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 海の化け物5

「武尊ー」

 部屋に入った瞬間、ぬいぐるみが飛びついて来た。そう言えば、ずっとバッグに入れっぱなしだった。クルーザーでは一般男性がいたし、ここには優実がいるからいいと言うまでおとなしくバッグの中にいろと言いつけていたのを忘れていた。

「俺、良い子にしてたのにー。ずっと放置してー」

うわーんと碧は声を上げた。

「ごめんごめん」

肩で泣きまねをする碧をぽんぽんと武尊は軽くたたいた。そのまま歩いてぼすっとベッドに座る。そこでふと思い出して聞いてみる。

「碧は、船を襲ってきた妖を知ってる?」

「ああ、あいつ~」

碧はぴょんと肩から下りると、膝の上で組まれている武尊の手の上に移動した。案外ちょうどよく碧の体はおさまった。

―やっぱり嘘泣きだった。

武尊がそんなことを思っていると、碧は自分の所感を話し始めた。

「あいつは~そんなに強くないかな?妖だけど、生粋の妖じゃないみたいだし」

「生粋じゃないって?」

引っかかったところを質問する。

「あいつは~妖の集合体。核になってるのは人間かな」

人間って、核に使われることが多いんだ。と続ける。

「どうして?」

「そそのかされるからだよ。妖は妖のそそのかしには乗らないからね」

「碧もあかりをそそのかしたもんね」

「あれは取引だよ!」

「似たようなものでしょう」

武尊は碧を手の上から膝の上に移して、手を後ろに着いた。

「また、狙ってくるかな」

「妖は強さを求めるのが本能だからね」

碧の言葉に、武尊は唇を噛んだ。しばらくはこの別荘で過ごすことになる。その間、海で遊ぶことも多いだろう。もしかしたらその時狙われるかもしれないし、帰りに海上で襲われるかもしれない。後者はあまりに不利だ。

「今日取り逃がしたのは大きかったな」

「まだ剣に慣れてないのかもね」

「どのあたりが?」

「切れるところだけ切っちゃうところとか?」

「どういうこと?」

「敵の本体が多少遠くても、振れば斬撃で倒せたかもってこと」

そう言われれば、初めて剣を振ったとき、切りつけていない妖も姿を砂に変えていた。

「なるほど」

「これからできることはどんどん増えていくよ。器が次から次に力を蓄えて注いでくれるから」

「なんで銀の器についてそんなに詳しいわけ?」

手持無沙汰になり、碧の耳をいじる。

「妖には銀の器が何なのか見た瞬間に分かるんだ」

例え、銀の器って名前を知らなくてもね。何なのかっていう本質は分かっちゃうんだ。

「自分に力を与えるものだって、分かるんだよね。強すぎると自分にとって毒になるから自然と距離を置くようになるし」

「碧にとっては?」

「俺?俺は、武尊の使い魔だから武尊から力を分けてもらってる状況なんだよね。だから、俺には銀の器は要らないかな」

「へー」

「武尊は強いから、俺も必然的に強くなるし」

にかっとぬいぐるみが笑った気がした。

「武尊ー、遊ぼうぜ」

ドアががばっと開く。開け放ったのは啓太だった。

「あっちで遊べばいいのに」

「女子ばっかのところに兄弟で残されてもつらいって」

な、と後ろにいる樹に同意を求める。樹は頷いた。

「なんか居づらかったよ」

「そう」

武尊は膝からベッドに碧を移した。碧はおとなしくベッドに座る。

「碧と話してたの?」

樹はベッドに歩み寄って、碧と視線を合わせるように屈んだ。武尊は立ち上がり伸びをしながら答えた。

「今日、海で船が止まったでしょう?止めたやつについて聞いてたの」

「なんなの?」

「人を核にした、有象無象の集まりだって」

そう答えれば、樹は顔をしかめた。

「めんどくさい奴だ」

「そうなの?」

「そういうやつって主導権争って力求めやすいんだよね」

「千穂が一層狙われやすくなるのか」

確かに面倒だな、と武尊は指を唇に当てた。すっと目を細めて思案する。その姿は、男から見ても絵になると樹は思った。

「ちょっと、探して倒してた方がいいかな」

「そっちの方が帰りは安心かもしれないけど。海の中にいるやつを探すのは面倒だし、危ないよ」

「なあなあ、危ないのは帰るときなんだろ?じゃあ、もうちょっと後に考えてもいいじゃん!今は遊ぼうぜ!」

啓太がごそごそと自分のバッグからトランプを取り出す。

「兄ちゃん~」

どうしてこの兄はこんなにものんきなのか。呆れて樹はうつむいてしまう。

「あ!この遊び、俺見たことある!」

碧がぴょんとベッドから飛び降りる。

「お?碧もやるか?」

「やるやる!!」

―どうやってカードを持つ気だろう。

指のないぬいぐるみがどうやってトランプで遊ぶのか、武尊と樹は気になった。そして、その好奇心に負けた。おとなしく啓太の元へ行き、床に座る。

「碧はトランプ初めてか?」

「初めて!」

「じゃあ、まずはババ抜きでもするか?」

「それどうやるの?」

「一回、碧は俺と一緒にやろう」

武尊が碧の体を持ち上げて自分の足に座らせる。碧は楽しみで仕方ないと両手を振り回す。

「やるやる~」

こうして、人間三人に使い魔一匹の勝負が幕を開けた。


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