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私の世界は今よみがえる  作者: ハチノサギリ
第1章-目覚めの魔王
12/62

12.王国の目的

 捕虜が従順になってからはとんとん拍子だった。

 知ってる限りの情報や、王国についての話を聞き出せた。

 とはいえ、そのほとんどが現在の王政に対する不満だった。

 ゲプロスとナインが反応していたが、聞いてみたところ兵の不満は種類により弱さに直結するとか。

 特に、愛国心が薄いのは致命的だとか。

 兵から守りたいと思われるような国でないと、兵力の維持は難しいのだ。

 守りたくない物の為に戦いたくはない。誰だってそうだろう。

 王国への不満は情報と言う形になって魔王に流れている。

 不満ばかり言われる王にはなりたくないものだ、とゲデルは呟く。


 ここまでは順調だったのだが、最後の一人で躓いていた。

 口を割らないというよりかは、口を割れないと言った所か。

 とても表情豊かな兵士のようで、悲壮感や焦燥感を露わにしている。

 ナインは彼の様子を見てあくまでも仮説だが、と念を押して語り掛けた。


「うーむ、個人的には話したいところだけれども、作戦がばれれば刑罰があると脅されているのであるな?

 それも、連帯責任で隊全員が刑罰を受ける……若しくは、人質的なものがあると見た」


 兵士は俯いて沈黙した。

 否定はしない、それが彼の精いっぱいの答えだった。


「尋問を強化してもいいのではあるが、まずは今ある情報を整理するのである」


 焦っても仕方がないと、彼は続ける。


「何か書くものは無いのであるか?」


「鉛筆と手帳ならあるぞ」


「それは?」


 ゲプロスが懐から取り出したのは、細い木の棒の様なものと、小さな本の様なもの。


「旅の途中で買ったものです。鉛筆と言うのは二つの木の棒の間に細い墨の棒を通してくっ付けたもの。

 削るだけで文字が書けるので幾つか常備していると便利でしょう」


「ゲプロス殿が持っているとは意外であるな」


 誰が見ても解るほどに力自慢が取り柄であるゲプロスだが、しばらく接しているうちに割と頭脳派であるとゲデルは気が付いていた。

 何らかの学問に精通しているわけではないが、必要なことは念入りに調べていた様だ。

 治癒魔法に頼らない治療医術から、食べられる野草や毒のある植物等、生きていく上で必要な知識が豊富である。

 また、格闘術も完全な独学ではなく、旅路で出会った実力者から継承した技も少なくないそうだ。

 どうしても体感で覚えられない時や、見た目の特徴を記しておきたいときには手帳を活用していたとか。


「見た目に対して多彩なのだ!」


「戦士だからな!」


 胸を張るゲプロス。

 力だけでなく、多彩な経験もまた彼の自慢らしい。


「話がそれたな、進めようか」


 ゲプロスの手帳は今度見せてもらう事にしよう。

 ともあれ、ナインの手元に筆記用具がそろったことで本題に戻る。


「まず初めにであるが、今回の騒動の発端は我輩たちが原因を作ったのではなく、国王が異種族だからと討伐を命じた。

