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 作戦会議2

「感心だこと」

 陸はそう感嘆の声を上げた。陸の視線の先では、子供組がローテーブルに教材を広げ勉強をしていた。

「邪魔しないでよね」

武尊が集中力を切らすようなことをやるなよと釘を刺す。陸ははいはいと答えた。

「じゃあ、ちょっと街まで行って買い物でもしてこようかしら」

「そうして」

「・・・・・・つれないわね」

「うるさい」

「はいはいごめんなさい」

美由に行きましょうと声をかけて大人組はコテージを出て行った。子供たちは耳を澄ませ、大人組が離れていくことを確認した。

「それでは、いったん勉強をやめてください」

 樹がそう言って場を仕切り始める。

「あの海の怪物をどう海上まで引き上げるか考えたいと思います」

「あの足がどうなってるのか確認したいよな」

啓太がシャーペンを投げだして言った。それに武尊が頷く。

「減っているのか、修復されてしまっているのか気になるよね」

「あの化け物は、千穂を狙って出てくるんだよね?」

優実が手をあげて発言する。

「じゃあ、千穂プラスアルファがあれば本体も出てくるんじゃないかな」

「問題は何がそのアルファに値するかよね」

あかりが考え込みながら言った。

「・・・・・・柚葉さんは何か言ってる?」

「何も?」

あかりの言葉に優実は首を横に振った。

「もしかして、柚葉さんに替わったほうがいいかな」

「優実はほかに意見はない?替わるなら、思ってること全部言ってから替わってほしい」

武尊の言葉に、優実は唸る。

「千穂がいれば足は出てくる。本体まで引きずり出す何かが欲しい。あれは柚葉さんの旦那さんの忠文さんだ」

そこまでぶつぶつと言って、ひらめいたと手を叩いた。

「柚葉さんがアルファにならないかな!」

「その心は」

樹が踏み込む。

「柚葉さんにあれが忠文さんだって分かったんだから、忠文さんも柚葉さんだって分からないかな!」

「可能性の域を出ないけど」

武尊は考えるように手を口元にあてた。

「柚葉に訊いてみるよ」

「頼んだ!」

じゃあ、と言って優実はポケットからくしゃくしゃになった札を取り出すと壱華に差し出した。手から札が離れたとたん、優実の体から力が抜ける。それを壱華が支えた。しばらくして、柚葉が体の主導権を得て意識を表す。

「聞こえてた?」

「ええ」

柚葉は頷いた。

「今の忠文に、柚葉の判別はつくと思う?」

柚葉は悲し気にまつげを震わせた。

「分からないわ。私だって、彼だって分かるまでに時間がかかったもの」

「やっぱり難しいかな」

武尊は目を細めた。そして意を決したように立ち上がると二階へと上がって行った。そしてすぐに戻ってくる。その肩にはウサギのぬいぐるみが乗っていた。

「碧!」

千穂が名を呼ぶ。碧は片手を振ってその声に応えた。

「何かお悩みかな!」

底抜けに明るい声はどこか憎たらしく愛らしい。しかし憎めない。そんな不思議な存在は、立派なブレーンだった。

「あの船を襲ってきた怪物は、核が人間だって言ってたでしょう?」

武尊が碧を肩からおろしながら言った。碧はぴょんとテーブルに下りる。

「言った」

「あれが柚葉の夫だって言うのも知ってるでしょ?」

「知ってる」

「柚葉にはあれが忠文だと分かった。忠文に柚葉は分かると思う?」

武尊の質問に、あーと碧は言葉を濁した。

「どれだけ人間の意識が残っているかによるかな」

「予想するに、どれくらい残ってそう?」

「核だから、最初は一番強い意識だよ。でもどんどん周りの妖の意識に浸食されていく。その速さは本人の意志の強さによるよ」

「・・・・・・さすがに予想はできないってこと?」

「まあ、そうなるかな」

碧と武尊の会話はここで止まる。

「はい!」

樹が手をあげた。

「もし、まだ忠文の意識が残っているとして、柚葉が地上にいたら本体は出てくると思う?」

「難しいな~。姿形はもう立派な妖だよ。その状況で会いたいと思うのか、逃げたいと思うのかは個人の性格によるよね」

「やっぱりそういうことになっちゃうか」

樹は顎をテーブルに乗せた。

「一度、呼んでもらいましょうよ」

あかりが口を開いた。

「呼ぶって?」

壱華がさらなる説明を求める。

「柚葉さんに、その忠文さんを呼んでもらいましょう?忠文さんの意識で千穂を狙っているのか、他の妖怪の意識で狙っているのか分からないけど、柚葉さんに気付けば何か変わるかもしれないでしょう?」

