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私の世界は今よみがえる  作者: ハチノサギリ
第1章-目覚めの魔王
14/62

14.おぼろげな黒幕

「さて諸君、話し合いの時間だ。

 場も改まったわけだし、まずは自己紹介だね」


 ナインの屋敷に集まり、円卓を囲み6人が向かい合うように座っている。

 ゲデル以外はお互いを知ってそうではあるが、知っているだけでは余計な警戒心が付きまとう。

 故に自己紹介だ。自分を知ってもらおうとする姿勢は相手の警戒心をとき解す。

 そうゲプロスに教えてもらっていた。


「そうですな。では、礼儀としてまずは私から」


 すこし動きづらそうな装束に身を包んだ白いひげの老人。

 老人と言う割には逞しい印象を受けるが、その顔は何というか慈悲的な感覚を覚える。


「マーバルク王国魔導隊長、リウレン・ミドバルと申します」


「砂漠の民であるか?ここでは珍しいのだ」


「いえ、私は名を受け継いだに過ぎません。

 父が砂漠の民だったと聞かされました」


「名前で分かる物なのかい?」


「ミドバルというのは古語で砂漠を意味する言葉なのだ。

 だから砂漠に生息する生物や近辺の地名にもよくミドバルと付くのである」


 度々聞く古語という物は、今となっては死語とされている物の、あらゆるものの名前としては色濃く残っている。

 ゲデルがナインから聞いた話では、古語の意味を調べることはできても、文章としては残っていないため文法が一切不明らしい。

 なので、考古学者でも古語だけで話せる人はいないんだとか。


「私ももっと勉強しないとな」


「ほっほ、古語は意外なところで使われていたりします。

 これでなかなか面白いものですぞ」


「そうか。それは良い事を聞いた。

 ありがとう」


 では、とリウレン魔道隊長が着席し、右隣の兵士長が立ち上がる。

 両腕は縛られ、不審な動きをしないかと騎士が両隣に立って監視している。

 騒動の実行犯だから仕方ないとはいえ、みてて少々息苦しさを感じる。


「マーバルク王国兵士長シャイズ・ナハル。

 この度は誠に申し訳ありませんでしたっ!」


 名乗るや否や深々と頭を下げだすシャイズ兵士長。

 彼は捕虜となっていた兵よりも強く暗示が掛けられていたのだ。

 その影響なのか軽く人格まで変わっていたそうだ。

 この誠実な態度こそが、彼の本当の姿なのだろう。


「何度もあやまらないでくれないかな。

 それで済む問題じゃないんだ」


「はっ!」


 シャイズ兵長の顔色が優れない。

 言い方が少し厳しかったかもしれない。

 しまった、とゲデルは軽く反省し、投げかける言葉を選ぶ。


「とはいえ、君に悪事を働くように仕向けた者がいるのも揺るがない事実だ。

 本心から悪かったと思っているのであれば、行動で示してもらいたいんだよね。

 これに関しては自己紹介が終わってから話すよ。

 もうしばらく窮屈な思いをさせるけど我慢してくれないかな」


「滅相もありません!」


 シャイズは再び深く頭を下げてから静かに着席した。

 続いて右回りの順番で騎士団長が立ち上がった。


「マーバルク王国騎士団長ホムンクルスと申します。

 この場を借りて改めてお詫び申し上げます」


 ホムンクルスと、どうやら彼女に苗字はないらしい。

 ナインも気に留めてないことから特に珍しい事ではないのだろう。

 彼女の名も何かしらの古語なのだろうか。

 などと考えたところで、自分の名前に至っては適当に文字をとった物であることを思い出してちょっとむなしくなる。


「口車に乗せられたとはいえ、私も私で軽率でした。

 この度の騒動も私が責任をもって収拾したいと思います」


 彼女は簡潔に済ませて着席した。


「しかし、実際見たから納得できるけれども、君の容姿を情報だけで聞いていたらとてもじゃないけど騎士団長とは信じられないね」


 ホムンクルスは見れば見るほどに可憐な少女なのだ。

