められる。
手出しをすれば、ゲデル一人で済む問題が、そうではなくなってしまうからだ。
審判である獣人が、ゲデルに近寄る。
気絶していることを確認し、号令を挙げようとした。
「ゲデル、気絶により戦闘不能!これにより...」
「まだだ!」
審判が勝敗を明言するまえに、ゲプロスが止め、指をさした。
ゲデルはゆらりと起き上がり、再び構えたのだ。
「即座に復帰できればいいはずだろう?」
「せ、戦闘続行っす!」
ゲデルが続行の意思を見せたことにより、審判はそれに従った。
しかし、その足取りは戦えるものではないと、見ている誰もが感じ取れた。
「そのまま倒れていればよかったものを、余計な苦痛を味わうことになるぞ」
「もう一度来い、私の成長を見せてやる」
人差し指を立てゲプロスに命じた。ゲデルなりの挑発なのだろう。
ゲプロスはあえて、その挑発に乗ることにした。
挑発の上で叩き伏せたならば、二度と立ち上がれまいと踏んで、望み通り同じ技で仕留めようとする。
「より強力な衝撃魔法と共に落としてやる!頭蓋が割れても知らんぞ!」
ゲデルを掴み上げ、再び上体をそらし勢いをつける。
その時だった、ゲデルは腿でゲプロスの頭を挟んだ。
「何!?」
おぼつかない足取りだったとは思えないほどの締め付け。
先ほどまでのは演技だったと気が付くも、もう手遅れだった。
「かかったな!」
ゲデルは体をそらし、ゲプロスの股に潜り込むような形で回転した。
落下の勢いも加わり、ゲデルの足に固定されたゲプロスの頭は正面に倒れるようなってに引っ張られ、脳天から地面に向かった。
巨体が衝撃魔法を乗せて落下し、稲妻が落ちたかのような轟音が響く。
衝撃で地面は爆ぜ、土煙が舞う。
やがて静寂が訪れ、村人と獣人達は緊張に呑まれた。
土煙はすぐに収まったものの、その場ではとても長い時間に感じられるものだった。
4つの岩に囲まれた場所に倒れる二人が姿を現した。
二人とも微動だにしない。
審判が近寄り、様子を見ようとした時だった。
片方が地に肘をつき上体を上げ、意識があることを証明したのだ。
ゲデルだった。ゲプロスは仰向けに倒れ、意識は無いように見受けられる。
決着がついた瞬間だった。
「ゲ……ゲプロス様気絶により、戦闘不能と判断!よって、勝者ゲデル……さんっす!」
正式に勝者が決まると、村人と獣人関係なく、次々と歓声が沸き上がった。
しかし、上がったのは歓声だけではなかった。審判に対する異議も出ていた。
血気盛んな者は、相打ちだ!と、審判に詰め寄る始末である。
当の審判は、ゲデルに意識があり、ゲプロスが気絶している以上相打ちではないと断固主張する。
村人は審判を支持し、試合に心打たれた亜人たちも同じく、審判を支持した。
争いを止めるための決闘が新たな争いを生むという皮肉。
ともあれ、ゲデルは争いになる前に止めるべく、声を掛けようとした。
だが、先にゲプロスが目を覚ましたのだ。
ゲプロスは状況を確認し、静まれ!と、咆哮を上げた。
周囲は一瞬で静寂となった。
「こいつと二人で話がしたい。一旦全員引き揚げてくれないか」
困惑した亜人たちだったが、主の命令であるならばと村から離れていった。
シャリア達も心配そうにしていたが、ゲデルがお願いするような仕草をすると村へ帰っていくのだった。
全員が離れたのを目視してから、ゲプロスは何事もなかったかのように立ち上がり、埃をはたいてからゲデルの傍に寄った。
「立てるか?」
「厳しいね」
そうか、と、軽く返事をし、横たわっているゲデルの隣に座り込んだ。
一連の動作には戦闘における疲労など一切感じられない。
「やっぱり、狸寝入りだったか」
