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2.山の幽霊1

 昨日は移動に遊びに化け物騒動にで疲れてしまった面々は、思いっきり寝坊した。まず起きだしたのは武尊と優実だ。目が覚めて一階に下りると、武尊はソファに座っている優実を見つけた。

「おはよう」

そう声を掛ければ、優実はふぁうと大きなあくびをした。

「ああ、おはよう」

「まだ眠いなら寝てたらいいのに」

「いや、寝てる間に面白いことがあったら嫌だなと思って」

「何その理由」

武尊は笑った。その笑顔に優実は少しドキリとしてしまう。

―やっぱり破壊力半端ないわ。

自分の笑顔がどれだけ魅力的か、この少年は分かっていないに違いない。

―ふー暑い暑い。

優実はパジャマ代わりに着ているTシャツの襟をぱたぱたと振って熱を逃がそうとする。

「クーラー入れる?」

「お構いなく~」

ちょっとじっとしてれば落ち着くので、とは言わない。何がと問われれば困るからだ。

「でも、喉乾いたな~」

「何飲む?牛乳?麦茶も作ってはあるけど」

「牛乳で!」

そう答えれば、武尊は牛乳の入ったコップを二つ持ってソファの元まで来た。一つをローテーブルに置く。一つは手に持ったまま腰かけた。

「ありがとう」

優実は遠慮なくコップに手を伸ばす。冷たい牛乳は乾いた体によく染みた。

「武尊も、千穂も大変だね~」

「何が?」

「見えないのに狙われる千穂も大変だし、それを守る武尊も大変だなって」

「それほどでもないよ」

「本当に?」

「なんでそんなこと気にするの?」

「なんでだろうね」

気になっちゃうと、優実は苦笑した。そんな笑い方を見るのは、武尊は初めてだと思った。

「昨日、タコの足のでっかい奴みたいなのがうちにぶつかってくるのが見えたし、武尊が金色の剣でそれを切り落としたのも見えたし。見えちゃったからかな」

どこか静かな表情で話す優実の顔を、武尊はじっと見た。

「まあ、大変かもしれないけど暇はしないかな」

ことりと、空になったコップをテーブルに置いた。

「それは確かに」

からからと優実は笑った。

「幽霊騒ぎの時はありがとう、沙也加もぴんぴんしてる」

「それは良かった」

武尊は静かに笑みを浮かべた。礼を言われて悪い気はしない。

「何か食べる?ご飯は炊けてるし、食パンも買ってあるよ」

「パン、もらおうかな」

 どうせ大人数だ。全員揃うのを待つ必要もないだろうと、武尊は二人分のパンをトースターに入れた。

「武尊はあのタコと戦って、怪我しなかった?」

「平気」

「よかった」

「優実も平気?千穂のこと頼んじゃったけど」

「平気平気」

ぴんぴんしてるから!と言って両腕を上げて見せる。それに、武尊は良かったと笑った。そうこう話していると、チンとトースターがパンが焼けたことを告げる。それを皿に乗せて優実に渡す。

「何塗る?マーガリンもあるし、イチゴジャムもある」

「ジャム!」

「了解」

冷蔵庫からイチゴジャムを取り出しスプーンと一緒に優実に渡す。

「次貸して。俺もジャムで食べる」

「はーい」

優実がジャムを塗り終わるのを待っていると、階段からだれかが下りてくる音がした。自然と視線をそちらに向ける。

「おはよう」

あくびをしながら姿を見せたのは啓太だ。

「腹減った~」

「お米炊けてるから、好きに食べて」

「そうするそうする」

啓太はキッチンに入るとご飯をついだ。

「味噌汁ある?」

「インスタントなら」

「充分充分」

「てきとうに探して」

「了解」

啓太はキッチンでごそごそと味噌汁を探し始めた。

「はい、塗れた」

「どうも」

焼けたパンにジャムを塗っていると啓太の声が聞こえる。

「見っけ」

お湯でも沸かすのだろう、水を流す音が聞こえた。カチッという音がしたから、ケトルでお湯を沸かす気なのだろう。

「樹はまだ寝てる?」

武尊はトーストにかぶりつきながら啓太に問いかける。

「寝てる寝てる。ぐっすり」

「さすがに疲れたかな」

「年上に混ざって遊んでたわけだしな」

疲れるのも仕方ないんじゃね?と啓太は腕を組みながら言った。

「女子も残りはみんな寝てるのか?」

「私が起きた時は寝てましたよ」

「あ、敬語いいよ。武尊もため口で話してもらってるし」

啓太って呼んでくれてかまわないし。と啓太は付け足す。

「そうですか?」

「うん」

優実はにかっと笑った。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

でも、名前にはさん付けさせてもらいたいな、と優実は付け足すことも忘れなかった。

「さん、は慣れないんだけど、まあ、いっか」

 ケトルがポンと鳴って、お湯が沸けたことを知らせる。

「沸いた」

啓太はインスタント味噌汁を開封したお椀にお湯を入れた。ちなみにふりかけも発見していて、これで白米を食べるつもりである。

 優実と武尊は面倒でソファで朝食を食べていたが、啓太はちゃんとダイニングテーブルに自分の朝食を持っていく。椅子に座って両手を合わせた。

「いただきます」

そう言うと、行儀悪くふりかけをかけたご飯をかきこんだ。その姿を優実は横目で見ながら言葉を投げかける。

「今日は何して遊ぶ?」

「そうだね」

「そうだな~」

武尊と啓太は考え込む。優実は誘導するように言った。

「やっぱ、海は危ないじゃないですか」

「だよな~あいつまた出るかもしれないしな~」

「やっぱ、見えてました?」

「見えてますとも」

ああ、と武尊は額に指先を当てた。しばらくして、啓太は自分が何を口にしたのか理解して、へらっと笑った。

「えと、千穂には秘密で」

「了解です」

びしっと優実は敬礼して見せた。

「てか、敬語」

「やっぱため口も無理っぽいです」

「そう?」

じゃあ、しょうがないか。と啓太は一人納得する。

「壱華も見えるって言ってました。見えてビビッて腰抜かしたから武尊と戻ってきたって」

「そうなんだ」

啓太はひきつった笑顔で答えた。これ以上失敗は許されない。樹にすねを蹴られてしまう。

「知りませんでした?」

「知らなかったな」

「壱華も見えて、啓太さんも見えるなら、地元の人間の見える率、高くありません?」

「言われればそうかもな」

―つらいつらいつらい。

啓太は内心冷や汗でびしょびしょである。

「裏の山って入れるの?」

「入れるよ」

優実は満足したのか、質問の矛先を武尊に変えた。それに啓太はほっと胸をなでおろす。

「山登りする?」

「まあ、観光客用に舗装もしてあるし、いいんじゃない?」

「じゃあ、今日は山に登ろう」

弁当とか持っていけたらいいね!優実は楽しそうに体を揺らした。

「朝の時間使って作ってもいいし、買って行ってもいいし」

「楽だから買っちゃおうよ」

「いいよ」

優実はトーストを食べ終え、勢いよく立ち上がった。

「そうと決まれば起こしてこよう」

「起きなかったら無理に起こさなくてもいいよ」

「はーい」

優実が軽やかに階段を上っていく。武尊も手を軽く払った後、樹を起こしに階段を上った。

 啓太は優実の退場に、安堵からため息をついた。


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