幽霊の記憶5
帰り着き、リビングにどさっと荷物を置く。もちろんお土産も含まれている。
「なんか疲れた~」
「満喫したもんね」
疲れた顔をする千穂に優実が笑いかける。千穂は頷いた。
「楽しかった~」
「楽しかったならよかったわ」
陸も満足そうにしている。子供たちも見渡すと、陸は少し休むと言って自室に戻って行った。
夕食は、陸のリクエストでとんかつになった。美由が作ってくれるらしいが、武尊も手伝うようだ。壱華とあかりも手伝うそぶりを見せているが、千穂は迷う。料理は得意ではないし、たくさん手伝いがいても逆に迷惑だと思うのだ。悩んでいると優実から声が掛かる。
「見て見て!よく撮れてるよ!」
カメラで今日撮った写真を見直しているようだ。千穂は喜んでソファに座った。優実の手元を覗き込む。
「きれい!」
デジタルカメラなど持っていない千穂は単純にテンションが上がる。青色のなかをたくさんの魚が泳いでいる写真がたくさんあった。中にはイルカかの写真もあった。
「かわいい」
ふふふと千穂は笑う。優実は千穂にも見えるようにしながら写真を回した。あの水槽のトンネルの写真が現れ、千穂の心臓は大きく跳ねた。どきどきと心臓が疾走する。きゅっと胸元を掴んだ。重なる光景がある。荒れた海、たたきつける雨。空を駆ける稲妻に吹き荒れる風。確か、そんな夢を見た気がした。そんな光景が、優実と手をつないだ時流れ込んできた気がした。あれは何だったのだろう。
「優実ちゃん」
気づけば、千穂はそう話しかけていた。
「何?」
優実は手を止めて千穂の方に顔を向ける。
「今日、二人して泣いちゃったとき、何か見えた?」
「え?あの時?」
優実はうーんと考え込む。そして口にした。
「何か見えたわけじゃないけど、声は聞こえたかも」
「声?」
「うん。どうしてあの日の海はあんなに荒れていたのに、この海はこんなにきれいなの?って」
なんか、そんな感じの言葉。と優実は締めくくる。
「それがどうかした?」
「ううん。やっぱり幽霊のせいかなと思って」
「ああ、憑りついちゃった奴?」
あれ、今はおとなしくしてるよね。と優実はズボンのポケットからお札を出した。
「これのおかげかな」
「かもね」
千穂はそう笑うしかできなかった。
―幽霊は海に関係があるのかもしれない
そう仮定することにする。
―だから、海で溺れろって言ってきたのかな
―海に何があるんだろう
「千穂?」
どうしたの?難しい顔して、と千穂の顔を覗き込んでくる。千穂は首を横に振った。
「何でもないよ。私もお手伝いした方がいいかなと思って」
「どうだろう」
優実は首を傾げる。すると突然叫んだ。
「ねえねえ!何か手伝ったほうがいい?」
「食べられるようにテーブル片付けてて」
武尊の声が返ってくる。
「はーい」
そうして意思疎通は完了した。優実と千穂はテーブルの上を片付けることにする。
「とりあえず、お土産は部屋に持って行こうか」
「そうだね」
優実の言葉に頷いて、千穂は自分と壱華のお土産を持ち上げた。
「これ、上に持って行っちゃうね」
「ありがとう」
優実もあかりの分を一緒に持っている。二人は階段を上る。優実が女子部屋の扉を開けてくれた。それぞれのベッドの傍らにお土産を置く。
「これ片付けちゃったらテーブルの上もきれいだよね」
「そうだね」
片付けると言ってもこれくらいしかできることはなかった。
「テーブル拭こうか」
「そうだね」
千穂はまた優実の背について歩く。
「でもさ。泣いちゃったときはびっくりしたね」
「びっくりした!」
「なんだっただろうね」
「ねえ」
そんな会話をしながら階段を下りる。するとキッチンの方からおいしそうな匂いが漂ってくる。覗き込めば、美由が肉を揚げているところだった。ちなみにテーブル拭きは樹がやってくれていた。これで本当にやることがない。
「おいしそう」
千穂の言葉に二人の存在に気付いた美由がにっこりと笑いかけてくれる。
「もうすぐできるので待っててください」
「「はーい」」
千穂と優実はそう元気に返事をしてソファに帰って行った。壱華とあかりもソファにいた。
「手伝うことなくなっちゃって」
「ね」
二人は苦笑で顔を見合わせた。
「やっぱりプロは違うわ」
「手際が良くてね」
壱華はうんうんと一人頷き、あかりは優実と千穂の方を向いて話してくれる。
「楽しみだね~、ご飯」
朝もおいしかったもんね、と優実は笑う。
「楽しみ!」
「ハードル上げないでくださいよ~」
キッチンから美由の情けない声が聞こえてくる。
「大丈夫、100%おいしいから」
武尊が励ます声も聞こえて来た。
「そんな~」
しかし、美由の自信にはつながらなかったようだ。
「本当なんだけどな」
武尊がぽつりとつぶやく声が何故か聞こえた。
「もうそろそろかな~」
るんたるんたと器用にスキップで階段を下りながら陸が現れた。
「いや~遊んだからお腹すいたわね!」
きりっとした顔でそんなことを言うものだから、みんなつい笑ってしまう。
「そうですね」
壱華が笑顔で返した。その笑顔に、陸もにこっと笑った。
「壱華ちゃんて本当美人よね」
「え?」
壱華は首を傾げる。
「武尊が好きそう」
「ご飯抜くよ」
「ごめーん」
武尊の対応は速かった。陸の対応も速かった。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、私もかわいいよりはきれいな方だし」
優実の質問に、男の子の初恋って母親だっていうじゃない?と陸はウインクして見せた。
「決めた。抜く」
「だから、ごめんて」
陸はわざとらしく両手を合わせて謝った。謝る気などさらさらないように見える。
「はい、できました~」
親子喧嘩が勃発しそうな中、美由がどこかのんびりとした口調で皿をお盆に乗せて現れた。「皆さんは、ご飯はこのテーブルでいいですか?」
「はい!」
壱華が陸の言葉を振り切るように声を上げた。ダイニングテーブルは四人までしか座れないので、子供の分はローテーブルに置くことになる。このローテーブルがまた大きい。
―七人分のご飯が乗るって、広いよな~
千穂は手伝うのも忘れてそんなことを思う。
「はい、千穂」
壱華が美由に代わってとんかつとキャベツの乗った皿を配る。壱華に皿を手渡され、千穂は両手で受け取るとそれをテーブルに置く。
「美味しそう」
ふふふと笑う。嬉しそうに皿を見つめる千穂を楽しそうに優実も見ていた。
「はい、お味噌汁」
あかりも料理を配っている。どうしようかなと千穂が悩み始めたとき、武尊も姿を現した。
「ほうれん草のお浸し」
そう言って、皿を並べてくれる。
「これで最後?」
「最後」
「そっかー」
結局手伝わなかったなと千穂はちょっと落ち込んだ。しかし、美由の料理のおいしさに、すぐに気分は上昇した。