「ああでもしないと、部下たちは納得しなくてな」
「最初から演技だったのか?」
「仕掛けた技は本物だ。だが、茶番であったことは認めるしかないな」
あのような攻撃が手加減であってはゲデルの尊厳は皆無となる。
単純な力が勝っていたからこその逆転劇、と言う筋書きを創れたのだ。
恐らくは、先ほどの技自体は本物でも、その上を行く技をまだ持っているのだろう。
つまり、手加減されていたも同然なのだ。
事実上では、ゲデルの完全敗北という事になる。
「そう悔しがるな。お前は戦い方を知らないだけだ。学べばどこまでも強くなれるだろう」
「最後のあれは自信あったんだけどね」
「はっ、一流の格闘家は受け身もまた一流なのさ」
さて、とゲプロスは手をかざし、ゲデルの体を撫でた。
すると、手品のように傷は消え、疲れも抜けていく。
これも魔法なのだろう。習得できれば便利に違いない。
ゲデルは自身を撫でる手をまじまじと見ているが、ぼさっとしている場合ではないと思考を切り替えた。
「さすがは魔王と言うだけある。凄まじい浸透具合だ」
「あぁ、ありがとう。ところでだ、何故このような茶番を演じたんだ?」
もし、ゲデルが敗北していたら人と亜人の仲は一層険悪なものとなっていた可能性もある。
逆に、ゲデルが強すぎれば亜人たちの将来を脅かす事にもなっただろう。
ゲプロスの立場に視点をおいてみれば、今回の決闘は非常に大胆な賭けだったのではないかと思っていた。
「人間と俺の部下共はまだ決定的な敵対はしていないからな。
この環境を見ろ。盗賊なんて続けていたら、いつしか徹底的に攻撃されるか、共倒れするかだ。
つまり、どこかで落としどころを見つけ、和解する必要があったんだ。
気性の荒い連中を納得させるには決闘が一番なんだが、それをするには、村の人間はあまりにも脆弱すぎる」
「私が危険な奴だったら?」
単純な疑問だ。
強い獣人を軽くあしらったのだ。一人で亜人たちを蹂躙するほどの者だった可能性もあっただろうに。
「お前は俺の部下を見逃しただろう?少なくとも、一方的な殺戮を好む奴じゃないとは分かった。
それだけで十分だ。あとは戦いの中で見極めればいい」
つまり、あの戦いは力量や人間性といった、上に立つ者の資格があるかどうかを試すものだったということだ。
ゲデルはその試験の中、見事お眼鏡にかなった故、盗賊団の長という座を明け渡す宣言を受けたのだ。
後は亜人たちを納得させるために、攻撃を受けつつ派手な投げ技を披露する男気溢れた戦いを演出したのだ。
ゲデルが感心していると、ゲプロスはおもむろに上着を脱ぎ、ゲデルに手渡そうとした。
ゲデルは拒否した。
「ごめん、受け取りたいのは山々だが、せめて洗ってからにしよう」
戦いの後なのだ。汗臭いのだ。獣臭いのだ。
いうのも失礼なので、軽くそういう素振りをするが、だいぶ衝撃を与えてしまったようだ。
「え、そんなにか!?」
自分のにおいとは分からないものである。
しかし、状況が状況とはいえ、肌着してたものをすぐに渡すものではない。
彼は見た目に囚われず知的ではあるが、どうにも偏りがあるみたいだ。
すこし、ほんのすこししょんぼりしながらゲプロスは黒衣を畳み、ゲデルの前に置いた。
形式上では必要なことなのだろう。仕方がないので今は形だけでも受け取ろう。
「魔王、ゲデル様、俺達盗賊団一同、あなたの傘下に加えていただきたい」
ゲプロスは自らが組み上げた演出上の結果だったとはいえ、義をしっかり通そうとしている。
この男を部下にしたならば、それに恥じぬ魔王として君臨せねばならないだろう。
魔王だから、力があるから、たったそれだけのことで大きな態度を示していた事を、ゲデルは恥と知った。