 それで合っているのだな?」


「国王の命令と言うのは間違いないです。ですが、異種族だからと言うのは少し違います。

 魔王はともかく、閣下は王国内でも評判は上々でした。公爵まで上り詰めた閣下を、今のご時世にて異種族という事を気にするものは居ないでしょう。

 仮に国王がそう断言したとして、多くの貴族から反発を受けることは間違いありません。

 その懸念が今回の発端です」


 ナインが多くの民に慕われている状況下で、既に珍しくもないのに亜人だからと言って討伐するには多くの問題がある。

 ならば、秘密裏に処理してしまおうとしたのだろう。

 そのように、何故今回の作戦が秘密裏なのかとウ国兵達は説明まで受けていた様だ。

 詳しく説明する事で疑念を和らげ、本命である別の目的を潜めたのだろう。


「閣下の人望はあの権力を振りかざす国王に比べ、実力によって勝ち取ったものです。

 そして、今では公爵です。

 国王は閣下が独立宣言する事を恐れたのです」


「独立、我輩がであるか!?」


 どうにも、ナインには貴族と言う自覚はあれど、公爵と言う爵位に対する自覚はなかった様だ。

 親しみやすいわけである。彼は爵位が変わり行く中でも自身までは変わっていなかったのだ。

 いまいち理解できていなかったゲデルがゲプロスに説明を求めたところ、彼もあまり詳しくは無いようで、本人に説明を求めた。


「うーむ、そうであるな。

 そうか、我輩上り詰めていたのであるな。

 辺境にずっと居たからか失念していたのである。

 そう、公爵とは五爵位の最上位なのだ。

 我輩は荒野全域と言う広大な領地を持っているので名ばかり辺境伯のままの気分でいたのであるが、荒野の拡大や対策をこなしていたら公爵になっていたのであったな。

 であれば確かに我輩以下の我輩寄りの貴族引き抜いて公国として独立する事もできるのである。

 だがな、その様なことはこれっぽっちも考えたことがないのだ!」


「国王は閣下が魔王種と接触したことを知り、先手を打ったつもりなのでしょう。

 ですが、このままでは独立を促すことに……」


 この兵士は狡猾だ。

 王国に対する愚痴を散々語った後に、今回の騒動を露見させれば多くの貴族を味方につけて独立宣言する好機と暗に伝えたのだ。

 無論、王国に不満を持つ彼ら王国兵も切っ掛けがあればナインに付くだろう。


「いーや、我輩は王になるつもりはないのだ!」


 しかし、彼が出した答えは揺らぎのない断言だった。

 確たる意思が見て取れるほどの、言うなれば拒絶。


「何故だい?悪い話じゃないと思うんだけど」


「今は関係ない話なのだ。はい次!」


 話題そのものに対しても拒絶。これ以上踏み込むのは良くない話という事だ。

 気になる所ではあるが、今は関係ない話と言うのも確か。

 必要があればいずれナインの方から話してくれるだろう。


「我輩の屋敷を包囲しているのが王国騎士団で間違いないのだな?」


「はい、間違いありません」


「それが腑に落ちないのだ。

 何故騎士団長だけこちらに派兵されたのであるか?

