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 海に巣くう化け物も片付き、柚葉と忠文も成仏したので、子供たちは安心して海で遊べた。

突然海で遊び始めた子供たちに、陸と美由も首を傾げたが何も言わなかった。もちろん突然夜中に抜け出さなくなったことにも気づいていたが、これにも触れなかった。

「若いわね~」

ずっとビーチバレーをして遊んでいる子供たちを見やって陸がそんなことを言う。

「一番若いのは陸さんだと思うんですけど」

「それ、褒めてるのかしら」

「当然です!」

「ならいいんだけど」

大人二人はパラソルを差して、日陰でまったりしていた。

「海で遊んでるってことは、あの怪物騒ぎは片付いたって事なのかしら」

陸がクーラーボックスから炭酸飲料を出しながら口にする。

「どうなんでしょう」

美由はうーんと首をひねった。

「まあ、あの子たちが安全だったらいいわよね」

「そうですね」

美由は笑顔で頷いた。陸はちらと自分の息子の背に視線を投げる。

―怪我はしていない

―今日はすごく寝坊してたけど、元気にしてるみたいだし

いいか、と陸は視線を武尊から外す。

『ただ見守ってあげてほしい』

電話で子供たちが夜中にコテージを抜け出すことを相談した時に帰ってきた夫の言葉だった。化け物の話をしても、同じ言葉が返ってきた。錯覚だとか、幻だとか、本物だとか、そんな話は一切されなかった。

『大丈夫だから』

ただそれだけを繰り返された。

―見守るって、結局何もしないってことよね

内心、陸はため息をついた。

―貴昭さんって、何考えてるか分からないのよね

自分は貴昭の力にも、武尊の力にもなれないのかと自信を無くす。しかし、視界で遊びまわっている己の子供とその友人たちは文字通り元気いっぱいで健康そのものだ。その光景に心が和む。

「美由も飲む?」

はい、と炭酸飲料を手渡す。美由は少し困った顔をしたが、頂きますと言って飲み始めた。

「ジュースとか久しぶりです」

「時々飲むと美味しいわよね」

ふふふと陸は笑う。そしてまた子供たちを見やる。

「本当のこと、いつか話してくれればいいんだけど」

ぽつりとこぼす。

「落ち着いたら話してくれるかもしれませんよ」

「そうね」

待つしかできないわね、と陸は少し悲しげに笑った。二人で沈黙していると、強風が吹き、ボールがこちらへと飛んできた。武尊が走ってこちらに来ている。陸は悪戯気に笑うとボールを取り立ち上がった。

「私もやるわ!」

そう言って歩いて行ってしまう。その背を見送って美由はぽつりとこぼした。

「だから、若いんですよね~」

当然、その声は陸には届いてはいなかった。


 別荘で過ごす残りの日々を海遊びに使った面々は現在クルーザーに乗っていた。またあの男性に運転は任せてある。行き同様、千穂と啓太は船酔いに苦しんでいたが、あのエンジンが止まった場所も何ごともなく通り過ぎた。

「―怪物になっちゃった忠文さんも、幽霊になっちゃった柚葉さんも、最後には成仏できたんだよね」

優実が隣にいる千穂にそう話しかけた。千穂は青い顔のまま頷いた。

「うん。ありがとうって言ってたし」

「そっか」

体を貸したせいで、情でも移ったのかもしれないと千穂は優実の顔を見上げた。その顔は複雑な感情を表していた。

「柚葉さんの記憶かな、ちょっと見ちゃったんだよね」

優実は足をプラプラさせながら言葉を紡ぐ。視線は足元に向けられている。

「見えちゃったの?」

そういうこともあるかもしれないと思いながら千穂は次の言葉を待つ。

「うん。港で忠文さんを呼んでるところとか、港でずっと待っていたかったのに無理やり家に連れて帰られちゃったところとか」

「うん」

「忠文さんが帰ってこないことが苦しくて、崖から飛び下りちゃったところとか」

「あ」

「やっぱごめん、話すことじゃなかったよね」

「ううん、大丈夫」

千穂はへらっと笑った。優実だって、一人でその記憶を抱えているのは苦しかっただろう。

―柚葉は忠文が大好きだったんだ

それこそ後を追ってしまうくらいに。でも、自分はこうして生きている。貴輝が死んでしまっても生きている。

―私は、貴ちゃんのこと、好きじゃなかったのかな

でも、とても苦しかった、悲しかった。あの気持ちはいつでも千穂を苦しめる。

―死んだら、貴ちゃんと会えるのかな

―死にたくない

大切な人がいなくなってしまったことは同じ、でもとった行動は違う。それに正誤などないのだろう。ただ、自分は生きることを選んだ、ただそれだけだ。自然と落ちた視線を上げたとき、千穂の目には強い意志が輝いていた。それに気づいた優実は、少し千穂に見惚れた。

―千穂が、きれいに見える

いつもただかわいいと思っていた少女にも、こんな美しさがあったのだと素直に驚いた。優実は、視線を海に移した。

「二人とも、幸せになれたらいいね」

「そうだね」

二人は顔を見合わせて笑った。


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