力を持ったうえで礼儀を重んずるこの男からは、様々なことを学ばせてもらわなければならない。
ゲデルは己の未熟さを実感しつつ、黒衣の上に手を置いた。
「いいだろう、今日よりお前たちは私の子分だ」
「ありがたき幸せ」
「ただ、それとは別に、私に戦いや礼儀を教えてもらえないか?」
「良いでしょう。ただし、その時だけ主従関係はないものとさせていただきます」
「助かる」
教える側が下手に出ていては双方ともにやりづらいだろう。
それに、先ほどまで威厳の有った相手が常に敬語と言うのも妙に落ち着かない。
試合に勝っても勝負に負けたのだ。だからこそ、教わるときくらい上下関係を無くさないとゲデル自身納得できない。
儀式的な事が済んだ事で、沈んでいた疑問が再び浮かび上がった。
戦闘前に彼は、部下を向かわせた、と言っていた。
「質問なんだが、お前……いや、君は私が眠りから目覚めたのを知っていたのか?」
「ん?あぁ、あの森はもともと何らかの近寄りがたい気配といいますか、そういう何かが働いていたんです。
しかし、ゲデル様が目覚めた時と思われますが、森から溢れていた気配が途絶えたのです」
夢か寝る直前かに聞いた声の主たちが何か仕掛けていたのだろうか。
それが、私が目覚めたがために効力を失ったのかもしれない。
もしくは、気配がなくなったから私が目覚めたのか……。
「この荒野の一点に存在する唯一の手付かずな森です。
気配が弱まったのではなく、消えたのであれば、荒野に住まう有力種族たちが挙って森を手に入れようと動き出すでしょう。
なので、俺は事を急ぎ、とりあえず斥候を向かわせたせたのです」
なるほど。つまり、私が相手した獣人は異常事態に対する様子見だったという訳か。
比較的森の近くに住まうシャリア達も気配の変化を感じ取り、様子見で森の中へ入ったのだろう。
しかし、ここで聞き捨てならない単語が出てきた。
「有力種族?」
「やはりしりませんか。俺も子供のころなんで良く知らないんですが、この荒野は嘗て豊かな自然に恵まれていたんですよ。
それが50年ほど前から急速に枯れ果て、広大な荒野となったわけです。
多くの人間が荒野を離れ、捨てられた町や村には人間から迫害されたり、考えが合わず移住した亜人たちが住まう様になったのです」
あの巨木の上からでも地平線の彼方まで荒野が続いていた。
地形の起伏でアルマス村のように何かが隠れていたりするのかもしれないが、それでも過酷な環境には変わりない。
「この荒野では見ての通り、動物はおろか魔物も少なく食料を得る手段は限られています。
細々と狩猟生活する者が殆どですが、彼らにとってあの、アツィルトの森は魅力的過ぎます。
なので、気配が消えた今、早急に事態を動かさねば、最悪多種族間における争いの火種となるのです」
「それで、人間と部下の亜人たちが対立している場合ではないと」
「ええ、俺達とあの村の人間はあの森を狩猟の拠点にしています。
気配に対して鈍感な人間と、恐れ知らずの阿呆どもだから保たれていた物とも言えるでしょう」
「阿呆って」
そんな事言わなくても、と言いかけたが、盗賊と言う悪党でありながら悪人になり切れておらず、どこか抜けた感じもする彼ら。
なんとなくその意味合いは理解できるので黙っておく。
「つまりです、あの森を他種族が占領してしまえば人間共々朽ちるか、どちらかが淘汰される未来が確定するのです」
「なるほど。では、私は当面あの森を防衛しなければならないのか」
「その必要はないでしょう」
すべきことが分かったと思った時に出鼻をくじかれると、ものすごく拍子抜けしてしまう。