 騎士団長は騎士団を率いるもので、兵だけを率いるのはあまり聞かない話なのだ」


 ナインは気が付いてなかったが、ゲプロスとゲデルはこの時、騎士と言う言葉に今まで黙していた兵士が微かに反応しているのを目撃していた。

 恐らくもう一つの目的とは王国騎士団に関連する事柄なのだろう。


「団長様は棒術もそうですが、魔法の扱いに長けております。

 故に、魔王を相手取るのであれば団長様が相手取るのが得策であるとの事でしたが……。

 言われてみれば確かに妙ですね。

 閣下の街を出る前にもその事で兵長と揉めていた様にも見えました。

 屋敷の包囲を行なっている騎士団も一応は魔族が屋敷内に居るかもしれないという理由でした」


「だからと言って全員おいて行くのがおかしいのだ。

 しかし、あの団長はプライドが高いようにも見えた。

 何か煽る様な事を言われて駆り立てられたのかもしれないのであるな」


「私が煽ったらすごく怒ったよね。

 そのおかげで決闘に持ち込めたんだけれどもね。

 揉め事があったのならほぼ確定じゃないかな」


 負けず嫌い。ゲデルは対応した印象でそれが彼女の性格と感じていた。

 性格を逆手に取られる様では、と思いかけたが彼女はとても若い。

 少女の風格であるゲデルが思うのも妙ではあるが、外見の歳相応なのかもしれない。


「騎士団長は王国内でどの様に思われているか、どのような立ち位置であるのだ?」


「可憐なお姿もそうですが、人に対する思いやりや悪事を許さんとする姿勢からか、民からはとても頼りにされている人です。

 騎士団もお互いの力を認め合っているようでして全体的に真面目な気質ですね。

 彼らは王政の代わりに治安を維持していた様にも見受けられます」


 一言で表せば人気者という事だ。

 実力も権力も備えた人気者、ナインの置かれている状況から考えれば自ずと答えは出た。

 しかし、一国の王がそのような安い感情に突き動かされ、部下を殺めるなどあって良い事なのだろうか。


「何となく見えて来たな。

 ナイン、そろそろ回収に向かっていいかい?」


「構わないのである」


 王国の狙いが彼女でもある以上、放ってはおけない。

 ゲデルは後の事をナインに任せ、全速力で飛翔した。

 ナインも騎士団長の事が気になり、ゲデルを止めなかった。


「どういうことですか閣下」


 ただならぬ雰囲気で納得しているナイン達を見て、大きな不安に駆られる兵士たち。


「国王は我輩の人望と権力が更に拡大する事を恐れ兵を向けた。

 騎士団長も放っておけば人望と権力が強くなるのだ。

 そうなる前に、ゲデル殿とぶつけて相打ちする事を望んだのである」


 兵達は口を割らない一人に詰め寄った。

 彼は頑なに答えようとしない。答えられない。

 その様子を見ていた村長が、ふと何かに思い当たった。


「もしかしたら暗示をかけられているのかもしれない。

 軽い精神操作だ」


 たとえ人質を取られていたとしても、詳細が解ればこちらで先手を取り救う事も出来るという物。

 兵達が詰め寄った際、その様なことも話していたが、彼は相づち一つ打てずにいた。

 これは喋らないのではなく、喋られない様に魔法をかけられているのかもしれないという事だ。

 村長は彼の頭に触れて瞑想する。


「やはりな、この手の物は見つける事こそ至難でも、見つけてしまえば容易い」


 村長の両手から光が走り、兵士はうなだれた。

 しばらくして光が消えると、息を吹き返したかのように顔を上げた。


「ぷぁ!息が詰まる!助かりました!」


 先ほどまでとは打って変わって流調に話しだす兵士。

 ナインが事の顛末をほぼ言い当てていたことで、隠す意味がなくなっていたのだ。

 話してはいけないと暗示をかけられていた事柄を言い当てられ、議題にされてしまう。

 それによる暗示の空回りは精神的苦痛となって彼を蝕んでいたのだ。


「概ねは閣下の言う通りです。

 俺の所属していた隊は騎士団長の無力化を命じられていました。

 詳しい理由までは聞けなかったのですが、報酬もよく騎士団長が裏で謀反を企てていると言われ信じてしまいました。

 今となっては何故信じたのかもわかりませんが……」


「疑念を薄めるのは暗示の初歩だ。

 作戦会議とかで集まったところに魔法をかけたのだろう。

 誰にも気が付かれないようにな」


 村長の推測が的中しているのであれば、兵長直属の隊全体が精神操作を受けている事になる。

 解除こそ簡単に行えるが、戦いの最中で全員解除するのは現実的ではない。

 従って、一旦無力化してから魔法の解除を行うしかない。

 隊を指揮するものが正気に戻ったのであれば、状況に対する光明が見えるだろう。


「状況ゆえに不謹慎ではあるが、少々面白くなってきたのであるな」


 撤退中の敗残兵を背中から刺すのは気が引けるものの、戦いを迅速に終わらせるためにはやむを得ない。