 目つきこそはすこしきつい物の、顔立ちは整っている。

 力を込めるときは魔法を使っているのだろうか、大きな杖を振り回すにしては華奢な体型である。

 それが騎士団長と来たものだ。信じろと言う方が無理である。


「ゲデル様も似たようなものなのだ」


「魔王種と人間の女の子を比べてもさ」


「おっほん!」


 おしゃべりが過ぎたか、と見渡してみればリウレンとシャイズは目をそらしていた。

 失言があったのだろうか、とホムンクルスを見れば怒ってるのか困ってるのか何とも言えない渋い表情をしている。

 状況を上手く理解できず、助けを乞う様にナインを見れば顔を上げて目を覆っている。


「あの、なにか」


「僕は男です!」


 衝撃の事実とはこの事か。

 ゲデルは驚き戸惑い、何と言葉をかけるべきか迷う。

 見れば警備の為に室内にいるゲプロスは口を覆ってそっぽ向いている。だが肩が震えてるし目も笑っている。この野郎。

 私だけ気づいていなかったのか、と恥ずかしさを強く感じ少々赤面する。


「す、すまない……」


「二度と間違えないでください」


 少々気まずくなってしまったが、今度はリウレン魔道隊長の左隣に座っていた村長が立ち上がった。


「ゲデル様、雑談もほどほどに。

 私はアルマス村の長、ティスゼン・アガムという者です。

 村は焼かれてしまったのでアツィルトの森に移住しましたがね」


 ナインの町に移動する傍らゲプロスの部下に村の状況を見に行ってもらったのだが、ほとんどが炭になっていたという。

 炭は炭で使いようがあるのだが、問題はそこではない。

 長年住んでいた村を焼かれたという事実は、深刻な心の傷となって残るだろう。

 体の傷は魔法で癒せても、心の傷は時間がたってもなかなか癒えないものだ。

 騒動に対する賠償はほとんどが村人たちの補償となるだろう。


 一刻も早く森の開拓を進めて以前より住みよい環境を作らなくてはならない。

 心の傷は癒せなくても、代わりの物で塞いだり痛み止めを利かせる程度はできる。

 その為にも王国からできるだけ多くの賠償をしてもらえるよう、物事を進めなければならない。


「避難ではなく移住ですか?」


「移住です。

 ご存知かと思われますが、アルマス村は近隣の亜人盗賊団と和解しましてな。

 その結果村の人口が倍近くになりまして、一部の亜人は新しく住まう場所を作るべく森を開拓してたのです。

 あなた方が攻めてきたあの森の入り口の事ですが」


「なるほど。

 では、賠償の一環として王国に開拓の支援をさせるように働きかけましょう」


「よろしくお願いします」


 ティスゼンが着席し、次はナインの自己紹介だ。


「知らぬ者は居ないと思うのではあるが、一応名乗るのである。

 我輩はこの荒野全域を領地とするナイン・レヴァナード公爵である」


 たとえ誰が相手でも、名乗るときは少し偉そうなのが彼の特徴とも言うべきところなのか。

 などと彼の得意げな顔を見て思うゲデルだった。


「公的にはゲデル殿も我輩の領民であり、アツィルトの森及び大荒野は我輩の物。

 屋敷の件も含め、それ相応の賠償は約束していただきたいのである」


 魔王とは人間の法から外れた存在。

 単純な力を権力にする故、法が適応されない。

 逆を言えば力で横暴するほど法に保護される事もないのだ。

 その点、ゲデルはまだ法の範疇に収まっている。

 故に、理不尽な理由で攻撃された場合、領主や国経由で賠償を求めることができる。

 そういう事があった。と実績を作ってしまえば今後無意味に攻撃されるなどという事は減るだろう。

 ナインが所有権を主張したのにはただの見栄ではなく、ちゃんとした理由があったのだ。


「そうですね。

 アルマス村とはまた別件の賠償になります」


「うむ。

 現状のゲデル殿は魔王を自称している物の、強い部族長といった様な立ち位置なのだ。

 国の保護下にあるべき存在であり、無暗に傷つけて良いものでもないのだ」


「なるほど。わかりました。

 私からもしっかりと持ち掛けますのでご安心を」