この空回りしたやる気は恥ずかしさとなって帰ってくる。
「……どういう事だ?」
「近寄りがたい気配、というのは軽い言い方だったかもしれません。
敏感な者であれば耐え難い不安に襲われる邪悪な代物です。その近辺に住むとなれば相当肝が据わってるでしょう」
「君たちはその気配を物ともしない屈強な存在と認識されていると」
「そういう事です。この誤解のおかげで俺たちは今まであまり不自由してなかったのですが、森が解放されれば話は別でしょう。
俺達と争ってでも森を手に入れようとする連中は必ず現れます。
しかし、その屈強である俺達を打ちのめし、服従させる魔王が森から現れたという噂が流れればどうでしょう」
邪悪な気配が消え、周辺に住まう人や亜人を屈服させる。
即ち、気配の根源そのものが動き出したと言える。事実、そうなのかもしれないが。
気配だけでも近寄りがたいのだ。気配が消えたとはいえ、ご対面なんて以ての外だろう。
「気配云々以前に、魔王という事も大きい。
ゲデル様の力とその黒い角は、魔王と言う事を信じさせるに十分な効力を発揮するでしょう」
「そ、そうかな」
褒められてるかのような言葉。照れる。
「魔王とは本来畏怖されるべき存在なんです。だれもそんな面倒なのに積極的かかわろうとは思わないでしょう」
前言撤回。
ともあれ、魔王という単語は下手なお守りよりも効力があるのは確かだそうだ。
ゲプロスは部下の亜人を使いそれとなく噂を流し、他種族を牽制する。
私は魔王として人間と亜人たちの仲裁に入る。
二人はその場で当面の課題を浮き彫りにし、解決すべく動き出すのだった。
かくして、魔王ゲデルの名の元、盗賊団とアルマス村は和解することとなった。
一丸となるにはまだ長い時間を必要とするが、不安が減ったことにより、肩の荷が下りた若者も多いようだ。
ゲプロスの狙い通り、うわさを流したことで森に手を出す種族は現れず、幾許かの平和が訪れたのだ。
---
アルマス村と亜人盗賊団の和解から2週間ほどが経った。
シャリアの説得もあり、ゲデルは一応村の実権を握ることに成功した。
あの戦いで心打たれた若者はゲデルを全面的に支持しており、半数程度のそれ以外は未だに不信感をあらわにしている。
特に、亜人は怖いものと聞かされていた子供たちの拒否感はすさまじく、顔を見るだけで泣かれたと落ち込む獣人も居たほどだ。
ただ、農業を学ばせるために村の農家へと貸し出された亜人は、その有り余る体力で仕事をこなし、あっという間に受け入れてもらえたようだ。
もっとも、貸し出された亜人はエルフ族といった比較的人間に近い見た目の物が選抜されている。
耳の大きい小人であるグレムリン族もまぁ、表情豊かで愛嬌のある方と言えよう。
これを足掛けに悪いイメージさえ拭えれば、後は時間の問題なのである。そうして、完全な和解を目指しつつ今日もゲデルは森に引き籠っていた。
「戦闘の基本は弧を描く動き……」
「そうだ、常に相手を正面に捕らえるための足さばきから、攻撃を受け流し反撃する流れ、そのすべては円弧が基準となる」
「ここぞという時に直線……」
「うむ、覚えが速いな。地に足をつけ瞬発力で穿つ直線の一撃は必殺でなければならない。その多くの技は致命的な隙を生む」
ゲプロスの教えは実に理に適っているものであった。
力は既についているので、基礎鍛錬よりも理屈で理解したほうが良い、という事で、言葉で教わりながら体を動かし、様になったらゲプロスと組み手をする。
決闘の時、ゲプロスの連続攻撃の前に防戦一方だったが、それでも手加減されていたのだとゲデルは思い知らされた。
