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3.幽霊の記憶1

「みんな早いのね」

 陸があくびをしながら階段を下りて来た。後ろには美由もついている。

「すみません、ご飯作りますね」

「そんないいですよ。てきとうに食べるんで」

すまなさそうにする美由に優実がそんな言葉をかける。陸はじっと優実と千穂を見た。優実はきょとんと首を傾げ、千穂は何事かと身構えた。しばらく見つめて満足したのか、陸はうんと頷いた。

「二人とも元気みたいね」

よかったよかったと笑う。

「昨日は二人して夜中にいなくなったって言うからびっくりしたわ」

「すみません」

「ごめんさない」

優実と千穂は謝った。陸はいいのよと手を振った。

「夜遊びなら私もたくさんしたしね。でも気を付けなさいよ?危ないから」

「はい」

優実は元気に返事をし、千穂は頷いた。それで満足したのか、陸は台所に美由の様子を見に行った。

「今日の朝ごはんは何?」

「フレンチトーストにしようかと」

「いいわね~」

そんな会話が聞こえてくる。

―フレンチトースト!

千穂は内心飛び上がって喜んだ。フレンチトーストは好物である。かなり好物である。楽しみだな~と笑っていると、優実に頬をぷにっと押される。

「何ニタニタしてるの?」

「フレンチトースト、美味しそうだなと思って」

「千穂、フレンチトースト好きだったっけ」

「大好き!」

「そうかそうか~」

優実は千穂をぎゅ~と抱きしめるとよしよしと頭を撫でた。

「もう!そういうのいいから!」

「ごめんごめん。でも、千穂、抱き心地がいいから」

ついね、と優実は舌を出した。

「はいはい、今日は何をして遊ぶのか考えましょう」

あかりが手を鳴らして二人の注意を引く。優実はおとなしくソファに座った。

「・・・・山に登り直したところで出て行ってはくれないよね?」

「どうだろうね」

優実の言葉に、武尊は腕を組んだ。ちらと視線を上げれば壱華と目があう。壱華はふるふると首を横に振った。

―出てはいかないってことか

武尊はそうジェスチャーを受け取った。

「山にも行ったし、海にも行ったね」

「でも、まだ遊び足りないよな、海」

「でも、海危なくない?」

戸川兄弟がそんな会話を交わす。啓太がうーんと考え込む。

「浜だったら大丈夫とかないかな」

「海に入らないなら遊びに行く意味ないじゃん!」

啓太の言葉に千穂が抗議の声を上げる。

「だよな~」

啓太はずるずるとソファからずり落ちる。

「いっそのこと勉強する?」

宿題、手つけてないし、と樹が提案する。

「私はお勉強でもいいわよ」

あかりが賛同の意を示す。

「みんな宿題は持って来たでしょう?」

「・・・・・少しは」

千穂はもごもごと答える。数学と英語だけ持ってきた。これらは千穂にとってボスだからだ。分からない教科ツートップなのだ。

「何々?今日は遊びに行かないの?」

陸がソファの背もたれに上半身を乗せて顔を出す。

「はい。海は危ないし、山は昨日行ったし」

優実が説明する。

「海はあの変なのがいるかもしれないから?」

「はい」

陸はあえてあのタコを変なものと表現した。キッチンからガダっという音がしたから、美由が思い出して取り乱したのかもしれない。

「そうねー」

陸は自分の頬を人差し指でたたきながら何か思うことがあるのか思案する。

「街の方まで出れば水族館があるわよ。車出して、連れてってあげましょうか」

「いいんですか!?」

「水族館!!」

優実と千穂は明らかに喜色を表した。武尊はため息をついた後、全員の顔をぐるっと見渡す。千穂幼馴染チームのメンバー三人も明らかに行きたそうにしていた。

―近場に水族館なかったのかな。

そんなことを思いながら陸に問いかける。

「車出すってどうするの?車ないじゃん。人数も多いし」

にぱっと陸は笑った。

「車なんて借りればいいのよ。私と美由で二台。二台あればみんな乗れるでしょう?」

「え?私も運転するんですか?」

キッチンから裏返った声が聞こえてくる。

「何よ美由。いつもびくびくしてるけど、あなた運転上手じゃない」

「・・・・びくびくの賜物?」

武尊が首を傾げる。

「そうかもね」

あははと陸は笑った。しかし、美由は笑うどころではない。

「奥様!」

「大丈夫。ちゃんとカーナビ付きの借りるから」

「そういうことじゃありません!!」

「もう、いいじゃない」

心配性なんだから、と陸は美由を説得にキッチンへと向かった。

「すごいすごい、水族館だって!」

千穂は優実にそう話しかけた。優実も笑顔を返す。

「ね!千穂は水族館初めて?」

「初めて!」

「じゃあ、楽しみだね!」

「うん!」

にぱーと千穂は満面の笑みを浮かべた。優実が耐え切れず千穂に抱き着く。

「千穂は可愛いな~」

「このくだりはもういいから!」

「もうちょっとだけ」

ね?と言われれば、もうちょっとだけねと返すしかない。しかし、千穂には優実のもうちょっとがどれくらいか分からない。どれくらい待てば優実は自分を解放してくれるのか千穂は少し困ってしまう。

 抱きしめられたまま困っていた千穂を助けるように陸が皿を持ってキッチンから現れる。

「はーい、朝ごはん出来上がったわよ~」

「わーい!」

優実が千穂から離れる。あかりと壱華がさっとキッチンへ姿を消した。陸と美由と四人でフレンチトーストを配ってくれる。

「わー美味しそう!」

千穂は顔を上気させて喜んだ。美由はさらにサラダまで作ってくれた。一人ずつ配ってくれる。

「それじゃ」

「「いただきます」」

子供組は声を合わせてそう言った。その姿を微笑ましく大人組が見守る。子供たちはソファを陣取り、大人はダイニングテーブルを陣取った。そこで朝食をとる。

 美由が作ったフレンチトーストはべらぼうに美味しかった。


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