「魔王が国民としての立場を持っているとは……時代は変わりましたな」


 やはり魔王としては異質なのだろうか、とゲデルは思うも今までの反応を見るにまぁそうかと納得する。


「暫定的にすぎないさ。

 私は保護される側から脱却しなければならない。

 それまでは有効活用させてもらうけどね」


「まるで雛鳥ですね」


 言いえて妙ではあるが、権力の保護下で力を蓄えてる現状だ。間違った表現ではない。


「ならナインやゲプロスは私の育ての親という訳か」


「我輩まだそんなにかかわってないと思うのだが」


 様々な事があって長い時間を過ごしていたつもりだったが、確かに出会ってまだ一週間も経っていない。

 共に居た時間の体感は、共に経験した事の多さに依るのだろうか。

 ともあれ、親密さで言えばゲプロスとあまり変わらない。

 私が馴れ馴れしいのか、ともゲデルは思った。


「とにかく、我輩は貴族達が納得して理解できる形で事態が収拾すればそれで結構なのである」


 雑談が過ぎたか、ナインはちょっとばかり強引に話を進めて席に着いた。

 次に立ち上がったのは最後の一人、魔王ゲデルだった。


「私の番だね。

 私はアツィルトの森を支配する魔王ゲデルだ。

 今でこそあの森だけだが、いずれは荒野全域を支配下に置こうと思っている」


 過酷な環境で個々の部族が孤立した状態が続くと、そのうち部族同士の衝突につながりかねない。

 限られた食料を求めて縄張りを広げるからだ。拡大していく縄張りの境界線上では必ずと言っていい程に諍いが起こる。

 無駄な争いを無くすには、縄張りを管理して誘導してやるか、縄張りを広げなくて済むように支援してやらなくてはならない。

 流石のナインも大きな争いが起きない限りは静観するしかなかった問題だ。

 政治力の届かない土地では力こそが全てだ。ゲプロスがそれを証明している。


「そればかりは魔王らしい発想ですね。

 あなたの考えは解りました」


「しっかり力も行使する当たり、ただのお人好しという訳ではないという事ですな」


 リウレン魔道隊長はひげを弄りながら、感心したように言った。

 ナインの領民としての人権保護。魔王としての魔族統括。

 形だけ見れば荒野の完全支配を成し遂げたとして、ナインの功績にもなる。

 そしてナインもまた魔族だ。彼は力の上下関係を極力重視する。

 だからと言って立場上の上下関係を反故にしたわけでもない。

 言葉遣いにもその意図が表れている。しっかり者なのだ彼は。


「では、事後処理に対する細かい話は終わってからするとして、これからの事だ。

 何か良い提案はあるかな」


 国王の命令で全てが動いていた。

 ならば国王に直接詰め寄るしかないのだが、正面から行けば所謂内戦となる。

 双方に多くの負傷者が出ることは確実なので、正々堂々行くのは却下だ。


「国王陛下は魔法に精通しておりません。

 私の感知能力でも集中しないと引っ掛からない程度に反応は弱いです。

 なので、第三者の介入があった物と思われます」


 第三者と言えば他国だろうか。

 魔王討伐による名声を得ようとしたか、新たな勢力の芽を潰そうとしたかは定かではない。


「しかし、国王と密談している時も、その様な人物はおりませんでしたが」


「若しくは、意識できないようになっていたか」


 シャイズは心当たりがないと言うが、ナインはそもそも最初から暗示の渦中だったのではないかと漏らす。

 城全体に認識阻害の暗示をかけていたと、時間をかければ不可能ではないそうだ。

 それであれば、魔力感知に一切引っ掛からなかった事も説明ができる。


「そうだとしたら、かなり大がかりなんじゃないかい?」


「いえ、大がかりだからこそ気が付かなかったんですよ。

 姿の見えぬところから一方的に意識操作の暗示を大規模に発生させる。

 並大抵の魔導士じゃありませんね」


「それか複数人居たか、ですな。

 何にせよ、ここまでの魔法を扱える卓越した魔導士を出せる国となれば限られてきますな」