その言葉に、面々は考え込む。重い沈黙が続いた。碧だけが自由に動き回っていた。

「それしか、今の俺達にはできないんじゃないか」

啓太が言った。視線が集まる。啓太の目は、いつになく真剣だった。

―いつもこれくらい真面目だったらちょっとはかっこいいかもしれないのに

と千穂は議題とはまったく関係のないことを考えてしまう。

「柚葉に忠文を呼んでもらう。意識の大半が妖だったとしても、柚葉が名を呼んだ一瞬だけでも忠文に戻るかもしれない。そこを突くしか、俺たちにできることはないと思う」

「―そうだね」

武尊は頷いた。

「じゃあ、それでいく?」

樹が皆の意見を確認する。千穂がちょろっと手をあげる。

「それって、私が餌になるんだよね?」

「千穂がいないと始まらないよ」

「ですよね」

武尊の言葉に、千穂はガクッと肩を落とした。

「大丈夫だよ、守るから」

そう言われて、千穂は視線を上げる。武尊の瞳はまっすぐだった。そこには信じろと書いてある。そして、それが実現できると自信にあふれていた。千穂は、うんと小さく頷いた。

―普通にかっこいい

 こんな体質じゃなかったら、きっと普通の女の子だったら、今の一瞬で武尊のことを好きになるんだろうなと千穂は思った。あの、震える手を握ってくれた瞬間に、手を引いて走ってくれた時に、危険から避けるために押し飛ばされた時に。武尊を好きになる瞬間はそこかしこに落ちていると千穂は思った。

―でも、あれは全部好意からってわけじゃない

―私を守ると約束してくれたから

―金色の使い手だから

―私を守ることは、武尊の義務なんだ

そう思えば、自分はとんでもない存在な気がしてきた。二階堂武尊という人物の人生を捻じ曲げたのではないかと思えてくる。そう思えば、体がカタカタと震えてきた。

「千穂?」

その異変を武尊は見逃さない。

「何でもないよ」

―ごめんなさい

―あなたを巻き込んでごめんなさい

「そう?」

それだけ言うと、武尊は千穂から視線を外した。

―今だって、何でもないが嘘だって分かってる

それでも、黙っていてくれる。

―優しい

―そんなあなたを、私につきあわせてごめんなさい

千穂の懺悔が武尊に届くことはなかった。

パン

 樹が手を鳴らした。

「じゃあ、これで決まり?」

「そうだな」

「そうね」

樹の言葉に、啓太と壱華が頷いた。

「柚葉も、それでいい?」

「―ええ、かまわないわ」

武尊の確認に、柚葉も意を決したのか頷いた。

「じゃあ、決まり!会議はこれで終わり!」

樹がそう締めくくる。緊張していた空気が一気に緩む。啓太がテーブルの上に伸びた。

「はあ~真面目な話すると疲れるなぁ」

「ちょっと啓太、そんなに伸びないでよ。邪魔よ」

壱華が、啓太の手の下敷きにされたノートを引っ張る。

「ああーごめんごめん」

啓太は気のない返事を返して手を引っ込める。頭は依然としてテーブルの上だ。

「はい、啓太起きて」

その頭を武尊が教科書でぺしぺしと叩く。

「ちょっと休憩~」

「五分だけね」

「スパルタ~」

「そこがいいんだよ!」

樹が何故か目を輝かせる。

「こんなに兄ちゃんに勉強させられる人、武尊が初めてだよ!」

「確かに」

啓太は頭を持ち上げた。そして、じっと武尊を見る。

「何?」

「何が違うんだ?」

「答えを知ってるところじゃない?」

「それだ!」

啓太は合点がいったらしく、跳ね起きた。

「今までのは勉強しろって言うだけだったけど、勉強しろって言うプラス、分かんないところは教えてくれるから進むんだ!」

「なるほど~」

兄弟は啓太の勉強問題で盛り上がる。

「お札」

そんな中、小さな声で柚葉が壱華に話しかけた。

「え?」

聞き取れなかった壱華は疑問の声を上げる。

「お札、貸して?彼女に体返すから」

「分かったわ」

壱華がポケットからくしゃくしゃになった札を取り出す。それをはいと手渡す。それを受け取った柚葉は気を失うように優実の体の奥に消えていった。それと入れ替わって優実が浮上してくる。グラグラと揺れる体を壱華が支えた。パチッと目が開く。優実はあたりを見渡して、近場の壱華に問いかける。

「作戦、決まった?」

「ええ。賭けだけど」

「まあ、仕方ないよね」

優実は納得したのか頷いて、テーブル上にある数学のテキストに目を落とした。

 徐々に雰囲気は勉強会に戻って行った。


 きらきらと水面が揺れる。それを海の底から眺めていた。

―記憶がない

最近、そのような状態が続いた。眠っているのか、意識を失っているのか分からない。しかし、その間も自分はしっかりと活動をしているようで、足が所々切られていた。その痛みに目が覚めたと言ってもいい。しかし、痛むのもわずかな時間だ。この体はすぐに修復される。便利な体だと思った。

 ずきりと頭が痛む。懐かしい声が聞こえた気がしたのだ。大切な声が聞こえた気がしたのだ。しかし、それが誰のものか思い出せない。思い出そうとすると頭が痛んだ。だから、考えるのをやめた。そうすると今度は意識がかすんでいく。そんな時間が増えた。不安に感じないことはない。しかし、自分ではどうすることもできないから、今日も意識を手放した。


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