ゲプロスは相手の二手ほど先を読み、的確に次の手を用意する。
即ち、気が付いた時には手遅れで、防いだ腕が死角となり腹に衝撃魔法を貰ってしまうのだ。
死角に来ると読んで、腹を守ったと思ったら頭突きを繰り出されていた、という事もある。
目で見て防ぐのではなく、来るであろう攻撃を複数予測することが大事だとゲプロスは徹底的に教え込む。
読み合いの経験は癖にするだけで格闘だけでなく、あらゆる状況や場面において活用できるのだ。
次に相手はどう出るか、何をするか、何を言うか、交渉の場でも重要な技術である。
そのうえで、相手から選択の自由を奪う事の有用性、状況に流されるのではなく自らが状況を作り相手を流すことも学ばせる。
ゲデルが魔王を名乗る以上、腹の読み合いから裏の書き合いまで多くを体験することになるだろう。
部下を持った以上、決闘の時のように受けてから学ぶわけにはいかない。
ゲプロスはゲデルの今後の為に、自分の安全の為に、戦い方を通じて駆け引きの重要性を指南していく。
このように一つの鍛錬でいくつものことを学ばせるのは、ゲデルの学習能力の高さを見ての事だった。
大抵は、一つで二つも三つも教えようとすれば、一つもまともに覚えず終わってしまう。
ゲプロスはこの覚えの良い教え子が、どのように、どこまで成長するか楽しみでもあった。
だが、獣人のゲデルを呼ぶ声が二人の動きを止めた。
息を荒くして走ってきたのは嘗てゲデルに拳を握りつぶされた獣人であった。
名はダカヴァンと言うらしい。もう一人いた兄の方はダカンターだとか。
何があったのか、と獣人の息が整うのを待ってゲデルは聞いた。
深呼吸している様子を見るに、全力疾走してきたのだろう。
獣化したほうが良かったのでは、という疑問も浮かんだが、必死だったのだ、きっと。
「で、なんだ?」
「村長が!アルマス村の村長が連れていかれました!シュイクルッド王国の兵士が魔王を隠蔽しているとして強制連行です!」
「なんだって、いや、そうか、人間の事までは頭が回らなかったか!」
「どういうことだ?」
ダカヴァンは焦っているのか若干支離滅裂だが、何が言いたいのかは分かった。
ゲプロスも何か思い当たるものがあったようだ。
この場で状況を理解していないのはゲデル一人だけだ。
「森や亜人の事ばかりに気を配りすぎていた。恐らくは、亜人の中にも人間とまだつながりがある奴らがいたんだろう」
「密告か?」
「あり得る。人間には魔王を目の敵にしている連中が多い。魔王を討伐するだけで無条件に称賛されるからな。
今回もその類だろう。ほかの者が目を付ける前に、弱みに付け込んで手短に済まそうという魂胆だ。
わざわざ村人を人質にするあたりたちが悪いな」
「人間には手柄を、密告した亜人は森の脅威がなくなって奪い取る一手になると……」
わざわざ荒野に住まうほど人を嫌っているのに、利用すべき時は利用する狡猾な種族もいるのか。
ゲデルは怒りや焦りよりも、興味のほうが沸いていた。
この森をうまく活用すれば、争う種族を取り込めないかと軽く考え始めるが、ダカヴァンに急かされ今は思考している場合でないと自らに言い聞かす。
どうにも、余計なことを思考し始めるのがゲデルの悪い癖のようだ。
「平和はまだ訪れないみたいだな」
「魔王が復活したというのが人間に知られたんです。これからが本番でしょう。気張っていきましょう」
ゲプロスも師から従者へと切り替え、問題解決に取り組む姿勢を見せる。
とにかく、まず村に行って状況確認するしかない。それから、シャリア達を呼んでどうするかの会議だ。
ゲデルは獣化させたダカヴァンの背に乗り、移動しつつこの問題にどう対処するか考えるのだった。