「連邦か、帝国かですね。

 あぶり出してみない事には何とも」


 他国の介入であれば、国王も暗示にかかっている可能性がある。

 ならば国王を捕らえる事が第一の目的になるだろう。


「暗示が完了した時点で手を引いている可能性は?」


「十分にあります。

 作戦を確実にするためにも、第三者の捕獲は優先しない方が良いでしょう」


「作戦中に暗示をかけられる可能性は?」


「感知能力のある魔導士を城下に配備すれば不可能です。

 警戒態勢のなか気が付かれない様に魔法を発生させるのは至難の業です。

 基本的に、城や要塞は魔力に耐性を持っていたり、魔力操作を阻害するような素材が使われています。

 なので、思考を制御するといった繊細な魔法は城の外からでは不可能と言えるでしょう」


 兵長の蜘蛛車に使われていた素材だろうか。

 確かに、あの素材が使われていれば外から気が付かれない様に強い作用を持った暗示魔法をかけるなど不可能だろう。

 ならば城内でならどうか、大きな建物の中であれば隠れられる場所も多いだろう。

 と言った所、突入前から魔力の阻害を行なえば大丈夫だろうとの事。

 気が付かない程度の弱い魔力であれば、ただ魔力を垂れ流すだけで押し返せるそうだ。


「対策が練れればあとは手順であるが、いつも通りでいいのではないか」


 ナインはちらりとゲデルを見た。


「私にもね、誇りという物があってね?」


 ナインとの初対面でゲデルは拘束された状態だった。

 シャイズ兵長との戦いでも、油断を誘う為に縛られていた。

 つまりは、そういう事である。


「一度通用した手段は同じ相手でないのであれば、簡単に懲りない方が良いのである」


「そうかもしれないけどさぁ……」


「僕としても賛成です。

 国王が暗示にかかってるならばより一層効果的でしょう」


 先ほどの事を気にしているのか一人称が変わっている。

 彼女もとい、彼の元々の一人称は"僕"なのだろう。

 とか、どうでもいいことを気にしていても現実は変わらない。

 ゲデルはため息をつく。


「またか、また縛られるのか」


「緩めにはしておくのだ。観念するのである」


「明朝に出発しましょう。

 それまでに魔封じの鎖は繋ぎ治しておきます」


 若干気が重くなるゲデルだったが、仕方がないと腹をくくる。

 溜息をついて周囲を一瞥すると、シャイズ兵長がそわそわしていることに気が付いた。


「どうしたんだい?何か意見でもあるのか」


「あ、いえ、明朝と言わず今から出発したほうが良いのではと」


 やる気が溢れているのか、いち早く名誉挽回したいのかは定かではない。

 しかし、もっともな意見でもある。

 問題は早く解決したほうが時間を有意義に使えるというもの。

 だが、王国兵もゲデルの部下たちも多少なり疲弊していた。

 何か間違って戦闘になったとして、十分に疲れが取れていなければ被害が増す恐れが大きい。


「万が一を考え、万全な状態を作ってからの方が良い。

 それに、一晩頭を冷やしてからの方がもうちょっと冴えた考えができるかもしれない」


「何かこれ以上の策でも」


「そうじゃない。

 私は奇襲を仕掛けに行くんじゃない。話し合いだよ」


 ただただ兵をぶつけるだけが戦いの全てではない。

 死者を出してしまえば、いくら賠償されても戻ってこないのだ。

 戦わずに勝つ。最悪は勝たなくても良い。

 ゲデルが望むのは村の安全だ。

 賠償額が多少減ろうとも、お互いが納得できる落としどころを見つけられればそれでも良いと考えていた。

 ただ、今までの状況から判断するに、話し合いだけで解決するのも甘さと見られる可能性が高い。

 直接会う事でちょっとばかり力の片鱗を見せつけられればいう事は無い。

 脅しと取られるかもしれないが、牽制は大切だ。

 お互いがお互いを脅威として見るからこそ訪れる平和もあるのだ。

 これもまた、ゲプロスの教えである。

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