 暗示による判断力の麻痺が原因であれば、王国兵達の罪も軽くすることができる。

 戦いに勝てばどういう理由で有れ、必ず恨みが付きまとう。

 暗示をかけ戦いを仕向けたとくれば、罪も恨みもほとんどを王国が引き受けてくれるのだ。

 更に、大義名分はゲデル達にある。賠償もお金に換算すればかなりの額を請求できるはず。

 リスクに対する見返りがとても大きい、と言うのが現状なのだ。


「問題はどうやって奇襲するかだ。

 蜘蛛車を一つずつ襲っては相応の被害を此方も受けるだろう」


 例え有利な戦闘だとしても、先の戦闘で疲弊した者達を率いてどこまで戦えるかわかったものでは無い。

 ゲプロスとしてはできるだけ人的被害を抑えたいのだ。


「それであるが、王国兵の狙いは騎士団長でもあるのだ。

 であるならば、戦闘不能になったそやつを放っておくと思うのであるか?」


「なるほどな」


 ナインが言わんとすることを察知して納得した。

 勝利が目前と知ると否や、二人そろって口角が上がる。

 そこに、騎士団長の回収に向かっていたゲデルが戻ってきた。


「どうにもやられたね。

 私より先に王国側が救出してしまったみたいだ」


「であるか。自力で逃げた可能性も否定できないが、ほぼ確定であるな」


「自力で逃げた可能性は否定できる。残留してた魔力は彼女のものでは無かった」


 隆起した壁に穴は開いていなかった。

 突起の無い滑らかな壁なので、自力でよじ登るのも不可能だろう。

 そうなれば、飛翔魔法で飛び入るしかないのだが、断続的に魔力を放出する魔法なので当然残り香の様に魔力が残留する。

 魔法として放たれた魔力は人によって若干質に差異があるのだ。

 獣が人を臭いでも識別するように、魔力に敏感なものは残留魔力で個人を特定できる。


「急がなければならないな。皆を集めましょう」


 部下たちを集めようとするゲプロスだが、ゲデルに引き留められる。


「いや、少数精鋭で行こう。疲弊した者達を連れまわすのも酷だし、何よりできるだけ目立たない方が良い」


 数人程度ならばゲデルの魔力反応で覆い隠せる。

 近くに居れば大勢でも隠せるかもしれないが、あまり整備されていない荒野と言う悪路で密集するのは事故の元である。


「それに何より、大急ぎで森での生活環境を整えたい。

 よく眠れない場所に居たらまた不安が広まるだろう」


「ですが、騎士団長を抵抗させぬ手段があるならば、ゲデル様も手を焼くかもしれません。

 万が一に対する備えは重要です」


 確かに、少数精鋭は何人か捕まれば即敗北なんてこともあり得る。

 しかし確実性をとるならば、とゲデルが思考を回していると、茂みの奥から物音がした。

 良く見れば、何かに潰されたかのような荒れ具合。

 奥には戦闘中の余波で落ちて来たであろう大きな木の枝の下敷きになっているのは大きな虫。

 死にかけの装甲虫だ。


「驚いたな。君がやったのか?」


「まあな」


 とても誇らしげだ。

 獲物は大きいほど自慢できる。その気持ちはとても良く理解できる。

 かくいうゲデルも、大きな獣を仕留めたときは小躍りしたものだった。


「そうだ、装甲虫を使うのだ!

 これならばゲデル殿と離れず大勢を運べるのだ!」


「虫の治療は難しいぞ。

 体の構造が全く違うからな」


 ゲプロス曰く、虫の甲殻は脱皮しないと元に戻らないのだとか。

 人間や動物とは違い、再生促進による修復はできないそうだ。

 だがしかし、応急処置くらいにはなるだろう。

 装甲虫もまた死なすには惜しい逸材である事には変わりない。


「あれ、割とすんなり」


 ゲデルが治癒魔法をかけると、装甲虫の傷は瞬く間に塞がった。

 どういうことなのか、とナインは目を丸くしているが、ゲプロスは何となく察しがついていた。


「俺はゲデル様に治癒魔法を教えていない。

 見よう見まねで習得なされたのだ。信じられんことだが、同じ効果でも原理が違うのかもしれない」


 実際、そのような例は多く存在する。

 秘伝も他者が使っていたものを見よう見まねで試した結果、新たに別の秘伝が発見されるなんてこともあるそうだ。

 ともあれ、装甲虫は無事回復し、元気に足を動かし始めた。


「おぉ、これならば体を休めつつ追いかけることができるのだ!」


「素晴らしいな。だがしかし」


 装甲虫は確かに元気になった。

 元気になったのではあるが、必死に足を動かしているのではあるが。


 どうやら、一度ひっくり返ると自力では起き上がれないらしい。

 装甲虫は小さな丘にも見える巨大なのだ。

 重量も相応にある。

 それをゲデル達がひっくり返してやらねばならないのだ。


「これはまた、骨が折れそうだ」


 物事とはすべてうまくいくものでない。

 ゲデルは仕方ない、と軽く溜息を吐いてから苦笑いした。

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